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♡Past Maidens〜魔法少女の記憶〜♡  作者: 後出決流
第二章 Romance-恋と戦闘-
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第15話 冷たい花を握り締めるように

前回のあらすじ


 この世界のこと、敵のこと、特異点のこと、様々な話を隆は話し、夢奈は使命感に燃え、夢奈はそれを受け入れた。

 そして、さっそく空が赤くなった。亜美子と隆は怪物の元へ向かう。

「さぁ! 亜美子も変身するんだ! 時間がない! 急げ!」


 男性の裏声のような独特な声で急かされた亜美子であった。だが、ここで肝心なことに気が付く。


「私……変身の仕方わからない! どうするの? 何か、変身アイテムみたいなものとか出てこないの?」


 たぬきくんは何を言っているんだと言わんばかりの顔で亜美子を見る。


「そんなものはない! 何でも良いから変身出来そうなイメージを持て! そしてあの言葉を言うんだ!」


「いきなりイメージなんて持てないよぉ!」


 亜美子は完全にパニックになる。

 どうしよう。どうしよう。これじゃ変身出来ない……イメージって……


「亜美子!」


 まだ目が赤い夢奈に名前を呼ばれ、亜美子は我に帰る。


「そのネックレスを変身アイテムだと思って、やってみて!」


 亜美子はピンクの石のハートのネックレスを見る。

 なるほど! これは二人の友情の証で、魔法のような友情が詰まっているよね。それにあの姿はやたらハートが多いし……これならできそう!


「わかった! やってみる!」


 亜美子は両手をネックレスに添え、目を閉じてて叫ぶ。


「キュルラン・キュルラン!」


 亜美子の身体がピンクの光に包まれ、それが繭のような楕円形に変わる。すると、あの時と同じように人の形へと変わっていったのだ。ピンクの光が放たれる。


「できた! できたよ! ありがとう夢奈ちゃん!」


「変身できたのは亜美子の力よ」


 ピンクとハートのバトルスーツをまとった、金髪縦巻きポニーテールの亜美子がそこにいた。まるでアイドルのようだが、これこそが亜美子の戦闘用の姿なのだ。

 たぬきはその姿を見て高揚する。


「よし! 今度こそ行くぞぉ! どんな怪物が来てもオイラ達がぶっ潰してやる!」


 たぬきと亜美子は勢いよく、ベランダから飛び出し、別の家の屋根に飛び移る。その屋根を走りまた次の建物に飛び移り、現場まで一直線に向かう。




 空が変わる少し前、黒い液体の入ったペットボトルを持った若い男が一人で大きな川沿いを散歩していた。


「色々うまくいっているなぁ」


 何やら上機嫌だ。男は穏やかな顔で、川沿いの家など周りの景色を見ている。すると、一つのものが目に入り足を止めた。


「こんなの出来たんだ」


 男の目の前には、三つのサイレンがついた電信柱のような柱がある。これは防災用のサイレンだ。男はそれをまじまじと見つめる。


「よし。これにするか」


 男はペットボトルの蓋を開け、中身の黒い液体を柱にかける。そして、とても楽しそうに言う。


「絶望とサイレンを、レッツラま……」


 男は言いかけていた言葉を途中でやめる。なにやら考えているようだ。


「なんかこの言葉、色々良くない気がするなぁ。まぁいいや」


 そう言うとペットボトルを川に放り投げ、何事もなかったかのようにまた歩き始めた。そして歩きながら、何やら聞き慣れない言葉を呟いたのだった。




 赤い空の下、たぬきを背負った亜美子が到着する。たぬきは右腕を失った代償で、身体能力の全てが大幅に低下し、亜美子のスピードについていけなかったのだ。どうにかして、早く着きたかったたぬきは、亜美子に背負ってもらうことにしていた。

 現場は悲惨だ。川沿いの家は壊滅状態。あたりは瓦礫の山だ。


「近くに来るともっとうるさいッ! なんなのこれッ! そもそも何でこんなにいるの!?」


 亜美子は大声で言った。

 上空100メートルくらいのところに、音の出る部分の直径が10メートルほどある、巨大な黒いサイレンが三つ浮かんでいるのだ。それらは5メートル間隔で並んでおり、それぞれが別の方向を向いている。動きはそれほど速くない。

 サイレンの怪物はニジィウムゥと聞こえる奇妙な轟音を出している。亜美子の大声がたぬきに聞こえないくらいの大きさだ。

 音の出る方向にあるものが、次々と砕けていく。サイレンの怪物は三体いるので、広範囲が破壊されていく。

 たぬきは亜美子から降り、空を見上げる。

 複合タイプか。一つ一つは大したことないが、今回もかなり厄介だ。もうオイラの身体じゃ上空まで飛べない。この音では亜美子に指示も出せない。

 サイレンの怪物達が亜美子達に気付き、音を止めてこちらを向く。


「亜美子、無理はするな。回復力は上がっているが、怪我をする時はする。でもオイラは心配いらない。防御力が高い上に、勝てれば怪我までは戻らないからな」


「わかった! たぬきくん! あッ……隆くん!」


 亜美子は名前を言い間違えてしまう。亜美子は舌をテヘっと出して頭を下げる。


「たぬきくんでもなんでも良い! 来るぞ!」


「OKたぬきくん!」


 亜美子はたぬきくんと呼ぶことに決めた。そんなことをしていると、サイレンの怪物三体の音が出るところに、巨大な人間の目が出てきた。


「やぁ! こんにちは!」


 機械で加工されたかのような声。その主は異常者だ。亜美子はサイレンの怪物達を睨みつけ、渾身の大声で怒鳴る。


「異常者ッ! 今すぐこんなことやめて!」


 サイレンの怪物達からは笑い声が聞こえてくる。


「ごめんね。声が小さくて何も聞こえないよ。そんなことより本当は特異点の活躍を見たいんだけど、この子は目を出すと攻撃出来なくなるみたいなんだ。本当に個性は人それぞれだね。

 今日はあいさつだけにしておくよ。またね。あ、そうだ。オレは異常じゃないからね」


 巨大な目は跡形もなく消失してしまう。もう、あの声がサイレンから流れることはなかった。


「はぁ? 聞こえてるじゃん! あいつ! 本当にムカつく!」


 亜美子は思い切り足踏みする。地面には少しだけヒビがはいる。

 街をこんなにして……私をバカにして…絶対に許さないッ!


