ループワールド・勇者ケイン編 53
「各自持ち場につくぞ!磯焼の火は、必ず消しておくぞ!」
アリスから号令が出た。いよいよ決戦だ。
「ママ!出したゴミは、持ち帰るんだよね」
「当然だぞ。カモミールで処理するぞ」
「アリス、私はレナとナナの間に居ればいいのよね」
「セレスはそこで良いぞ」
「残りの具材はどうしますの?結構ありますわ」
「全部持ち帰るぞ。なに一つ痕跡は残さないぞ」
矢継ぎ早に指示が出される。
「ワシは?何処で指揮をとればいいんじゃ?」
パルス、居たのか?
「パルスは、後ろの応援団に掛け声の指示を出すぞ。応援は力に成るぞ。息の合わない応援は雑音だぞ。任せたぞ」
「よし、軍師パルスが、一糸乱れぬ応援をさせてやるわい」
よしよし、邪魔者は規制線の外だ。下手に「策を伝える」とか言い出されると混乱するからな。
「私は?後方待機でよろしいでしょうか?」
「ルーンと並んでていいぞ。大女神と女神の並んで立つ絵は、映り映えするぞ」
「で?俺は?」
「ケインは主役だぞ。私の側にいるぞ」
どんな時でも旦那を立てる、いい奥さんだ。
「距離65km!射程までわずかだ」
「良しセイレーン!ハドロンブラスターGだぞ!」
お?パワーアップしたとは聞いていたが、「G」が付いたんだ。
「はい。マスター。ハドロンブラスターG起動します」
「ねぇ様、敵認識が出来ません」
「ねぇ様、毎度の攻撃不可です」
「マスター、と言う事です。あれが敵か、まだわかりません」
「目標の上を狙うぞ。仰角+40だぞ」
「なるほど!威嚇射撃ですね。それなら発射可能です。ルピ、ルカ、威嚇射撃です。ハドロンブラスターG 起動です」
「はいねぇ様。魔道システム起動します」
「はいねぇ様。ハドロンブラスターへの回路接続です」
旨くごまかして起動させたが、+40度だと、間違いなく当たらないぞ。
「任せるぞ。この作戦の主軸はセイレーンの魔道兵器だぞ。策はあるぞ」
既にドヤ顔のアリス。会心の策があるようだ。
「セイレーン!敵の居る10時から2時方向に向かって、全エネルギーを撃ち尽くすぞ」
「分かりました。でもフルパワーで撃つと、以後の行動が制約されます」
「構わないぞ。発射後は下がっていいぞ」
マリーのサラ族の知識と、トーレフのアイデアで、大幅にパワーアップしたセイレーンの魔道機関。
唸りを上げるセイレーン本体。フルパワーだと、とんでもないパワーに成る。
「アリス!敵61Kmだ」
「準備が出来次第、発射だぞ」
「フル充電よし、アンチソニック展開。重力アンカー射出。船体固定」
「発射座標OK。射出軸線上に障害物なし。発射迄カウント10です」
「カウントゼロで発射します。ルピ、ルカ、制御任せました」
いよいよだ。
「10・9・8・7・6」
「アズサ準備するぞ」
「任せてください」
「5・4・3.2.1」
「今だぞ!」
「0!発射です!!!」
「時間停止魔法!時よ止まれ!」
世界がセピア色に変わる。セイレーンの発射口が光ったまま。時が止まった。
「ハウル!レナ、セレス、ナナ!セイレーンを下に回転させるぞ」
そうか!以前、岩礁に乗り上げそうになった、プリンセスアリス号の時を止めて、回転させ、座礁を回避させたことがある。
時の止まったセイレーンを縦に回転させ、発射口を敵に向ければ。
「こんなものだな」
「ああ、これで狙いは敵に向いた」
「今から発射は止められないわ」
「ばっちりデス」
計画通りのようだ。
「時間切れです!時が動きます」
アズサの声と共に、世界の色は元に戻る。そして爆音と共に、ハドロンブラスターGは、敵に向かって発射された。
「え?」
セイレーンの驚きの声が聞こえたが、既に遅しだ。
「魔王軍、残存勢力約1000万!七魔将軍は、五魔将軍になったぞ」
索敵したレナから報告が入る。
大出力のハドロンブラスターが、3000万の魔王軍に大打撃を与えた。
「良し!エクセレント!出番だぞ!敵後方に防壁を張るぞ!」
後方?
