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残念世界の残念勇者   作者: XT
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魔王編 ②

「あれが王宮だ!」

レナが指さす遥か先に、僅かに霞み見える塔。

「ここ迄来れれば、迷う事はないぞ」

「魔獣も居ないしね~」

「楽した」

神の加護のおかげだな。

「勇者様、今のうちに世界について話しておこう」

「ああ、そうだな。早い内に聞いたほうが良いな」


レナの説明だ。

この世界はカモミール。複数の種族が住んで居る。

人類域と呼ばれる、俺たちのいる域は、大陸の1%にも満たない。

かつての魔王の襲撃の際、大陸を支配していた人類は、領土の大半を失ったらしい。


俺たちの敵は、魔獣と魔王軍。

魔獣は、呪いにより、人が魔と化した姿だ。人類域の周りに生息し、高い戦力を持つ。最近では、高い知性を持った個体が現れ、個々だった魔獣達を一つに統治したらしい。


魔王軍に関しては、まるで情報がない。

200年かけて魔王の召喚を行う組織、と言うぐらいだ。と、いうのも、魔王軍は赤道より下、つまり南側を領地としている。人類域は、西北側の海岸線、ほんの僅かな土地だ。周りには、戦力の高い魔獣が居る。

魔獣のエリアを抜けて、魔王軍の領地に辿り着くことすら、できないのだ。


「魔獣は、敵だけど、味方でもあるぞ」

「??」

「ああそうだな。昔は所かまわず襲ってきたが、今は魔獣王『ハウル』が、全体を統治している。社会性が高まって、規律正しく動いている」

「人類域の中には、絶対に入ってこないぞ。人類の絶滅は、魔獣も困るからだぞ」

「困る?魔獣が困るのか?」

「呪いの効果、魔獣にもある」

「魔獣は~私たちとは~男女の呪いが逆なんだよ~」

「オスばかり、メスいない」

「寿命が長いからな。私たち程は、切迫はしていないようだが、いずれ絶滅するだろう」

「女神が加護してくれるのは、私たちだけだぞ。魔獣は、サービス対象外だぞ」

「魔王は魔獣では倒せない。勇者じゃなければ倒すことが出来ない。故に彼らは、人類が居ないと困るんだ」

「なら、協力すればいい」

ぱっと出た言葉だが、的は得ているはずだ。

「それ程の信頼関係はない。今でも人類域の外に出れば、容赦ない攻撃が来る」

「でも、魔獣が私たちの周りにいるおかげで、魔王軍は、直接私たちを攻撃することが出来ないんだぞ」

「なるほど、複雑だな。おいおい考えよう」

「おいおいでは遅いぞ。今が3月だぞ。来年の3月で、前回の魔王襲撃から丁度200年だぞ。1年しかないぞ」

1年だと!?たった1年なのか?

「ああ、そうだ。それに関しては、ティナ様も心を痛めていた」

「なぜもっと早く?準備期間が足らなすぎる」

「ティナ様は、早くから勇者様を見つけていたらしいが、すでに他の女神様が召喚した後だったそうだ」

「ディーバか?」

ディーバは、俺が元居た世界で、俺の担当だった女神だ。根性が悪く、俺を見下している、俺が一番嫌いな女神だ。

「そう~聞いているよね~」

「貸し出しの交渉に時間がかかり、予定より大分遅れてしまったそうだ」

「ディーバの奴!嫌がらせだ。あいつは根性が腐ってやがる。女神の中で最悪の奴だ」

「だが、こうして貸出の許可をくれたから、勇者様は此処に来られたわけだ」

「ギリギリに貸し出して、俺を失敗させる。俺をあざ笑う為だ」

「まさか、女神様がそんなことをだぞ」

「いいか、女神だからと信用するな。俺が見た女神たちは、お高いか、馬鹿かだ」

「ティナ様は・・・」

ターナ、気持ちは分かるが、俺は何人も見て来たんだ。

「バカの方」

「・・・お、おう。何となく、そんな気はするな・・」

「バカもある意味、褒め言葉だぞ。ティナ様は良いバカだぞ」

まぁ、無い物をねだっても、どうにもならん。

1年か・・きついがやるしかない。


マオが、駆け出して先行する。

「この道なら知ってるよ~」

「ああ、王都まで、もう少しだ」

「無事勇者様を連れてこれたぞ」

「何もかも皆懐かしい」

「加護で戻れたが、あの場所は、遠かったのか?」

「3週間の距離だ。我々が出発したのは、3カ月前だがな」

「良く~辿り着いたよね~」

「奇跡だぞ」

「手持ちの食糧、行きで無くなった」

薄い氷の上を歩き回ったようだ。


どどど~~~ん!!!

