ループワールド・勇者ケイン編 52
戦いの場は海岸線だ。魔王と魔王軍は、水平線の向こうから、ゲートで現れるらしい。
俺達は砂浜の上で待ち構える。
「セイレーンは最前線だぞ。ハウルがその後ろだぞ。アズサはハウルの横に居るぞ」
アリスが陣形を指示していた。
「ケインさん、本当に大丈夫でしょうか?3000万と魔王は強大です」
ああ、実は俺も策は聞いてないが、あの顔つきのアリスは信頼できる。
「そうですが、先ほどアリスさんから、魔王でも防壁を突破できないか?と、聞かれました。万一の時は、皆さんを私の防壁でお守りします」
それは助かる。頼りにしてるよ。
「ダメだぞ。エクセレントの防壁は守りには使わないぞ。指示を出すから、指示に従うぞ」
話を聞いていたアリスが、大女神にダメ出しを食らわせた。
「防壁を守りに使わない?どいう事でしょうか?」
俺にも分からん。何かを企んでいることは確かだ。
アリスも策士だ。いつもは俺に花を持たせているが、頭の回転の速さは並ではない。
「皆さん!レポーターのハニーです。ここアトランでは、人類初の対魔王戦リアルタイム放送が行われます。
記録動画と違い、あんなことや、こんなこともノーカットでの放送。心臓の弱い方は、決して見ないでください。この放送は、マオ放送局をキー局として、全世界に有料配信されています」
いよいよだな。放送局もきたし、後戻りはできない。ここで俺達が、力量の違いを見せつけて勝てば、刺客は一気に減る。
「3000年続く魔王との戦の世界。今回はカモミールの勇者チームが、魔王に挑みます。
姑息な勇者として有名な勇者ケインは、どんな卑怯な手を使って戦うのでしょうか?」
正攻法で勝てば、俺の姑息勇者の汚名も挽回できる。
「全員揃っているかだぞ?」
ああ、ターナとセレスが、まだ泳いでいるが、見えるところに居る。それ以外は全員いる。
「居る奴だけでいいぞ。策を伝えるぞ。集まるぞ」
俺達はアリスの側に寄る。アリスは小声で俺たちに策を伝えた。
「なるほど!凄いぞアリス」
「流石ですわ!流石はプリンセスですわ」
「魔王アズサ!驚きの策です」
みんなも絶賛だ。俺達らしからぬ王道の策だ。
「レポーターのハニーです。魔王との戦いを前に、今の気持ちを一言」
アリスにマイクが向けられた。
「普通に戦うぞ」
アリスの答えに不思議がるハニー。
「普通・・と言う事は?いつものように、姑息な作戦・・と言う事ですか?」
「違うぞ。普通は普通だぞ。王道だぞ。今回の敵は楽勝だぞ。チャッチャと片付けて帰るぞ。楽しむほどの敵ではないぞ」
おお~風呂敷を思いっきり広げやがった。
「3000年倒せなかった魔王と魔王軍が、楽勝の相手!?ですか?」
「誰だと思っているぞ。勇者ケインのチームだぞ。伊達に現役2位ではないぞ」
絶対負けられない戦いになった。
「現場から、チームメンバーのアリスさんへのインタビューでした。いよいよ、魔王登場の時刻です。後1分を切りました。現場は、すさまじい緊張感に包まれています」
「あら私へのインタビューはないの?」
セレスが海から上がってきた。
「ダメ!カメラさん!映さない!」
セレスはスッパだ。
「早くも放送事故です。だから生は危険だと言ったのに」
ハニーが後悔を口にした。
「リポーターのハニー。今日は生厳禁の危険日」
「マイクに向かって何言うんですか!!!」
ターナの追い打ちで、2重の放送事故だ。
俺達の後ろでは、多くの民衆が見守ってくれている。
祈りを捧げる者たち。焼きトウモロコシを口に、片手にはトロピカルドリンク、浜辺を楽しむ者たち。
そしてついにカウントダウンが始まった。
10!9!8!7!6!
「レナ、セレス、ナナ!敵の索敵だぞ」
5!4!3!2!1!0!!!!!