「え?後方ですか?」
「そうだぞ。魔王も突破できない防壁だぞ。一匹たりと逃がさないぞ。ここで、奴らを殲滅するぞ」
本気のアリスだ。目が怖ぇぇぇ。
「なるほど、私の防壁に、そんな使い方が・・・。分かりました!大女神の加護!防壁展開です!」
敵の後ろに防壁が張られた。これで奴らは逃げ道が無い。
「エクセレント!防壁を手間に引きつけるぞ!時速100Kmだぞ!」
「良い考えです!防壁よ!時速100㎞で我の元へ!」
混乱する敵に追い打ちだ。逃げるどこか、俺たちの方に向かって防壁に押されるんだ。状況の把握すらできないだろう。
「勝機だぞ」
アリスが不敵な笑みを浮かべる。
「敵38㎞。大分混乱してる」
「ミドルレンジの攻撃だぞ。アリッサ!ピー行くぞ!」
「うん!任せて!」
「いいわよ。巨大化するわね」
中距離攻撃は、アリッサの爆裂斬と、ピーの怪光線だ。
「ターナ!支援魔法でみんなを強化するぞ!」
「わかった。精霊たちよ、この貧弱かつ、か弱い者たちに力を!妖精魔法!激パフ!」
「来たよ来たよ!久々に来たよ!爆裂斬3連発行けるよ!」
「アリッサが中央に3連発だぞ。ピーは左右を頼むぞ」
「距離30Kmだ!」
「今だぞ!行けだぞ!!!!」
「荒ぶる炎の神よ!以下省略!爆炎斬×3だよ!」
「怪光線!左側にぴーーーーーーーー!ふう。今度は右側にぴーーーーーーーー!」
逃げ道はない。奴らには、攻撃をモロに受けるしか道はない。
「よし!敵残存勢力650万だ!五魔将軍は、二魔将軍になった。魔王も相当ダメージを受けている。いけるぞアリス!」
「ショートレンジの攻撃だぞ!ママ!5㎞地点に氷壁を展開するぞ。
マオ!氷壁の外側に毒霧だぞ。のどが潰れるまで連呼するぞ!」
「分かりましたわ!氷壁展開ですわ!」
「いっくよ~~~毒魔法~毒霧だよだよだよだよだよだよ~だよだよだよ~」
「エクセレント!防壁を時速200㎞にアップだぞ!氷壁を超えた所で、防壁を解除するぞ」
「分かりました!200まで加速です!」
氷壁の外側は、なんでも溶かしてしまう、高濃度の毒霧だ。エクセレントの張る防壁は、氷壁に向かい時速200㎞で奴らを押してくる。
逃げ場所もなく、氷壁と防壁の間に挟まれた奴らに、溶ける以外の未来はない。
「敵残存6700!魔将軍はいない。魔王だけだ!」
「ここからは近距離戦闘だぞ。肉弾戦だぞ。レナ、セレス、ナナ、ハウル!雑魚は任せたぞ!ケイン、私たちは大将の首を取るぞ!いくぞ!」
おお!
敵は魔王を守るため、中央に集まって来た。
「ケイン、アリス!続け!魔獣王ハウルが道を作る!」
ハウルが中央に、両サイドにレナとセレスが先行し、俺とアリスは敵に向かった。
「全弾発射デス!!出し惜しみなしデス!」
後方からナナのミサイル群が頭上を通過。敵に着弾する。
「ハウル将軍ミラクルパンーーーチ!」
中央にハウルが切り込む。
「疾風のレナ!風の舞!」
レナの疾風剣が、左サイドの敵を切り倒す。
「神剣使いのセレス!双竜演舞よ」
セレスの双剣は、右サイドの敵を切り刻む。
「魔王までの道は出来た!雑魚は任せろ!行け勇者よ!」
「魔王を倒せ!」
「行きなさい!ケイン!」
ハウルとレナ、セレスで中央に道を作ってくれた。
「ケイン!大洲目だぞ!」
俺とアリスは、魔王に向かう。既に大ダメージを受けている魔王。
だが、怒りに満ちた目が俺たちを睨みつける。
「き、貴様らぁぁぁぁ!我を、我を誰だと思っている!人間風情がぁ!我は大魔王ゼ・・・」
「やかましいぞ!呪いもかけられない魔王の名前を聞くほど、私は優しくないぞ!絶対零度だぞ!掛ける2だぞ!!!」
「ぐ!ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
一瞬で魔王は凍り付いた。
「ケイン、止めだぞ!ケインスラッシュだぞ!」
お、おう!!
