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♡Past Maidens〜魔法少女の記憶〜♡  作者: 後出決流
第一章 Metamorphose-変身まで-
9/71

第6話 再び

前回のあらすじ


 森にある秘密の場所。

 夢奈はそこで自分の秘密を打ち明ける。亜美子も自分の身に起きたことを話す。

 夢奈はそれを信じる。

 ネックレスを付け合った二人は永遠の友情を誓う。

 2009年4月21日。

 朝の2年2組はガヤガヤとうるさい。生徒達は、各々が話したい友達とお喋りを楽しんでいる。

 ほとんどの生徒が白のワイシャツやブラウスで制服を着ている中、水色のブラウスを着た女子生徒がいる。

 彼女は一人で窓側の一番後ろの席に座り、本を読んでいる。そう、夢奈だ。夢奈は切りが良かったので、中学二年生が読むのにはかなり難しい、古代インドの思想について書かれた本を閉じた。

 夢奈は水色のブラウスの胸元から、ネックレスを出してうっとりと見つめる。

 本当にいつ見ても素敵。

 青い石のハートのネックレスがキラキラ輝く。あれから一週間以上経ったが、一度もネックレスを外していない。夢奈はネックレスをブラウスにしまい、携帯電話を開く。

 待ち受け画面はアライグマの写真だ。秘密の場所の風景にちょこんと写っている。

 あの日、秘密の場所から帰ろうとした時、偶然アライグマが出てきて、それを亜美子が撮影したものをもらったのだ。亜美子は、たぬきは幸運の印だから待ち受けにしておくと良いことがきっとあると言っていた。

 夢奈はアライグマだと訂正しようと思ったが、亜美子の勢いに押され未だに訂正できていない。

 キーンコーンカンコーンと教室にチャイムが鳴り、生徒は一斉に席につく。

 夢奈はSNSを確認しようと思ったが、もう時間がないので携帯電話をしまう。

 ほどなくして、教室に担任の男性教師が入ってきた。何やら手に紙の束を持っている。先生は一つだけ埋まっていない席を見てため息をつく。


「皆さん、おはようございます。出席をとります」


 先生が出席を取り始めたタイミングで、廊下から教室に向かって慌ただしい音が近づいてくる。それに気づいた生徒達は誰しもが笑いを堪えていた。もちろん、先生も気付いていたが、そんなことはお構いなしに出席を取る。


「加藤……加藤亜美子……お、今日はついに……」


 教室の後ろの扉が乱暴に音を立てて開く。みんなの視線が後ろに集中する。


「おはようございまぁす! 間に合った! 連続無遅刻無欠席記録更新!」


 ピンク色のブラウスで制服を着た亜美子が得意げに教室に入ると、ドッと笑いが込み上がった。中には拍手をしている生徒さえいる。先生が大きな声で注意し、教室は静かになる。

 亜美子は一年生の時、とにかく遅刻が酷かった。いつも着くのがギリギリで、月の半分以上は遅刻していた。しかし、二年生になってからは自分なりに頑張り、遅刻を一回もしていないのだ。

 だが、担任の先生はそれを誉めていない。


「確かに遅刻ではないが、週三日はこんな感じじゃないか。もう少しどうにかならないのか?」


「はい。頑張ってみます」


 亜美子は頭を触りながら笑って誤魔化す。先生は半ば諦めた様な顔で、亜美子に席へ座る様に言う。

 亜美子の登校で教室の空気がすっかり温まった様だ。亜美子が席に座り31人全員がそろうと、朝のホームルームが始まる。


「今日は二つほど、お話があります。まず一つ目。最近、全国的に学校裏サイトと呼ばれるホームページが問題になっています。生徒の悪口などがたくさん書き込まれている様ですね。これはいじめです。うちの学校にはないと思いますが、もし見つけたら必ず報告してください」


 生徒達は一斉に返事をする。

 うちの学校にもあるのかなぁ。……あったとしても私は絶対に見たくないッ!

