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♡Past Maidens〜魔法少女の記憶〜♡  作者: 後出決流
第一章 Metamorphose-変身まで-
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第4話 夢の家

前回のあらすじ


 巻き戻る時間。同じ傷。捨てられているプテラノドンの人形。自分だけにある記憶。


 様々な不可解な現象に見舞われた亜美子は、不安を抱きつつも夢奈と雑貨屋さんへ向かった。

「ここよ」


「はぁ。やっとついた」


 亜美子は肩で息をしている。それもそのはず。雑貨屋さんは違う学区の道路沿いにあったのだ。並びには家しかなく、他に店も見当たらない。駅からも遠く、道路沿いなのに駐車場もない。確かに変な場所にある。

 白を基調とした茶色い屋根の二階建ての建物は、排気ガスのためか少し汚れて見える。でも、壁にはお洒落な文字で『Dream House』と書かれている。アパートでもないのに二階へ行く階段が外につけられていて、なんだが不思議な構造だ。建物の横にはベランダがついているので、どうやら二階は居住スペースと思われる。

 ちょっと入りづらいお店だなぁ。

 亜美子がそう思うのも無理はない。扉にはOPENと書かれた札が下げられているが、大きな窓も無いので中の様子が見えないのだ。


「えっと……ドレアム……」


「ドリームハウスね」


「さすが夢奈ちゃん!」


「このくらいみんな読めると思うけど……」


 夢奈は力なく笑う。

 小学生の時、夢奈は亜美子の勉強を何度か見てあげたことがあった。しかし、亜美子は全然理解してくれなかった。

 夢奈も亜美子がわからない理由がわからず、お互いに困り果てて終わる。そんなことが続いたため、中学に上がる頃には一緒に勉強しなくなっていた。つまり、夢奈は亜美子に勉強を教える事を完全に諦めているのだ。


「でもドリームの意味はわかるよ! 夢でしょ?」


 得意げに言う亜美子がおかしくて、夢奈はふふと笑う。亜美子は大袈裟に口を尖らせる。


「ちょっとぉーバカにしないでよー」


 夢奈は亜美子を笑顔で見る。


「してないから大丈夫よ」


 今度は視線をお店の名前に向けて、夢奈はそのまま話し続ける。


「このお店はね、お散歩している時に見つけたの。最初は何のお店かわからなかったけどね。でも、自分の名前と同じ、夢という字が入っていたから気になって入ったの」


「なるほどぉ」


 亜美子は夢奈が何故この店に入ったのか、内心気になっていたが、謎が解けてスッキリした。


「じゃあ早速入ろう!」


 亜美子が元気よく扉を開ける。

 チリンチリーン。まるで楽器のようなドアベルの綺麗な音が、店内に鳴り響く。


「このお店! 可愛い!」


 15畳程の広さの木目調の店内は外観とは違い綺麗で、雑貨屋が売っているというよりはまるで飾ってあるようだ。こんな素敵な店なのに、早い時間のためか、お客さんは亜美子と夢奈しかない。


「ありがとうございます。いらっしゃいませ。」


 レジにいる店主は柔らかい声で挨拶をすると、驚いたような顔で2人を見る。

 亜美子は一瞬、女性かと思ったが、声の低さと180センチ近くある身長からすぐに男性だとわかった。年齢はおそらく20代半ばだろう。亜美子の髪と同じくらいの長さまであるウェーブの黒髪。日本人離れしたくっきりとした顔。透き通る様な白い肌。その姿は、一度見たら忘れられない美しさだ。


