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♡Past Maidens〜魔法少女の記憶〜♡  作者: 後出決流
第二章 Romance-恋と戦闘-
19/71

第14話 私達は新世界で目を覚ます

前回のあらすじ


 二人は雑貨屋Dream Houseの居住スペースで店主と話すことになる。

 店主は照井隆と名乗り、自身の右腕が動かなくなったことを告げる。

 そして、隆は今起きていることを話し始めた。

「最初から話していくからね。いきなりだけど……今から10年くらい前、1999年の6月に僕は死んだ」


 あまりにも唐突な話に、亜美子は思わず声を上げる。


「え? 死んだ?」


 目の前にいる隆は言うまでもなく生きている。その隆が自分は10年も前に死んでいると言い出したのだ。亜美子は全く意味がわからなかった。隆は幽霊なのだろうか。


「亜美子、この話にはきっと続きがあるから一旦全部聞きましょう」


「そうだね。ごめんなさい」


 夢奈に注意された亜美子は、隆に頭を下げる。


「大丈夫だよ。何かわからないことがあったらその都度聞いてね」


 隆は話を続ける。


「この際、僕が死んだ理由はどうでもいい。大切なのは死んだ後のこと。僕は真っ白な空間にいたんだ。広さもわからないくらい広かったよ。それで、そこには右がピンク、左が青の巨大なピラミッドがあったんだ」

 

 亜美子にはその大きなピラミッドが、想像できるようで全くできなかった。また、隆が死んだ理由も気になったが、話の腰を折りそうなので聞かないことにした。


「あのピラミッドが何だったのか、いまだにわからない。でも、僕はそのピラミッドに死にたくないと願ったんだ。そしたら、身体が煙に包まれて、煙が消えたら……僕はたぬきのような姿になっていた。

 たぬきのようになったと思った僕は、気づいたら病院のベッドで横になっていた。そして僕はこの世界について、そして自分がやること、できることについて知っていたんだ」

 

 この世界について……? どういうことだろう。

 これまで、亜美子が考えたことすらない話だ。部屋がさらなる緊張に包まれる。


「1999年、ある世界すべてが宇宙規模で滅びた。理由は……わからない。この世界はその滅びた世界が転生した、似たような歴史を歩んだ世界なんだよ。この世界に生きているものは、みんなその世界から転生してきたんだ」


「え!?」


 亜美子は黙って聞いていようと思ったが、さすがに驚き声を上げた。夢奈は黙って聞いている。


「驚くのも無理ないよね。世界が滅びてみんな死んだけど、それが別の世界で生まれ変わる。

 そんな話、信じられなくて当然だよ。でも、僕はピラミッドからそう教わったんだ。客観的に証明は出来ないけど、これは事実で間違いないね」


 亜美子は黙って頷く。

 なるほど。転生ってそう言う意味だったのか。

 隆は亜美子の頷きを自分の話を受け入れてくれたからだと解釈し、安心して続きを話す。


「もちろん、殆どの人間には前の世界の記憶がない。でもたった一人だけ、前の世界の記憶を持って平然と生きている男がいる……それがあの異常者だ」

 

 異常者……あの校舎から聞こえた声……

 異常者の名が出た時、一瞬だが隆から殺意が漏れる。亜美子は隆から目を逸らす。そのことに気づいた隆はやってしまったという顔をして、深呼吸する。そして、穏やかな表情で話し始めた。ただそれも、無理矢理作っている感じだ。


「稀に普通の人間に前の世界の記憶が蘇ってしまうことがあるんだ。その記憶を話せない様にするためか、その場合は狂ってしまい廃人になってしまう。

 だが、あれは元から脳か精神か魂、または全てが狂っている。だから廃人にならず、代わりに恐ろしい能力を手に入れたんだよ」


「それが……怪物を生み出す能力ね」


 夢奈が言うと、隆は黙って頷く。


「そう。物を怪物に変える能力だね。あれはこの世界のバグみたいなものかな。

 僕は命と一緒にあのバグを消去する使命も得たんだ。僕が目覚めて、1ヶ月くらいしてからあれは動き出した。もう10年くらいあの異常者や怪物と戦っているよ。

 あれについてもう少し話すと、その時からすでに体格が大人と変わらなかった。だから、あれは最低でも20代半ばより上の年齢だね」


 10年……

 その年月はまだ14歳の亜美子には想像も絶する時間だ。おそらく夢奈にとってもそうだ。そんな長い時間、隆は戦ってきたのだ。


「あの怪物についても説明するよ。異常者はあの怪物を日中にしか生み出せない。一度に二体生み出すこともできない。僕に備わっている能力でこの地区周辺にしか出現できない。……僕がこの町で生まれ育ったせいかもしれないね。みんなには本当に迷惑をかけて申し訳ない」


