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♡Past Maidens〜魔法少女の記憶〜♡  作者: 後出決流
第二章 Romance-恋と戦闘-
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第16話 声を壊して心で叫べ

前回のあらすじ


 三体複合型のサイレンの怪物に全く歯が立たない亜美子とたぬきくん。

 亜美子が諦めかけたその時、息絶えた人の手と戦うたぬきくんの姿を見て戦意を取り戻す。

 亜美子の目には砕けたコンクリートの破片にあった。

 亜美子はコンクリートの破片を握る。これは亜美子にとっての希望のカケラだ。

 何でも試してみなきゃ。少しでもできることを……!

 上半身を起こす。狙いを怪物のうち一体に定める。亜美子は掴んだコンクリートの破片を投げた。

 コンクリートの破片はまるで弾丸のように、ピンクの光を放ちながらサイレンの怪物の一体に向かっていく。

 よし! これならいける!

 音を切り裂きながら、コンクリートの弾丸は突き進む。そして、亜美子が狙いを定めたサイレンの怪物に命中する。


「そんなぁ……」


 命中はしたものの、サイレンの怪物に触れるや否やコンクリートの弾丸は粉々に砕けてしまった。砕けたコンクリートは光を失い、粉塵となり落ちていく。全く効いている様子はない。

 大丈夫。届きはした。きっとこれで、なんとかなる。考えろ。考えろ、私。もっと固くて丈夫なもの……頑丈なものなら……

 亜美子は周りを見渡す。瓦礫の中で頑丈で強いものがないか、必死に考えて探す。考えて、考えて、考え抜いた。そして、答えが出る。

 よくわからないから、全部やっちゃえ。

 亜美子は手当たり次第、周りにあるものを投げつける。右手も左手も使い、とにかく投げまくる。投げるものがなくなると、地面を這って移動し、そこにあるものをひたすら投げる。

 しかし、どれもサイレンの怪物に当たると砕けてしまい、やはり効いている様子はない。

 もっと、もっと頑丈なものがあれば……

 亜美子はあたりを見渡す。


「あ!」


 こちらへ向かってくるたぬきくんが目に入った。たぬきくんは無数のピンクの光が、サイレンの怪物の一体に当たっていることに気づいていたのだ。


「亜美子ッ! 今そっちへいくッ!」


 たぬきくんの声は届かない。だが、ニジィウムゥという雷のような爆音を浴びながらも、亜美子へと近づいていく。

 亜美子も地面を這いながらたぬきくんへ近づく。

 ……身体が痛い。回復が追いつかなくなってるのかな。

 三体のサイレンの怪物は二人に、轟音を浴びせ続ける。亜美子は痛む身体を必死に這わせる。たぬきくんとの距離がどんどん近くなる。

 よしッ!

 亜美子は右手を伸ばしてたぬきくんの足を掴んだ。次の瞬間、たぬきくんは悲鳴をあげていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 亜美子はたぬきくんを、サイレンの怪物の一体に投げつけたのだ。ピンクの光を纏いながら、サイレンの怪物に向かっていく。まるでピンクの砲弾のようだ。ニジィウムゥという轟音を切り裂きながら進む。


「これでもくらえッ!」


 たぬきくんのが左手を前に突き出す。それが黒く無機質な身体にぶつかると、メキメキという音を立てる。ピンクの光は消えた。


「狙い通りだけどいきなりすぎるぞッ!」


 たぬきくんの左腕がサイレンの怪物の黒い身体にめり込んでいる。さらに、そこから黒い液体が垂れている。


「ここまでくればいけるッ!」


 たぬきくんは足をジタバタし始める。いや、ジタバタしているのではない。蹴りを入れているのだ。何発も何発も蹴りを入れる。まるで虫歯を削るドリルのように。

 他のサイレンの怪物は仲間を助けようとせず、亜美子に攻撃してくる。二体分の攻撃で、もはや這う事すらできない。


「がん……ばれッ! たぬき……くんッ!」


 亜美子の攻撃に耐えながらの応援は、声としては届かなかった。だが気持ちは届いたようだ。


「うぉぉぉぉぉぉ! いけぇ!」


「クルシィナァァァァ」


 サイレンの怪物は奇妙な轟音を止め、断末魔の悲鳴をあげる。たぬきくんはサイレンの怪物の一体にさらに穴を開ける。

 そこから黒い液体が漏れ、黒い巨体はそのまま落下していく。たぬきくんはすぐに左腕を引き抜き離れた。そして、自分が着地する地点にシールドを貼る。

 サイレンの怪物が地面に叩きつけられた。鈍い落下音と共に粉塵が舞う。


「やったぁ!」


 粉塵が晴れると、サイレンの怪物が見えてきた。その巨体は横たわっており、音が出る方と反対側を亜美子に向けている。そして、その付近にたぬきくんが立っていた。

 サイレンの怪物は動く気配が全くない。この一体は完全に倒したようだ。すると今度は、とても大きなポンという音が聞こえてきた。横たわるサイレンの怪物が、自動で音を拾って大きくしたようだ。


「嘘……」


 亜美子は絶句する。たぬきくんの周りから煙が出て、隆の姿に戻ってしまったのだ。隆はそのまま力なく倒れる。

 どうしよう! 助けなきゃ! 助けなきゃ!

