表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こことはちょっと違う現実世界

秒速4.1666667メートル

作者: 仁司方


「あー、かったりい」

「まじダル〜」


 グダグダいいながら、あたしらは外履きから内履きに履き替えた。

 今日は全国統一体力テストの日だ。そう、あのめんどくせーやつ。

 ソフトボールぶん投げて、50メートル走ったあたしらは、体育館へ移動する。これから残りの6種目だ。


「全員いるなー。じゃ、シャトルランからいくぞ」

『えええーーー』

「あー、なんだ? そんなに1500メートル走りたいか?」


 体育教師の半眼に、慌ててみんなで首を振る。


『いや、それは遠慮しときます』

「こっちもおまえら全員ゴールするの待つのめんどくせえしな。ハイ、並んだ並んだ」


 ホント、昔は1500メートル完走しなきゃいけなかったってんだから、マジやってらんなかったんだろうな。21世紀に生まれてよかった。


 シャトルラン。間の抜けたジングルがぽんぽんぽ〜んといってるあいだに、20メートルを行ったり来たりするアレだ。

 あたしは体力テストそのものが嫌いだけど、とくにこいつが大嫌い。だから今年も、早歩きで間に合わなくなった時点でやめた。記録は7回。知ったことか。

 ていうかすでにやる気ない3人ほどが離脱してる。あたしもすみっこに……

 と、いきなし強烈な頭痛に襲われた。ルリや、カナ、せんこーの叫び声が


 ――気がついたら、あたしは体育館の舞台前でクラスメイトたちと並んでいた。


「じゃあ、シャトルランの計測始めるぞ」


 と体育教師。なにこれ? タイムリープ? それにしちゃ3分と戻ってないんだけど?

 かったるいシャトルランがもう一度。罰ゲームかよ。あたしは5回でやめた。

 ……頭……が


「じゃあ、シャトルランの計測始めるぞ」


 ――なんなのよこれ!?


 あたし……死んだの? それでループ?

 よりにもよってシャトルラン直前に? 永久にシャトルランとか冗談じゃない!


「センセー、ごめっ、急にお腹が!」

「おーい三津橋みつはし、頼むぞ。5分ですむか?」

「……たぶん」

「じゃあトイレいってきて。待つから」

「はーい」


 ……駄目だった。廊下の途中で死んだ。


 どうあってもクリアしろというのか、これを。……シャトルランのクリアってなんだ?

 とりあえず50回。死んだ。

 じゃあ75回。死んだ。

 ……いや100回はキツいっていうか無理だろ!? 頭痛じゃなくて心臓破裂して死にそう! 

 ……どうだッ!? 死んだー!!!

 この……! 神だか悪魔だか知らんが、いたいけなJCをもてあそびやがって!!!!


 50……80……100……120……


 もうだれも残ってない。男子すら全滅。


 あたしと死神の一騎討ちだ。

 心臓が痛いっていうか肋骨が全部肌をぶちぬいて体外に突き出てるんじゃねーかってくらい身体の前面が痛い。肺は完全に焼けついてる。視界はなんか水泳ゴーグルつけてるみたいにせまくてゆがんでる。ルリやカナっぽい声援が聞こえるような気がするけど幻聴じゃないかなこれ。意外と動くのは足。けど腕が痛ったい! あと脇腹! めっちゃ身体ひねって急ターンしないと間に合わないんだもん!


 クソが……こんなところで永久に閉じ込め円環とかやってられっかよ!!!!!


 154回。県内記録を叩き出してあたしはぶっ倒れた。


    ******


「――いえ、だいじょうぶです、生命に別状はありません。熱射病でしょう」

「よかった……」


 なんか、ママっぽい女の人の声がする。あたしは……あー、そうか。なんか知らないけど死にループにハメられかけて――

 ここは……病院……? クリアした?


なおタイトルは彼女が叩き出した記録に達するための速度です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