「魔王軍です!水平線の彼方に魔王軍が現れました!凄い数です!」
来やがったか。時間に正確な律儀な奴らだ。
「沈み行く夕日を背に、最後に表れたのは七魔将軍と魔王です!」
ひときわ大きな体の七魔将軍たち。その後ろから更に大きな魔王だ。
「アリス、雑魚の総数は3000万。情報通りだ」
「七魔将軍の戦力は、それぞれ1000万うぷぷ。魔王は3000万うぷぷね」
「距離200kmデス。進軍速度から、60kmの有効射程迄60分デス」
「よし、作戦開始だぞ!機械族はそのまま索敵。ターナ、マオ!テーブルを出すぞ!ママとアリッサは、火を起こすぞ」
アリスの策、敵が有効射程に入るまで、磯焼き大会をやるだ。
「アリス様。遅くなりました」
ルーンが大きな箱を手に表れた。
「遅いぞ。買い出し一つできないから、勇者に逃げられるぞ」
様付けで呼ばした上に、小間使い。
「申し訳ありません」
そして誤らせた。もうどっちが女神だか分からない。
「アリスさん、これはいったい?」
後方でパルスと並び立っていたエクセレントが、飛んできた。
「磯焼の準備だぞ」
「磯焼?いや、しかし、今は…」
「お互いに有効射程に入ってないぞ。ただ待つのも暇だぞ。時間は有効に使うぞ」
「ほら焼けて来たよ~女神様も~お一つどうぞだよ~」
マオはエクセレントに、タコの足が刺さった串を渡した。
受け取ったエクセレントは「ハァ」と言うしかなかった。
「もぐもぐ。アリス!敵との距離、150Kmだ。私にはワカメの炙り焼きを取ってくれ」
「ハマグリと、アワビよ。踊り焼きにしたのがいいわ。雑魚の戦力は、10~50うぷぷだわ」
「海老デス!伊勢が良いです!取ってくださいデス!後30分余裕がありますデス」
機械族も、磯焼を楽しみながら仕事もしていた。
「この期に及んで、磯焼とは大胆だと思いますが、如何でしょう?一言お願いします」
リポーターのハニーから、俺にマイクが向けられた。
「旨いからいいんじゃないのか?他にやることないし」
「余裕です!流石チームリーダーの勇者ケイン。3000万の魔王軍を前に全く動じず」
「レポさんも、お食べなさいですわ。焼きウニですわよ」
「まったりとして濃厚!口の中でとろける焼きウニ!絶品です。以上現場から魔王軍を前にした、磯焼をしている勇者チームのレポートでした」
ーーー浜辺の後方。森の中ーーー
「やるな。あいつら」
「ええ。落ち着いてて、いい感じね」
「私としては、彼らの強い所を、世間に広げて欲しくないのだがね」
パルムとセシル。そしてノスフェラトも、ここアトランに来ていた。
「親子関係は、言わなかったのかい?」
「言いかけたが、セシルが逃げた」
「だって、あんなところで急に言い出すから」
「デリケートな問題だからね。急がずに、いいころ合いを見計らって・・。この焼き蛤美味しいね」
「社長、また盗んできますか?」
「俺は魚が良いな」
「私はタコね」
「レイラ君、済まないね。私は貝類を頼むよ。それと飲み物も欲しいな」
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ノスフェラトゥの秘書、レイラも大活躍だ。
ーーーー天界ヴィーナス家ーーーーー
「魔法システムの不具合は直してきたかな」
二女ビューティーだ。
「ご苦労様。やはりリスの仕業ですか?」
母、ヴィーナスの問いに、ビューティーは頷いた。
「ほよよ。ケインさん、イベント中なんだな」
「ええ、アトランでの魔王退治は、今後のケインさんの大きな自信に成るイベントです。確実にクリアしていただかないと」
「それでエクねぇが、現地に居るんだな」
「ええ、万が一に備えています」
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ヴィーナスとエクセレント、ビューティーは、ループワールドに巻き込まれている事実を知っている。
引き金とされる、アイリスの魔法の暴走を止めるため、アイリスの殺害まで考えているが、女神としての道は外れない。
判断はケインに委ねる考えだ。
その為にも、過去の歴史の流れから離れないように、歴史再現を行っていた。
ーーーー天界 悪だくみルームーーーー
「あ!あはははは!馬鹿だ!魔王軍を前に磯焼だと!」
TVの画面を食い入るように見ていたリリスは、腹を抱えて笑い出す。
「僕も食べたいな」
「聖杯と起源の水さえ手に入れば、磯焼どころか、下界焼きが食える。私たちに逆らえる者など、居なくなるのだ。あのヴィーナスですら、私の前にひれ伏すだろう」
「もう、薄給に苦しむことなくなるね」
「こんな腐った世界は、楽しんだ後に滅ぼしてやる。世界は作り変えられるのだ!」
「はいはい。僕はケインの最後が楽しみだよ。磯焼が最後の晩餐とは、愉快な彼らしいね」
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聖杯は、すべての物を浄化し、天界、下界、魔界は空間だけの世界となる。
空間だけの世界では、ビックバンが起こり、再び世界は構築される。
そして起源の水により、全宇宙に水が行き渡り、生命が生まれる。
聖杯と起源の水は、ワンセットのアイテム。
カモミールは、聖杯が使われた星。始まりの星として、聖杯と起源の水が守られている星。
聖杯と起源の水は、3人の守護者により、厳重に守られていた。
その一人がドワーフ。南の海の守護者。
もう一人がポセイドン。北の海の守護者。
もう一人は、星の守護者として神殿を守護している。
ーーーーカモミール 王宮ーーーーー
「全く、アリスったら。大体守護者は、世界に関与しないのよ」
ドワーフは、ケインたちの留守の間、カモミールを頼まれていた。
「文句を言うな。引き受けたんだろ」
初登場のポセイドン人間形態。意外にもイケメンだ
「アリスは強引でござるからな。守護者殿には迷惑をかけてるでござるよ」
「でも守護者さん達に守られていたら、心強いですよ」
トーレフとマリーは居残り組だ。
4人は王宮内のバルコニーで、お茶を楽しんでいた。
「既に我々は、この世界の人たちと、関係を結んでしまっている。いまさら、関与しないでは、無責任だ」
イケメンクールのポセイドン。50歳程度のナイスダンディーだ。
「まぁ、星の守護者が、あれだけ関与してたら、私たちだってね・・」
「驚きでござる。まさかの黒幕でござったな」
「私も聞いてびっくりですよ」
ドワーフは、口に立てた指を置き、まだ内緒のアクションをした。
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「アリス!敵との距離75kmだ。そろそろ準備した方がいい」
レナの進言にアリスが動く。
「良し行くぞ!随分引っ張ったぞ。次回、アトラン魔王決戦だぞ。私たちの本気を見せるぞ」
誰に言ってる?




