表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残念世界の残念勇者   作者: XT
37/96

魔王編 ㊲

王都に戻った俺たちを待っていたのは、グリス率いる魔獣軍だった。

「おお!皆さんご無事で」

グリスとミネルバに出迎えられた。

「ティナ様より、アイリス様、アリッサ様が誘拐されたと連絡を受けました。王不在中の為、私が軍を率いてまいりました」

「王都を守ってくれていたのか?」

「はい。敵の出現時に、守るべくは王都。王より常々、仰せつかっておりました」

ハウルが続けた。

「貴様達のような、ひ弱な種族は、真っ先に食いつくされるからな」

河童王、おまえ・・・俺たちの事を考えてくれていたのか?

「嬉しいぞ。やはり魔獣とは仲良くするぞ」

「ハウル様、グリス様、ミネルバ様、ありがとうございますですわ」

河童王や猛禽類と呼んでいたが、これからは名前で呼ぶことにしよう。


「とりあえず王都は無事だぞ。敵はパルムの一味だけだったぞ」

「ケインが~こっぴどくやらかしたから~当分は来ないよね~」

「パパの快勝、初めて見た!カッコよかったよ」

おお、俺の武勇伝に、新たな1ページが刻まれた一戦だった。

「マイナスレベル勇者」

・・・それも刻まれたな。

魔都から帰った俺たちは、ティナの勧めで、しばしの休息をとることにした。



勇者チームのメンバーは、それぞれの職を持っている。

アイリスは女王、アリスはプリンセスとして、女王の補助をしながら、王都軍の最高指揮官も兼ねていた。

その軍の運用はレナが、任されている。

セレスは200年眠っていたので、今はレナの補佐をしていた。

ターナは、妖精族族長、魔獣王妻だ。

マオは、街の商店で、ヒマワリの種屋を営んでいる。

俺がこの世界に来てからは、忙しい日々で、本業がおろそかになっていた。

それぞれが、この休息の期間を、自分の仕事に専念していた。

俺は暇だ。


「ケイン、ごめんだぞ。午前は商店街の会合に出るぞ。午後は軍の会議だぞ。アリッサの送り迎えは任せたぞ」

「ああ、忙しそうだが、無理はしないでくれ。アリッサは任せろ」

俺の仕事は、アリッサを王都幼稚園に送り迎えすることだけだ。


「パパ!準備できたよ。いつでも出撃できるよ」

アリッサはまだ1歳児だ。

見た目は18歳前後だが、実際は1歳児なのだ。本来幼稚園も早いが、王都の制度に飛び級が無いため、現在は王都幼稚園 新選組に通っていた。


「よし、行くか。って、アリッサ、聖剣は持ち歩かない方がいいぞ」

「ダメだよパパ!いつまたパルムたちが襲って来るかも分からないよ」

「まぁそうだが、またお遊戯の時間に爆炎斬を放つと、パパが呼び出される」

「1日1回打たないと腕が鈍っちゃうよ」

どこかの魔法使いのようだ。

「撃つなら帰ってきてからな」

「わかった!なるべく我慢するね」

アリッサは素直ないい子だ。俺は幼稚園までアリッサを送る。


ここから夕方まで、俺はやることが無い。

勇者と言えば聞こえはいいが、実のところは不定期労働者だ。

休息期間に入り、早2週間。俺は時間をもて遊ばせていた。


帰り道、マオの店による。

「いらっしゃい。ケイン」

ピーが出迎えてくれる。

店には、ヒマワリの種以外の商品は無い。

何処需要なのか、未だに不明だが、経営は問題ない。

ピーが投資で、マオの資産を増やしまくっている。

「マオは、まだ寝てるのよ。あの子、遅くまでターナとネトゲしててね」

マオとターナはネトゲ仲間だ。毎晩世界を救う戦いをしているらしい。

「やたら課金するから、会社ごと買い取ったの。今はチート英雄よ」

運営が勇者をやるのは反則だ。


店の前を軍が隊列を組んで通る。

「ケイン!これから魔王軍と模擬戦闘だ」

率いるのはレナだ。

「みんな強くなってるわよ」

セレスも居た。

軍人たちは皆、体中に包帯を巻いていた。日々の訓練の過酷さが伺える。

「そうだケイン!お前も参加しないか?勇者として戦闘訓練はやっておいた方がいい」

確かに。暇だし参加してみるか?

「ダメです。今は休息中です。勇者ポサが出ることは禁止です」

ティナが来た。


俺がこの世界に来てから、動きっぱなしなことを気にしたティナが、この休息期間を決めた。

期間中は、戦闘などの勇者の行動は禁止されていた。

「ケインさんは働きすぎです。勇者は労災が下りないんです。過労死したら、上の責任になります」

セシルに言われたことが、気に成っているようだ。

が、俺的には動いていた方が、楽なのだが・・。

「そろそろ暇で、苦しんでいるころだと思って、お誘いに来ました」

お!?何かやることがあるのか?

