ループワールド・勇者ケイン編 49
魔都へ来ると、ドワーフが居た。普通にアズサとお茶している。
「あらケイン、お久しぶりね」
お茶を口の運びながら、バニーガールの姿をした南の海の守護者は、俺に笑顔を振りまいた。
「ケインさん、アリスさん、アリッサさん、マオさん、そしてティナ様、よくおいでくださいました」
アズサは、ここ魔都の王、通称魔王だ。
「で?南の海の守護者が、なんでお茶なんだ?」
「暇でね~海岸で踊っていたら、声かけられて以来、まま来ては、お話してるのよ」
「最近他でも、海岸で踊るバニーガールを見たぞ」
旬だからな。
「ケインさん、ドワーフさんは物知りで、たくさんの知識を教えてもらえました」
確かに長生きだ。この宇宙誕生以来から存在してる。
「コンパクトで変身する女の子の話から、転生したスライムの話まで、実に豊富な知識です」
思い出した。アズサはアニメファンだった。
って言うか、世界の生き字引から聞くのが、アニ話かよ・・・。
「で、今日はどのようなご用件で?」
「アズサさん!朗報です!例の病が完治します」
「これを持って来たぞ。ボラギノー草だぞ。一発で治るぞ。治して欲しいかだぞ?」
アリスが悪だくみをした時の顔に成っていた。
アズサの悲鳴。勿論紳士な俺は、部屋の外に居る。
「終わったか?」
ドア越しに尋ねる。
「まだよ。今ねじ込んでる最中」
「もっといい声で泣くぞ。ほらほら奥まで入って行くぞ」
お楽しみ中だった。
「汚されました!でも、全然気になりません」
ボラギノー草の効果だ。
「これ、売ったら儲かりません?」
アズサ、いいとこに気が付いたな。でもダメらしい。
「ダメです。ボラギノー草は、効果が高すぎます。これを販売したら、医薬品メーカーさんが困ってしまいます」
と、いう事だ。地味にリアルな話だが、本音は違う。
女神が治せない痔を、治すことが許せないらしい。
俺達は、たわいもない会話で楽しんでいた。
ティナの昔話、アリスの苦労話、ドワーフの天地創造話。
この平和な時間が、突然奪われる。
「氷魔法ブリザードだぞ!」
「毒魔法!毒霧だよ!」
「爆砕!爆炎斬!」
テーブルの上に、邪神グールが現れた。
どうだ?殺ったか?
「やったぞ。そこでピクピクしてるぞ」
また世界の平和を守ってしまった。
「最近、ここ魔神殿にもグールが現れるようになりました」
「どこにでも現れるぞ。王都は移転する予定だぞ」
魔都も移転を考えるべきだな。
「皆さん!大変デス!」
ナナが部屋に飛び込んできた。
ナナは、アズサ付きの機械族オリジナル7番機。全身が魔法火器の似非アメリカンだ。
「見てくださいデス」
手にグールを持っている。機械族はグールを恐れない。
「これゴキブリではありませんデス。よく見てくださいデスデス」
グールではない?だと!
「スミマセン、私は直視できないので、ここは勇者のケインさんに」
ティナが逃げた。
「パパ!任せたよ」
娘も逃げた。
「仕方ないぞ、ここはケインが行くぞ」
嫁も逃げた。
「あら、情けないのね。ゴキブリぐらいで・・。私ちょっとお花摘みに」
守護者もダメか?
仕方ない。俺が見てやる。怖くなんかないぞ!俺は勇者だ!
行くぞ、相棒。俺は剣を抜く。
ナナは、手の平の上でひっくり返るグールを俺に見せた。
俺は剣先で慎重にグールの腹をチョンチョンして、死んでいるかを確認した・・なんだと!
「どうしたぞケイン?」
これは・・
「なにかな~」
グールの腹が開く。大きな目がある。まるで人間の目だ。
「これはクロゴキブリではないデス。魔界の生き物デス」
魔界のだと!?
「カサカサ・・・よく気が付きましたね」
誰だ!?
「いつの間にだぞ」
黒いロングコートに、黒い帽子を深々と被る男が、ドアの前に居た。
「貴方は、五木さん」
ティナ?知っているのか?
「はい。五木振さんです。天界の制度を利用して、カサカサ星から魔都へ研修に来ています」
「その研修生が、なんだぞ?」
「カサカサ・・五木振とは仮の姿」
黒ずくめの男は、ゆっくりと近づいてきた。
「いつき・・・しん・・・!!違う!こいつは、ゴキ ブリだ!」
男は顔を上げる。
「!!パパ!こいつ!顔がゴキブリだよ!」
恐らくコートの下もゴキブリの体だ。人サイズのゴキブリだ!