 そんなことを考えていると、先生がプリントを配り始めていた。後ろまで行き渡ると先生が喋る。


「もう朝のニュースで知っている人もいると思いますが、同じ市内の中学二年生の女子生徒が、三日前から行方不明になっています。情報を募ることになり、市内全ての学校にこの紙を配ることになりました。

 この子に見覚えがあったら、警察にまで情報をください。みなさんも事件に巻き込まれないように、気をつけてください。最近はインターネットを通して知らない人に会う人もいますが、危ないので絶対にネットの知り合いには会わないでくださいね」


 教室に二度目の返事が響く。亜美子は配られたカラーのプリントに目をやる。

 うわぁ。怖そうな子……私、不良苦手……

 そこにはいかにも柄の悪そうな化粧をした女子中学生の写真と、情報提供を呼びかける文言が書かれていた。その子の名前は「市本芽萌理」という。

 シホンメモリ……なんかすごい名前。一度見たら忘れないよ。怖そうな子だけど、早く見つかると良いな。

 若干いつもより重々しいホームルームが終わる。先生が教室より出ると、隣の席の女子が話しかけて来た。


「今日も間に合ったね」


「私の足は速いからね! 陸上部に助っ人で入ろうか?」


「あ、遠慮しておきます……」


 亜美子に苦笑いをしたのは赤井麗美。陸上部のエースだ。二年生にして部活の誰よりも速い。髪が少し長い男子に間違えられるくらいのショートカットで、肌は健康的に日焼けしている。女子にしてはかなりの筋肉質だ。夢奈程ではないが背も高い。明るい性格のため、亜美子とはとても気が合う。

 麗美はもちろん、亜美子の足が絶望的に遅いことを知っていたため、丁重に断った。おそらくもっと早く、いや、人並みに走れていたらもう少しマシな時間に到着しただろう。


「おはよう。滑り込みセーフだったね」


 別の女子生徒が話しかけてきた。彼女の名前は光川小夜。メガネをかけていて、髪をよくふたつ結びにしている。どちらかと言うと控えめな性格だが、運動が苦手なことがきっかけで、亜美子とは仲良くなった。

 亜美子との大きな違いがある。小夜は勉強ができるのだ。科目によっては中学でやる範囲は全て終わらせていて、高校でやる範囲を勉強している。

 小夜は携帯電話を開いて画面を亜美子に見せて言う。


「あのさ、いきなりだけどWeXでクラスのコミュニティ出来たんだけど良かったら始めてみない?」


 WeXというのは当時人気だったSNSだ。そこではブログを書いたり、メールのようなメッセージのやりとりができたりする。また、コミュニティというのは同じ趣味や共通点を持つ人が交流できる、WeX内の掲示板みたいなものだ。


「私もやってるよ。亜美子も一緒にやろうよ」


 麗美も誘ってくる。だが、亜美子は申し訳なさそうに言う。


「ごめんね。うち、親からそういうの禁止されていてさ」


 麗美も小夜もそれなら仕方ないと諦めた。すると今度は男子生徒が少し離れた席から、亜美子に向かって大きな声で言う。


「誘っても無駄だよ! 小学生の加藤にネットなんかできるわけないだろ!」


「はぁぁぁ? ネットくらいできますよーだ! てゆーか中学生だし!」


 亜美子も負けじと大きな声で言い、べーと大袈裟に舌を出した。教室中が笑いに包まれる。

 先程の男子生徒が楽しそうに言う。


「早くネット覚えて参加しろよ! クラスの殆どが参加しているし、みんなおまえを待っているからな!」


「親の許可が出たらすぐにでも始めるよ!」


 亜美子の存在はクラスをさらに明るくする。だが亜美子には罪悪感があった。親の許可が出たら始める。これは嘘だ。そもそも親から禁止されていないどころか、WeXの話すらしていない。