「はい。天界主催の将棋大会「ご町内名人戦」があるんです。ケインさんは戦略家なので、将棋は得意ですよね」

将棋か?駒の動かし方ぐらいは知っているが、得意と言うほどではない。

将棋は、インチキができないからな。

「では、止めておきますか?エントリーはしてあるんですが」

いや、暇だから行く。気晴らしに成る。

「はい。では暇そうなお三方で行きましょう」

俺以外にも?

「はい。マオさん、セイレーンさんは、やることがありません」

マオは確かに暇そうだが・・セイレーンもなのか?

「はい。トーレフ様とルピさん、ルカさんに、今回からマリーさんが加わった科学班が忙しくて、支援機の2人が遊んでくれないと、泣いていました」

なるほど、良し!3人で行くか。

俺達は、ティナの誘いで、ご町内名人戦に参加することになった。



ご町内名人戦

100年に一度、各世界の将棋名人たちが集う、将棋大会の最高峰。

天界ヴィーナス家が主催。


おい。

「はい」

はい、ではない。ご町内じゃ無いじゃないのか?

「天界では下界を「ご町内」と呼ぶ隠語があります」

プロ中のプロ連中だろう。俺達で勝負になるはずがない。

「ケインさんは、勇者ランク歴代7位のチームリーダーです。司令塔です。同じ戦力の相手と戦略戦なら、引けは取らないはずです」

はずです、ではない。定石も知らない俺が、勝てる相手ではない。

「そこを何とかするのが~ケインだよね~」

いや、将棋にイカサマは無い。実力勝負の世界だ。

「私に任せてください。世界中の将棋ソフトはインストールしました」

最近は、コンピューターのほうが強いから、セイレーンには期待だな。

「はい。皆さんはチームとして戦います。3人で2勝したチームの勝ちです。

 対戦相手は、間もなく勝ち上がる「日本将棋協会」チームだと思います」

いきなり強敵だな。

「はい。因みにこれが決勝戦です。勝てば100年間、将棋王「将王」の冠が使えます」

なんだと!?

「我が家主催の為、ケインさん達は超シードです」

「燃えて来たね~」

「久々の出番です。頑張ります」

いや、普通にミリだから。にわか仕込みで勝てる相手ではないから。

「ケインさん。この戦いは、世界中に放送されます。現存勇者チームで、ランクINしているのは、ケインさんのチームの他、2チームだけです。此処で世界に名を売れば、今後の活躍の場に幅が出ます」

今後だと?

「はい。魔王を倒した後のケインさんは、休息期間と同じ日々が続きます」

!!確かにそうだ、俺は魔王が居なければプー太郎と同じだ。

やることが無い。

「はい。そんなケインさんでも、ランク7位の実績と、名が売れていれば、他の世界から引く手甘子です」

なるほど、これは俺にとっての、世界デビュー戦、と言う事だな。

「そうです。「将王」の冠は、ケインさんにとって、今後の人生を変える可能性があります」

毎日暇を持て余すなんてまっぴらだ。なにがなんでも、勝ちにいかなくては。

「おっと~ケインが~燃えて来たよ~」

「私たちも、世界に名を売るチャンスです!頑張ります」

負けられない戦になった。


「作戦会議だ。セイレーンは将棋ソフトで、戦えるんだよな?」

「1秒間に80億手先まで読めます。対戦相手の対局後の行動まで読み切れます」

「よし、セイレーンで1勝だ。まず1戦目はセイレーンで行こう」

「私が2戦目だね~」

「いや、俺が行く。マオは俺が負けた時の保険だ。マオには必勝法を授ける」

策を駆使して、なんとしても勝つ。勝って俺の未来は安泰だ。



「ケインさん、やはり対戦相手は「日本将棋協会」になりました。パフ9段、ワタハベ9段、プジイ7段。強敵です」

なんか違和感があるが、俺の知る名だたるツワモノたちだ。

「はい。多少の不正は、運営の私たちがもみ消します」

女神が言っていいのか?

