総集編 変身までを振り返る
2009年4月27日。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい! 気をつけるのよ!」
「はーい!
お母さんに元気よく挨拶をし、亜美子は玄関を開ける。この日は退院後、初めての登校だ。
よし! 走っていけば余裕で間に合うぞ!
亜美子は勢いよく走り出す。
だが、ゴミ捨て場のあたりで、亜美子は疲れてしまう。
あぁ。もうダメ……!
走る気力もないので、歩くことにした。
そういえば、あの時もここで疲れちゃったなぁ。
黒いプテラノドンが現れた日の朝も走ったが、ここで疲れてしまった。その後、歩いている時に遭遇したのだ。
本当に、死ぬかと思ったぁ。
あの時、謎のたぬきが現れて亜美子を助けてくれた。そのおかげで、どうにか軽い怪我だけで済んだ。
そして、たぬきが黒いプテラノドンを倒すと、時間が巻き戻り全てがなかったことになったのだ。だが、時間が巻き戻っても、亜美子の怪我は治らなかった。
亜美子は歩きながら、ピンクのハートのネックレスを胸元から取り出す。
これのおかげで、勇気もらったよ。夢奈ちゃん、ありがとう。
その日、親友の夢奈と一緒に時間が巻き戻ってから、雑貨屋へ行ったのだ。そこ店主は背の高い美しい顔をした男性だ。
だが、亜美子はその日の体験が恐怖となり、うまく楽しめなかった。そんな中、このネックレスに出会い、心惹かれた。
しかし、運の悪いことに財布を忘れた。すると夢奈が亜美子の代わりに立て替えてくれたのだ。ちなみに夢奈は色違いの青いハートのネックレスを買った。
その後、二人は小学生の時に遊んでいた、森の中にある秘密の場所へと行った。
そこで夢奈は、喫煙者だという秘密を打ち明けた。そんな夢奈に対し、亜美子はその日の恐怖体験を打ち明けたのだ。
夢奈はその信じられないような話を全て受け入れ、ピンクのハートのネックレスを亜美子につけてくれた。
まだ二週間ほど前の出来事だが、亜美子には昔のことのように思えた。
亜美子は校門の前まで着く。時間がギリギリのためか登校している生徒は誰もいない。キーンコンカーンコンと朝のホームルームの予鈴が鳴る。
「やば! 急がなきゃ!」
亜美子は急足で校門を抜ける。その時、嫌でもグラウンドに目がいく。
あれから一週間か……
約一週間前、学校のグラウンドに殺虫剤の怪物が現れた。この日は体育の授業中だった。グラウンドの周りは毒の霧に包まれてしまった。
さらに、校舎から放送室を通して、謎の声が聞こえて、鬼ごっこをするように指示された。鬼になったものが5分で死ぬ、死の鬼ごっこを。
夢奈ちゃん、ありがとう。
亜美子が鬼になりそうになった時、夢奈が自ら鬼になったのだ。さらに、夢奈は自分一人で全てを背負い込もうとして、誰も捕まえようとしなかった。
走らないペナルティで激痛が襲っても、ずっと動かなかった。そんな時、あのたぬきが助けに来た。
本当に咄嗟の判断だったな。
たぬきが来ると、毒の霧が押し寄せてきた。たぬきは、亜美子が死なないために大きな光のシャボン玉のようなものを出現させて、被るように言った。だが、亜美子はそれを夢奈に被せてしまったのだ。
たぬきが殺虫剤の怪物を倒しかけると、毒の霧も晴れた。だが、その時すでに、亜美子は毒の霧で死にかけていた。そんな亜美子をたぬきは、魔法少女に変身させ、何事もなかったかのように回復させたのだ。自らの右腕を犠牲にして。
亜美子は殺虫剤の怪物と戦い、力を使い果たしてしまった。それが原因で入院していたのだ。
特異点って何だろう。雑貨屋さんのことも心配だ。早く水曜日にならないかな。
亜美子は校舎から聞こえる謎の声に特異点だと言われた。おそらくそのことが変身と関係しているはずだ。
また、あのたぬきの正体は雑貨屋の店主だった。亜美子は次の休みの日に、夢奈と一緒に話を聞きにいくことに決めたのだ。
キーンコンカーンコン。
朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴る。チャイムと同時に亜美子は教室のドアを勢いよく開ける。
「おはようございます!」
今日も楽しい学校が始まる。




