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♡Past Maidens〜魔法少女の記憶〜♡  作者: 後出決流
第二章 Romance-恋と戦闘-
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第18話 R指定

前回のあらすじ


 サイレンの怪物を倒した亜美子は、力を使い過ぎ酷い風邪のように喉を痛める。戦いをもっと良くするために毎日落ち着く時間を設けることを決める。


 隆の家からの帰り道、夢奈は一人、公園でTAKUYAのSNSにコメントをする。その時、自分が初めて恋をしたことに気がついた。

第18話 R指定

 2009年5月31日。

 Dream Houseの前にリュックを背負った一人の少年が立っている。短髪の爽やかなその少年は、何やら悩んでいるようだ。

 なんだよこの店。入りずれぇ……まぁでもネットの評判良いからな……

 意を決し、少年は扉を開けた。チリーンとドアベルの音色が少年を迎える。

 すげぇ……

 扉の向こうは綺麗な木目調の異世界である。売られている雑貨は、まるでそこの住人のようだ。


「いらっしゃいませ」


 隆は少年にあいさつする。少年は隆の彫刻のような完成され過ぎた顔から目を逸らす。意識的に目を逸らさないとじろじろ見てしまいそうだからだ。

 店もすごいけど、店員もすげぇなぁ。かっこ良すぎるだろ。俺なんかがいて、いいのかな……さっさと決めてさっさと帰るか。

 少年は店内を見て回る。だが、見れば見るほど、悩んでいく。

 やべぇな。良いものばっかりで迷うぞ。




 一時間が経過した。少年はまだ悩んでいる。でもその顔はなんだか楽しそうだ。隆はあえて声をかけずに、少年を微笑ましく見守る。

 そして、少年はついに買う物を決めたようだ。隆は砂浜の写真をみて目を細める。

 僕にもこんな時期があったね。

 隆は懐かしさと悲しみが混ざり合った、なんとも言えない気持ちになったが、今は仕事中なのでその気持ちを閉じ込めた。

 少年はレジまで商品を持ってきた。隆が会計を済ませると、案の定聞いてきた。


「あの、ラッピングって出来ますか?」


「出来ますよ。プレゼント用ですか?」


「はい」


 少年は少し恥ずかしそうに下を向く。少し耳が赤い。


「ラッピング用紙と袋の色はどうされますか?」


「ピンクでお願いします」


「かしこまりました。少々お時間かかります。」


 隆は片手でラッピングを始めた。

 この人、右手が不自由なんだな。

 少年はなんだか申し訳なくなってきて、ラッピングをやめてもらうかとも思った。しかし、一生懸命、丁寧にラッピングする隆を見て止める方が逆に失礼だと思い、特に何も言わなかった。

 隆は黙々と作業をする。




 少し時間はかかったが可愛いプレゼントが完成した。


「はい。どうぞ。彼女さんもきっと喜んでくれますよ」


 彼女さん……

 少年の顔が赤くなる。


「いや、まだそんなんじゃなくて……」


 隆は少年に微笑みかける。


「まだ、違うのですね。でもきっと喜んでくれますよ」


「あ、ありがとうございます」


 少年は目を逸らしながらお礼を言った。

 隆がポイントカードの案内をしようとしたその時だ。

 チリチリチリチリーン。ドアベルがやかましい音を立てる。


「おはようございまぁす! 遊びに来たよぉ!」


 え? その声は……? まさか……

 少年は後ろを振り返る。


「亜美子参上ぉぉぉぉ! ……!? あ! 京介!」

 

 なんであいつがここにいるんだよッ!

 少年こと京介は頭の中が真っ白になる。心臓が喉から飛び出そう。亜美子が学区から離れたこの店に来るなんて思っていなかったのだ。


「京介、大丈夫? めちゃくちゃ顔赤いよ?」


「あ、えっと……えっと……大丈夫! 大丈夫! 今日は妹にプレゼントを買いに来たんだよ! じゃ急いでいるからまたな!」


 京介はポイントカードをつくらず、足速に店から出て行った。


「え!? 京介、妹いるの? お兄ちゃんはいるけど……」


 亜美子の頭は、はてなマークで埋め尽くされた。そんな亜美子に隆は尋ねる。

 