「しかし、対局は世界中に放送されます。露骨なのは無理です。気を付けてください」

ああ、俺の策なら、ギリOKなはずだ。


「ポンポンパンパン♪間もなく決勝戦、第一局を開始します。対局者は対局室へ移動してください」

アナウンスだ。俺たちは控室のモニターでしか、対局を見ることが出来ない。

セイレーンには、3つの指示を出してある。

1つ。持ち時間を使うな。機械の優位性を出す。

相手は人間だ。考えるために時間を使う。セイレーンは、相手の考えている間に、考えるようにして、自分の時間は使わない。

これだけで、相手を追い込める。

2つ。無表情、オーバーアクション、奇異行動だ。

機械相手は成れて居ないはずだ。機械族を知らないことを利用して、集中力を奪う。

3つ目は秘密だ。

オペレーションネームは「まいっちんぐセイレーン」


「対局室です。決勝戦第一局は、日本将棋協会より、プジイ7段。数々の新人賞を総なめにした天才棋士。実力は、既にトップクラスと言われた高校生です。

対するセイレーンさんは、機械族と言うロボットさんですね?カモミール代表で、世界を滅ぼせる兵器とのことです」

アナウンサーによる両者の紹介が済んで、振りごまの結果、セイレーンが後手となった。


「解説は、タニカワ日本将棋協会会長です。会長、よろしくお願いします」

「はいはい。相手の棋力は不明ですが、わが協会が誇るメンバーが負けるとは思えません。高速の寄せで3連勝です」

誰だ。身内びいきな解説を呼んだのは?

「では、対局室、お願いします」


プジイ「よろしくお願いします」

セイレーン「ヨ・ロ・シ・ク・ククククク・・オネ・・ピーーーーー」

挨拶の段階から、セイレーンの奇異な行動で、相手の動揺を誘う。

無表情で、これをやられれば、心穏やかには指せまい。

「先手、プジイ7段。2・6歩。後手、セイレーン兵器さん。8・4歩」

プジイ7段がコマを置いた瞬間、セイレーンも1手指す。


「解説の会長。セイレーンさん、随分とロボロボしていますが、大丈夫でしょうか?」

「我々も、コンピューター相手の対局を経験しています。ロボでもマジックハンドでも、たいした変わりはありません」

「随分と早指しですが、そのあたりは?」

「プジイ7段は、早指し将棋も得意です。問題ありません」

くそ!意外とメンタルも強いな。


対局は中盤へと進む。

お互い一歩も譲らぬ、好勝負だ。

が、こうなった時に、セイレーンには策を伝えてある。

「!おっと!これはセイレーン兵器さん!上着を脱いでトップレスです。会長!これはルール違反では?会長?会長?そんな、がん見しないでください!全世界放送です」

どうだ?ルールブックには、肌をさらしてはいけない、とは書いてない。

相手は高校生。これで集中出来るはずはない。


「今、協会側から審議の要請です。運営にルールの確認が要請されました」

「情報が入りました。他にも別件で、審議を要請したもようです。コンピューターソフトの使用疑惑です。

セイレーン兵器さんは、使用が禁止されている将棋ソフトを使っているのでは?と言う内容です」

「・・・」

「会長はがん見中の為、解説は中断しています」

運営はこちらの手の内だ。反則扱いにはならない。


「運営のティナです。今2つの件で日本将棋協会さん側から、審議の要請がありました。

1つ目は、セイレーンさんがトップレスとなった件。

これは機械族のシステム上、極度にCPUを使用した際、放熱が必要な為、衣類を脱ぐのは、正当な行為と判断します。

2つ目は、不正に将棋ソフトを使用した件です。

ドーピング検査の結果、不正薬物の使用は確認されませんでした。

以上の理由で審議要請の答えとし、対局続行です」

だな。


「続行です!運営は続行の判断です。プジイ7段、目が血走ってます。目線が盤面に向けられていません。プリンの上のサクランボから、目線が切れないまま、自陣の角を手にしたぁ」

さぁ、止めだ。遣れ!セイレーン!

「あん!いや~~ん!まいっちんぐ~」

プジイ「!!!!!」

「無表情のセイレーン兵器さん、なんと可愛らしい顔での恥ずかしがり。プジイ7段、持っていた角を盤面に落とした!筋違いのマスに落ちた!これは反則手です!」

俺達の勝ちだ!


「ケインさん!私遣りました!」

ああ、お疲れ様。ナイスまいっちんぐだ。

「次はケインだよね~」

ああ、できればマオには回したくない。手の内は、晒さずに勝ちたいからな。

俺で決めてやる。

「ケインさんなら、大丈夫です」

ああ。任せろ。ここで決める。俺は第二局の対局室に向かった。

「第2局。対局者紹介です。ワタハベ9段は、漫画にもなるほどの人気です。対するケインさんは、勇者です。しかも歴代7位の勇者さんです」

俺が先手だ。俺に先手を取らせたことを敗因と思え。

「では対局を始めてください」

ケイン「お願いします」

ワタハベ「お願いします」

さぁ、俺の第1手は・・・これだ!

5・10玉!消える王様だ!

俺は、駒台を玉の下側に置いて、玉を駒台の上に逃がした。

「駒台の玉は、中々捕まらないぞ。俺が小学生の頃に見つけた必殺技だ」

ワタハベ「審議だぁ!!!!」

「え?」


「運営のティナです・・・えっとぉ~反則・・かな?」

流石のティナも苦しかった。

控室で、マオとセイレーンに怒られた。


第3局は次回だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