「約束通り、友達連れてきましたよ」


「本当に連れてくると思わなかったよ。ありがとうね」


 店主は笑顔だ。亜美子はどこか目が悲しそうな目が気になったが、それ以上に気になったことがあった。

 この人、どこかで見たことがある。どこだろう。どこで見たのだろう。出てきそうで、出てこないなぁ……

 そんなことはよそに店主は言う。


「ゆっくり見ていってね」


 二人は別々に店内を見ることにした。




 店内を見ながら10分くらい経った時だろうか。突然、亜美子の脳内に赤い空の光景が蘇る。

 ……今、何時だろう。

 店内にある時計を見ると、おそらく空が赤くなっていた時間になっていた。


「ごめん! ちょっと外見てくる」


 亜美子は駆け足で店から出る。そんな亜美子を夢奈は心配そうに見つめる。店主はというと、何故か彼も時計を見ていた。

 亜美子は青空に胸を撫で下ろす。

 やっぱりあのたぬきのおかげでもう大丈夫なんだ。良かった。

 空の確認が終わると、急いでお店に戻った。ドアベルが忙しく鳴る。


「どうしたの?」


「あ、いや。別に……」


 なんて説明して良いのかわからず、夢奈から目を逸らす。夢奈がそれ以上は何も聞いてこなかったので、再び店内の雑貨を見始めた。

 これから先も、あんなことが起きるのかな。怪物に殺された人はどうなるんだろ。私の怪我……時間が巻き戻ったのに治らなかった。……もしかしたら、あの人ももうすぐ……

 亜美子はさっき会った、あの時すれ違った男を思い出した。どれも可愛くて素敵な雑貨なのに、これからのことが不安で頭に入ってこない。

 今日は何も買わずに帰ろう。

 そう思った時だ、一点だけあるピンク色のハートの石がついているネックレスが目に入る。

 何これ! めちゃくちゃ可愛い!

 他にも色々な色の石があったが、特別にピンクの石に惹きつけられた。値段を見ると決して安くはない。でもお金をたくさん持って来たので、ギリギリ買える値段だ。亜美子はピンクの石のハートのネックレスを手にとる。


「このシリーズ可愛いよね。確かこれ、お店の人が作った一点物だよ」


「わぁ! いつの間に!」


 気が付くと夢奈がすぐ近くにいた。夢奈がいることにも気がつかないくらい、亜美子は考え込み、ピンクの石のハートのネックレスに惹かれていたのだ。夢奈はふふと笑うと、細く長い指で同じシリーズの色違いを取る。


「私はこれかな。どう? 似合いそう?」


 夢奈が選んだのは青い石のハートのネックレス。クールで大人っぽく頭脳明晰な夢奈にぴったりの色だ。


「似合うよ! 似合う! 可愛いしかっこいいし最高だよ! 買おう! 買おう!」


 亜美子は目を輝かせる。自分が気に入ったネックレスの色違いを親友の夢奈も買うことが何よりも嬉しかったのだ。

 二人はネックレスを持ってレジへ向かう。レジに着くと、夢奈は不思議そうな顔で亜美子の方を見る。

 

