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♡Past Maidens〜魔法少女の記憶〜♡  作者: 後出決流
最終章 Shining-明日の光へ-
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第53話 想像の向こう側へ行け

 亜美子の七色に輝く左手の拳と、アンチテーゼの黒く光る右手の拳が激しくぶつかる。それは、たった一回で宇宙自体にダメージを与えかねないほどの衝撃を周りに撒き散らした。だが、青空の宇宙はびくともしない。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 亜美子とアンチテーゼの拳の撃ち合いが始まる。拳で拳を撃ち落とすが、すぐに次の拳がくる。お互いが一歩も引かない。

 一瞬の油断が勝負を決めてしまう。亜美子は必死だが、アンチテーゼも必死だ。お互いが死に物狂いで撃ち合う。

 

「ここだぁぁぁぁぁぁ!」


 アンチテーゼの拳が亜美子の顔面に当たる。亜美子の身体はあっという間に見えないところまで、飛ばされてしまう。戦闘経験豊富なアンチテーゼが、亜美子の僅かな隙を見抜いたのだ。


「くたばりやがれぇぇぇぇ!」


 青い宇宙を仰向けに漂う亜美子に、アンチテーゼが一瞬で近づく。そして、黒いオーラを至近距離から撃とうとしたその時だ。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


「うあぁぁぁッ!!」


 右から強い衝撃を受けて、今度はアンチテーゼが飛ばされてしまう。アンチテーゼは体勢を立て直し亜美子の方を向く。

 仰向けになっていた亜美子も体勢を立て直していた。そしてさらに、もう一人、全く同じ姿の亜美子がいるのだ。体勢を立て直していた方の亜美子が叫ぶ。


「全ての私よ! 現れろッ!」


 亜美子から人型の七色の光りが次々に出てくる。それは亜美子の姿へと変わる。一瞬にして大量の亜美子が現れ、その数は億を超えているだろう。

 アンチテーゼが反撃する間もなくあたりは亜美子に埋め尽くされた。

 アンチテーゼの顔が怒りで歪む。


「めんどくさいことしてるんじゃねぇよッ!」


 全ての亜美子が攻撃を開始しようとした時、アンチテーゼも一瞬にして増えた。

 アンチテーゼは相手が使用した技をその直後にコピーすることができる。だが完全にはコピーできず、その数は僅かではあるが亜美子に及ばない。

 億と億の戦い。これはまさに青い宇宙での戦争だ。至る所で七色のオーラや黒いオーラが光る。産声は怒号や悲鳴に変わる。一瞬にして生まれたいくつもの命が、次々に殺し合っていく。




 数え切れないほどいた亜美子とアンチテーゼはそれぞれオリジナル一人ずつになっていた。1キロメートル以上離れて、お互いがオーラを出しながら息を切らしている。

 あれだけの数が殺し合うのに、そう時間が掛からなかったのだ。青い宇宙空間には散っていた命の残骸がプカプカ漂っている。そして、それらは灰になり消えていった。

 亜美子は挑発的な目をアンチテーゼに向ける。


「さっきから余裕がないようだけど……やっぱり私が怖い?」


 アンチテーゼは亜美子を睨みつけ静かに言う。


「おまえこそ、何故、勝てもしないのに戦おうとする?」


 亜美子は吐き捨てるように言う。


「勝てるよ。さっきだって倒したじゃん」


 アンチテーゼは馬鹿にするように笑う。


「そういう問題じゃないんだよ。まぁ良いや死ね」


 アンチテーゼの右手に黒いオーラが集中する。そのオーラはみるみるうちに形と色を変えていく。アンチテーゼの手に巨大な銀の鎌が握られていた。その姿は、この宇宙を死へと誘う邪神そのものだ。

 亜美子の七色のオーラを左手に集中させる。オーラは剣のような形へと変わる。

 そして、七色だったそのオーラは緑一色なる。まるでそれは、亜美子が昔やっていたゲームに出てきた最強の剣のようだ。


「これが私の最強の剣ッ! エメラルド・ソードッ! 決着をつけるッ!」


「だから、無理だって言っているんだよぉぉぉぉぉぉぉ」


 アンチテーゼは左手開いてを亜美子にかざす。すると、そこから直径1メートルくらいの黒い光の弾丸が出てきて、何発も亜美子に放たれる。

 亜美子は青い宇宙を優雅に飛びながらそれを避けていく。亜美子も右手を開いてアンチテーゼにかざすと、そこから同じくらいの大きさの七色の光の弾丸がいくつも発射する。アンチテーゼもそれを避けていく。

 光の球を撃ち合いながらどんどん距離を詰めていく二人。そして、ついに剣と鎌が刃を交える。黒を含めた八色の光りが、ビッグバンの如く輝く。亜美子はアンチテーゼの刃の重みに顔をしかめる。


「どうしたどうした? 辛そうじゃないか?」


「そんなことない! 私は負けない!」


 剣は激しくぶつかり合う。ここでもお互い一歩も引かないが、内心亜美子は焦っていた。

 受け止めるだけで精一杯……どうしよう。これじゃ私がやられるッ!

