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残念世界の残念勇者   作者: XT
4/96

魔王編 ④

「・・・・・・」

「目が覚めたかだぞ?」

・・俺は?・・・

「良く寝ていたぞ。やはり疲れていたんだぞ」

「!?ティナは!」

「まだ現れないぞ。大丈夫だぞ。勇者様は、何も心配しなくていいぞ」

アリスは、ベッドで上半身を起こした俺に、抱き着いてきた。

「勇者様を呼んだのは私たちだぞ。勝手に呼んでおいて、苦しくなったからと、攻めたりはしないぞ」

アリス・・・たった1日しか、一緒の時を過ごしていないが、

俺はアリスを、愛おしく思うようになっていた。


「アリス・・・」

俺はアリスの両肩を掴んだ。

「勇者様・・だぞ」

互いの目線は、逸れることが無く、もう言葉はいらなかった。

アリスは静かに横になる。俺はアリスの上になる。口と口が触れ合う。

「勇者様!約束のDVDだ!これを見て元気に・・・・」

レナが、部屋に飛び込んできた。


「既に元気になっていたようだな。では、私はこれを置いて戻るとしよう。あはははは、さぁ続きをやってくれ」

出来るか。

「マ、ママの所に、勇者様が起きたことを伝えに行って来るぞ」

アリスはベットに腰かけて、髪をいじりながら言うと、そそくさに出て行ってしまった。

「おしかったね~」

「レナコロス」

マオとターナが、テーブルの下から出てきた。

「お前ら、いつから居たんだ?」

「目が覚めたかだぞ~の前からだね~」

「結婚式では、ファーストキスの映像使う」

「全く、この国の連中は・・・」

「まぁまぁ、そう怒らずに、ですわ。親友の一大事を、友として見守るのは当然ですわよ」

「あんたも居たのか?」

アイリスはクローゼットの中から出てきた。

「あの子も意外とシャイですわ。レナさんに見られたぐらいで断念とは・・これでは女王の座は、当分譲れませんわね」

デリケートな行為だ。水を差されたら続けられるか!


「あ、ママ、ここに居たかだぞ。みんなも居たかだぞ」

アリスが戻ってくる。大分おめかしをしてきた。

綺麗な服、頭には髪飾り。戦闘態勢を整えに行っていたようだ。

「こいつら全員で、覗きをしようとしていたんだ」

「この世界では普通だぞ。見てる方も燃えるし、見られている方も燃えるぞ。一粒で二粒美味しいぞ」

「グリコか?・・・・俺の常識、通用しないんだな」

「勇者様が嫌なら、私の部屋に来るぞ」

アリスは、俺の手を引っ張る。

「お、おう」

俺は、アリスに手を引かれながら部屋を出た。


「ここが私の部屋だぞ。鍵もかけたぞ。誰も入ることはできないぞ」

アリスの部屋。

ティナの部屋同様に、綺麗に片付けられていた。

かじりかけの骨、ペットシートがある以外、普通の女の子の部屋だ。


「横に来るぞ。少し、お話しをするぞ」

アリスは、ベットに腰かけると俺を誘う。

「私は犬族だぞ。でもママのママは、普通の人間だったぞ」

アリスは話しを始めた。

「おばぁちゃんは、男日照りに耐えかねて、飼っていたセントバーナードのパトラッシュと交わったぞ。で、できたのがママだぞ」

「おい。犬と遣って、出来ちゃうものなのか?」

「生命の神秘だぞ」

神秘で済ませるんだ・・・。


「ママは天才だったぞ。1歳で魔法を覚えると、4歳では、敵う人はいなくなったぞ。5歳で魔法の師と共に、修行の旅に出たぞ。12歳で戻ると、女王の座を賭けて、この国の前女王に挑んだんだぞ」

「!?アイリスは、前から女王じゃなかったのか?」

「12歳で女王に成ったぞ。前女王は、重い税金を民に掛けていたぞ。一部の人間だけで贅沢をし、男を占領していたぞ。ママは税を撤廃し、民と共に、苦難を乗り越える道を選んだぞ」

アイリスって、すごい人なんだな・・・


「後17年で、勇者様が来る。勇者様に愛される国を作る。勇者様が守りたいと思う世界を作る。ママは3年で、この国を作り替えたんだぞ。そして16歳の春、王宮の庭で昼寝をしているとき、野良犬にやられて、私を身籠ったぞ」

いい話の中に、とんでもない話が混じってる!


