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ごめんね?

 薄暗い部屋。テレビの画面がほの明るい。画面が切り替わるたびに色とりどりの明かりが強くなったり弱くなったりして、けばけばしい。僕はそのけばけばしさがSFみたいでかっこいいと思っていて、見もしないテレビをいつもつけている。

 今日も僕はテレビつけっ放しにして、テレビの反対側の壁においてある机で日記を書いている。唯一の趣味だ。

 内容は全て嘘だ。本当のことを書いてもつまらない。

 今日は友達と遊んだとか、愛犬と散歩に行ったとか、全部でたらめだ。

 本当は今日も昨日も明日も明後日も、布団の中でうずくまって一日をやり過ごしている。

 外に出るのが、怖い。

 人の目が、怖い。近所の人に見られるのが怖い。何を思われるのか考えるだけで怖い。僕はそんな視線に耐えられない。

 夜だけは少し外出する。誰もいないから。自販機まで行って、缶コーヒーを一杯飲む。

 病気なのかもしれないと、思う。

 

 今日も日記をつける。もちろん全部嘘だ。

 内容はこうだ。

 十月十日。今日は雨が降っていた。すごい土砂降りだ。それで隣の家の裏の山が崩れて、すごい騒ぎになっていた。僕も土砂降りの中様子を見に行った。土砂が家を半分飲み込んでいた。あれではもう住めないだろう。こういうのもなんだけど、隣の家でよかった。我が家がこうなったら、と思うとぞっとする。ああ、早く雨が止みますように。


 日付からして嘘だから、僕の日記帳はめちゃくちゃだ。元旦のことを書いた次の日にクリスマスのことが書いてあったりする。

 そうそう、僕がなぜこんな嘘日記を書き始めたか、理由を話しておこうと思う。

 それは日記をつけようと決意したのはいいものの、書くべきことが何もなかったからだ。毎日何もないから。だから嘘ばかり書き連ねる嘘日記を書いている。

 

 スマホに着信が入る。久しぶりのことだ。一週間ぶりくらいじゃないか?


「もしもし」


 声を出すのも久しぶりなので、うまく声が出せない。音量の調節がうまくいかず、変に小さい声になってしまう。


「ああ、杉田。久しぶり。元気か? 実は、お前がこの前話してたゲーム、やってみたんだけど、難しくてさ。最初のボスって、どうやって倒すの?」


「ググれ」


「まあそういうなよ。必死に話題を考えた俺の努力をどうしてくれるんだよ。お前、ずっと家にこもってるから、共通の話題とかないんだよ。なあ、いつも何してんの?」


「日記書いてる」


「日記? いいじゃん。俺そういうの続かないタイプでさ」


「嘘日記、書いてる。全部嘘の日記。いわば創作、みたいな」


「ふうん……、そうなんだ。なんか、ごめんね? 色々聞いちゃって。質問されるの嫌いだろ。明日も朝早くから部活の朝練だし、俺、もう寝るわ。じゃあな。おやすみ」


「おやすみ」


 質問されるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。相手が自分に興味を持ってくれてるってことだろ? それが嫌いな人間がいるのだろうか。苦手な人間はいるだろうが。


 今の電話の相手は僕の幼馴染の関口ってやつなんだが、僕の母親に頼まれて一週間に一回かけてくる。おなさけだ。泣けてくる。


 僕は机に向かい、今日も嘘日記を書く。


 二月三十日。関口が家にくる。二人で対戦ゲームをして盛り上がった。関口はゲームが弱くて僕が勝ちっぱなしだった。関口は僕の犬から逃げ回っていた。前に噛まれたことがあるので、怖いのだ。関口は帰る途中で雪で滑って転んだ。そして頭を打って入院した。早く良くなってくれるといい。お前は唯一の親友なのだから。


 関口のこと、実は嫌いなんだ。

 なんか、ごめんね?

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