「戦闘態勢だ!」
「カサカサ・・我が眷属たちが、貴様たちの情報を収集した」
こいつの眷属?グールはこいつが!?
「いくら駆除しても減らないわけだぞ」
「なら~こいつを倒せばだよね~」
ああ、こいつさえ倒せばグールの脅威から世界を救える。
「気を付けるぞ。進化したゴキブリは強いぞ。漫画で読んだぞ」
「その話は、さっきドワーフさんから聞きました。こっちも虫になりますか?」
「カサカサ・・貴様たちの情報を全て手に入れた、我に勝てると思うのか?」
俺たちを前に堂々とした態度。こいつできる。
「ケインさん、こいつはレインボーコックローチです。魔界闇戦隊の一員で、主に情報収集が担当です」
ティナ!知っているのか?
「パパ!ティナがネットで調べてくれたよ!」
おい。
「はい。闇戦隊のHPに載っています」
HPだと!?
「カサカサ・・我ら闇戦隊。存在は闇の中。裏の仕事引き受けます」
「存在が闇で、HP公開かだぞ?」
「カサカサ・・経営上の理由でやもなく」
なにが経営上だ!闇なら闇らしく闇に潜んでいろ!
どうする?捕まえて目的を聞き出すか?
「アズサ!時間停止魔法だ!捕獲する」
「分かりました!時間停止魔法‼時よ止まれ!」
世界がセピア色に変わった。アズサの時間停止魔法だ。レインボーコックローチも停止した。
「今のうちだ!縛り上げろ」
「私嫌だぞ、触りたくないぞ」
「私もだよね~」
「はい。触りたくありません」
「ごめんね!近寄りたくもないよ!」
俺も嫌だ。
「時間切れです。時が動き出します」
また無駄打ちしてしまった。意外と使えない時間停止魔法だ。
「ズサズサ・・魔界闇戦隊、モモイロヤスデ参上」
「ヌルヌル・・同じく闇戦隊、金色ナメクジ見参」
変なのが増えた。
「カサカサ・・援軍が間に合った以上、お前たちに勝ち目はない」
「ズサズサ・・抵抗は無意味だ」
「ヌルヌル・・むだむだむだむだ!」
グールにヤスデ、ナメクジ。負ける気はしないが、相手にはしたくない連中だ。
「ケインさん!HPによると、敵はこの3人だけです」
「パパ!魔界サイトによると、闇戦隊の業界ランクは2199位だよ。全体は2200しかないよ」
弱小零細戦隊だ。
「私に任せるデス!フィンガーマシンがデス!」
ナナの指先はマシンガンに成っている。弾は魔法弾だが、実弾と同様の効果がある。
「ヌルヌル・・粘液防御」
ダメだ!マシンガンの弾が粘液に跳ね返された。
「なら、ミサイルパンチデス!」
ナナの右腕が肩から離れ、ミサイルのように敵に向かう。
「ズサズサ・・ヤスデ真剣白刃取」
ミサイルパンチが、白刃取されただと!手が多いから楽に止められるんだ。
「ケイン、こいつら出来るぞ」
ああ、見た目で判断していたが、ここは真面目にやらないと、ヤバそうだ。
「本気で行くぞ!」
アリスの顔つきがマジになった。
「来るぞ!セイレーーン!だぞ」
海が盛り上がり、黒い球体、魔道兵器セイレーンが現れる。
「新シーズン初の出番です!ルピ、ルカ!気合いを入れていきますよ」
機械族オリジナル13番機で、魔道兵器セイレーンの制御装置。
セレスと同じ姿をする、セイレーンだ。
「はい、ねぇ様。最初が肝心です」
「はい、ねぇ様。第一印象の好感度は、なかなか下がりません」
ルピとルカ、セイレーンの支援機だ。
「セイレーン!こいつらを焼き払うぞ!ハドロンブラスターだぞ!」
いきなり最大兵器か?