「私はパパを知らないぞ。さっき勇者様に抱き着いたとき、男の人の背中の広さを知ったぞ。肩を握られたとき、男の人の力強さを知ったぞ」

アリス。

俺は、ゆっくりアリスを押し倒す。

「初めてだぞ。優しくするぞ」

俺も初めてだ。だが俺のアーカイブには、膨大なデーターがある。

任せろアリス。俺はアリスにキスをする。そして初めての・・・。



・・・・ここは?

草原?海が見える。

ああ、目の前にアリスが居る。

アリスは背を向け、海を眺めているようだ。

「いい風だぞ。気持ちいいぞ」

!?声は、俺の横からした。アリスは俺の隣に居る。

前に居るのは?・・アリスと同じ姿の少女は?誰だ?


前に居る少女が振り向く。アリスと同じ顔の少女。

「パパ!ママ!」

パパ?ママ?俺たちの娘なのか?

「また会えたね」

また?

・・・・・・・。


「起きるぞ、勇者様、起きるぞ」

ああ、夢か・・・あの少女は・・。

「ティナ様が現れたぞ。寝ぼけてないで表に出るぞ」

「!?あっ!ああ、すぐに行こう」

アリスの部屋。アリスのベット。アリスとのHは夢じゃないようだ。

だが、その後のあれは?夢?


俺は、アリスに連れられ、表に出た。

アイリス、レナ、マオ、ターナも既に来ていた。

「皆さん、見つけました。過去の事例を調べたんです。そうしたらありました!」

俺は勇者に成れるのか?

「はい。過去に1例だけ、勇者の資格を取りこぼした方が居ました。その時に取った策が『覚醒薬』です」

「危なそうな名前だぞ」

「覚醒薬は、本来スキルなどのステージを、上げるために使います。スキルレベル1→2と言った感じです」

「勇者スキルならわかるが、勇者そのものに効果があるのか?」

「はい。意外ですが有るんです。勇者様は今「5代目勇者(仮)で登録されています。覚醒薬を使う事で(仮)が外れて「5代目勇者」になります」

「よし!その覚醒薬は何処にあるんだ?すぐ探しに行こう」

「この世界のどこかにあります」

微笑みながらティナは言うが、世界は広い!

「無理ですわ!この世界と言っても、広すぎますわ。私たちは、人類域から出る事すらできないのですよ」

アイリスの言う事はもっともだ。

仮に人類域を出られても、世界のどこかでは、探し出す時間がない。


「えっへんです!そこで考えました。アイテムドロップ申請書の裏に『緊急案件。王都近隣を望む』と書いて、部長の印を拝借しました」

「うぁぁぁぁぁ不味くね?」

「落書きです。裏なんか普通見ません」

感情のこもらない声が帰ってきた。

「流石の私も、不味いと思うぞ。OUTぽいぞ。真っ黒だぞ」

「不味くありません。シロです。私はシロです」

さらに棒読みだ。・・・だが元はと言えば、俺の不始末。

ここはティナの努力に、ケチをつけてる場合ではない。

「分かった。よくやってくれたよ。感謝する」

「はい。頑張りました。で、来た回答がこれです」


ーーアイテムドロップの件ーー

日々の業務ご苦労様です。

お急ぎの案件、取り急ぎ対応いたしました。

王都西ダンジョン内へドロップを確認済みです。

なおこの書類は、速やかに破棄をお願いします。

アイテムドロップ課 1係


真っ黒だ!

