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残念世界の残念勇者   作者: XT
87/96

ループワールド・勇者ケイン編 87

「ケイン、九重を手にしなさい」

ピーからの進言だ。

「サタンを相手にすることに成れば、強い武器が必要よ。それに、九重を手にしていれば、聖杯が奪われる心配はないわ」

ごもっともだが・・・九重は、世界の理を変えるほどの力を持つ聖剣だ。

安易に手にするものではない。


「私も賛成だぞ。強い力を持っても、ケインなら問題ないぞ」

「パパ!強く成ろうよ!」

「ケイン君、九重を手にいれよう」

アリスとアリッサの意見は聞くが、ノスは単にコレクターの血が騒いでるだけのような気がする。


だが、九重の試練を受けるには、鍵が2本必要なはずだ。

「いつでも取り戻せるわ」

が、取り戻せば、奴らはカモミールへ攻めてくるぞ。

「九重に確認させる一瞬だけでいいわ。空中神殿へ行くわけではないから、それで十分。私からも状況の説明はするし、大丈夫だと思うわ」



サタンとの戦いを想定した俺たちは、色々試していた。

アリッサの絶対高温。マオの即死毒、アリスの魔砲。だが、魔族に対し、下界民である俺たちの魔法は弱い。

アリスの絶対零度が、閻魔やウリエル、鬼奴にも通用しないように、魔族には、下界の魔法が効き難いのだ。勿論、2流の魔族や、弱って居た場合には、効果は十分ある。弱らせてから使うのが良いが、弱らせる術としての魔法が無い。弱い下界民でも、トップクラスの聖剣九重なら、魔族の相手もできる。俺たちの切り札に成るはずだ。


是が非でもない。今は躊躇っている場合ではない。

俺は、九重を手にすることを決めた。


ピーからレクチャーを受ける。

九重はピーたち守護者とは違い、自分の判断で、世界に関与してよいことに成ってる。

実際九重は1500年ほど前に、王都の前身である、西の都の王に力を貸していた。

単に気に入ったと言うだけで、力を貸したらしい。

聖剣は気難しいし、気分屋でもある。気に入られなければ、相手にされない。


試練は必須で、必ず1つ出される。これはクリアする必要がある。

更に、独自性の高い試練が出される。これは九重自身が、相手の資質を見極める為の問題としている。正解回答は、九重が決めているため、正解が条件ではない。

俺の示す回答を、九重がどう判断するかが問題になる。


「九重は静寂を好むわ。大勢で行くと、嫌がられるから、私とケイン、アリスとアリッサ、マオで行くわよ」

「私も行きます!女神として説得には自信がります」

ティナなら、余計なことを言わないから、大丈夫だろう。

「私も行く」

ターナは遠慮してくれ。



「さぁケイン、天空の鍵を天にかざして」

ピーに言われるまま、俺はハウルから借りた天空の鍵を天にかざす。

「扉があると、強く信じて空を見なさい」

見える!大きな扉がある。

「鍵穴に鍵を差し込むイメージをして」

俺は持ってる鍵を鍵穴に差し込む・・イメージをした。


目の前がホワイトアウトすると、俺たちは地平線の先まで続く大草原の中に居た。

「ここが天空の扉の中かだぞ?」

爽やかな風を感じる。穏やかな気分になる、心地よい空間だ。

「ここは聖剣の里よ。九重の住むところ。ここから天空回廊に進むと、私の神殿があるわ」

「標識があるぞ。→が下界だぞ。←がトイレと売店だぞ。↑が天空回廊と天空神殿だぞ。親切だぞ」

「はい。後で売店に寄って、皆さんへのお土産を買いましょう」


  「お久しぶりですね、リンク」

後ろから穏やかな声が聞こえる。

草原の中にコタツ。ちゃぶ台の上にあるお茶を器用に飲む聖剣。

シュールな絵だ。


「久しぶりね九重」

ピーが挨拶を返す。

「1500年ぶりだけど、1200年をぐるぐるしていたから、実際は2万年ぶりぐらいかしら?」

「ええ、そのぐらいね。貴女も変わりないようで」

大人の挨拶だ。


「世間話をしに来たわけではないようね。その方たちは?」

「カモミールの勇者のケインさんと、奥さんのアリスさん、娘さんのアリッサちゃんと、婚約者の女神、私の友達のマオよ」

ティナの名前が出なかったのが気に成った。

「あなたの推薦・・と言う訳ね」

「世界が大変なの。力を貸してほしいの」

「聖杯と起源の水を使う事態なの?」

九重を手にする理由は2つある。

九重自身の力を必要とする場合と、聖杯に辿り着く場合だ。


「いいえ、まだ聖杯は必要としていないわ。あなたの力が必要なの。ドザーグが目覚めようとしている。阻止しなくては世界は滅びるわ」

「なら帰りなさい」

九重はあっさり俺たちを否定した。

「リンク、貴方も分かっているでしょ」

ピーは、無言のままだ。

「経緯は知らないけど、言い難いなら、私が言うわ。ケイン、だったわね?あなたのレベルでは、私は使いこなせないの。絶対的にレベルが低すぎるのよ。マイナスって何よ」

グハ!痛い所を一突きされた。


「ケインのレベルは低くても、勇者としては優秀だぞ」

「そうだよ!パパのレベルには触れないで挙げて」

「はい。レベルで勇者の力は計れません」

「だよね~実績があるんだからね~」

強力援軍到来だ!


「違うのよ。私の力は、他人の魔法を受け取って撃つことや、複数の魔法を混ぜ合わせ、新しい魔法に変える事。当然レベルは、魔法を与える側以上のレベルが無いと、貰った魔法も打てないのよ」

なんだと!!