「!?」

「案ずるな。あれは、出迎えの祝砲だ」

「いや、俺たちのいる場所から、20m程の所が吹き飛んだぞ」

「間違えて実弾入れたんだぞ。よくある話だぞ」

「よくあるのか!?」

「当たらなければ、どうと言うことない」

「名言だが、当たれば終わりだ」

どどど~~~ん!!!

どどど~~~ん!!!

「ほら~今度は~音だけだよ~」

一歩間違えば、物語が終わっていたな。


城壁の向こうに城が見える。あれが王宮だな。

「おお!国民が出迎えに出てきてくれたようだ」

遠くからでもわかる。

大勢、いや大軍だ。オームの群れだ。こっちに向かって押し寄せてくる。

「ざっと8215人だな。国民の38.728%だ」

ざっとじゃない。

「みんな、勇者様を守るぞ」

アリスの号令で、アリスとレナが俺の前で壁になる。

マオとターナは、更に前に行き横に並ぶ。


迫りくるオームの群れ。

全員美人美女だが、これほど多いと、オームと同じ恐怖を感じる。

マオが大きな声で叫ぶ

「そこまでだよ~それ以上進むと~男性接近罪になるよ~」

「男性接近罪?」

「男は国の宝だぞ。許可なく5m以内に接近すると、罪に問われるぞ」

「罪は重い。3年から5年の自慰禁止だ」

猛突進してきた民衆は、ぴたりと止まる。


「勇者の挨拶。心して聞け」

ターナ・・俺、挨拶するなど聞いてないぞ。

「聞け!愚民共!勇者、魔王を倒す」

ターナが勝手に挨拶してくれた。

「人類、勝利!」

大地が揺れる。大歓声が巻き起こる。

「ターナは、大衆の心を掴むのが上手いぞ」

ヒットラーみたいな奴なんだな。


「ちょ!ちょっと通して、あ・・痛い。そこ踏んだらダメですわ」

四つん這いになりながら、一人の女性が、民衆の中から無理やり出てきた。

「女王陛下!」

レナが駆け寄り、手を貸した。

「勇者様~女王陛下アイリス様ですよ~」

この人が国のトップ。女王陛下・・

アリスと同じブラウンの髪は、肩で奇麗に切り揃えている。

優しそうな顔、品の良さがにじみ出ていた。


「ようこそ勇者様。私は女王アイリス。わたくし達のために、来ていただけたことを、心より感謝いたします」

スカートの端を軽く持ち上げ、礼をする。

「出来ることは全力でやる。協力を頼む」

再び大地が割ればかりの歓声と、勇者コールが巻き起こった。

      俺は歓迎されている。

この世界は、俺を歓迎してくれている。と、実感できた。


「みなさん、よく大役を果たしてくれました。流石は、王都が誇る最上位チームですわ。ご苦労様でした」

・・今何と?

最上位チーム?この4人が?

「ママ!ただいまだぞ」

・・今何と?

ママ?アリスのママ?

レナ、説明プリーズだ。


「我々は王都では、断トツ1位の優秀なチームだ。そしてアリスは、この国のプリンセスだ」

「なんだと!」

「勇者、信じてない」

「疑いの眼だね~」

いや、だって4人ともヒーラーだし、戦力は殴る蹴るだ。その中の一人がプリンセス?疑いたくもなる。

「まぁ、いずれわかるさ。我々の凄さがな」

無い胸を張って言われるとなぁ。


「さぁ、勇者様、歓迎の宴ですわ」

俺のために、宴まで開いてくれるのか?

「当然だぞ。この世界を守るために、遥々来てくれた方だぞ」

嬉しいな。

「その前に宣言をしておくぞ」

??

「みんな、よく聞くぞ!私はプリンセス特権として、勇者様に男性確保権を使うぞ!」

8000人を超す民衆から、大きなため息が漏れた。

「これで勇者様へのアタック権は、私にあるぞ」

「どういう事なんだ?」

「この国は、男性が少ないのですわ。国の維持のために、プリンセスには生涯1回だけ、特定の男性への独占アタックチャンス権が与えられますわ」

「これで私以外の女性は、勇者様にアプローチ禁止だぞ」

俺へのアプローチ禁止だと?