 深々と頭を下げる隆を二人はなだめる。隆はもう一度だけ謝ると話の続きを始める。


「あとは怪物の出現周期かな。一度現れたら、一週間は出現できないよ」


 一週間か……

 亜美子は携帯電話を開き、自分が倒れた日の日付を確認する。しばらくその日付を見つめたあと、携帯電話を閉じる。


「もう、いつ現れてもおかしくないね……」


「その通り」


 亜美子は震え出す。それは恐怖からではない。

 私がやってやる……私がやってやる……

 心の底から湧き上がる思いが、血に乗り身体中を回っていくような気分だ。心拍数も上がっていく。


「亜美子ちゃん、ずいぶん殺気立っているね」


「そうね、ちょっと深呼吸してみたら?」


 二人に指摘されて自分がすごい形相になっていることに気がついた。亜美子は謝ってから鼻で思い切り息を吸い、口から吐く。少しだけ落ち着いた。


「今度は特異点……亜美子ちゃんについて説明するよ。でも、これは多分新しい話は殆どないと思うけど良い?」


「それでもお願い」


 いよいよ自分の話になり亜美子は食い入るように隆を見つめる。


「もう、わかっていると思うけど、亜美子ちゃんは時間が戻っても身体の状態と記憶を引き継いでしまう。そうした性質の者を特異点と呼んでいるんだ。最初にお店に来て、左手の怪我を見た時は、まさかと思ったよ。

 僕は自分の身体の一部を使い、特異点に怪物と戦える力を与えることができる。僕も亜美子ちゃんも基本的にその力を使って変身できるのは空が赤くなってからだね」


 すかさず亜美子が質問する。


「二つ聞いても良い? 何で私がその特異点なの? あと、どうして時間が巻き戻るの?」


 隆は首を横に振る。


「ごめん。両方とも正確なことは何もわからない。変身する時の言葉、キュルラン・キュルランとか……とにかくわからないことだらけだ。

 ただ、一つはっきりわかるのは時間が巻き戻るのは僕らの能力ではないということ。

 あと言い忘れたけど、巻き戻る時間は怪物が現れる5分〜5時間前くらいかな。特に決まった時間はないよ」


「そうなんだ……ありがとう」


 ……新しいことはやっぱりわからないかぁ。でも仕方ないよね。

 亜美子は少しがっかりした。すると今度は夢奈が質問する。


「やっぱり怪物と戦うのは危険……ですよね……」


 賢い夢奈には珍しく、聞くまでもない当たり前の質問だ。隆は深く頷いてから言う。


「そうだね。もちろん危険だよ」


 夢奈は少し間を置いて隆に尋ねる。


「最悪の場合……命を落とすこともありえますよね……?」


 この質問に隆の身体が震える。みるみる血の気が引いていくのがわかる。そして、口をゆっくりと開いて小さな声で言う。


「ありえるよ」


 夢奈は下を向いて黙り込んでしまう。だが、亜美子はその言葉をすんなり飲み込んだ。

 やっぱり死ぬかもしれないんだね。……不思議。何も怖くない。

 亜美子は自分がこれからやろうとしていることは、そういうことだと覚悟していたのだ。もはや常人の精神力ではない。二度も死線をくぐり抜けて、大切な人を傷つけられて、自分のために身体の一部を差し出される。幸か不幸か、そんな異常な現実が亜美子を強くしてしまったのかもしれない。

 夢奈は溜め込んだものを、一気に放出するように言う。


「私は亜美子にそんな危険なことはやらせたくありません! なんとかなりませんか!?」


 しばらく、嫌な沈黙が続く。夢奈はずっと歯を食いしばっている。諦めきれず、苛立っているのだ。隆はそんな夢奈を見る。

 本当ならこんなことは言いたくない。でも、僕の方からちゃんとお願いしないとな。

 隆が話し始めた。


「怪物と戦える者が敗れて死んだら、もう二度と空は青くならない……本来なら僕ひとりで戦うべきだが……」


 隆は動かなくなった右腕に目をやる。


「やっぱり私がやるしかないんだね」


 亜美子が隆に優しく言う。その優しさが隆には辛い。


「片腕になって変身してわかった。もう、僕一人では戦えない。だから亜美子ちゃんのサポートが必要になる。こんな危険なことを頼んで本当に申し訳ない」


「謝らなくていいよ。私、頑張る!」

 

