モブはただ、モブモブしている
あるところに、モブっぽいモブがおりました。
モブは、モブなので、名前がありませんでした。
わちゃわちゃしてる、集団の一人でした。
主人公が、諸悪の根源をとっちめたとき、モブは相変わらずモブモブしていました。
主人公の物語は、ハッピーエンドで終わりました。
物語は完結しました。
モブは、物語が完結したことも知らず、モブモブしていました。
どうせモブだし、何も気が付かない、そういうもんです。
でも、世界は、モブをモブで終わらせませんでした。
「おお、モブよ。お前はどうモブを生きるつもりだ。」
「生きるも何も。モブはモブらしく、モブモブし続けます。」
世界は、カチンと来ました。
なんだこいつ。
世界は、モブの役目を忘れたモブを懲らしめたくなりました。
モブは、画面の空きすぎた隙間を埋める、大切な役割を持つもの。
モブがいないなんてとんでもない!
なのになんだ!
モブモブし続けるとかやる気がなさ過ぎるだろうが!!!
なぜそこで、空間を埋め続けますと言い切れんのだ!!!
登場人物には役目がある。
主人公がゴールまで10年かかるならば。
モブは2秒でゴールできる。
それくらい、道筋が違うのだよ。
だがしかし。
ゴールはゴール。
ゴールの重さは、到着までにかかる時間が違えども、同じなのである。
モブが楽とか誰が決めた。
どうせモブだし何もできないとか誰が決めた。
そんなこと、世界は決めておらんのじゃあ!!!!
ゴールを大切にしない奴には、ゴールはやらん!!!
「という事で、いきなり放り出されてしまいました・・・。」
何もない空間に、ただ一人、モブがぽつん。
途方にくれたモブは、今もどこかで、モブモブしているということです。
世界はいらいらしながら思いました。
いつあいつ気付くんだろう。
自分が、自分の人生の主人公だということに。
モブの役目を選んだのは、モブ自身。
モブという役割を持った、一生をモブで終える主人公。
誰かの背景の空間を埋める役割を、ゴールに決めた主人公。
自分の決めた役を適当にあしらうとは何事か!
自分の人生に誇りをもてん奴は、いらん!!!
モブの抜けた世界は、画面の一部にバグがある世界になりました。
けれど世界はもう救われていたので、誰もバグに気が付きません。
誰一人、救われた世界に足りないものに、気付きません。
救われた世界から、モブは消え去り、モブは自分の世界を手に入れているのです。
恐ろしく自由な空間で、ただ一人、モブモブしているのです。
何もない真っ白な空間で、たった一人、モブモブしているのです。
自分の望む世界がそこにあるのに、何もせずにモブモブしているのです。
自分がモブであると頭でっかちになってるモブは、微塵もそのことに気が付いていません。
自分が主人公になれるはずの世界で、いつまでもモブはモブモブし続けています。
世界はかなり、いらいらしています。
勝手に自分の物語を放棄しているモブに、心底いらいらしています。
「あいつ、いつか絶対〆てやる・・・!!」
モブが、チートを引っさげて異世界に飛ばされるのも、時間の問題なのかもしれません。