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♡Past Maidens〜魔法少女の記憶〜♡  作者: 後出決流
最終章 Shining-明日の光へ-
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第54話 愛を時は奏でて

 もはや、考えている余裕などない。アンチテーゼが亜美子に迫る。

 もう避けられないッ!

 亜美子は七色のオーラを身体から出し、身を守ろうとする。だが一足遅かった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 アンチテーゼの右の拳が亜美子の腹部に当たっていた。亜美子の口から鮮血が吐き出されたと同時に、七色のオーラが出て宇宙が青くなる。すぐに、左の拳が亜美子の顔面を目掛けて襲う。

 これなら避けられるッ!

 亜美子は左の拳を避けて、アンチテーゼとの距離を離していく。アンチテーゼは亜美子に追いつけない。


「逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 アンチテーゼは亜美子を追いながら、開いた手をかざし、黒い光の大砲を何発も撃ってくる。亜美子は攻撃を避けながらひたすら逃げる。殴られたところに激痛が走るが、それに耐えながらもどうにか逃げられる。

 一体何が起こったのッ!? 私は確かにあいつを倒したのに……!


「何でこうなったか教えてやろうか!?」


 亜美子の頭の狂気で歪んだ不快な声が響く。もう、お互いの思考を読むことはできないはずなのに、アンチテーゼがタイミングよく語りかけてきたのだ。

 亜美子は、その問いかけに答えずに飛び回る。アンチテーゼの攻撃が一番上の右の羽根に当たりそうになってヒヤッとしたが、それもどうにか避ける。


「あぁ惜しかった」


 アンチテーゼは以前の余裕を取り戻しているようだ。攻撃は止まずに続く。そして、攻撃しながら聞かれてもいないに一人で喋り始める。


「おまえ達が怪物を倒した時、時間が巻き戻ったよな? あれは地球の能力なんだよ。地球が自分の身を守るために時間を巻き戻していたのさ。オレはその地球を取り込んだ。だから致命的な攻撃を受けると時間が巻き戻るッ!」


 思わず亜美子の本音が漏れる。


「はぁー!? そんなのずるいよ!」


 だが、どんなにずるくても起きている現象は変えることができない。


「おまえはどうだ特異点? さっきの時間の傷が痛みそうだな?」


 亜美子は特異点である。よって時間が巻き戻っても身体の状態をそのまま引き継いでしまうのだ。その事実も決して覆すことはできない。

 どうしよう……あいつを倒せない……何度も戦えば……怪我が治らない私がいつか負ける……

 亜美子の頬の傷と口からさらなる血が流れる。着実にダメージを受けている。だが、亜美子は思った。

 ……あいつ、何で手負いの私に追いつけないし、攻撃を当てられないんだろ。

 亜美子は先ほどの時間での戦いを振り返る。そして気が付いた。

 そうか! そういうことか! でもいつまでも……

 だが、その時だ。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 左側のピンクの翼の先端に黒い光の弾が触れる。どうにか他の翼には触れなかった。だが、触れたところは綺麗にえぐれてしまった。ピンクの翼が赤く染まる。


「もうそろそろ終わりだな」


 亜美子は避けながらも苦痛に顔を歪ます。

 痛い痛い痛いッ! どうにか回復したけど回復も……! 回復ッ!

 亜美子はさらに何か思いついたようだ。様々な記憶をたぐり寄せて、このやり方がうまくいくかどうか必死に考える。

 だが、アンチテーゼの攻撃は無常にも続いている。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 左側の翼を集中的に攻撃してきたのだ。亜美子は避けきれなかった。

 黄色、ピンク、青の羽が青い宇宙空間に散らばる。亜美子は左の翼の全てを完全に失ったのだ。

 もう迷っている時間はないッ! やるしかない! テレポートはおそらく位置がバレるッ! チャンスは一度だけぇッ! 

 亜美子は右手で、左手首を掴む。それと同時に亜美子の姿が消える。


「そこだぁ!」


 アンチテーゼはすぐに後ろを振り向き、右手を開いて腕を伸ばす。

 やはり移動する位置がバレていた。アンチテーゼの至近距離に亜美子が現れる。

 アンチテーゼの手には黒いオーラが溜まっている。そして、亜美子も左腕をアンチテーゼに突き出している。


「何故だ……?」


 アンチテーゼは驚愕した。

 亜美子の左手はなくなっていたのだ。そして、その断面にピンクのオーラが溜まっている。

 さらに、右手には自分の左手が握られていて、断面はアンチテーゼの方を向いている。

 ほんの僅かな差であった。亜美子の左手首の断面から放たれた激しいピンクの光が一瞬早く、アンチテーゼに到達する。その瞬間、亜美子は右手に握った自分の左手をアンチテーゼに投げつけた。


「これは……」


 どんな罪も赦してくれるような、聖なる光の暖かさにアンチテーゼが触れる。まさに無限の愛のようだ。

 予期せぬ力に怯んだのか、アンチテーゼの攻撃は投げつけた左手を爆散させたところで消えてしまった。アンチテーゼの真っ白な顔に赤い血がつく。


「おまえ何を考えているんだ?」


 神々しくありながら、人間的な温もりのような力がアンチテーゼの身体の中に入っていく。

 それは傷つけるための力ではない。癒すための力だ。どんどん、自分の力がみなぎって来る。アンチテーゼはただただ困惑している。

 優しい力とは裏腹に亜美子が鬼の形相で叫ぶ。


「消し飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


 アンチテーゼは亜美子の狙いを理解した。狂気で顔を歪ませながら激しく笑う。


「エネルギー過多でオレを爆破させるつもりかッ!」


「そうだよッ! あんたは食べ過ぎで吹き飛ぶ! これは、攻撃にならないから時間は巻き戻らないッ!」


 アンチテーゼの身体から溢れる黒いオーラは勢いを増す。


「残念だったな! こんな力、全て吸収できるッ!」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 亜美子はアンチテーゼの言葉を無視してはピンクの光を送り続ける。アンチテーゼは明らかに強くなってしまっている。それでも、亜美子は送り続ける。