 亜美子の決意を聞くと、夢奈の目から涙が溢れてきた。もう自分が何を言っても亜美子は変わらないとわかったからだ。

 夢奈は心底悔しかった。

 私が亜美子の代わりに変身して戦いたい。でも、私は特異点ではないし、特異点だとしても変身すれば照井さんの身体の一部がなくなる……

 夢奈は大体のことは出来る。でも大切な唯一の友達を守ることができない。そんな思いが雫となりこぼれ落ちていく。


「亜美子……あなた一人に辛い思いさせてごめんね……私、何もできなくてごめんね……」


 泣いている夢奈に、亜美子は温かく微笑む。


「大丈夫だよ、夢奈ちゃん。夢奈ちゃんが勇気をくれたから、私は戦おうと思えたんだよ。

 私ね、自分は運動も勉強も苦手で何も出来ないと思っていたの。でもやっと自分に出来ることが見つけられた。だから、辛い思いなんてしてないよ」


 亜美子は夢奈の頭をそっと撫でる。夢奈はさらに声を出して泣く。そしてそのまま言う。


「一体どうすれば終わるの? その異常者は何がやりたいの?」


 隆はゆっくり説明する。


「終わらせる方法は一つ。空が赤いうちはあれに何もできないから、平時に見つけ出して……殺すしかない」


 え……殺す……?

 亜美子の手が止まる。怪物と戦う覚悟があった亜美子だが、人を殺すことなど考えていなかったのだ。脳裏に人間が死んでいく嫌な記憶が浮かぶ。

 私も……同じことを……する……?


「赤い空の時に異常者の顔を見ても、時間が巻き戻ると顔の記憶が消えてしまうんだ。平時に直接戦った時もあったが、顔を隠していた。それが10年かけても殺せない理由。

 あれも平時なら生身の人間だよ……でも、亜美子ちゃんには無理だ。とにかく強い。まるで一流の軍人みたいだ。でも僕ならなんとかなる。殺すなら僕がやるよ」


 隆は過去に異常者を殺せるチャンスがあった。しかし、それができなかった。そのことも隆を苦しめる後悔の一つだ。その時に出来た腹部の傷跡が疼く。

 亜美子は俯き、無理矢理絞り出すように答える。


「私も……殺せるようにする……」


「気持ちだけ受け取るよ。仮に殺すなら日中がいいな。僕には夜に使える奥の手があるけど、相手も何かしら持っている可能性があるからね」


 亜美子は何も言えなかった。そんな亜美子の手に涙で濡れた夢奈の手が触れる。隆は続けて話す。


「あれは信念や目的もなく、思いつきで破壊行為をしているとしか思えない。まさに、真の悪だね。だから殺すしかない。

 学校であんなことをしたのも単なる気まぐれだろうね。本当に何をしでかすかも、何がしたいかもわからない。常に警戒して欲しい」


 亜美子の眉間にしわが寄る。顔に力が入る。

 気まぐれ? あんな酷いことを気まぐれでした? 信じられない……絶対に許せない。私に殺せるかわからないけど……許せない。


 まだ、殺すイメージは持てない。それでもその時が来たら、自分は率先して出来ることをやろうと誓った。

 亜美子の動揺は闘志の炎で燃え、灰と化した。しかし、燃えたのは闘志だけでなかった。

 何? この感覚? すごく気持ち悪い。私、行かなきゃ。行って何とかしなきゃ。

 亜美子の顔にさっきとは違う力が入る。使命感の力だ。


「早速、始まりだね。いくよ。亜美子ちゃん」


 ポンという音と共に隆の周りに白い煙が出て、それが消えると右腕がないたぬきのマスコットのような姿に変わる。


「うん。行こうッ!」


 空が燃えるように赤くなっていたのだ。亜美子は今まで違うことが一つあった。怪物が発生したおおよその位置がわかったのだ。嫌な気配をその位置に強く感じる。


「亜美子! 約束して! 絶対に死なないで!」


「もちろん!」


 夢奈の涙の約束に亜美子は親指を立て笑う。夢奈も続けて笑う。

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