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残念世界の残念勇者   作者: XT
41/96

魔王編 ㊶

ーーーーー天界ティナの実家ーーーーー


「カモミールを当家の庇護下に置きました。サラ族が魔王を呼び出すのは、11月11日。後、2週間ほどです」

「これでリリスや、ノスヘラトゥの動きも制約できますね。ケインさんには、魔王討伐に集中して頂かないと」

ヴィーナスと、エクセレントの会話だ。

「はい。ケインさんなら、問題なく倒してくれるはずです・・たぶん」

「ティナも苦労が絶えませんね。サラ族との約束に縛られ、伝えたくとも伝えられない。あの口の軽い子が、必死に言わないようにしている姿・・美しいですわ」

「もう少し上手くやる方法なら、いくらでもあると思うのですが」

「それがティナですよ。あの子の良いところ。愚直に真っすぐに。そう、ケインさんと同じにね」

「万が一に備え、内々に現地に2人派遣しています。ビューティーと私は、待機です」

「ええ、お願いします。絶対に魔王討伐だけは、邪魔させないように」

「はい」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれから11日がすぎた。俺は、考え続けていた。

頭の中がこんがらかって、纏まらない。


「後4日だぞ。4日と2時間だぞ」

「パパ!私は、いつでもいけるよ!」

「私もですわ。エロ牙ちゃんと準備は整えてありますわ」

ああ、何よりだ。

「なに気が抜けてるぞ?800年の悲願だぞ。この世界の命運を分ける戦いだぞ」

ああ・・・・・

「パパ!どうしたのよ!」

「色々引っかかってな。考えがまとまらないんだ。汚れた水・・・時間はある・・・魔王は俺・・サラ族の言うキーワードが、意味不明すぎる」

「とりあえず、ケインの考えていた『ネジが緩む呪い』は、違うようだぞ」

「だな。だが4つ目の呪いはある・・・何か大事なことを見落としてる。これが何かわからないんだ」

「・・・ケイン、街に出るぞ。散歩するぞ」

「おいおい、こんな時、散歩なんか・・」

「こんな時だからだぞ。ここで考えていても、纏まらないぞ。気分を変えるぞ」

「そうですわ。青空の下、風に当たるだけでも、気は晴れますわ」

「おばぁちゃん!外は雨だよ!土砂降りだよ」

「ヴぇ?ま、まぁ、雨に当るのも・・・」

「お任せください!神の加護!快晴です!」

ティナ?

「姉から、強力な加護が使えるようにしてもらいました。雨を止ますぐらい、楽勝です。今なら海を2つに割れます」

「パパ!晴れたよ!虹が出てるよ!」

「マジか?良いのかティナ?天候迄変えちゃって」

「はい。今はケインさんが、考えやすい環境を整えることが最優先です」

そっか・・・なら、散歩に行くか。

俺とアリス、ティナは雨上がりの街に出て来た。


「スミマセン、ケインさん。守護する私が、大事なことを伝えられないために、苦しませています」

「俺だけじゃない。ティナも苦しんでるだろ」

「はい。苦しいです。喉まで出かかってます。と言うか、口からはみ出しています」

「でも、言うなだぞ。ティナの約束は、サラ族の大事な命と引き換えの物だぞ」

「はい。分かっています」

「ケイン、これで大分絞れたぞ。約束は、魔王を封印するときにしたぞ」

アリス、余り虐めるな。

「なぁ、ティナ。魔王を倒したら全部教えてくれるんだよな。今度こそ」

「はい。すべて何も隠さずに、お教えします」

「なら、頑張らないとな。色々な謎が多すぎて、頭がおかしくなりそうだ」

「はい。お願いします。ケインさんにしか倒せません」


アリスが商店の並ぶ道で立ち止まる。

「・・・ケイン・・・この匂い・・・だぞ?」

「どうした?アリス」

「!!パルムだぞ」

店で買い物をしている二人組。赤いワンピースの女と、茶の背広の男だ。

「お前たち!国外退去させたはずだぞ」

アリスが二人に突っかかる。

「わたしたち・かんこう・きゃくです」

「なんのことだか・わかりません・わ」

なに片言で誤魔化そうとしてる。

パルムは、牛乳瓶の底のようなレンズの眼鏡。

セシルは、マフィアが掛けるサングラス。

それで変装のつもりか?


「お前たちの匂いは、覚えてると言ったはずだぞ」

「私が見ても分かります!あなた達は、パルムとセシルです!」

パルムが、上着の内ポケットに手を入れた。

「ブリザードだぞ!」

アリスが、すかさず魔法を放つ。内ポケットに手を入れたら、打って良しだ。

「絶対防壁!」

が、パルムの防壁の前には通用しない。

「これが・女神発行の・観光ピザです」

パルムは、ピザを取り出した。ティナが受け取る。

「山田太郎さん・・これは間違いなく、天界発行の本物です」

セシルのような女もピザを出す。

「山口花子さん・・・ですか?」

「わたしたち・ふうふです。かんこうに・きました。あやしいものでは・ありません」

くそ、いかにも偽名だが、ピザは本物か?

