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残念世界の残念勇者   作者: XT
53/96

ループワールド・勇者ケイン編 53

「各自持ち場につくぞ!磯焼の火は、必ず消しておくぞ!」

アリスから号令が出た。いよいよ決戦だ。

「ママ!出したゴミは、持ち帰るんだよね」

「当然だぞ。カモミールで処理するぞ」

「アリス、私はレナとナナの間に居ればいいのよね」

「セレスはそこで良いぞ」

「残りの具材はどうしますの?結構ありますわ」

「全部持ち帰るぞ。なに一つ痕跡は残さないぞ」

矢継ぎ早に指示が出される。


「ワシは?何処で指揮をとればいいんじゃ?」

パルス、居たのか?

「パルスは、後ろの応援団に掛け声の指示を出すぞ。応援は力に成るぞ。息の合わない応援は雑音だぞ。任せたぞ」

「よし、軍師パルスが、一糸乱れぬ応援をさせてやるわい」

よしよし、邪魔者は規制線の外だ。下手に「策を伝える」とか言い出されると混乱するからな。


「私は?後方待機でよろしいでしょうか?」

「ルーンと並んでていいぞ。大女神と女神の並んで立つ絵は、映り映えするぞ」

「で?俺は?」

「ケインは主役だぞ。私の側にいるぞ」

どんな時でも旦那を立てる、いい奥さんだ。


「距離65km!射程までわずかだ」

「良しセイレーン!ハドロンブラスターGだぞ!」

お?パワーアップしたとは聞いていたが、「G」が付いたんだ。

「はい。マスター。ハドロンブラスターG起動します」

「ねぇ様、敵認識が出来ません」

「ねぇ様、毎度の攻撃不可です」

「マスター、と言う事です。あれが敵か、まだわかりません」

「目標の上を狙うぞ。仰角+40だぞ」

「なるほど!威嚇射撃ですね。それなら発射可能です。ルピ、ルカ、威嚇射撃です。ハドロンブラスターG 起動です」

「はいねぇ様。魔道システム起動します」

「はいねぇ様。ハドロンブラスターへの回路接続です」

旨くごまかして起動させたが、+40度だと、間違いなく当たらないぞ。

「任せるぞ。この作戦の主軸はセイレーンの魔道兵器だぞ。策はあるぞ」

既にドヤ顔のアリス。会心の策があるようだ。


「セイレーン!敵の居る10時から2時方向に向かって、全エネルギーを撃ち尽くすぞ」

「分かりました。でもフルパワーで撃つと、以後の行動が制約されます」

「構わないぞ。発射後は下がっていいぞ」

マリーのサラ族の知識と、トーレフのアイデアで、大幅にパワーアップしたセイレーンの魔道機関。

唸りを上げるセイレーン本体。フルパワーだと、とんでもないパワーに成る。


「アリス!敵61Kmだ」

「準備が出来次第、発射だぞ」

「フル充電よし、アンチソニック展開。重力アンカー射出。船体固定」

「発射座標OK。射出軸線上に障害物なし。発射迄カウント10です」

「カウントゼロで発射します。ルピ、ルカ、制御任せました」

いよいよだ。


「10・9・8・7・6」

「アズサ準備するぞ」

「任せてください」

「5・4・3.2.1」

「今だぞ!」

「0!発射です!!!」

「時間停止魔法!時よ止まれ!」

世界がセピア色に変わる。セイレーンの発射口が光ったまま。時が止まった。

「ハウル!レナ、セレス、ナナ!セイレーンを下に回転させるぞ」

そうか!以前、岩礁に乗り上げそうになった、プリンセスアリス号の時を止めて、回転させ、座礁を回避させたことがある。

時の止まったセイレーンを縦に回転させ、発射口を敵に向ければ。


「こんなものだな」

「ああ、これで狙いは敵に向いた」

「今から発射は止められないわ」

「ばっちりデス」

計画通りのようだ。

「時間切れです!時が動きます」

アズサの声と共に、世界の色は元に戻る。そして爆音と共に、ハドロンブラスターGは、敵に向かって発射された。

「え?」

セイレーンの驚きの声が聞こえたが、既に遅しだ。


「魔王軍、残存勢力約1000万!七魔将軍は、五魔将軍になったぞ」

索敵したレナから報告が入る。

大出力のハドロンブラスターが、3000万の魔王軍に大打撃を与えた。

「良し!エクセレント!出番だぞ!敵後方に防壁を張るぞ!」

後方?