 亜美子は徐々にアンチテーゼに押されていく。アンチテーゼは狂気と殺意に満ちた顔で亜美子を攻め続ける。


「早く死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ! 諦めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 亜美子の闘志は消えない。


「諦めろと言われて諦めるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 亜美子も全力で鎌を受ける。アンチテーゼの刃を弾く。だがそれは起こってしまった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁッ!」


「だから諦めろと言ったのだぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 アンチテーゼの鎌の刃が、亜美子の右の頬を切り裂く。ぱっくりと割れて赤い血が流れていく。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 その痛みには切り傷の痛みではない。まるで焼けるような痛み。そう、逆十字に磔にされた時に焼かれた時の痛みだ。虹の天使になり桁違いの強さを手に入れた亜美子ですら、耐え難い激痛がするのだ。

 痛みに悲鳴を上げながらも、次の攻撃は防ぎきる。

 うッ……たった一撃でなんて痛みなの……

 この痛みは亜美子の体力もじわじわ削っていく。亜美子はそれでも力を振り絞って攻撃を受け止める。


「いつまでもつかな?」


 アンチテーゼは嬉しそうに鎌を振り下ろす。だがその時、亜美子は思った。

 あれ……もしかして……

 そう、アンチテーゼの動きが少しだけ遅くなっている気がしたのだ。体力がなくなっているのか、亜美子にダメージを与えて油断したのか、原因はわからない。それでも、少しだけ遅くなっていることは事実だ。

 一回だけならできるッ! その隙を逃したら私の負けだッ!

 亜美子は鎌の刃を剣で受け止めず避けた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 亜美子は七色のオーラを込めエメラルド・ソードを投げる。


「何だと!」


 投げ放たれたエメラルド・ソードはアンチテーゼの右手を切り落とした。断面から黒い液体が流れる。

 すぐにやらなきゃ新しいのを出されるか再生されるッ!

 亜美子はエメラルドソードに全ての力を込めていたため、体力が残っていなかった。だがそんなことは言っていられない。すぐに、エメラルド・ソードを吸い寄せ左手に戻すと、一心不乱にアンチテーゼに斬りかかった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 アンチテーゼは悲鳴をあげる。全力をかけて攻撃してくる亜美子を防ぐことができない。

 気がつくとアンチテーゼの四肢はなくなっていた。それでも亜美子は攻撃をやめない。そして、ついにアンチテーゼの黒いオーラが消えた。


「私の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 アンチテーゼの首が黒い液体を流しながら、青い宇宙を舞う。


「勝った……」


 亜美子は仰向けに倒れ、攻撃を止める。勝利を味わう前に、戦闘で使い切ってしまった体力の回復に専念する。


「痛みを止めることしかできないかぁ」


 亜美子は傷の治癒を諦め、肩の力を抜く。青空でありながら、遠くで輝く星々が見える。地球では見ることの出来ない幻想的な景色だ。


「綺麗……」


 亜美子は見渡す限りの、晴天の星空にただ見惚れる。あれだけの戦いを終えたにも関わらず、自分がなんだかちっぽけに思えた。


「これからがある意味本番だけど……まだまだ時間かかるから、色々な星を見に行こうかなぁ」


 亜美子が呟き、一安心してため息をつく。

 だが、状況は急に変わった。


「え……そんな……なんで……」


 亜美子は事態が全く飲み込めなかった。

 さっきまで青い宇宙で仰向けになっていたはずである。だが、今は黒い普通の宇宙で真っ直ぐと浮かんでいるのだ。さらに、もう見たくない光景を目の当たりにする。


「だから言っただろ。おまえは絶対にオレを消せない」


 ニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべるアンチテーゼが、亜美子の目の前にいた。その姿は一切のダメージを負っていないようだ。

 亜美子に顔の傷口からは、涙のように血が流れる。

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