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蒼海のアクアランサー ~槍に集いし海底王国の守護神たち~  作者: トモクマ
深度6000M 反逆者になるとか燃える展開じゃん!
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53.飛行機映画は墜ちてこそ


 ――時は戻って、太平洋上空の何処か。


 ハワイから日本へ向かう国際便の機内は、修学旅行帰りの女子高生たちで賑わっていた。皆、三泊四日のハワイ滞在の間に買ったものや食べたもの、現地で取った写真などを見せ合っては思い出話に花を咲かせている。


「ねぇねぇ! みんなはハワイでお土産何買ったの?」


「ウチはアロハシャツ。柄が可愛いから奮発しちゃったんだ〜」


「ミヤぴーったら、ハワイのお土産屋さんで一時間もシャツの柄を悩んでいたのよ。迷い過ぎでしょ。マユっちは何買ったの?」


「私はペンとメモ帳。あとノートも」


「マユっちは真面目だなー。そんなの学校近所の文具屋さん行けば揃うじゃない」


「ちゃんとハワイでしか買えないマカダミアナッツチョコも買ったわよ。カナたんこそ、何を買ったの?」


 機内で楽しそうにお喋りしている女子高生四人組。前の座席から通路側に身を乗り出して後ろを向いているのは「カナたん」こと長谷部はせべ佳那かな、窓側には「ミヤぴー」こと宮路みやじ千尋ちひろ、後ろの座席には「マユっち」こと大倉おおくら真由まゆ、そして隣の通路側の席には深色が座っていた。


「あたしはほら! 見て! 映画『ハワイアン・オブ・ザ・デッド』の海外版DVD!ロケ地のハワイでしか売っていない特別装飾バージョンをとうとう手に入れることができたんだ~!」


「それも普通に日本のDVD屋さんに売ってるじゃない……」


「駄目だよ! 撮影地であるハワイで買うことに意味があるんだから。しかも日本じゃ買えないハワイ限定ジャケットだよ!」


 カナたんは大の映画マニアで、彼女の家には映画のDVDが所狭しと並んでいる。将来は映画監督になるのが夢で、常にビデオカメラを持ち歩いては、普段から近所でロケ地を探しては撮影をしている。


 ちなみに、アロハシャツの柄で一時間も迷っていたというミヤぴーは、将来ファッションデザイナーを希望していて、専門学校進学を目指している。お土産にペンとメモ帳を買ったというマユっちは、眼鏡を掛けた知的な雰囲気が絵になる学校教師になるのが夢で、教育系の大学進学を目指している。


「カナたんはホラーとかSF映画とかには目がないからなぁ。でも、よくあんな怖いやつ平気で見れるよね。あたしは無理だわ」


「へへ、映画への愛を舐めてもらっちゃ困るぜ」


 そう言って、カナたんはいつの間にか片手に持っていたビデオカメラをミヤぴーに向ける。


「もうカナたんったら、飛行機の中にまでそれ持ち込んだの? マジで四六時中映画のことしか考えてないでしょ」


「そんなミヤぴーだって、一時間も洋服選んでたら脚が棒になっちゃうって」


「はぁ……まったく、二人とも旅行を満喫してるみたいで何よりね」


 そう言って、後ろに座っていたマユっちがフンと鼻を鳴らした。


「――それで、みいろんは何を買ったの?」


 すると、カナたんが今度は深色の方にカメラを向ける。


「へっ? 私?」


 三人は、皆揃って深色のことを「みいろん」とあだ名で呼んだ。お土産に何を買ったか尋ねられて、深色は困ったように頬を指で掻きながら答える。


「私は特に何も買わなかったかなぁ」


「はぁ⁉︎ ハワイまで行って手ぶらで帰って来たの? 普通は何か一つでもお土産買うでしょ!」


「う〜ん……私、あんまり自分とか他人の欲しいものが分かんないし、それに帰りに荷物がかさばるのが嫌でさ」


 そう言って、深色は照れ笑いする。その様子を見ていたカナたんが、「ううむ」と唸る。


「深色ってさ、なーんか変わってるよね。いざハワイに行っても、いつもの学校生活と同じようなテンションで過ごしててさ。フツー外国行ったらテンション爆上がりでしょ」


「う〜ん、何だろう……昔からそうなんだけど、私って場の雰囲気にすぐ馴染んじゃうっていうか、普段と違った環境にも即適応する能力があるっていうかさ……もし仮に明日地球が滅亡するって言われても、普通に過ごしてる気がするし……」


「はぁ? 何それ? 意味が分からん」


「うん、あたしも分からん」


「私も同じく」


 三人からそう言われてしまい、深色は「そうかぁ〜、分かんないか〜」と照れ臭そうに笑って頭を掻いた。


 ――と、その時、ふと窓の方を見たミヤぴーが、外の異変に気付く。


「ねぇ……アレって何?」


「えっ、どれ?」


 カナたんが即座に反応し、持っていたテレビカメラを窓の外へ向けた。同じくマユっちも窓の外を見て声を上げる。


「何あれ……真っ直ぐこっちに向かって――」


 その刹那、もの凄い衝撃と轟音がほぼ同時に機内を襲った。深色は窓の外へ目を向ける間もなく、振り落とされないよう座席にしがみ付く。割れた窓ガラスから強風が吹き込み、機内は吹き荒れる風と悲鳴で溢れ返った。


 深色たちの乗っていた飛行機は、黒煙の筋を残して、広い海原へと真っ逆さまに落ちていった。

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