「他人の空似でした・・スミマセンでした」

ティナは、深々と頭を下げて謝った。

って、まてまて!

夫婦なのに、なんで別性だ?山田と山口は、どいう事だ?

「あら?ああ、こっちよ」

セシルのような女は、5冊ほどピザを出し、その中から1冊をティナに手渡す。

「はい。間違いなく山田花子さんです。問題ありません」

なわけあるか!6冊も持ってるぞ!偽造ピザだ!ってか、絶対防壁を使ったろ。


「おかしいな、なんでバレたんだ?」

「分からないわ。今までバレたことないもん」

本当にランク3位か?

「パルム、二度とカモミールに立ち入らないように、伝えたはずです」

「そうだぞ。勝った条件で出した、約束だぞ」

「あら、約束は守ったわよ。あなた達の勝ちは3つ」

「1つ、アイリス達の開放。2つ、情報の開示。3つ、国外退去だ。この国に来るな、と言うのは、4つ目の条件だ」

・・・確かにそうだ。屁理屈にも聞こえなくはないが、筋は通っている。

「で?何をしに来たんだ?またザイクが居ないが、まさか?」

「安心して坊や。今回は本当に観光よ」

「ザイクは入院中だ。誰かにPTSDにされた」

それは可愛そうに。誰だ?そんな酷い事するのは?


「坊主、飯でも食おう。来い」

お!?

俺は、後ろ襟を掴まれると、引きずられるように、食堂の前まで連れてこられた。

「ねぇ、ここって美味しいの?」

「王都グルメナビだと、星3つだぞ。向こうの中華屋なら星26だぞ」

「星26にしよう」

おい!いつまで引きずっている?俺は行かないぞ!

「星26を食うまでだ」

くそ!俺の言葉なんか聞いてない。


で、中華屋の円卓に座らされた。

「好きなものを頼め。おごるぞ」

「あなた達のせいで、姉は苦しみました。今こそ恨みを晴らします。大食いして、お財布に大ダメージを与えます。

この、殺人激辛スパイシースペシャル肉丼を、辛さ増し増しで。更に肉大盛りです」

財布にダメージ当たっる前に、胃と尻にダメージ受けないか?

「いいぞ、食ってやるぞ。私の胃袋の恐ろしさを思い知るぞ。ラーメン、チャーハン、餃子、デザートはライチだぞ。全部大盛りだぞ」

お前も食うんだ。

「坊主、お前も頼め」

くっ!・・なんか変な流れだが、アリス達が頼んだ以上、俺が頼まないわけにはいかない。

俺の前だけお冷では、寂しすぎる。

「天津飯か?いやいや、中華丼の方も良いな・・」

「男は悩むな。食うものを選ぶのに、時間などかけるな」

「俺は熟考派だ。考えなしには動かん。って言うか、お前だって頼んでないだろう」

「ウェイトレスさん、俺はメニューの端から全部で頼む」

!?なんだと!麺類、ご飯もの、単品に点心迄、70近くはあるぞ。

「大人注文だぞ。こいつ出来るぞ」

「私も、殺人激辛スパイシースペシャル肉丼を、辛さ増し増し増しでね。更に肉は特盛りよ」

な、なんだと!?辛さ増し増し増しだと!

「待ってください。私は増し増し増し増しです」

「あら、対抗心が強いのね。燃えて来たわ。増し10倍よ」

「私は20倍です」

「50倍」

「100倍です」

「おいパルム止めろよ。食いものじゃなくなるぞ」

「・・・止めて止まる奴なら、苦労しないさ。坊主、わかるか?」

・・・苦労してるんだな。あんたも。

「食い物で遊ぶなだぞ!」

あ。アリスが切れた。


共に100倍になった。出てきた丼は、真っ黒だ。俺のレベルを下げた餡と同じ色だ。

悪いが離席する・・・辛さで目が痛い。

俺とアリス、パルムは、離れたテーブルで食事をすることにした。

「全く無益な闘いだ。飯は旨く食う。これ以外の理由などいらんのにな」

「そうだぞ。食い物は旨く食ってあげるのが、食材に対する礼儀だぞ」

「お?気が合うな」

「だぞ。気が合うぞ」

なに打ち解けてる。向こうは凄い事に成ってるぞ。

「おほほほ、全然辛くないわ」

「はい!まったく辛くありません!」

2人とも、泣きながらがら食ってやがる。


「ふぁぁぁ!食った」

あれ全部平らげたのかよ・・・化け物め。

「凄いぞ。見なおしたぞ」

大食いで見方が変わるのか?

「坊主、飯を付き合ってくれた礼に、何か一つ教えてやろうか?」

なに?マジか?