「俺のモテモテ計画が!?」

思わず本音の漏れた俺に、レナが耳打ちした。

「バカを言うな。アリスは身をもって、勇者様を守ったのだ」

「なんだと!?」

「考えても見ろ、8000を超す女性から迫られるんだ。捌き切れると思うのか?」

!!た、確かに。

「アリスは~8000人の不満を受けてでも~勇者様を守りたかっただよ~」

「体を張る女」

・・・・そうか。なのに俺は・・

「勇者様が気にすることはないぞ。こんな世界がダメなんだぞ。私の権利は、考えなくていいぞ。勇者様が気に入った女性が居れば、私に構わず交際するぞ」

「女性から迫るのはダメでも、俺からなら良いのか?」

「ええ、この世界に、男性の制約はありませんわ。男性は、神にも等しい存在ですわ」

神・・それ程なのか。

「勇者様が死ねと言えば、みんな喜んで死ぬぞ。勇者様の願いを叶えた英雄になるぞ」

「!?・・・・」

流石の俺も、事の重大さに気が付いた。

俺の一言で、みんなが言いなりになる。言葉次第で誰かが死ぬ。

「勇者様が望めば、この世界は思うがままですわ。彼方に逆らえる者などいませんわ」


「俺は・・・俺は勇者だ。誰も死なせたくないし、誰も不幸にしたくはない。自分に恥じる行為などするもんか!」

アイリスが俺に抱き着いた。

「ティナ様の目は確かですわ。彼方は、本当にいい子。愚直に真っ直ぐで、ぶれない魂を持つ強い子ですわ」

女王陛下!?胸が当たる。顔が埋まって・・

「過去の失敗は気になさらずに。彼方の真っ直ぐに、周りが付いてこれなかっただけですわ。わたくし達は付いていきます。彼方の手となり足となり、あなたの思うがままに」

!!この人は気が付いてくれている。

俺は、今まで勇者として、いろいろな世界で戦った。

だが、周りは協力的な奴ばかりではなかった。

俺の策を信じてくれないやつら。

俺のやることにケチばかりつけるやつら。

俺の指示を守らなくなったり、挙句に仲間割れを始めたり。

俺は、思う戦いが出来たことはない。


「私の事は、アイリスと呼んでください」

アイリスは、力強く俺を抱きしめる。胸に顔を埋められ、左右に揺さぶられ・・・

今は股間に添えられた手が、やさしく動き出していた。

「ママずるいぞ。アタック権がある私を差し置いて、勇者様への肉体的接触は違法行為だぞ」

ああ、やっぱりこれは、アプローチだったのか。

いい話の流れで、つい身をゆだねてしまった。


「惜しかったですわ。もう少しで8000人の前で、既成事実が作れましたのに。おほほほ」

「ママには気を付けるぞ。女王としてのママは超優秀だぞ。でも、女としてのママは、淫魔レベルだぞ」

お~自分の母親を淫魔扱いか。

「私たち犬族は、貞操観念が薄いのですわ」

「犬族?・・アリスも犬族なのか?」

「そうだぞ。気が付かなかったかだぞ?私の尻尾、スカートの中に入れてるけど、毛先が少し、下から出てるぞ」

アリスのスカートは、膝上ぐらいまでだ。確かに尻尾の先が出てる。

気は付いていたが、尻尾とは思わなかった。

「いや、気は付いていたが、ファッションかと思って、突っ込まなかった」

「ファッション~?あれがぁ~?」

マオの疑問は確かだ。

言葉を選んだのだが、ここは正直に言おう。

「陰毛を伸ばしてるのかと・・・」

「なんでこれが陰毛だぞ!こんなに伸ばす奴はいないぞ。こんなに長ければ、陰毛で髷が結えるぞ」

自分の尻尾を握って見せながら、猛反論が来た。

「尻尾とは思わなかった。すまん」

俺たちのやり取りを見て、ターナが初めて笑った。


「さぁ、王宮へ参りましょう。魔王についてのお話もありますわ」

「勇者様は、王宮内に部屋を用意したぞ。私がコーディネートした部屋だぞ。楽しみにするぞ」

それは楽しみだ。

俺たちは、8000人の美女国民を従え、王都に行った。


「ここが王宮、玉座の間ですわ」

いたって普通の、王が居る部屋だ。

衛兵が居て、おつきのメイドたちが並ぶ。

円形のうねうね動くベットが無ければ、いたって普通の玉座の間だ。