「今の子は友達かな?」


「うん! 小学生の時はよく遊んでいたんだ! 中学入ってからは全然だけど……」


「そういうことか」


 隆は納得したかのようにうんうんと頷く。亜美子は何のことか全くわかっていない。

 隆は話題を変える。


「そういえば、戦いが始まって一ヵ月経つけど……どう?」


「きついけど、辛くはないよ! みんなを守るために戦えてやりがいもあるし。あと修行の手応えも出てきたよ」


 なるほどね……

 隆は左手で自分の頭を押さえる。

 あれから何度か怪物が現れたが、相変わらず亜美子の戦いはめちゃくちゃで、どうにかこうにか勝てている状態だ。本人も落ち着いてこそ力が発揮できると自覚しているが、戦いになるとどうもテンションが上がりすぎるらしい。

 隆もその気持ちがわからなくもなかった。サイレンの怪物の時は、それで体力切れを起こしている。隆もとどめを刺すために、体力を温存した戦い方をするようになった。

 本当にこうも違うんだな……

 隆は砂浜の写真に目を向ける。


「ねぇ、隆くん。この砂浜ってどこなの?」


 亜美子もこの写真が好きなので隆に尋ねる。隆は亜美子に優しい笑顔を向ける。


「同じ県内にある砂浜だよ」


 亜美子の目がキラキラ輝く。


「本当に!? 連れて行ってよ!」


「気が向いたらね」


 隆はにっこり笑う。亜美子も笑う。だがその時だ。

 ん? 何だこれは?

 隆は亜美子の服に何か付いていることに気づく。小さい埃のようなものだ。しかし、それは何やら動いているようだ。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 隆はたぬきくんの時のような声で叫ぶ。隆がこんな声を出すということは、相当強い怪物が現れたに違いない。亜美子は気を引き締めて、ピンクの石のハートのネックレスに両手を当てて叫ぶ。


「キュルラン・キュルラン」


 しかし、その声は虚しく響いた。ピンクの光の繭は現れない。


「あれ?」


 隆は、呆気に取られている亜美子のお腹を指さして、震えた声で言う。


「蜘蛛……蜘蛛がいるよぉ」


 亜美子はお腹を見ると、小さな蜘蛛が付いていた。


「可愛い!」


 亜美子は蜘蛛を摘んで掌に乗っける。


「なんで触れるのぉぉ! 早く店の外に出してぇぇぇ!」


 亜美子はゲラゲラ笑いながら、蜘蛛を店の外へと逃してあげた。隆の意外な弱点を知り、何だが面白くなってしまったのだ。普段からかわれることが多い亜美子だが、この日は隆をからかい続けたのだった。




 2009年6月1日。

 目覚まし時計のとんでもなく大きな音で亜美子は目を覚ます。

 あぁ。うるさい。

 亜美子は乱暴に音を止める。せっかく、良い夢を見ていたのに無理矢理起こされ、朝からあまり気分が良くない。

 私、どんな夢を見ていたっけ……?

 亜美子は必死に記憶を辿る。夢というものは起きたと同時に忘れてしまうことも珍しくない。

 確か、私が4歳くらいで……全く知らない部屋で全く知らない人と話していて……んーその人の顔も、声も、何を話したかも全く思い出せないなぁ……まぁ良いや。学校行こう。

 亜美子はベッドから起き上がる。




 時刻は朝のホームルーム開始5分前。夢奈は机に座り携帯電話を開いて何かを読んでいる。水色のブラウスは相変わらずクラスから浮いている。

 夢奈が見ていたのはTAKUYAが書いたArt syrupのライブレポートだ。

 昨日、TAKUYAは新規で有料アカウントを作成した。写真や日記の投稿が多すぎて、無料の古いアカウントの使い勝手が悪くなってしまったらしい。それだけ、文章を書くことが好きな人のようだ。

 このライブレポートが新規の初投稿になる。その内容はまるで自分もライブに行った気分になるような、臨場感にあふれるものだ。

 すごい……私もいつかいきたいわ。

 後ろのドアの近くの席で、朝から男子生徒達が大声で卑猥な話をしている。だが、そんなものが全く耳に入らないくらい集中しており、気がつくと全て読み終えていた。

 TAKUYAさん、本当に良かったわ。

 どうやらチケットを余らせている人をWeXで見つけて譲ってもらったそうだ。

 やっぱりネットって悪意だけじゃなくて、善意もあるものよね。

 夢奈はTAKUYAが親切な人に出会えたことが嬉しかった。

 一方、後ろのドアの近くの席で、卑猥な話がさらにヒートアップしていく。そしてついに、一人の男子生徒が大きな声で、ある言葉を言ってしまう。


「(作者です。この言葉はあまりにも下品なので皆さんにお見せすることは出来ません。大変ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。)」