だが、もう引き返せない。このまま何事もないことを祈るしかない。


「王都西ダンジョンなら、近くですわ」

「ああ、兵を引き連れ、ダンジョン攻略に出よう」

「久々の~大規模戦闘だね~」

「気合入る」

「良し準備にかかるぞ。出発は明朝7:00だぞ」

俺たちはダンジョン攻略の準備に取り掛かる。


俺はアイリスと、明日の装備選びをしていた。

「婿殿のレベルですと、剣はこれかしら?」

「それはペーパーナイフと呼ばれるものだ」

「盾は・・これぐらいですわね」

「折りたたみ傘と呼ばれているな」

「兜は、これが良いですわ」

「両手鍋だ」

「まだレベル1ですわ。いい装備はレベル不足ですわよ」

「まだ1回も戦ってないし、仕方ないが、まさかの勇者候補の姿がこれとはな」

ペーパーナイフ片手に、折り畳み傘を広げ、両手鍋を頭にかぶる。

「これも使えますわ。防御マントですわ」

「唐草模様の風呂敷だ。小学生のやる怪獣ゴッコになった。

「今時の子はやりませんわよ。昭和テーストですわ」

なぜ昭和とか知っている?

「ママ!ママ!大変だぞ。大変なことだぞ」

アリスが飛び込んできた。

「どうしましたのアリス?」

「一発受胎したぞ」

「!!!まぁ!!!!告知は、告知があったのですね」

「あったぞ。女の子だぞ」

受胎?妊娠の事か?

って、さっきやったばかりだぞ?

「婿殿!!!」

アイリスが抱き着いた。

前の時とは違う。これは喜びの抱きしめだ。

「婿殿!よくぞよくぞ・・・」

涙で言葉にならないが、喜んでいるのは確かだ。

「勇者様、うれしいぞ。私たちの娘だぞ」

 

娘!?  

   「パパ、ママ。また会えたね」

俺の脳裏に、夢の中の少女が浮かなんだ。


「残念ですが、アリスはダンジョン攻略には、不参加ですわ」

「この世界では、Hの後に受胎告知があるぞ。他の世界より早いぞ。特に犬族は、生まれるのも成長も早いぞ。今は大事な時期に成ったぞ。明日のダンジョンは、行けないぞ」

「ああ、体を大事にしてくれ。俺たちの娘を産むんだ」

「夜も一緒には寝れないぞ。生まれるまでは、他の人で辛抱してほしいぞ」

ここで、他の人が出てくるのが、この世界特有だな。


「婿殿の下半身は、私が守りますわ」

ウぁぁ。もう枕抱えてるよ。

「ダメだぞママ。明日は大事な闘いが有るぞ。ママの相手をしたら、干からびちゃうぞ」

淫魔・・レベルだったな?

「大丈夫ですわ。先っぽだけなら、大丈夫ですわ」

男が、嫌がる女に言うセリフだ。

「今日はマオの所に泊まると良いぞ。ママの側は危険だぞ」

ああ、わかった。マオの所に行くとしよう。

俺は逃げるように王宮を出た。でもマオの家ってどこだよ?


とりあえず庭に出た。外壁に向かい歩き出す。

3つある月の明かりが、足元を照らす。

思えば3日前は、まだ日本という世界に居たな。


5年ほど前に、ディーバと言う馬鹿女神は、日本と言う国に俺を召還し「世界を救ってみない?」と言うと、俺を、レベル300の勇者にした。

剣や鎧、盾などの装備は支給され、結構な良品だった。

俺は7回目の挑戦として、仲間を集うべく街に出る。

が、この国の衛兵に捕まる。

「銃刀法違反」とかいう法律違反で投獄された。


1年間の獄中生活を終えて、戻った俺を待っていたのは、ディーバのあざ笑う姿だった。

「まさか、あの格好で出て行くと思わなかったよ~」

俺は引き籠った。毎日ゲーム三昧の日々。

この世界と違い、日本と言う世界は、世界そのものが腐っている。

が、引き籠るには、良い環境の世界だった。


そして2日前、俺はこの世界に来る。激動の2日間だった。

今、冷静に思い返しても、大人の階段を上り、妻(内縁)と、娘(母胎内滞在中)が出来た。

2年分が、2日で・・・と言う感じだな。


外壁に辿り着く。

左右どちらかに行けば、門ぐらいあるだろう。右か?左か?