俺は剣を抜く。腰を低く半身の構えから剣を水平に振り抜いた。
「ケインスラッシュ!!」
剣の軌道から放たれた衝撃波が、凍り付いた魔王に当る。
乾いた音と共に、魔王は粉々に砕け散った。
「ケイン、そのまま剣を天にかざすぞ」
俺は右手に持つ剣を高々とかざす。
「ケインの勝ちだぞ!勇者ケインが、魔王と魔王軍3000万を倒したぞ!」
アリスが大きな声で叫ぶ。
一瞬の静寂の後、巨大な振動に似た歓声が巻き起こる。
「やりました!本当にやりました!全世界の皆さん、ご覧いただけたでしょうか!魔王の最後です。勇者ケインによって、3000年間苦しんだ世界は救わました」
バニーの声が、大歓声にかき消されていた。
「すごい・・・・」
ルーンは、その場にヘタレ込む。
「全く危なげの無い戦いだ。今回のケインさん達は、過去にないほど強い。これならば」
エクセレントも、思わず言葉に出てしまうほど、鮮やかな勝利だった。
「やりましたわね。見事ですわ婿殿」
なんか、何もしていない感が・・・
「気のせいだぞ。ケインのチームだぞ。ケインは息してるだけで価値があるぞ」
「パパ!そうだよ!パパは居るだけで戦力だよ」
「その通りだ。勇者がいなければ、我らは烏合の衆だ。貴様が居るからこそ、我らが強いのだ」
ハウルにまで言われると、その気になるな。
「勇者ケイン、見事な勝利でした。おめでとうございます」
レポーターのハニーがインタビューに来た。
「今まで、姑息だとか、汚い手を使うとか、根性がねじ曲がっているとか、言われていましたが、今の戦いは、まさに王道。これらの噂を否定する戦いでした。どちらが本当の勇者ケインチームの戦いなのでしょう」
「どちらと言われてもな」
「私が答えるぞ。今回は時間が無いからチャッチャと済ませに来たぞ。
ケインが本気を出せば、このぐらい、朝食前だぞ」
そう朝飯前だ。
「おお!勇者ケインの口から、この程度の魔王なら、朝飯前発言をいただきました」
「その通りだぞ。いつもは、色々な作戦を試しているぞ。いざと言う時の為に、引き出しを増やしているんだぞ」
「なるほど。戦略に幅を持たせるために、邪道と言われる策を、あえて試していたんですね」
「そうだぞ。見る奴が見れば、分かることだぞ。分からない馬鹿どもが、揶揄してるだけだぞ」
うぁぁぁぁ。すさまじい釘の刺し方だ。
俺を姑息呼ばわれした奴は、わかない奴となり、自らを馬鹿だというようなものだ。
1時間ほどのインタビューを終えた俺たちは、帰る挨拶をするために、エクセレントと、ルーンの所へ行く。
「ケインさん、お疲れさまでした」
俺より、今回はアリス達だ。俺は、何もしていないさ。
「ははは、周りはそうは見てないようです」
俺を立てつつ、王道の勝利。アリスの策が、見事に決まった。流石はアリスだ。
「アリス様」
ルーンがアリスの前で膝間づいた。
だめだ!!放送中だ。これは不味い。絵的には、俺たちの前に、女神が膝間づいた形だ。
天界の威信を損ないかねない。
「聞け!皆の者!ここに居る勇者ケインは、わが妹ティナの夫となり、ヴィーナス家の一員となる者だ。単なる下界の勇者チームではない事を、知っておくがいい」
エクセレントの苦し紛れの胡麻化し・・が、これは全世界生放送中だ。
「波乱の予感だぞ。なんか面白くなりそうだぞ」
奥さんの、他人事発言だ。




