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黒色の恋  作者: 羽織 輝那夜
第一章 高校一年生
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人生最後の入学式

 家のドアを開けると、外は快晴で入学式にはもってこいの素晴らしい天気だった。

「くそ…晴れてやがる。日光が熱い」

 俺の場合、晴れているのはあまり好きではない。母を亡くしたあの日を思い出すからだ。

「おお!!晴れてるじゃないか。もしかしたら湊は晴れ男かもしれないな」

 このこのと肘を押し付けてくる。

「うるっせいな。晴れ男は親父だろう」

 俺は親父に玄関にかけてあった帽子をかぶせるとつい笑ってしまった。

 全然似合ってねー。ここまで似合わないやついるのかよ。

 俺の笑いを変に受け取ったのか父は俺の前でポージングをしていた。さらに笑いがこみ上げてくる。

 俺が笑っているのを確認すると嬉しかったのか親父は調子に乗ってきて、最初はモデルのようなポージングから、今はボディビルダーのような激しいポージングをしている。

「そろそろ、いい加減にしろ」

 俺は強く一言いったが、それでもポージングし続ける親父を無視し親父お気に入りの青い車に乗り込む。

 スマホを出し、ソシャゲを開いた。

 くそ、ランキングが下がってる。昨日やっとの思いで一桁行ったのに……。

 俺は学校につくまで周回することに決めた。

 しばらくして父が車に乗ってきて車を出した。車に揺られ三十分程経つと俺が今日入学する高校【北村産業高等学校】が見えてきた。

 ほんとに田舎だな。ここらへんは…ていうか電波届くのかよ。

 急いでスマホの電波を確認すると五本立っていた。

 意外と電波はいいんだな。

 車から降り、昇降口へ向かうと昇降口前では入学生とその保護者が写真を撮るために集まっていた。あまり人混みに入らないように脇を抜けようとすると力強い手が俺の動きを止めた。

「お前も一枚撮っていったらどうだ?いい思い出になるだろう」

 我ながらナイスアイディアだと言わんばかりの顔をこちらに向けてくる。

「いいよ別に、撮るだけ時間の無駄だよ。思い出なんて必要ないしな」

 手を振り払い、校内へ入ろうとすると後ろから聞き覚えのある声が響いてきた。

「なんでだよ。なんで撮らせてくれないんだ……」

 親父が入学式の看板の前で俺を指差しながら叫んでいた。

「何してんだよ。親父」

 俺は恥ずかしい思いをしながらも親父を呼ぶがしかし親父はその場から動こうとしなかった。

「なんで俺と一緒に撮ってくれないんだよ。一年四組二番。し、み、ず、み、な、と、よ!!」

 親父はわざとらしく俺のクラスと出席番号を叫んだ。

 あのバカ親父なんてことしてくれてんだ。入学早々変な目で見られるだろう。

 俺は頭を掻くと、再び叫ぼうとしている親父の下へ行く。

 撮らない限り叫び続けそうな雰囲気を出していたので、仕方なく撮ることにした。

「おっ!?撮ってくれるのか。すみません!!誰か手の空いてる方いましたら写真撮ってくれませんか?」

 くそぉぉ。白々しいな。

 割とあっさり見つかりすぐ写真を撮ってもらうと礼をいい、校内へ逃げるように猛スピードで入校した。

 ああ、もっと普通の親父がよかった。

 心の中でつぶやいていると横から親父が話しかけてきた。

「なんでそんなに不満げな顔してるんだ。入学式だぞ!元気出せよ」

 俺は親父を睨みつけると

「親父のせいだろうが、それにいつまでここにいるつもりなんだよ」

 親父は不思議そうな顔をした。

「一緒に入場しちゃ駄目なのか?」

「駄目に決まってるだろう!」

 俺は親父の背中を無理矢理押しやり、会場へ向かわせた。渋々会場へ向かっていたが、途中で立ち止まり先生に話しかけていた。話しかけられた先生は困った顔で対応していたが、ここからでは何を話しているのかまではわからなかった。しかし、大体検討がついた。

「はーい、そろそろ入場なので皆さん前に進んでください」

 指示どおり入学生が整列し指定された位置へ移動していく。

 何回やっても入場するときのこの胸の高鳴り?はおさまらないな。

 俺は、胸に手を押し当てうるさい心臓を黙らせた。

 入場曲が扉の向こうから流れてくる。一層心臓はうるさくなる。

 扉が開き、入場が始まった。俺の番までは時間がかかる。笑わないよう、失敗しないように。それだけが俺の頭を彷徨っていた。

 入場し歩き始める。暖かい拍手に迎えられながら、ステージからは吹奏楽部の音楽が流れてきていた。

 しかし、今の俺には音楽を聴く余裕などなかった。前との間隔を詰めすぎず開けすぎず、それだけ考えていたせいか顔が下に向いていた。

「顔あげろ!!」

 聞き覚えのある声が聞こえてくる。左には保護者の席があり一人だけ立って叫んでいる。誰であろう。親父だった。

 それを確認した瞬間、俺の中の緊張感が吹き飛んでいった。堂々と胸を張り悠々と歩く。

 全員入場し終えると開会の挨拶が始まる。

 入学式はどこも変わらないだろう。祝辞やら歓迎の言葉やらを聞くだけだ。周りを見ると寝ている奴がちらほらと確認できた。緊張していた俺が馬鹿みたいに思えた。

 自分の顔が確実に緩んでいるのがわかった。

 俺の人生最後も思われる入学式は閉式を迎えた。

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