 その言葉が発せられたと同時に、教室の後ろのドアが開く。


「おはよう!」


 ピンクのブラウスで制服を着た亜美子が登校してきたのだ。言ってしまった男子生徒はしまったという顔をする。別の男子生徒がそれを茶化す。


「おまえ、小学生の前でそんなこと言うなよぉ!」


「いや、小学生にはわからないから大丈夫じゃない!?」


 教室に入るなりからかわれた亜美子は口を尖らせる。


「はぁー? 私もあんた達と同じ中学生なんですけどぉー!」


 教室中が笑いに包まれる。亜美子を小学生とからかうのは鉄板ネタだ。

 だが、亜美子は思った。

 確かに言葉の意味わからないなぁ。


「夢奈ちゃーん」


「ん?」


 亜美子は夢奈に駆け寄る。教室中が嫌な予感を感じ取った。


「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️(自主規制)って何!?」


 教室の空気が凍りつき、さっきまでの笑い声が嘘のようになくなる。まるで、亜美子以外の時間が止まってしまったようだ。

 え? 私なんか悪いこと言ったかな!?

 あたふたしている亜美子に夢奈は微笑む。


「亜美子は何も悪くないのよ」


 そして、今度は真顔で男子生徒達を見る。特に夢奈が怒っている訳ではなかったが、男子生徒達は物凄く気まずくなり下を向いてしまう。

 亜美子は世の中には「言ってはいけない言葉」があることを身を持って知る。

 そんなことをしているうちに先生がやってきて、生徒達は慌てて席についた。




 この日のお昼休み。亜美子は麗美を含んだ五人でお話をしていた。すると、亜美子の携帯電話に一通のメールが届く。差出人は京介だ。


 今日の19時ぐらいに第七公園に来れるか? 話したいことがあってさ。


 え? 第七公園……?

 第七公園はあまり広くはないが、赤い遊具が多く赤い公園とも呼ばれている。場所は亜美子の家から遠く、学区の端にある。


「ちょっと私、1組に用事出来たから行ってくるねー!」


 亜美子はそのまま隣のクラスの教室まで行く。教室のドアは空いている。

 えっと……

 亜美子は教室の後ろの席で、運動部の男子生徒六人くらいでと、楽しく話している京介を発見する。


「おーい! 京介! ちょっと来てー!」


 亜美子の大声に教室中の視線が集まる。京介はまたもや予期せぬ出来事に、頭の中が真っ白になる。


「おい京介! 行ってやれよ!」


「そうだよ! いけよ!」


 一緒に喋っていた男子生徒が、ニヤニヤしながらはやしたてる。京介は変な汗をかきながら亜美子の元へ駆け寄る。


「とりあえず、プールの裏で話そう」


 亜美子はきょとんとした顔をしたが、京介に言われるがままについて行く。面白がった京介のクラスメイトが何人か尾行してきたが、京介はすぐに気がつき追い払った。




 二人はプールの裏についた。プールの裏といっても、壁に囲まれていてプールは全く見えない。さらに、有刺鉄線まで張ってある。ここの学校のプールは、何故か異様なほど厳重に囲われているのだ。

 ここにはあまり人が来ない。聞かれたくない話をするのにはもってこいの場所だ。


「おまえ、声デカすぎるんだよ」


「あ、ごめんね。私、第七公園遠いから、話があるなら今聞こうと思ってさ!」


 亜美子は京介の目を見ながら話す。京介はそこから、少し視線を逸らす。


「……いや、あの場所で話したい。ダメかな?」


 亜美子は目線を斜め左に向ける。

 確かに、嫌な思い出はあるけど……昔のことは良いか。いつまでもトラウマ抱えられないし。


「わかった! 19時に第七公園ね!」


「ありがとう。じゃ、俺はちょっとトイレ行ってから教室に戻る。今日会うことは誰にも内緒な!」


「内緒? まぁいいよ!」


 亜美子は何故内緒にするか全く意味がわからなかったが、そのまま教室に戻った。





 普段は普通の中学生と何一つ変わらない生活をしている亜美子。いや、もはや普通の中学生よりも学校生活を楽しんでいるのかもしれない。

 亜美子が普通の中学生でなくなる瞬間が、五時間目の授業中に訪れた。

 うわぁ。この嫌な感じは……また学校で変身かぁ。

 雲が漂う普通の空が、赤一色の異常な空へと変わっていく。

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