この怪奇譚の説明と、初めの話
とりあえず、短編ですが、ひょっとしたら、一話完結の小編として、定期的に発表する可能性があります。
以前から、1000~2000文字くらいで完結する、共通した舞台におけるオムニバスの短編集を書きたいと思っていたので、練習として書きました。
このままひとつの短編として、放置する可能性も高いですが…。
序
これから私がお話しするのは、私の高祖父が残した物語集からの一部となる。
さて、この私の高祖父というのは、明治の一桁台の生まれで、その父は旗本。この人物は若き日に、主に蘭学(オランダ語)を学び、外国奉行にて働いていたが、維新前後に英語を猛勉強して、維新後は英語を武器に色々と成功した人物らしい。
今の港区の高輪地区に居を構え、大富豪とはいわずとも、その暮らしは当時としては豪勢、且つ異国情緒漂う物だったらしい。
さて、そんな成功した人物の長男として生まれた、私の高祖父は、当然両親が直に面倒を見るでもなく、物心つく頃から、旧制高等学校に入学する辺りまで、ある住み込みの老婆が日常の世話をしていた。
その老婆は若き日に夫を亡くし、子も無く、この様に住み込みの使用人をして、生活をしていたらしい。
高祖父が物心ついた時には、既に六十を過ぎていたので、当然江戸時代の生まれとなる。
彼女が産まれたのは、今の渋谷辺りで、想像もつかないが、当時、というより、長らく渋谷は都心では無く、周辺の田舎町であった。
高祖父は、この老婆に大変懐いていて、特に彼女の話す、まるで見てきたかのような、江戸時代の怪奇噺を聞くのが好きだった。
ところが、父は近代化する日本に、この様な非現実的な話をする老婆をしばしば叱責し、追い出すぞ、と捲し立てていたが、密かに高祖父は少年時代まで、老婆の話をひっそりと聞きに行っていた。
高祖父は旧帝大を卒業すると、新聞社に入社したが、五十過ぎに体調を悪くして退職。
その後、関東大震災で家が被災し、長男(私の曽祖父だ)が住んでいた鎌倉に移住して、かねてよりの夢だった作家活動をした。
それも話の大半が、幼き日に聞き、魅了された、例の老婆の怪奇話で、当然出版社に採用されるでもなく、昭和十六年に没している。
要するに、私がこれから記す物は、この高祖父がボツを喰らった、江戸時代の怪奇集である。
なぜ、そのような事を記するかだって?
実は、私は「都会」の渋谷で居住して、仕事をしていたのだが、昨今の状態より、都心を離れ、実家の鎌倉に移ったのだ。
そして、仕事場にする部屋を整理していた時に、この高祖父の大量のボツ原稿を発見した次第である。
昔の人らしく、筆で書いた様な読みにくい文字。当然、以下に紹介する表現内容や特殊な固有名詞等は、私が翻案した。
十年ほど前に亡くなった私の祖父は、昭和一桁台の生まれで、おじいさん、つまり高祖父に幼き頃、この江戸時代の老婆の話を聞かされ、私はといえば、幼き日に祖父から、この話を時折聞いていた。
又聞きが連続しているが、自分が江戸時代の怪奇噺を直接に知っているのは、奇妙な事とは思う。
それでは、以下に一節を講じるので、興味のある方は、御一読願いたい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一
今の渋谷辺りは江戸時代は、宿場町が在ったり、田畑の多い場所だった。
それでも一応は江戸八百八町内なので、町人の長屋や商家の立派な家も並んでいた。
天保の中頃の話である。
とある少年が、ある生糸を扱う商家の使いを、住み込みでしていたそうだ。
ところがこの少年、生来不注意な性格らしく、よく失態を犯しては主人に怒られていた。
ある日、この少年は一日の暇をもらい、同年代の子供たちと遊んでいた。
遊び場所は、神社仏閣。
要するに、鳥居があったり、仏像が安置されたり、神社と寺が混在した寺院だ。
遊びは、かくれんぼになった。
さて、この様に規模が広いので、隠れる場所はいくらでもある。
隠れる側の少年は、しかし、いつまで経っても見つからず、終いには暗くなり始めたので、他の子供たちは帰ってしまった。
ある子供は、当然家に帰る前に、この少年が住み込みで働いていた主人の元に赴き、彼が遊んでいた寺院で行方不明になった事を説明した。
主人は翌日、その寺院をくまなく探したが、さてはいつも叱責しているので、逃げ出したのでは、と疑い、それ以上の捜索はやめ、帰ってしまった。
二
この少年が失踪して、ふた月。季節は夏になり、夜でも蒸し暑さの続く季節であった。
とある男が、夕涼みに、この木々の多い、寺院にふらりと立ち寄った。
この男、暑さのため、酒を少々飲んでいて、半ば夢現であった。
「おーい、いつになったら、ぼくを見つけてくれるんだい?」
「おーい、みんな帰っちゃったのか?」
男は仰天して、酔いがほとんど醒め、辺りを見渡すも、人っ子一人としていない。
不気味に思った男は、直ぐに家へと、一目散に帰った。
更に時が経ち、雪が舞う季節。
お堂の近くに寄った、ある中年の夫婦は、以下の事を聞いたと、はっきりと証言している。
「寒いよ。いつになったら、ぼくを見つけてくれるんだい?」
三
時は更に経ち、遂に維新の頃となり、江戸は無血開城された。
この寺院で休憩していた倒幕軍は、やはりお堂から、少年の声がするのをはっきりと聞いた。
「ねぇ、早くぼくを見つけてよ」
廃仏毀釈、あるいは神仏分離というのをご存じだろう。
要するに、これまで神社と仏閣は、一緒になっていたのが通常だったが、神社は神社。お寺はお寺と分離する事だ。
明治になり、本格的に始まった物だ。
そして、この寺院は神社とされたので、仏教関係の物は全て破棄された。
お堂を社殿とするために、置かれてあった仏像を撤去しようとしたが、この仏像、かなりの大きさだ。
木製なので、解体して、撤去しようと、先ずは真っ二つにしたところ、担当の作業員たちは仰天した。
なんと、子供の木乃伊が中に入っていた、というではないか。
そして、この子供をこの地に手厚く葬り、この寺院は神社として、再建されたが、子供を葬った場所だけは、特別に小さな地蔵を設置した。
それより、この子供の声は聞こえなくなり、当時、この少年とよく遊んでいた、すっかり中年となった、某氏によると、この地蔵の顔は、この少年そっくりだそうな。
さて、謎なのは、この少年がかくれんぼで、どのように仏像の中に入り込んだのか?
これに関しては、誰一人として、明快な回答を出せなかったが、このかくれんぼに参加していた、件の某氏、曰く。
「恐らく、御仏様は、御自身が遠くない内に、破壊されることを察して、この少年を自身の中に、取り入れたのでは?」
との事だ。全く奇妙不可思議な話もあったものである。
了
そんなわけで、このような手軽に読める一話完結のお話を企画しています。
私の事を知っている人は(あまりいないですね)、以下にあげる長編をやっているので、もしこれを定期的に発表するとしたら、この長編がある程度、ひと段落したら、着手しようと思っています。
その長編は下記にリンクを張っていますので、どうかご一読をお願い致します!(必死)
※こっちは一話で20000文字前後と、読み手側には苦行じゃないか、という架空戦記物です。
【読んで下さった方へ】
・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。
・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。
・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。
・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。