「あのさ。会った時から気になっていたことがあるのだけど…」


「え?何?」


 気になることとは一体なんだろうか。待ち合わせ時間より早くついたことと、左手の怪我以外は特に変わったことはない。亜美子は全く身におぼえがなかった。


「今日はカバン持って来てないの?」


「ん?カバン?」


 亜美子は自分の右手を見る。何も握られていない。自分の左手を見る。何も握られていない。背中を触ってみる。もちろん何も背負ってない。


「あぁぁぁぁぁぁぁ」


「ちょっと。大きい声出さないでよ」


 夢奈は亜美子が大声を出すことには慣れていたが、流石にお店の中で出されると困ってしまった。お客さんがいないのが不幸中の幸いだ。

 でも、もし今お店に入ろうとした人がいたら、きっと入るのをやめしまうだろう。亜美子の悲鳴はドアベルの音よりも大きい。


「あぁぁぁカバン忘れたぁ! せっかく昨日のうちから用意したのに……」


 はぁ。時間が戻る前の時はちゃんと持っていたのになぁ。

 亜美子は心から悔しかった。


「お金なら次に来たときで良いよ」


 店主が気を利かせて言う。


「申し訳ないので諦めます」


 亜美子は肩をがっくり落として下を向く。さっきまでの騒いでいた様子と違い、ずいぶん落ち込んでしまった様だ。夢奈はそんな亜美子に尋ねる。


「家に帰ればお金はあるの?」


「うん…」


 亜美子は静かな店内でもかき消されそうなほど小さな声で返事をした。

 夢奈はカバンから何かを取り出し、店主に差し出す。


「これで二つ分。足りますよね?」


「足りるね」


 亜美子は顔を上げる。夢奈の手には一万円札が握られていたのだ。


「ここは私が立て替えておくわ」


「後で絶対に返す! 本当にありがとう!」


 やったーやったーとはしゃぐ亜美子を見て、もぉしょうがないんだからと夢奈が笑う。夢奈は商品を受け取りカバンにしまった。


「はい、これお釣り。消費税分くらいはおまけしておくよ。それからポイントカードも作れるけど、どうする?」


 二人はお礼を言い、ポイントカードも作ってもらうことにした。


「名前、教えてもらっても良い?」


「はい! 加藤亜美子です!」


「和泉夢奈です」


「ありがとう」


 二人の名前を聞いて何やら納得したような顔をして、店主はポイントカードを作り始める。

 店主がポイントカードを作っている時、壁にかかっている写真が亜美子の目に入った。何の変哲もない砂浜を写した少し古い写真で、プロが撮った感じではない。でも、何となく感じる優しい雰囲気や懐かしさが亜美子の心に残った。


「はい。どうぞ。二人とも同じ数のスタンプつけておいたよ」


「私、買ってないけど良いんですか?」


「今日はサービスするよ」


「ありがとうございます」


 亜美子がスタンプカードを開くと、そこにはたぬきの顔のスタンプが押されていた。どうやら30個貯めると何かもらえるみたいだ。道のりはまだまだ長い。そして、一つ気になることがあった。

 このたぬき……あのたぬきに似てない……? いや、考えすぎかぁ。たぬきなんかどれも同じだし……

 だが、亜美子はどうしても気になったので、店主に尋ねてみる。


「このスタンプ、どこで買ったんですか?」


「これ? これはもらった物だよ」


 店主は懐かしそうにまじまじとスタンプを見つめる。その優しい視線から、このスタンプが店主にとって本当に大切なものだとわかる。

 店主は視線を亜美子に向ける。


「僕も一つ聞きたいことあるけど良いかな?」


「え? あ! はい!」


 まさか自分に質問されると思はなかった亜美子は、気の抜けたような返事をした。店主は心配そうに尋ねる。


「左手、どうしたの?」


「えっと。これは……」


 いきなりの質問にうまく答えられず、モゴモゴしていると、夢奈が嬉しそうに言う。


「なんかベットから落ちちゃったみたいですよ」


「もぉ夢奈ちゃぁん! 恥ずかしいからやめてー!」


 亜美子は顔を赤らめる。店主はそれを見てにこやかに笑う。心から笑ってはいるのだが、やはりその目はどこか悲しそうだ。


「そうなんだね。お大事に。良かったらまたいつでも遊びにきてよ」


 二人はお礼を言うと店を後にした。

 心地よい陽の光が降り注ぐ。春の陽気はどこまでも暖かい。本当に楽しい時間だった。

 だがどうしてもあの時の出来事が、亜美子の心の染みになっていた。どんな素敵な時間を過ごしても、あの時のことが浮かんでしまう。ついさっきの出来ことだから、仕方がないのかもしれない。しかし、時間が染みを消してくれる保証はどこにもなかった。

 亜美子は漠然とした不安で少し暗くなる。そんな時だ。


「ねぇ。亜美子。まだ時間ある?」


「あるよ?」


 いきなり夢奈に言われた亜美子は、きょとんとして答えた。夢奈は亜美子に笑顔を向ける。


「今から『秘密の場所』に行こうか」




 二人が店からいなくなって少しすると、店主は店の札をCLOSEに変え、外階段から二階へと上がった。ここは店主の居住スペースであるが、生活に最低限必要な物しかない寂しい部屋だ。

 店主はベランダへと行き、ピンク色のタバコに火をつける。煙を吐き出すと、歩いている二人を見ながらボソリと言う。


「一体何の因果か。あの子がもしそうなら……僕はどうすれば良いんだろ」


 タバコの煙は風の流れに沿ってただ流れていった。

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