「聖剣だ!お前たちの狙う、九重の事を教えろ」

「ダメだ。仕事で得た情報には、守秘義務がある。仕事以外でだ」

「ねぇよ。知りたいのは、お前の仕事の・・・。いや・・」

「ん?」

「なら、教えてくれ。なんでエクセレントを裏切った?」

「・・・・裏切っては、いない。袂を分かち合っただけだ。勇者としての俺の考えと、女神としての奴の考えがな、違っていたからだ」

「何が違うだぞ?女神は世界の助けをするぞ。それを実行するのが勇者だぞ」

「ああ、そうだな。だが、現実は複雑だ。同じものを見ていても、同じ色に見えているとは限らない」

アルテミスと同じことを。

「あの唐辛子女神が担当なら、俺達もまだ勇者をやっていたかもな」

・・・・。やはりティナは・・良い女神なのか・・。

「そうだぞ、ティナは良い女神だぞ」

「だよなぁ!エクセレントみたいに、お固くなからな!お前らが羨ましい」

・・・・・・。

「おい。心ここに在らずってか?嫁の前で、女神に見とれて良いのか?」

ティナを眺めた視線が切れなくなっていた。

ティナの今までの言葉が、次々と浮かんできていた。

「いいぞ、今ケインは忙しいぞ。考えることが一杯だぞ。CPUフル稼働だぞ」

「ん?そうか、魔王との戦いが近いのか?」

「ああ、近い。だが考えが纏まらなくてな」

俺は何を言ってるんだ。こいつは敵だ。

「表に出ろ、勇者」

「なに?」

「俺が、考えを纏める方法を教えてやる」

なんだと!?


「ケインファン。どうふぃたのですか?」

俺とパルムが外で対峙した。ティナとセシルが飛んできた。

が、たらこ唇で言葉にならないようだ。

「その剣で掛かってこい」

「おい!今はお前たちの相手を・・・」

「実践ではない。只かかってくればいい。剣を振り回してな」

「・・・・」

「俺は攻撃はしない、受けるだけだ。お前の攻撃が当たればダメージだぞ。お得だろう。ノーリスクで、俺にダメージを与えられるんだぞ」

・・・確かに。おそらく奴は嘘は言わない。攻撃は無いと見て良い。これは倒すチャンスだ。

「ほお。やる気になったか?来い!勇者!」

「行くぞパルム!」

俺の剣技で倒すなど無理だ。なら策を弄すまでだ。


「ふぁらふぁら、はじまふちゃった」

セシルも言葉にならない。

踏み込んで、横からと見せかけて!下からだ!

軽く避けられる。

上からと見せかけて!横!

鼻で笑われた。

一度躱させてからの、突きだ!

余裕で鼻くそをほじってやがる。

「あれこれ考えるな!」

考えなしに動けるか!

「降り回せ!力の限り振り回せ!何も考えるな!」

それでは馬鹿だ!

「そうだ馬鹿に慣れ!どうせ当たらないなら、馬鹿になって振り回せ!」

くそ!当らない!


「ケインがムキに成ってるぞ」

「フェインさん・・・」


レベル・・格が違いすぎる!

「どうした?ハエでも追いかけてるのか?」

ちくしょう!

「俺にかすりさえしないお前が、魔王に勝つつもりか?」

五月蠅い!これとそれとでは違う!

1撃では済まさん!1.3撃くれてやる!


避け続けていたパルムが剣を抜く。ケインの振り回す剣を、自らの剣で払いのける。

「避けるのも疲れた。これなら楽だ、片手で済む」

くそ!くそ!


「ねぇ貴女、奥さんでしょ。そろそろ止めてあげたら?坊やでは当てられないわ。あの子、もうヘロヘロじゃない。ぶっ倒れるわよ」

セシルがアリスに言う。

「止めないぞ。男が意地で前に出てるぞ。それを止めるほど、野暮な嫁ではないぞ。倒れたら、私の愛で全力介抱してやるぞ」

「・・・・そう」


腕が重い。踏ん張りがきかなくなってきた。振り回してたせいだ。

だが、こいつだけは許さん。散々バカにしやがって!

「良い目だ。敵を倒すという、信念が伝わる目だな」

剣を大きく払いのけられた。3、4歩後ろに、体ごと持っていかれる。

「良い目だが、勇者の目でも、勇者の剣でもない」

なに?

「勇者の振るう剣に、怒りは不要。まだ、何も考えずに振り回した方がましだ」

!?

「俺に一撃入れるために、怒りに任せた剣。真の勇者は、己の信じるものを剣に託し、信念を貫く剣を振るう」

ぐっ!

「今の貴様は、届かぬモノを、怒りで手に入れようとしている、ただの駄々っ子だ」

く、く、くそぉぉぉぉぉ!!!!!なにが駄々っ子だ!一撃だけでも入れてやる!!

俺は剣を振り回した。力の限り・・・だが。



「食後の運動にはなった」

「お嫁さん、やさしく介抱してあげるのよ」

くそぉ・・体が動かない。目がかすむ。起き上がらないと・・・パルムが行っちまう。

「もういいぞケイン。立派に戦ったぞ。もう休むぞ」

ま・まだだ・・まだ・・たたか・・・・・・。

「気を失ったぞ。余程悔しかったぞ」

「図星だったろうからな。さて、戻るかセシル?」

「ええ。観光は終りね」

パルムがゲートを開く。

「待つぞ!」

「ん?」

「ありがとうだぞ」

「魔王討伐、頑張れよ」

「さようなら。お嫁さん」

2人はゲートの中に消えた。


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