魔王編 ㊶
ーーーーー天界ティナの実家ーーーーー
「カモミールを当家の庇護下に置きました。サラ族が魔王を呼び出すのは、11月11日。後、2週間ほどです」
「これでリリスや、ノスヘラトゥの動きも制約できますね。ケインさんには、魔王討伐に集中して頂かないと」
ヴィーナスと、エクセレントの会話だ。
「はい。ケインさんなら、問題なく倒してくれるはずです・・たぶん」
「ティナも苦労が絶えませんね。サラ族との約束に縛られ、伝えたくとも伝えられない。あの口の軽い子が、必死に言わないようにしている姿・・美しいですわ」
「もう少し上手くやる方法なら、いくらでもあると思うのですが」
「それがティナですよ。あの子の良いところ。愚直に真っすぐに。そう、ケインさんと同じにね」
「万が一に備え、内々に現地に2人派遣しています。ビューティーと私は、待機です」
「ええ、お願いします。絶対に魔王討伐だけは、邪魔させないように」
「はい」
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あれから11日がすぎた。俺は、考え続けていた。
頭の中がこんがらかって、纏まらない。
「後4日だぞ。4日と2時間だぞ」
「パパ!私は、いつでもいけるよ!」
「私もですわ。エロ牙ちゃんと準備は整えてありますわ」
ああ、何よりだ。
「なに気が抜けてるぞ?800年の悲願だぞ。この世界の命運を分ける戦いだぞ」
ああ・・・・・
「パパ!どうしたのよ!」
「色々引っかかってな。考えがまとまらないんだ。汚れた水・・・時間はある・・・魔王は俺・・サラ族の言うキーワードが、意味不明すぎる」
「とりあえず、ケインの考えていた『ネジが緩む呪い』は、違うようだぞ」
「だな。だが4つ目の呪いはある・・・何か大事なことを見落としてる。これが何かわからないんだ」
「・・・ケイン、街に出るぞ。散歩するぞ」
「おいおい、こんな時、散歩なんか・・」
「こんな時だからだぞ。ここで考えていても、纏まらないぞ。気分を変えるぞ」
「そうですわ。青空の下、風に当たるだけでも、気は晴れますわ」
「おばぁちゃん!外は雨だよ!土砂降りだよ」
「ヴぇ?ま、まぁ、雨に当るのも・・・」
「お任せください!神の加護!快晴です!」
ティナ?
「姉から、強力な加護が使えるようにしてもらいました。雨を止ますぐらい、楽勝です。今なら海を2つに割れます」
「パパ!晴れたよ!虹が出てるよ!」
「マジか?良いのかティナ?天候迄変えちゃって」
「はい。今はケインさんが、考えやすい環境を整えることが最優先です」
そっか・・・なら、散歩に行くか。
俺とアリス、ティナは雨上がりの街に出て来た。
「スミマセン、ケインさん。守護する私が、大事なことを伝えられないために、苦しませています」
「俺だけじゃない。ティナも苦しんでるだろ」
「はい。苦しいです。喉まで出かかってます。と言うか、口からはみ出しています」
「でも、言うなだぞ。ティナの約束は、サラ族の大事な命と引き換えの物だぞ」
「はい。分かっています」
「ケイン、これで大分絞れたぞ。約束は、魔王を封印するときにしたぞ」
アリス、余り虐めるな。
「なぁ、ティナ。魔王を倒したら全部教えてくれるんだよな。今度こそ」
「はい。すべて何も隠さずに、お教えします」
「なら、頑張らないとな。色々な謎が多すぎて、頭がおかしくなりそうだ」
「はい。お願いします。ケインさんにしか倒せません」
アリスが商店の並ぶ道で立ち止まる。
「・・・ケイン・・・この匂い・・・だぞ?」
「どうした?アリス」
「!!パルムだぞ」
店で買い物をしている二人組。赤いワンピースの女と、茶の背広の男だ。
「お前たち!国外退去させたはずだぞ」
アリスが二人に突っかかる。
「わたしたち・かんこう・きゃくです」
「なんのことだか・わかりません・わ」
なに片言で誤魔化そうとしてる。
パルムは、牛乳瓶の底のようなレンズの眼鏡。
セシルは、マフィアが掛けるサングラス。
それで変装のつもりか?
「お前たちの匂いは、覚えてると言ったはずだぞ」
「私が見ても分かります!あなた達は、パルムとセシルです!」
パルムが、上着の内ポケットに手を入れた。
「ブリザードだぞ!」
アリスが、すかさず魔法を放つ。内ポケットに手を入れたら、打って良しだ。
「絶対防壁!」
が、パルムの防壁の前には通用しない。
「これが・女神発行の・観光ピザです」
パルムは、ピザを取り出した。ティナが受け取る。
「山田太郎さん・・これは間違いなく、天界発行の本物です」
セシルのような女もピザを出す。
「山口花子さん・・・ですか?」
「わたしたち・ふうふです。かんこうに・きました。あやしいものでは・ありません」
くそ、いかにも偽名だが、ピザは本物か?