「さぁ、勇者様、わたくしの傍へ」

裸のアイリスが、波打つベットの上から。おいでおいでをしている。

「俺に、その動くベットに来いと?」

「カモンですわ!受け入れ態勢は24間準備OKですわよ」

淫魔レベルと言うのも、わかる気がするな。


「ママ、今は真面目な話からするぞ」

アイリスの顔つきが変わる。凛とした顔に戻り、服も着た。

「アイリス様の女王様モードだ」

「このモードは~頼りになるよね~」

「完璧女王降臨」

なるほど、モードを切り替えれば、いいんだな。

メモしておこう。


「勇者様、我々には時間がありませんわ。1年と言う限られた時の中で、戦う準備を済ませなければなりません」

ああ、さっき聞いたよ。時間がない。すぐにでも動かないとな。

「王都絶滅まで、後365日」

ターナ、ヤマト風に言うな。


「そこで我々は、勇者様が来る前から、出来る準備を済ませてあります」

それは凄い。流石名女王だ。

「勇者様が、来てくれると信じていたぞ」

「ああ、我々の準備は、無駄にならなかった」

「そうだね~色々やっておいたからね~」

ありがとうな。助けに来て、助けられてるな。


「まずは勇者の試練【聖剣の入手】ですわ。例の物を!」

アイリスがメイドに指示を出す。

メイドたちは、布を被せられたモノを運んできた。

「聖剣の入手は、困難を極めますわ。戦いの旅を生き抜くためには装備。国で一番の装備を用意してありますわ」

おお!盾に鎧。剣に弓までもか。どれも立派な逸品だ。

「更に、聖剣の場所を記した地図ですわ」

なんだと!場所まで調べてあるのか?

「用意した装備と地図を使う事で、この聖剣が手に入りますわ」

「おい。。。3分間クッキングかよ」

「やったぞ、勇者様!聖剣を入手したぞ」

「流石は勇者様だ、もう入手するとは」

「やるね~出来る子は違うね~」

「出来レースOK 」

なんか嬉しくない。


「お気に触りましたら、お詫びしますわ。しかし、今の私たちには時間的余裕がありません。どうか、忍んでください」

アイリスがすまなそうに言う。

「この聖剣を手に入れるために、多くの犠牲を出してしまった。それも、この世界を救う為だ。分かってくれ、勇者様」

レナの言葉は重い。

「済まない、せっかく用意してもらった聖剣を、嬉しくないなどと、言ってしまった。感謝するよ。今は、少しでも早く準備だ」


「これで勇者の試練の1つをクリアだ。次は【勇者の戦い】だな」

「流石にこれは、俺以外ではどうにもなるまい」

「甘いぞ。私たちは、王都の最上位チームだぞ。既にクリア済みだぞ」

「なんだと!嘘やインチキは不味いのではなかったのか?」

「私たちは、嘘もインチキもしてはいないさ」

「だよね~魔獣落ちしちゃうからね~」

「裏技炸裂」

「いったいどんな手を?」

「彼女をここへ」

アイリスが指示を出す。

ほど無くして、一人の女剣士が連れてこられた。


「初めまして、勇者様。私は、この国の戦士「佐藤勇者」と申します」

「勇者だと!?」

「はい。母が勇者に成れと、願いを込めてつけてくた名です」

「勇者の試練は、勇者なら受けられますわ。そして、勇者である条件は、職業が勇者とは書いてありませんわ」

「名前が「勇者」でも、受けられたのか!?いや、そもそも、そんな風に考えるやつなどいない。盲点だ」

「だが反則ではない。ギリOKなのだ」

「・・・・・。ティナは知っているのか?」

「勿論ですわ。これはティナ様のアイディアですわ」

「!!!」

・・・なるほど、タダのドジっ子お嬢様じゃない、と言う事か。

「勇者様、何がおかしいぞ?何を笑ってるぞ?」

「これが笑わずにいられるかよ。面白い戦いが出来そうだ。今度こそ、俺は勝てる気がしてきたよ」

そうだ、型にはまった戦いなど、糞くらえだ。策を尽くし、敵の意表を突く。

これが俺の戦い方だ。

ティナが同じ発想をした。俺は喜ばずにはいられなかった。


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