「え?後方ですか?」

「そうだぞ。魔王も突破できない防壁だぞ。一匹たりと逃がさないぞ。ここで、奴らを殲滅するぞ」

本気のアリスだ。目が怖ぇぇぇ。

「なるほど、私の防壁に、そんな使い方が・・・。分かりました!大女神の加護!防壁展開です!」

敵の後ろに防壁が張られた。これで奴らは逃げ道が無い。

「エクセレント!防壁を手間に引きつけるぞ!時速100Kmだぞ!」

「良い考えです!防壁よ!時速100㎞で我の元へ!」

混乱する敵に追い打ちだ。逃げるどこか、俺たちの方に向かって防壁に押されるんだ。状況の把握すらできないだろう。

「勝機だぞ」

アリスが不敵な笑みを浮かべる。


「敵38㎞。大分混乱してる」

「ミドルレンジの攻撃だぞ。アリッサ!ピー行くぞ!」

「うん!任せて!」

「いいわよ。巨大化するわね」

中距離攻撃は、アリッサの爆裂斬と、ピーの怪光線だ。

「ターナ!支援魔法でみんなを強化するぞ!」

「わかった。精霊たちよ、この貧弱かつ、か弱い者たちに力を!妖精魔法!激パフ!」

「来たよ来たよ!久々に来たよ!爆裂斬3連発行けるよ!」

「アリッサが中央に3連発だぞ。ピーは左右を頼むぞ」

「距離30Kmだ!」

「今だぞ!行けだぞ!!!!」


「荒ぶる炎の神よ!以下省略!爆炎斬×3だよ!」

「怪光線!左側にぴーーーーーーーー!ふう。今度は右側にぴーーーーーーーー!」

逃げ道はない。奴らには、攻撃をモロに受けるしか道はない。


「よし!敵残存勢力650万だ!五魔将軍は、二魔将軍になった。魔王も相当ダメージを受けている。いけるぞアリス!」

「ショートレンジの攻撃だぞ!ママ!5㎞地点に氷壁を展開するぞ。

マオ!氷壁の外側に毒霧だぞ。のどが潰れるまで連呼するぞ!」

「分かりましたわ!氷壁展開ですわ!」

「いっくよ~~~毒魔法~毒霧だよだよだよだよだよだよ~だよだよだよ~」

「エクセレント!防壁を時速200㎞にアップだぞ!氷壁を超えた所で、防壁を解除するぞ」

「分かりました!200まで加速です!」

氷壁の外側は、なんでも溶かしてしまう、高濃度の毒霧だ。エクセレントの張る防壁は、氷壁に向かい時速200㎞で奴らを押してくる。

逃げ場所もなく、氷壁と防壁の間に挟まれた奴らに、溶ける以外の未来はない。


「敵残存6700!魔将軍はいない。魔王だけだ!」

「ここからは近距離戦闘だぞ。肉弾戦だぞ。レナ、セレス、ナナ、ハウル!雑魚は任せたぞ!ケイン、私たちは大将の首を取るぞ!いくぞ!」

おお!

敵は魔王を守るため、中央に集まって来た。


「ケイン、アリス!続け!魔獣王ハウルが道を作る!」

ハウルが中央に、両サイドにレナとセレスが先行し、俺とアリスは敵に向かった。

「全弾発射デス!!出し惜しみなしデス!」

後方からナナのミサイル群が頭上を通過。敵に着弾する。

「ハウル将軍ミラクルパンーーーチ!」

中央にハウルが切り込む。

「疾風のレナ!風の舞!」

レナの疾風剣が、左サイドの敵を切り倒す。

「神剣使いのセレス!双竜演舞よ」

セレスの双剣は、右サイドの敵を切り刻む。


「魔王までの道は出来た!雑魚は任せろ!行け勇者よ!」

「魔王を倒せ!」

「行きなさい!ケイン!」

ハウルとレナ、セレスで中央に道を作ってくれた。

「ケイン!大洲目だぞ!」

俺とアリスは、魔王に向かう。既に大ダメージを受けている魔王。

だが、怒りに満ちた目が俺たちを睨みつける。

「き、貴様らぁぁぁぁ!我を、我を誰だと思っている!人間風情がぁ!我は大魔王ゼ・・・」

「やかましいぞ!呪いもかけられない魔王の名前を聞くほど、私は優しくないぞ!絶対零度だぞ!掛ける2だぞ!!!」

「ぐ!ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

一瞬で魔王は凍り付いた。

「ケイン、止めだぞ!ケインスラッシュだぞ!」

お、おう!!