「他人の空似でした・・スミマセンでした」
ティナは、深々と頭を下げて謝った。
って、まてまて!
夫婦なのに、なんで別性だ?山田と山口は、どいう事だ?
「あら?ああ、こっちよ」
セシルのような女は、5冊ほどピザを出し、その中から1冊をティナに手渡す。
「はい。間違いなく山田花子さんです。問題ありません」
なわけあるか!6冊も持ってるぞ!偽造ピザだ!ってか、絶対防壁を使ったろ。
「おかしいな、なんでバレたんだ?」
「分からないわ。今までバレたことないもん」
本当にランク3位か?
「パルム、二度とカモミールに立ち入らないように、伝えたはずです」
「そうだぞ。勝った条件で出した、約束だぞ」
「あら、約束は守ったわよ。あなた達の勝ちは3つ」
「1つ、アイリス達の開放。2つ、情報の開示。3つ、国外退去だ。この国に来るな、と言うのは、4つ目の条件だ」
・・・確かにそうだ。屁理屈にも聞こえなくはないが、筋は通っている。
「で?何をしに来たんだ?またザイクが居ないが、まさか?」
「安心して坊や。今回は本当に観光よ」
「ザイクは入院中だ。誰かにPTSDにされた」
それは可愛そうに。誰だ?そんな酷い事するのは?
「坊主、飯でも食おう。来い」
お!?
俺は、後ろ襟を掴まれると、引きずられるように、食堂の前まで連れてこられた。
「ねぇ、ここって美味しいの?」
「王都グルメナビだと、星3つだぞ。向こうの中華屋なら星26だぞ」
「星26にしよう」
おい!いつまで引きずっている?俺は行かないぞ!
「星26を食うまでだ」
くそ!俺の言葉なんか聞いてない。
で、中華屋の円卓に座らされた。
「好きなものを頼め。おごるぞ」
「あなた達のせいで、姉は苦しみました。今こそ恨みを晴らします。大食いして、お財布に大ダメージを与えます。
この、殺人激辛スパイシースペシャル肉丼を、辛さ増し増しで。更に肉大盛りです」
財布にダメージ当たっる前に、胃と尻にダメージ受けないか?
「いいぞ、食ってやるぞ。私の胃袋の恐ろしさを思い知るぞ。ラーメン、チャーハン、餃子、デザートはライチだぞ。全部大盛りだぞ」
お前も食うんだ。
「坊主、お前も頼め」
くっ!・・なんか変な流れだが、アリス達が頼んだ以上、俺が頼まないわけにはいかない。
俺の前だけお冷では、寂しすぎる。
「天津飯か?いやいや、中華丼の方も良いな・・」
「男は悩むな。食うものを選ぶのに、時間などかけるな」
「俺は熟考派だ。考えなしには動かん。って言うか、お前だって頼んでないだろう」
「ウェイトレスさん、俺はメニューの端から全部で頼む」
!?なんだと!麺類、ご飯もの、単品に点心迄、70近くはあるぞ。
「大人注文だぞ。こいつ出来るぞ」
「私も、殺人激辛スパイシースペシャル肉丼を、辛さ増し増し増しでね。更に肉は特盛りよ」
な、なんだと!?辛さ増し増し増しだと!
「待ってください。私は増し増し増し増しです」
「あら、対抗心が強いのね。燃えて来たわ。増し10倍よ」
「私は20倍です」
「50倍」
「100倍です」
「おいパルム止めろよ。食いものじゃなくなるぞ」
「・・・止めて止まる奴なら、苦労しないさ。坊主、わかるか?」
・・・苦労してるんだな。あんたも。
「食い物で遊ぶなだぞ!」
あ。アリスが切れた。
共に100倍になった。出てきた丼は、真っ黒だ。俺のレベルを下げた餡と同じ色だ。
悪いが離席する・・・辛さで目が痛い。
俺とアリス、パルムは、離れたテーブルで食事をすることにした。
「全く無益な闘いだ。飯は旨く食う。これ以外の理由などいらんのにな」
「そうだぞ。食い物は旨く食ってあげるのが、食材に対する礼儀だぞ」
「お?気が合うな」
「だぞ。気が合うぞ」
なに打ち解けてる。向こうは凄い事に成ってるぞ。
「おほほほ、全然辛くないわ」
「はい!まったく辛くありません!」
2人とも、泣きながらがら食ってやがる。
「ふぁぁぁ!食った」
あれ全部平らげたのかよ・・・化け物め。
「凄いぞ。見なおしたぞ」
大食いで見方が変わるのか?
「坊主、飯を付き合ってくれた礼に、何か一つ教えてやろうか?」
なに?マジか?
