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蒼海のアクアランサー ~槍に集いし海底王国の守護神たち~  作者: トモクマ
深度4000M 秘密組織ピュグマリオン
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37.パレオを愛する如月博士

 まるで貝のような見た目をしている建物の底に、巨大な円形ハッチが開かれていた。その奥にはゆらゆらと揺蕩たゆたう水面が見えており、そこへ向かって潜水艇はゆっくりと浮上してゆく。深色とクロムも後に続いて浮上し、揺れる水面から顔を出した。


 そこは、空気の充満した広い空間が広がっていた。先程深色たちの通ってきたハッチの先は、この広間の中央にある巨大な円形プールに繋がっていて、広間の周辺には、先程見た卵型の潜水艇が何機も格納されていた。


 二人がプールから上がると、丁度先程深色たちを案内してくれていた潜水艇が、ウインチに繋がれて広間の奥へと運び込まれていた。それまでミラーガラスで隠れていた艇のキャノピーが開き、中から一人の女性が姿を現す。


 深色は彼女の姿を見た途端、驚きのあまり目を見開いた。その女性は三十路近くに見えたが、その美しさは衰えを知らず、大人らしい妖艶な色気を帯びていた。彼女は濃い若草色の長い髪を腰辺りまで伸ばしていたが、その髪は手入れされておらず、束ねてもいないので、所々巻いたり跳ねたりしてしまっている。そして、カールする前髪の下から気力の無さ気な半開きの目が覗いていて、こちらをじっと見つめていた。


 そしてやはりというか、深色のイメージ通り、彼女は研究者らしく袖の長い白衣を羽織っていたのだが……問題はその白衣の内側にあった。


 はだけた白衣からちらと見えたインナーを目にして、深色は絶句する。


「白衣に……み、水着って……」


 流石に深色もそこまでは予想していなかった。その女性の着ている白衣の内側には、髪型と同じ若草色の水着――正確にはパレオ一丁のみという格好で立っていたのである。


 しかも、一体何に使うのか、手持ち拡声器をネックストラップに付けて首からぶら下げている。


 まるで海水浴場で見かける監視員のようなスタイルのこの女性は、深色にまじまじと水着姿を見られながら、恥いる様子も見せずに大きな欠伸を一つして、それから涙目を擦りながら深色に向かってこう言った。


「さて、と……ようこそ我が城へ。ここは研究所の最北端に位置する、小型潜水艇『エッグポッド』を進水、及び回収格納させる為のポッドベイエリアだ」


 彼女の話によると、どうやらこの場所は研究所内の潜水艇格納庫であるらしい。他にもこの研究所は数々のエリアに分かれているそうで、ここはその一角に過ぎないという。


「出迎えとあらば、もう少しマシな格好で来ても良かったのだが、何せ私は暑がりなものでね。……まぁ君も水着姿なのだから、おあいこということで勘弁してくれ」


「なっ……」


 女性からそう言われ、深色は途端に顔を赤くして自分の着ているアクアランサー専用の伝統衣装(セーラー白スク水)の胸元を隠すように腕をやった。


「さて、改めて自己紹介しよう。私の名前は如月きさらぎ海女子あまこ。特任機関『ピュグマリオン』の海洋調査団代表であり、ここ海底研究所『クラムタウン』の所長を務めている。よろしく頼む」


「……と、特任機関? ピュグ……何それ?」


 聞いたこともない単語が次から次へと出てきて深色が首を傾げていると、横からクロムが飛んできて、水着姿の如月に思いきり抱きついた。


「所長さんただいま〜〜〜っ! ボクきちんとここに戻って来れたから、誉めてくださいっ!」


 いきなり人間の姿をしたシャチに抱き付かれて如月は目を丸くしていたが、やがて「よしよし、いい子いい子」とクロムのツルツルな真っ黒の頭を優しく撫でてやっていた。


「まぁ、我々のことに関する細かいことは追って説明するとしよう。……そう言えば、君の名前をまだ聞いていなかったね」


「あっ、私は瑠璃原深色っていいます。クロムの友人で……ええと、その……」


「所長さん、この子がアテルリア王国の次期アクアランサーに任命された子だよ。ちょっと鈍臭いところがあるけど、これでも黄金の槍に選ばれた正式な王国の守護神なんだ」


 如月という人物を信用して良いのか分からず、自分がアクアランサーであることを言うべきかどうか迷って言い淀んでしまっていた深色だが、クロムがいともあっさりと如月の前で打ち明けてしまう。


「もう、勝手にそれを言わないで――ってか、鈍臭いって何よ! 失礼ね!」


 双方で睨み合う深色とクロムだったが、そこへ間に如月が割り込む。


「まぁまぁ二人とも落ち着きたまえ。……それにしても、アテルリア王国の守護神アクアランサーか……この辺りの海域に巨大な海底王国が存在していると言う噂は予々(かねがね)聞いていたが、まさかその王国の守護神がここへ来てくれるとはね。感激の極みだ」


 如月はそう言って、身に付けている水着によって強調された胸元に手を置き、深色の前で深々と頭を下げた。


「えっ? あ、あの、海底王国のこととかアクアランサーのこと、ご存知なんですか?」


 深色はお辞儀した際に揺れる如月の豊満な胸元を苦々しい表情で注視しつつ、そう尋ねる。


「それはもちろん、研究所内では特に有名な話でね。海の中を自由に泳ぎ回る人魚が居るという、根も葉もない噂だったのだが、君が来てくれたおかげで噂でなく実在することが証明された。研究員たちも皆喜ぶだろう。さぁ来たまえ、所内を案内してやろう」


 如月は二人に向かってふっと柔らかな笑みを浮かべると、羽織った白衣をはためかせ、ポッドベイエリアの出口に向かって歩み出した。

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