 亜美子は必死に立ちあがろうとする。

 ダメだッ……上半身すら起こせない……身体もさらに痛む……

 二体の攻撃は亜美子を完全に封じ込めていた。じわじわと亜美子の命を削っていく。口から血が流れ始める。

 何か……何かないかな。

 あたりを見渡しても何もない。身の回りのものは投げ尽くしてしまい、あるのは地面だけだ。

 亜美子は絶体絶命の中、土を手で掴んだ。それなりに硬いはずが、驚くほど簡単に掴める。

 これじゃ何もできないよね。

 亜美子が土を手放すと、その土はピンク色に光り地面に落ちた。

 ……これだ。

 亜美子は地面を掘り始めた。ピンクの土埃が舞う。その穴に自分の身体を落とすように滑らせていき、地面の中に身を隠す。

 よし、まずは回復をしなきゃッ!

 ある程度の深さまで掘ると、身体にかかる音の衝撃が弱くなってきた。すると今度は横穴を掘り地面の中を進む。


 「えいッ!」


 足を動かし穴を塞ぐと、衝撃はさらに弱くなった。

 振動は感じるけど十分! むしろこの深さが良い!

 亜美子の体力はすぐに回復する。亜美子はすでに自分のいる場所がわからなくなっていたが、振動のおかげで上がどちらなのかはわかった。

 一回、今いる位置を確認しなくちゃ。

 後ろに戻ることもできなかったので、そのまま上に突き進む。もちろん、上に行けば衝撃は強くなっていく。

 ダメだ。これ以上は進めない。

 亜美子は下に戻ろうと思ったが、突然異変が起きる。

 息苦しい……そうか。空気が足りなくなってるんだ……! 隆くんをこのままにもできないし……

 亜美子は闇雲に掘り進む。出られそうな場所を探して、とにかく進むしかないだ。

 しかし、ハァハァと息が乱れていくだけで、現実は変わらなかった。いや、体力が減った分、悪化している。

 休んでる暇はない! 探さなきゃ!

 亜美子は焦りからか、さらにスピードを上げて掘り進む。しかし、次第に頭が痛くなっていく。そしてあっという間に動けなくなってしまった。意識がどんどん遠のいていく。

 私、もうダメかも。……あれ? でもなんか苦しくない。なんだか妙に落ち着いているな。確か、前にもこんなことあったな。

 亜美子はプテラノドンに襲われた時を思い出した。あの時も、攻撃を受ける間際は落ち着いていた。そして周りのことがよく見えた。

 まだ、まだチャンスはある。この落ち着きを利用出来れば……

 亜美子は全神経を集中させる。すると薄らピンクのオーラが身体から出始めた。

 あれ……? 向こうの方、衝撃が全くない。何故だかわからないけど……わかる。向こうなら出られそう。行こう。

 ピンクのオーラがなくなると、亜美子は衝撃がしない方向に向かって掘り始めた。幸い遠くはない。動かなくなった身体を、希望の力で無理やり動かし進む。


「いけぇぇぇぇぇぇ!」


 亜美子はそのまま一気に衝撃のないところまで掘り進む。そして、すぐに地上まで上がる。


「危なかったぁぁぁ」


 全身土まみれの亜美子は地面に立つ。身体もどんどん回復していく。

 この場所は何故か全く攻撃されていない。さらに良いことに、隆が倒れているところから1メートルくらいしか離れていなかった。亜美子はすぐに駆け寄る。


「隆くん! 大丈夫!?」


 返事はない。攻撃されていないとはいえ、激しい音は聞こえる。こんな場所で隆は倒れているのだ。仮に意識があっても亜美子の言葉は伝わらなかっただろう。

 隆のすぐ近くには、サイレンの怪物も倒れている。こちらも動く気配がない。亜美子は隆の手首に触れる。


「よし、生きている」


 一安心すると、すぐに攻撃する方法を思いついた。

 亜美子は隆を3メートルくらい先に運ぶ。そして、倒れているサイレンの怪物に近づくと、その黒い身体を両手で掴む。


「これでもくらえ!」


 亜美子はサイレンの怪物に、サイレンの怪物を投げつけようとしているのだ。全身の力を込めてサイレンの怪物を持ち上げようとする。

 私はできる! 絶対にできる!

 亜美子は気合いを入れるために声を出す。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 その声が横たわるサイレンの怪物に拾われ、さらに大きな声になり街中に警報のようになり響く。


「いけぇぇぇぇぇぇ!」


 亜美子はサイレンの怪物を思い切り持ち上げ、その巨体を思い切り投げつけることができなかった。実際は声を拾われただけで、投げつけるどころか全く持ち上がらなかったのだ。

 亜美子は下を向く。そして、サイレンの怪物を押して、音が出るところを他の二体に向ける。亜美子は身体を小刻みに震わせながら、音を入れる方へ歩く。

 あれ。重すぎるよ。なんなの? そもそも何で三体いるの? 隆くん、一度に一体しか現れないって言ったよね? あぁ……もう……

 その時、隆は目を覚ます。ふと見ると、サイレンの怪物の音を入れる部分に震える亜美子が立っていた。


「なんか、嫌な予感がするぞ……」


 亜美子は息をたくさん吸い込む。


「マジ意味わかんないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッッッッ!」


 その瞬間、倒れているサイレンの怪物の音を出すところから、亜美子の怒号と共に激しいピンクの光が街全体に放たれた。

 倒れているサイレンの怪物も空中にいる二体も破裂し、黒い液体がばら撒かれる。断末魔の悲鳴もかき消す亜美子の声に、怪物達はなす術なく破裂したのだ。

 そして、隆の鼓膜も破れてしまった。亜美子も力を使い果たし変身が解け、ハァハァと肩で息をしている。

 真っ黒な液体は透明になり消滅し、消しゴムで消されたかのように赤い空は真っ白な曇り空に戻っていく。

 こうして隆の鼓膜を犠牲に二人は勝利した。隆は思った。

 鼓膜は戻るからいいよ。でも、怪物より亜美子ちゃんの方が……うるさかったな。

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