「分かりました!パワーアップしたハドロンブラスターをお見舞いします」
「ねぇ様。敵認識が出来ません」
「ねぇ様。攻撃不可です」
セイレーンは倫理観が高く、敵と認識しない相手は、攻撃が出来ない。
1撃貰うか、説得される、誤作動を起こす等が無いと、攻撃不可なのだ。
「相変わらず使えないぞ。ならポセイドンだぞ!」
ポセイドン、ドワーフ同様に、北の海を守護する守護者。
普段はトーレフの住む家を背に乗せて、海を漂っている、巨大な亀だ。
「ポセイドン!だぞ!・・・こないぞ」
「基本守護者は、この世界に関与しないが鉄則なので、戦に呼んでも来ないわよ」
同僚のドワーフの説明だ。
「使えない連中だぞ」
「なら私が呼ぶよ~ピーちゃん!カムヒヤ!だよ~」
ピーちゃん。マオの友達の鳥さん。神の加護に似た万能魔法を使いこなし、マオの財産を投資で増やしまくっている。
「あとね~マオ商会の経理部長だよね~」
だそうだ。
「マオごめんね。今大暴落に巻き込まれて、手が離せないのよ。そっちは任せたから」
と言うテレパシーが、みんなの頭の中に届いた。
後、トーレフと言う、竜人族の科学者と、マリーと言う、サラ族の残した、正のエネルギーの集合体が居る。
どちらも科学班で開発から修理を担当した、頼れる連中だ。
「パパ!モブキャラ紹介は済んだ?」
ああ、後は・・・パルスだが、まぁいいか。
「登場人物が多くて困るぞ。紹介編が長くて大変だぞ」
「だよね~なんか話が進まないしさ~」
「はい。これでやっと本編が進められます」
「私って、紹介があったのですが、モブだったんですか?」
「主役はケインだぞ。ヒロインが私だぞ。後はモブだぞ」
酷い。
「カサカサ・・もういいか?」
ああ、済まなかった。
「お待たせだぞ。お前の相手はケインだぞ。私は金色さんの相手をするぞ」
「はい。私は女神なので後方支援します」
「私はヤスデさんだよね~」
「パパ!私はママとナメクジに塩掛けてるね」
「時間停止魔法を使い切った私は、役に立たないので、ナナとお茶しています」
「守護者的には手が出せないから、私もお茶グループ」
くそ!結局グールの相手は俺か?
「行くぞグール!ケインスラッシュ!」
俺の唯一の技、ケインスラッシュ。
剣から出る衝撃波で、敵を弾き飛ばす。
「カサカサ・・ぐは!」
効果ありだ!
「いっくよ~毒魔法!毒シャワーだよ!」
毒シャワー、マオの持つ杖の先から毒液が噴出する。
「ズサズサ・・ぐはぁ!」
大ダメージだ。
「行くぞ!氷魔法ブリザードだぞ!」
「魔法剣!爆炎斬よ!」
「ヌルヌル・・ぐはぁぁ!」
特大ダメージだ。この世界の法則として「ぐは」の後の「ぁ」が多いほど、ダメージは大きなものとなる。
が、決め手がない。敵は3体とも健在だ。
「カサカサ・・貴様たちの攻撃は、この程度か?」
「ズサズサ・・たわいもない」
「ヌルヌル・・ぐふふふふふ」
くそ!流石は魔界の闇戦隊だ。どうする?
「ねぇケイン、ボラギノー草だけど、少し貰って・・・」
アルテミスだ。ゲートから、敵のド真ん中に出て来てしまった。
「ひぃ!」
前に等身大グール。横にはヤスデとナメクジ。
顔色が一気に蒼くなった。
「神の加護・・パルスよ!!!」
滅びの呪文が飛び出した。魔都は爆炎に包まれた。
「苦しい戦いだったぞ」
ああ、ティナが咄嗟に防御加護を使ってくれなければ、最終回を待たずに終わっていたな。
「魔界って~やっぱ強いんだね~」
「はい。元々は戦闘種族の世界です。基本性能が違います」
「パパ、ママ!魔界から来た敵と戦えるようにレベル上げだよ」
「私も、さらなる強い魔法を覚えるため、魔王として恥じぬ精進します」
何時から魔界と戦う事に?
「はい。魔界闇戦隊は、誰かに雇われた刺客です。誰かが私たちを狙っているのは間違いありません」
「狙われる覚えはないぞ」
いや、あるか。
「天界の何者かが、この世界を狙っている。この世界にある聖剣九重をな」
俺達の戦いは終わっていなかった。
俺達はこの世界を守る。そして、平和な世界を取り戻して見せる。
敵が天界だろうと、魔界だろうと、俺たちは九重を守り切る!!
「そして、聖杯と起源の水もね」
ドワーフ?何か言ったか?
「いえ・・べつに」
こうして新たな敵の出現により、俺たちの戦いが始まった。