「聖剣だ!お前たちの狙う、九重の事を教えろ」
「ダメだ。仕事で得た情報には、守秘義務がある。仕事以外でだ」
「ねぇよ。知りたいのは、お前の仕事の・・・。いや・・」
「ん?」
「なら、教えてくれ。なんでエクセレントを裏切った?」
「・・・・裏切っては、いない。袂を分かち合っただけだ。勇者としての俺の考えと、女神としての奴の考えがな、違っていたからだ」
「何が違うだぞ?女神は世界の助けをするぞ。それを実行するのが勇者だぞ」
「ああ、そうだな。だが、現実は複雑だ。同じものを見ていても、同じ色に見えているとは限らない」
アルテミスと同じことを。
「あの唐辛子女神が担当なら、俺達もまだ勇者をやっていたかもな」
・・・・。やはりティナは・・良い女神なのか・・。
「そうだぞ、ティナは良い女神だぞ」
「だよなぁ!エクセレントみたいに、お固くなからな!お前らが羨ましい」
・・・・・・。
「おい。心ここに在らずってか?嫁の前で、女神に見とれて良いのか?」
ティナを眺めた視線が切れなくなっていた。
ティナの今までの言葉が、次々と浮かんできていた。
「いいぞ、今ケインは忙しいぞ。考えることが一杯だぞ。CPUフル稼働だぞ」
「ん?そうか、魔王との戦いが近いのか?」
「ああ、近い。だが考えが纏まらなくてな」
俺は何を言ってるんだ。こいつは敵だ。
「表に出ろ、勇者」
「なに?」
「俺が、考えを纏める方法を教えてやる」
なんだと!?
「ケインファン。どうふぃたのですか?」
俺とパルムが外で対峙した。ティナとセシルが飛んできた。
が、たらこ唇で言葉にならないようだ。
「その剣で掛かってこい」
「おい!今はお前たちの相手を・・・」
「実践ではない。只かかってくればいい。剣を振り回してな」
「・・・・」
「俺は攻撃はしない、受けるだけだ。お前の攻撃が当たればダメージだぞ。お得だろう。ノーリスクで、俺にダメージを与えられるんだぞ」
・・・確かに。おそらく奴は嘘は言わない。攻撃は無いと見て良い。これは倒すチャンスだ。
「ほお。やる気になったか?来い!勇者!」
「行くぞパルム!」
俺の剣技で倒すなど無理だ。なら策を弄すまでだ。
「ふぁらふぁら、はじまふちゃった」
セシルも言葉にならない。
踏み込んで、横からと見せかけて!下からだ!
軽く避けられる。
上からと見せかけて!横!
鼻で笑われた。
一度躱させてからの、突きだ!
余裕で鼻くそをほじってやがる。
「あれこれ考えるな!」
考えなしに動けるか!
「降り回せ!力の限り振り回せ!何も考えるな!」
それでは馬鹿だ!
「そうだ馬鹿に慣れ!どうせ当たらないなら、馬鹿になって振り回せ!」
くそ!当らない!
「ケインがムキに成ってるぞ」
「フェインさん・・・」
レベル・・格が違いすぎる!
「どうした?ハエでも追いかけてるのか?」
ちくしょう!
「俺にかすりさえしないお前が、魔王に勝つつもりか?」
五月蠅い!これとそれとでは違う!
1撃では済まさん!1.3撃くれてやる!
避け続けていたパルムが剣を抜く。ケインの振り回す剣を、自らの剣で払いのける。
「避けるのも疲れた。これなら楽だ、片手で済む」
くそ!くそ!
「ねぇ貴女、奥さんでしょ。そろそろ止めてあげたら?坊やでは当てられないわ。あの子、もうヘロヘロじゃない。ぶっ倒れるわよ」
セシルがアリスに言う。
「止めないぞ。男が意地で前に出てるぞ。それを止めるほど、野暮な嫁ではないぞ。倒れたら、私の愛で全力介抱してやるぞ」
「・・・・そう」
腕が重い。踏ん張りがきかなくなってきた。振り回してたせいだ。
だが、こいつだけは許さん。散々バカにしやがって!
「良い目だ。敵を倒すという、信念が伝わる目だな」
剣を大きく払いのけられた。3、4歩後ろに、体ごと持っていかれる。
「良い目だが、勇者の目でも、勇者の剣でもない」
なに?
「勇者の振るう剣に、怒りは不要。まだ、何も考えずに振り回した方がましだ」
!?
「俺に一撃入れるために、怒りに任せた剣。真の勇者は、己の信じるものを剣に託し、信念を貫く剣を振るう」
ぐっ!
「今の貴様は、届かぬモノを、怒りで手に入れようとしている、ただの駄々っ子だ」
く、く、くそぉぉぉぉぉ!!!!!なにが駄々っ子だ!一撃だけでも入れてやる!!
俺は剣を振り回した。力の限り・・・だが。
「食後の運動にはなった」
「お嫁さん、やさしく介抱してあげるのよ」
くそぉ・・体が動かない。目がかすむ。起き上がらないと・・・パルムが行っちまう。
「もういいぞケイン。立派に戦ったぞ。もう休むぞ」
ま・まだだ・・まだ・・たたか・・・・・・。
「気を失ったぞ。余程悔しかったぞ」
「図星だったろうからな。さて、戻るかセシル?」
「ええ。観光は終りね」
パルムがゲートを開く。
「待つぞ!」
「ん?」
「ありがとうだぞ」
「魔王討伐、頑張れよ」
「さようなら。お嫁さん」
2人はゲートの中に消えた。