俺は剣を抜く。腰を低く半身の構えから剣を水平に振り抜いた。

「ケインスラッシュ!!」

剣の軌道から放たれた衝撃波が、凍り付いた魔王に当る。

乾いた音と共に、魔王は粉々に砕け散った。


「ケイン、そのまま剣を天にかざすぞ」

俺は右手に持つ剣を高々とかざす。

「ケインの勝ちだぞ!勇者ケインが、魔王と魔王軍3000万を倒したぞ!」

アリスが大きな声で叫ぶ。

一瞬の静寂の後、巨大な振動に似た歓声が巻き起こる。


「やりました!本当にやりました!全世界の皆さん、ご覧いただけたでしょうか!魔王の最後です。勇者ケインによって、3000年間苦しんだ世界は救わました」

バニーの声が、大歓声にかき消されていた。

「すごい・・・・」

ルーンは、その場にヘタレ込む。

「全く危なげの無い戦いだ。今回のケインさん達は、過去にないほど強い。これならば」

エクセレントも、思わず言葉に出てしまうほど、鮮やかな勝利だった。



「やりましたわね。見事ですわ婿殿」

なんか、何もしていない感が・・・

「気のせいだぞ。ケインのチームだぞ。ケインは息してるだけで価値があるぞ」

「パパ!そうだよ!パパは居るだけで戦力だよ」

「その通りだ。勇者がいなければ、我らは烏合の衆だ。貴様が居るからこそ、我らが強いのだ」

ハウルにまで言われると、その気になるな。

「勇者ケイン、見事な勝利でした。おめでとうございます」

レポーターのハニーがインタビューに来た。


「今まで、姑息だとか、汚い手を使うとか、根性がねじ曲がっているとか、言われていましたが、今の戦いは、まさに王道。これらの噂を否定する戦いでした。どちらが本当の勇者ケインチームの戦いなのでしょう」

「どちらと言われてもな」

「私が答えるぞ。今回は時間が無いからチャッチャと済ませに来たぞ。

ケインが本気を出せば、このぐらい、朝食前だぞ」

そう朝飯前だ。

「おお!勇者ケインの口から、この程度の魔王なら、朝飯前発言をいただきました」

「その通りだぞ。いつもは、色々な作戦を試しているぞ。いざと言う時の為に、引き出しを増やしているんだぞ」

「なるほど。戦略に幅を持たせるために、邪道と言われる策を、あえて試していたんですね」

「そうだぞ。見る奴が見れば、分かることだぞ。分からない馬鹿どもが、揶揄してるだけだぞ」

うぁぁぁぁ。すさまじい釘の刺し方だ。

俺を姑息呼ばわれした奴は、わかない奴となり、自らを馬鹿だというようなものだ。


1時間ほどのインタビューを終えた俺たちは、帰る挨拶をするために、エクセレントと、ルーンの所へ行く。

「ケインさん、お疲れさまでした」

俺より、今回はアリス達だ。俺は、何もしていないさ。

「ははは、周りはそうは見てないようです」

俺を立てつつ、王道の勝利。アリスの策が、見事に決まった。流石はアリスだ。


「アリス様」

ルーンがアリスの前で膝間づいた。

だめだ!!放送中だ。これは不味い。絵的には、俺たちの前に、女神が膝間づいた形だ。

天界の威信を損ないかねない。

「聞け!皆の者!ここに居る勇者ケインは、わが妹ティナの夫となり、ヴィーナス家の一員となる者だ。単なる下界の勇者チームではない事を、知っておくがいい」

エクセレントの苦し紛れの胡麻化し・・が、これは全世界生放送中だ。

「波乱の予感だぞ。なんか面白くなりそうだぞ」

奥さんの、他人事発言だ。



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