右の気分だ。

「お待ちなさい、勇者よ」

!?不意に後ろから声がした。

振り向くと、光り輝く美女、たぶん女神だ。

「私はアルテミス。女神です。アリスの守護者にして、NPO「女神慈善友の会」に属しています」

「アリスの守護者だと!?」

「アリスに至福を与えたあなたに、啓示を与えます」

「!!神の言葉か!?」


「あなたはいずれ、重い2択に迫られるでしょう。何方を選んでも、バットエンド。アリスの事だけを見て、第3の選択を選びなさい」

「どいう事だ?」

「これは運命です。道はあります。アリスを想う心が道を示すでしょう」

「ちょっと待て!具体的に頼む。いつなんだ?それは?」

「規則で具体的には言えませんが、いつかは大体の時期を教えましょう」

「緩いな。大概言い終わると消えるんだが・・・」


「聞きなさい、神の声を。シーズン3の後半で、あなたは重い2択に迫られます。何方を選んでもバッドエ・・」

「待て待て」

「はい?」

「シーズン3ってなんだ?」

「今がシーズン1の序章、事が起こるのがシーズン3の後半です」

「遥か未来の話だ!?」

「運命です」

「運命ですじゃない。それより、マオの家を知らないかな?」

「神の啓示で啓示です。マオさんの家は、西門を出て、広場をまっすぐ(以下略)です」

アリスの守護者とやらが、役に立ったが、全く女神という連中は・・時々わけのわからんことを言い出す。


ここがマオの家か。深夜に女性の家に押し掛けるのもアレだが・・。

「いらっしゃ~い~勇者様~」

!!ドアから出てきた。まだ呼び鈴は押してないぞ。

「ピーちゃんが気が付いたんだよ~」

「ピーちゃん?」

「いらっしゃい、ケイ・・いえ、勇者様」

声はするども、姿は見えず、ほんにあなたは屁のような。

「まぁ、都都逸もご存じなのね」

マオの肩に乗る鳥が、しゃべってる様な気がするが・・

「正解よ。私がピーですよ」

って俺、声に出してないぞ!

「ピーちゃんは~テレパシーで会話するんだよ~」

「さぁ、夜も遅いし、中へどうぞ」


「ピーちゃんは~料理、掃除、洗濯~完ぺきにこなす鳥さんなんだよ~」

カナリア程度の大きさの鳥が、料理?掃除?洗濯だと?

「ピーちゃん~お茶入れてくれるかな~」

「いいわ。勇者様もお茶でいいかしら?」

「ああ。お願いします。!!」

一瞬で目の前のテーブルに、お茶が並ぶ。

「美味しいコーヒーゼリーがあるのよ、召し上がる?」

「あ、ああ。頂きます」

また一瞬でコーヒーゼリーが、俺の前にスプーン付きで現れる。

「凄いでしょ~ピーちゃんは~超能力鳥なんだよ~何でもできるんだよ~」

マジか?ピーちゃんだよな?くーちゃんじゃないよな?

頭のピンクのアレ、制御装置だったか?刺さってないよな?


「ねぇ、マオ。魔王を倒す戦い、私も協力するわね」

ピーちゃんは、器用にお茶を飲みながら、マオに伝える。

「うんうん~一緒に戦おうね~」

マオは、種?ひまわりの種を食べながら答えた。

「超能力鳥なら、大きな戦力だ。大歓迎だよ」

「それから勇者様。おめでとうございます」

「アリスの事かな?」

「びっくりだよ~いずれは遣っちゃうと思ってたけどさ~まさか~1発受胎だとはね~羨ましいよ~」

よく知ってるな。

「アリスさんの喜びが伝わったのよ。それは強い喜びの感情で、国全体に広まったわね」

「読み取れるのは~ピーちゃんだけだけどね~」

アリス・・嬉しかったんだな。

「で~逃げて来たんだよね~女王陛下から~」

「ああ、よくわかるな。それもピーちゃんか?」

「アイリスの淫魔ぶりは一部で有名よ。アリスが大事な時期に入ったら、狙うのは当然だわ」

あははは・・有名なんだな。

「明日は早いよ~今日は寝ようね~」

マオは迫ってこなかった。

これもアリスのプリンセス特権のせいかな?


俺は、マオの横でよく寝た。

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