「もう十分だ! 自分の力で死ぬが良い!」


 アンチテーゼは亜美子に送られた力を使い攻撃をしようとする。だが、様子がおかしい。一向に攻撃してこないのだ。


「なんだと……」


 攻撃したくても身体が全く動かせないのだ。アンチテーゼはやっと気が付いた。


「特異点ッ! 貴様もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 亜美子は自分のすぐ右側に人の気配を感じた。攻撃最中ではあるがその方向を見る。

 そこには、背の高いウェーブがかかった長い黒髪の美しい顔の男がいた。本当にいるのか、亜美子の幻覚か定かではない。それでも、そこには隆がいるのだ。

 隆はにこやかな顔で亜美子を見ている。つられて亜美子も笑う。


「隆くん、ありがとう」


 亜美子の血には毒がある。自分の力を確実にアンチテーゼへ送るために、それを利用したのだ。

 先程の攻撃もアンチテーゼが無意識に止めたのではなく、毒で動きが止まっただけだったのだ。亜美子は、自分が近くで血を流すとアンチテーゼの動きが遅くなることに気が付いた。

 自分の血には動きを封じられる毒があると思い、それを大量に浴びせるためにわざと左手首を切断したのだ。血の毒が混ざった癒しのオーラを送るために。

 左手を投げつけたのも、さらに血を浴びせるためだ。アンチテーゼの攻撃が当たらなければ自分から爆散させていた。

 亜美子は再び、アンチテーゼの方を向いてニヤリと笑う。

 アンチテーゼの頭には血が昇る。


「こんな毒ッ! 抗体を作ってしまえばすぐに消せるんだよぉぉぉぉぉぉッ!」


 全身からドス黒いオーラを出し、身体の中で毒に対抗するための抗体を作り始める。

 亜美子から生まれた毒であるため、亜美子から受け取った力を解毒に使うことはできない。自分にもともとある力だけでやるしかないのだ。

 一方、亜美子はかなり疲れてきていた。

 まだ足りないの……? もし、解毒されて動かれたら今度こそ私が……

 

「ハァハァハァハァハァハァ……」


 呼吸は荒くなり、意識が朦朧としてくる。亜美子はもうすでに限界を超えていた。いつ倒れてもおかしくない。アンチテーゼに放たれたピンクの光はどんどん薄くなっていく。


「私は諦めないッ! 必ず消し飛ばしてやるぅぅぅぅぅッ!」


 その時だ、ピンクの光と一緒に黄色い光も亜美子の断面から放たれたのだ。二つの光は絡みつき、アンチテーゼへと向けられる。ピンクの光はその輝きを取り戻す。亜美子はふと右側を見る。


「お姉ちゃん、ありがとう」


 隆の隣にいる自分の学校と同じ制服を着た眼鏡をかけた少女。隆と同じ髪型をしており、その姿は亜美子と同じ年齢のはずなのに、隣にいる隆と同じくらいに見える。父親がかつて結婚していた女性ともよく似ている。

 亜美子の姉も亜美子に微笑みかける。つられて亜美子も微笑む。そしてすぐに、正面の敵を睨む。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 アンチテーゼは大きな声で怒りを剥き出しにしながら叫ぶ。


「目障りだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! 殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」


 アンチテーゼが爆破する気配はない。さらに、力を増しているだけだ。アンチテーゼの全身から溢れる黒いオーラは、さらに禍々しくなっていく。

 解毒は亜美子の死を意味する。いや、亜美子の力が加わったアンチテーゼなら簡単に宇宙自体を破壊できてしまうだろう。刻一刻と解毒が進む。

 もう間に合わない……でも……


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 それでも亜美子は二色の光を送り続ける。最後の最後まで可能性に賭けて抵抗しているのだ。だが現実とは残酷である。


「もうどんな毒も効かないぞ」


 アンチテーゼは勝ち誇ったように笑い、濃縮された黒いオーラが一瞬にして手に溜まる。そう、抗体ができて解毒が完了したのだ。

 これは一秒にも満たない時間での出来事だ。

 アンチテーゼが亜美子に攻撃しようとした時、亜美子の左腕の左側に、細く白い綺麗な右腕が現れた。その右手は開かれており、アンチテーゼの方を向いている。

 そして、そこから青い光が放たれた

 亜美子は左側を向く。自分よりも背の高いボブカットの美しい顔をした少女。夢奈が亜美子に微笑んでいた。二人が放った光がアンチテーゼへと到達する。


「しまったッ! こいつの真の狙いは……」


 亜美子の左腕が激しく七色に光る。眩しすぎて亜美子ですら目を閉じてしまうほどだ。その光は宇宙中に広がり、青い宇宙を黒く戻していく。赤い空が青くなっていくように。




 虹の天使の亜美子は黒い宇宙にいる。アンチテーゼにやられた傷は完全回復しているようだ。失った羽もしっかりある。だが、左腕は完全に消失していた。

 アンチテーゼの姿はもうここにはない。アンチテーゼは消えたのだ。代わりに喪服を着た何の力もない異常者が、半透明の七色の光の球体に包まれ宇宙で静止している。


「ありがとう、夢奈ちゃん」


 亜美子はかつて地球があった方向を向いて微笑む。

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