 亜美子は学校が大好きで毎日が楽しい。しかし、一人の時間が欲しい亜美子は、ネットで一日中縛られてしまうのが嫌だと思ったのだ。

 あの時の夢奈ちゃんの気持ち、なんとなくわかったかも。いつも同じ自分でいるのも疲れちゃうからねぇ……

 亜美子はまだ夢奈と話していないので、夢奈のもとへ向かう。


「おはよう! 今日も間に合ったよ」


「おはよう。今日もいつも通りね」


「私は遅刻しないのだ!」


 夢奈は今日最初の挨拶以外の言葉を発した。ドヤ顔の亜美子に、夢奈はちょっと悪戯っぽい表情を向ける。


「あら? この前、私と遊ぶ時にかなり酷い遅刻したんじゃないの?」


「え! あれはなしでしょ! なし! てゆーか夢奈ちゃんの記憶にないでしょ!」


 亜美子はあの時の話をされても、恐怖で震え上がることはなくなった。むしろ、笑って話している。もちろん笑える話でもないし、恐怖もある。でも夢奈となら笑いながら話せるのだ。


「確かにそうね。なしで良いか」


「そう! あれはなし!」


 亜美子はまたドヤ顔をする。

 他にも遅刻ばかりなんだけどなぁ……

 夢奈はそう思ったが特に口には出さなかった。そんなことをしていると授業の予鈴がなった。




 一時間目の英語授業は何事もなく終わった。いや、何事かはあった。亜美子は先生から返された小テストで、クラス最下位の点数を取ってしまったのだ。一位は満点の夢奈。小夜はそれに一点及ばず二位。少し憂鬱な気分になったが、本当の憂鬱は二時間目だ。

 二時間目の授業は体育。亜美子は運動も苦手だが、よく怒鳴る体育の大原先生がさらに苦手だ。

 どう見ても50代半ばに見える40代半ばのその男は、とにかく生徒から嫌われている。パワハラ体質の体育教師で、太っていて清潔感もない。おまけに独身のだ。噂によると若い頃に女子生徒と結婚したらしいが、すぐに離婚したそうだ。

 男子は体育館、女子はグラウンドに集まった。整列している体操着の女子生徒を前に大原先生は無駄に大きな声で言う。


「まずは、全員グラウンド10周走れ」


「はい」


 女子生徒達は気だるそうに返事をする


「元気がない! もう一度!」


「はい!」


 全員嫌々ながらも無理矢理大きな声で返事をし、それぞれ走る準備に入る。




 女子生徒達がグラウンドを走り始めると、亜美子はどんどん抜かされていき、あっという間に最下位になってしまった。運動が苦手な小夜にさえ大きな差をつけられている。

 何周走ったか数える余裕もなかったが、息を切らしながら走っていると、後ろから夢奈がやってきた。周回遅れになったのだ。

 夢奈は亜美子を見て、小声で「頑張れ」と言ったが亜美子は返事をする余裕もない。夢奈は涼しい顔で亜美子を抜かしていった。


「おい! 加藤! 周回遅れだぞ! もっと早く走れ!」


 遠くから大原先生が亜美子に向けて思い切り怒鳴る。

 体育教師なら早く走れる方法を教えてよ。こんな授業なら余計運動嫌いになるだけだよ。

 そう思ったが声も出ないくらい疲れていたので、大原先生を睨みつけるだけで終わった。

 それから少しすると麗美が後ろから走って来た。その表情は必死で、亜美子に目もくれずに走り去っていった。陸上部のエースである麗美ですら夢奈には追いつけないのだ。

 いつものような授業の中、それは突然起きた。

 何の前触れもなく、空が赤く染まり出したのだ。グラウンドを走っている女子生徒達は一斉に足を止める。亜美子も止まり震えはじめた。

 そんな……また……

 目を思いきりつぶり、首を左右にブルブル振る。恐怖を振り落とすように。

 よし!

 開かれた亜美子の目は先程と違っていた。恐怖に打ち勝った目だ。

 大丈夫! きっと大丈夫! どこかにあれがいる! 早く、早く、私が見つけなきゃ!

 亜美子はあたりを注意深く見渡す。

 どこ? どこ? どこッ?

 校舎が亜美子の目に入った時だ。


「何これ……」


 思わず声が漏れる。何故か、校内が真っ白な霧で覆われていて、何も見えないのだ。上の階の様子を見ようと視線を上げた時、それは亜美子の視界に現れた。


「みんな! 今すぐ学校の敷地内から逃げて!」


 校舎の上に3メートルくらいの大きさの謎の黒い影が立っていたのだ。

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