〜最強魔導師見参〜
「メガフレア!」
ドゴーンッ! バゴーンッ!
武器を持った兵士たちが争いあう草原の上で、その魔導は戦の形勢を大きく覆した。
天から落ちた光の柱は敵兵士を根こそぎぶっ飛ばし、広大な大地に深い穴を作り上げる。
「はははッ!! 異世界サイコーッ! この世界じゃ、俺が最強だー!!!」
爆心地の南西一〇〇メートルで、俺――一ノ宮ナオヤは両腕を天高く突き上げ、全世界に響き渡らんばかりの高笑いを上げた。
ここ、リーガロスティア大陸に訪れてからはや数週間。
召喚されちまったことを最初に聞かされたときは、マジでどうなることかと思ったけど、やってみたらなんてことない。
はじめは戸惑うこともあったが、今となっちゃ全部いい思い出。
無尽蔵の魔力と圧倒的な魔導センス。異世界人の遅れた文明と俺が持つ豊富な現代科学知識。
それに――
「ナオヤ様ぁ、お怪我はございませんかー?」
「ナオヤッ! あんた、どんな魔力してんのよ! 危うく死にかけたじゃないッ!」
「シルフィ、セルカ! 君たちこそ怪我はなかったか? おわっ⁉」
「さすがナオヤ様です! 惚れ直しましたわ!」
金髪碧眼の少女は抱きつき、その豊満な胸をグイグイと押し付けた。
小国の王女であるシルフィ・スタッカートは絶世の美貌と淑やかな立ち居振る舞いができる超絶美少女。
そして――
「ちょ! 離れなさいよ、シルフィ! あ、あんたも鼻の下伸ばしてんじゃなーいッ!」
セルカ・レガートも同じく小国王女なのだが、まったく真逆の貧乳かつ勝ち気な少女で、俺の腕を掴み、シルフィから引き剥がそうとする。
「側室であるセルカさんが、口出しできることではありませんわ!」
「そ、側室ッ! あたしが側室ぅぅ!?」
二人は俺の両サイドでやんややんやと騒ぎ立てている。激しい引っ張り合いは俺も満更ではない。んだけど、ちょっと腕痛いよ、二人とも……。
「まあまあ、二人とも! 俺は逃げませんよ。それにどちらのことも平等に大好きです!」
「もぉ、ナオヤ様ったら」
「ま、まぁ、ナオヤがそういうなら……」
二人はそれぞれに納得し、両腕それぞれにしがみつく。
「……フヒッ」
グヒヒッ、日本に居たときにゃ考えられないくらいの最高の待遇だ。
現実世界じゃ、まったくモテないと言って過言じゃなかった俺が、まさか異世界召喚で一発逆転かますことになるなんて思いもしなかったぜ!
ビバッ、異世界!
ビバッ、ハーレム!
そんなウキウキの俺たちは三人横並びになりながら焦土となった大地を闊歩する。
その時――
「し、死ねぇッ!」
倒れていた敵兵がガバッと立ち上がり、魔法弾を放った。
燃え盛る炎は一直線に俺に襲いかかる。
「うわっ、あぶねぇ! ……なーんてね!」
ガキーン、と炎は見えない壁に跳ね返され、そのまま発動者の敵兵に返っていく。
「ぐぎゃあぁ!」
見事に自爆した敵兵はそのまま絶命する。
「絶対魔導障壁だ。お前みたいな低俗な魔導じゃ、俺には触れることすらできねーよ」
詠唱なしのオート発動で防げるなんて、低俗も低俗。俺に不意打ちかますにゃ、百億年早いわ!
「すごいですわ、ナオヤ様! ナオヤ様なら、世界一の魔導師になれますわね!」
「いやー、シルフィの助けがあってこそだよ」
俺の言葉に、まあ、と彼女は頬を赤らめる。
「ちょっと! 私も忘れないでよね」
「そうだね、セルカの力も信頼しているよ!」
ふん、とセルカは腕を組み、あさっての方向に顔をやる。ツンツンしちゃって、可愛いなぁ。
まったくもって順風満帆!
史上最強の魔導師一ノ宮ナオヤがこの物語の主人公なのだ!
さあ、次の戦にいざ…ゆかんんんんんんんんんんん、ぬん――
男が今まさに歩み出そうとした瞬間、大地一帯にその脳漿がぶちまけられ、肉体は地面に突っ伏した。
こめかみに空いた穴からは、真っ赤な液体がだくだくと流れ出し、男が走馬灯も見ることなく絶命したことを物語っていた。
辺りに二人の女性の悲鳴が響き渡ったのは、その数秒後のことだった。