つまり、こういう事だ。

アリスから絶対零度を受け取っても、俺にアリスと同等のレベルが無いと、使う事が出来ない。


「勿論、私の力で撃つことはできるわ。でもレベルが足りない状態で撃てば、あなたの体は耐えられない。即死よ」

くそ!俺のマイナスレベルは、九重を使う事さえ拒むのか・・・。


「それでも貴女が必要なの」

ピーは俺に、九重を持たせようとしていた。

「腰に差すだけの剣に成れと?飾りに成れと言うの?この私に?」

明らかに気分を害した喋り方だ。


「ケインなら、何とかしてくれる。貴方の力を使いこなせるはずよ」

「随分な入れ込みようね。守護者の役割を忘れたの?」

ピーの言葉は、九重の聖剣としてのプライドを傷つけた。


「守護者は、世の中を見守り、然るべき時に、世界を浄化し再生する力を与える。力もない勇者に入れ込み、いたずらに民に関与することではないはずよ」

明らかにお怒りだ。


「貴女はケインを知らない。ケインは可能性を超えた勇者なの」

「・・・・いいわ。試練を与えてあげる。ただし試練はリンク、貴女へよ」

「ピーー?」

!?

「今の私の疑問に、納得のいく答えを言いなさい。守護者としての真意が納得できる答えなら、試練をクリアしたことにするわ」


民に関与することなく、世界を見守るのが守護者だ。

俺達に力を貸した、ピーの言い分を答えろと言う訳だ。

これは難しい。

前提を行動が否定している。

ピーは沈黙していた。


「答えられないでしよ。貴女の行動は使命の枠を超えた越権行為なのよ」

確かに守護者としては、そうなる。

「・・・・・私はね、ケインを見て来た。1200年を何度も繰り返す世界の中で、ケインを見て来たの」

ピーが口を開いた。


「魔王に食べられ、魔王となったケインと、魔王を倒そうと戦ったケイン。

ループワールドを抜け出そうと、足掻いていたケイン。どんなに辛くても、絶望の中にあっても、ケインは決して諦めなかった。何度も何度も繰り返す世界の中で、自分を曲げずに戦った。

ループワールドは、カモミールを中心に広がり、いずれ全世界を飲み込んでしまう。そうすれば、世界は未来へと進めなくなり、浄化、再生する必要がある。


でもね、私は思ったの。この子がいる限り、世界は浄化するべきではない。

何度も繰り返す世界の中で、必ず答えを見つけて、世界を正常な時間軸の中に戻してくれる、とね。


私たち守護者は、世界を見守り、然るべき時に浄化再生をするのが役割。

貴方の言う通りよ。だからこそ、私は関与した。

  『今はまだ、その時ではないと確信しているから』

ケインが、いえ・・・ケインとその仲間たちの魂がある限り、この世界には聖杯も起源の水も必要ない。ドザーグごときに、世界を滅ぼさせたりしない。だから、貴女の力を貸して」


「・・・・・」

良い答えだ。九重も反論できないはずだ。

「そう・・・筋が通っているわ。守護者の立場を守っていたのは分かった。謝るわ」

九重は納得した。


「ここからはケイン、貴方の資質を確かめる試練よ。リンクとの関係や、これまでの功績は、一切加味しない。私の試練を受けるなら覚悟を示してもらうわ」

覚悟?だと?

「私の出す選択肢は絶対。選べないからと、止めたりはできない。どれかを選んで貰う。いいわね?」

「死ねとか言い出すなよ」

まさかとは思うが、そんな選択肢はないよな?

「あなたが死んだら、誰が私を腰に差すのよ」

当然だが、ないよな。

「分かった。覚悟を示す。試練を受けよう」


!!!アリスとアリッサの周りに、球状の防壁が張られ、二人は閉じ込められた。

「私の力は絶大よ。世界の理すら変えてしまう。使用する者には、高い倫理観が求められる。暴走して世界を滅ぼしたら、意味がないでしょ。

私は主と認めた者には逆らえない。なので保険を掛けさせてもらうわ」

人質だと?

「そう、物分かりが早いわ。人質に成るのは、貴方の妻か娘か選びなさい。選ばなければ、二人共返さない。貴方達も此処から出さない。

どちらかを選べば、私は貴方を主として認め、ここに人質を置いておく条件で、力を貸すわ」

そんな!?俺にアリスかアリッサか選べだと?


「ケイン、私を人質にするぞ。アリッサを連れて帰るぞ」

「パパ!ダメだよ。ママが側に居ないと、パパはダメだよ。私が人質に成るよ」

選べるわけないだろう!

「選べなければ、選ばなくていいわよ。ここで世界の終りまで、一緒に居るのも悪くないわ」

くそ!!!


「九重、これは酷いわ。すぐに試練を止めなさい」

ピーも怒る。

「言ったはずよ。覚悟を見せなさいと。私を手にするのは、それほどの覚悟が必要なのよ。

ケイン、私もリンク達ほどではないけど、あなたの考えが読めるわ。貴方は、アリスやアリッサの為なら、世界が滅んでも良いと考えている。貴方にとって、アリスやアリッサの方が、世界より大事なの。これは危険な考え方。私は保険を用意しないと、あなたには寄り添えないわ」


くそ!その通りだ。

俺はアリスの為なら、世界なんかどうでも良いと考えている。アリスやアリッサのほうが大事だ。


「困ってるわね?少しだけ妥協してあげるわ。アリスとアリッサが選べないのなら、あなたの仲間2人と交換してあげてもいいわ。勇者チームから2人を選んで人質にする方でもいいわよ」

パルスと・・・いや違う!仲間を売るようなことが出来るか!

  

  「さぁ時間切れよ。選びなさい」


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