「亜美子ッ! 落ち着けッ!」


 亜美子はたぬきくんの言葉を聞かず、地面を蹴り上げ、サイレンの怪物のいる上空まで飛び上がる。

 先手必勝ぉッ!

 亜美子は一瞬でサイレンの怪物のうち一体がいるところまで到達する。


「よぉし! まずは一匹ッ……!?」


 ニジィウムゥという轟音が亜美子に襲い掛かったのだ。亜美子はサイレンの怪物に触れられずに落ちる。


「きゃぁぁぁぁ」


 音というより、まるで見えない雷を浴びせられたような衝撃だ。亜美子は悲鳴を上げながら落下したが、その声すら轟音にかき消された。亜美子は尻から叩きつけられる。


「痛っ……あれ? 痛くない……?」


 それは地面ではなかった。亜美子は半透明の光の床の上にいたのだ。

 あのバカッ! 少しは考えろッ!

 たぬきくんが上空にシールドを貼っていたのだ。亜美子はそこに着地している。


「ありがとうッ! 反撃……」


 亜美子はすぐにまた飛びあがろうとする。だが、轟音の衝撃で起き上がることさえできない。


「わぁぁぁぁ。どうしよぉ!」


 もちろん他の二体も黙って見ているわけではない。サイレンの怪物はその黒い巨体をたぬきくんに向けて、ニジィウムゥという音を発射したのだ。


「うわぁ!」


 シールドがないたぬきくんはそのまま吹き飛ばされ、地面に転がる。

 くッ……右腕を失っても防御力は変わっていない。だが、このままでは、まずいぞ。反撃のために空中に貼ったのが仇になったか。

 亜美子も必死に起きあがろうとしたが身体が全くいうことをきかない。


「なんてパワー……なの……」


 必死にもがいているその時だ。


「……? きゃぁぁぁぁぁぁぁ」


 たぬきはシールドを解除した。亜美子の身動きが取れなくなってしまったので苦渋の決断だ。頭から落下した亜美子はそのまま、瓦礫の上に叩きつけられる。


 「うッ…」


 口から血が噴き出す。薄いピンク色の服に赤いシミができる。亜美子はすぐに体勢をうつ伏せに変える。その体勢でないと吹き飛ばされてしまうからだ。

 落下した直後、一瞬だけ叩きつけられた部分に激痛が走ったが、不思議なことにすぐに痛みが引引いた。サイレンの怪物の攻撃と落下の衝撃は凄まじく、骨も何本か折れたが、何事もなかったかのように治っていたのだ。服についた血も綺麗に消えている。


「すごい……これが回復力……」


 しかし、感心している場合ではない。サイレンの怪物達は二人向けて轟音を出している。亜美子は地面を這うのがやっとだ。少しでも力を緩めたら体が弾けてしまいそう。

 



 一方、たぬきくんはシールドを貼りそれを持って上に掲げている。音を軽減して、ある程度動けるようだ。

 ダメだ。全ては防げない……シールドを亜美子の動きに合わせて貼ることが出来れば、まだ勝機はある。だが右腕がないオイラの力じゃあそんな正確に動かせない……いきなりピンチだ……

 たぬきくんは少しでも、音がしないところに避難しようと思った。だが、攻撃範囲が広すぎるうえにうまく動けず、殆ど焼け石に水状態だ。

 必ず打開策がある。オイラは諦めないぞッ!




 亜美子は変わらず、全く身動きが取れずにいる。次第に焦り始める。

 何か、攻撃する方法を考えなきゃ。

 亜美子は起きあがろうとしたが、上半身を起こすことで精一杯だ。仕方がないので特に考えもなく瓦礫の上を這って移動してみる。

 これじゃイモムシと同じじゃん……あぁ。嫌だ。あの時のことを思い出すよ……

 亜美子は両腕と下半身を失った記憶が蘇り、惨めな気持ちになる。

 せっかく力があるのにこれじゃ何も変わらない……

 亜美子の気持ちがどんどん沈んでいく。目も潤んでくる。だがその時、亜美子は瓦礫の隙間から花のように生えている、あるものを見つけたのだ。

 これは……

 そう、それは人間の右手だ。亜美子はその手を握り締める。

 冷たい……

 逃げ遅れたのか、瓦礫の下の人物は息絶えていた。

 私、泣き事を言うために戦っているの? 違うよね? たぬきくんはこんなことさせるために私を助けたわけじゃないよね?

 亜美子は手を離し、視線を前に向ける。すると、動き回り現状をどうにか変えようともがく、たぬきくんの姿が目に入った。そう、たぬきくんは諦めていないのだ。

 そうだ! 諦めちゃダメだ! 私にできることをしなきゃ!

 亜美子は戦意を取り戻す。何か状況が変わる物がないかあたりを見渡す。

 ……もしかしてこれならッ!

 亜美子が掴めるくらいの、砕けたコンクリートの破片を見つけた。

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