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黒色の恋  作者: 羽織 輝那夜
第一章 高校一年生
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期待と不安が入り混じるはじめの一歩

 ブーブー、ブーブー。

 頭の上でスマホが振動し昨夜設定した起床の時間を告げる。

 俺は、寝起きの覚束ない手を伸ばしスマホの画面に手を触れようとするが、しかしなかなかスマホに手が届かない。

 あれどこにやったっけ?

 布団の下に硬い長方形のものを発見した。それを掴み、布団から出そうとするとスマホが手から滑り落ち床と衝突する。

 ガダン。

 朝の静かけさを断ち切るように部屋中にスマホが落下する音が響いた。俺は布団をはねのけ飛び起きる。続けて、誰かが階段を勢い良く駆け上る音が聞こえてくる。

「なんだ!今の音は!」

 俺のドアが勢い良く開けられた。空気を斬る音さえ聴こえてきた気がする。

 俺は、ドアへ顔を向けるが俺の目に映るのは真っ暗な世界だけだった。

 しばらくの間沈黙が続く。

 なんで何も見えないんだ。

 俺は慌てて手を振り回す。しかし俺の目には何も映らない。

「おい…(みなと)なんで目を閉じて手を振ってるんだ?」

 親父の声と思われる低い声に何か変な感情が乗せられていた。

 え?…目を閉じてる?

 俺は目に力を入れるが瞼が重たくなったかのように微動だにしない。瞼を手で引っ張るが上瞼と下瞼がくっついて離れようとしない。

 なんだ?なんで離れないんだ。

 すると、笑い声が聞こえてきた。

「あははははは」

 嫌な予感が僕の脳みそを駆け巡る。

「親父…もしかして昨日の夜、俺が寝てから俺になにかしたか?」

 親父は笑いをなんとか堪えながら声を出す。

「実は……昨日な…お前が寝てから……目にのりつけた」

 それを聞いた途端、全身の血の気が引いていくのを感じた。寒くなり身震いする。怒りよりも不安が僕の感情メーターを埋めていく。

 俺は急いで洗面所に向かおうとベッドの柵に手をつくがしかし、布団のせいで手が滑り頭から床に衝突した。

「何やってるんだ!我が息子よ」

 親父は僕の首根っこをつまみあげると部屋を出て階段を降りていく。

 水の音が聞こえると同時に朝の冷たい水が僕の頭に放射された。

「ひゃっ」

 予想もしていなかった事が突然起き、思わず恥ずかしい声が出た。頭は冷たいが耳から顔の下はは熱い。

「なにすんだよ」

 俺は、親父の手を頭から剥がすと水道の水をお湯へ変える。

「あっち行っててくれない」

 俺は、リビングへ人差し指を向ける。親父の足音が離れていった。

 くそが…なんで朝からあんなにテンション高いんだよ

 俺は、苛つきながら目にお湯をかける。少しずつのりが剥がれていくと、目を開けることができた。鏡に映る自分の顔が視界に入る。

 僕の名前は清水湊(しみずみなと)。この名前は母がつけてくれたそうだが今となってはなんで母がこの名前にしたのか聞くことが出来ない。

 黒髪は目にかかるかかからないかをキープしており、前髪の下には細いがそこまで目つきが悪いというほどは鋭くない目があった。そして、目の下には大きな隈が出来ていた。

 そういや、昨日ソシャゲの周回してたんだ。

 俺は、スマホが大丈夫だったのか気になり急いで二階へ戻る。スマホを手に取ると、スマホはカバーから飛び出してはいたがなんとか無傷なようだった。

 俺は、安堵の息をついた。そして親父のもとへ向かった。

「おい!!親父。なんで俺の目にのりなんかつけた。そのせいで電車に間に合わないかもしれないだろう」

 俺は、時計を何度も指差した。

「おお、のりとれたのか。やったな。ははは」

 感情メーター怒りマックスの俺とは対象的に親父は呑気に笑っていた。

「やったなじゃねぇよ。今日入学式なんだぞ!遅れたらどうすんだよ」

 俺は、怒りのあまり頭を掻きまくる。ボサボサになった頭を見て、再び親父が笑い出す。

「大丈夫だよ。車で行くからな」

 安心すると俺の腹が「食いもんよこせ」と鳴り出した。俺の腹の音を聞いた親父はにやける。

「安心したらお腹が空いてきたか。ははは」

 ずっと笑い続ける親父に向かって一発殴りたくなったが、男一人でここまで育ててくれた事を考えるとその気も失せていく。

「なんでそんなにいつも笑っていられるんだよ」

 俺は、嫌味ったらしく言うと親父は笑いながら返事をした。

「笑顔は最強なんだぞ」

 そう言うと、俺に近づき肩を叩く。

 親父はいつもこれだ。どんなに苦しいときや悲しいときも母を病で失ったあの日以来『笑顔は最強』と言って笑い続けている。母を失ったあの日に感情をどこかへ捨てたのではと心配になってくるほどだ。

 目の前に朝食が出された。親父の料理は男料理というよりかはお母さんの料理に近い。野菜なんて綺麗に皮が取られており、星型やいろんな形に切られている。おまけに味も悪くないむしろ美味しいぐらいだ。

「どう?今日の味噌汁はうまいか?」

 親父は笑顔で聞いてきた。

「いつも通りだよ」

 俺は、それだけいうと皿を綺麗にしていく。

「ごち」

 そして二階に向かった。部屋の壁にかけられている新しい制服に着替え支度を済ませると支度をしているであろう親父に声をかけた。

「親父、そろそろ行かないと時間が危ない」

 玄関でスマホをいじりながら呼ぶと、正装に着替えた親父が現れた。お世辞にも似合っているとは言えないその姿に笑わされそうになるのを堪えながら家のドアを開けた。

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