第七話 ホームレス小学生、日本へ行く ③
水面を走り続けて10日目。
未だに水上を走り続けている。
俺の体は一睡もしないで数日走り続けても、何も問題がないようだ。
しかし、喉は渇くし腹は減る。
そこで、時々小さな島を見つけては、立ち寄って食べ物を探して食べた。
キノコは危険そうなので、葉っぱや木の実、魚をとり、全て生で頂くのだ。
走っている時にタイミング良くジャンプしている魚を捕まえて、走りながら頂いた時もある。
歯でうろこを軽く剥がし、背中だけを食べて残りは捨てる。
うんこが詰まった腸周辺を生では食べたくない。
俺はグルメなのだ!
水は雨が降っている時に口を開けて走り、何とかごますようにしている。
トイレは全て海の中だ。
体の力を抜いて大の字になると、体が浮いて呼吸も出来るので、そのまま致している。
昔、公共のプールでは誰かが必ず漏らしているという話を聞いたことがある。
俺はやったことはないが、これは確かに快感だ。
トイレの様な窮屈な場所ではなく、大自然を感じつつの放尿は、独特の開放感がある。
特に鯨が塩を吹くように、大空に向けて飛ばすのはとても気持ちがいい。
たまにしぶきが顔にかかるが、そんなものは全て大いなる海が洗い流してくれるってものだ。
また、大の方をしていると、魚が無数に集まってくる。
その魚を手で捕まえて、背中だけ食ってケツから出す・・・。
このだだっ広い海の中、ここだけで食物連鎖が完結しそうだ。
そんな感慨に耽っているのも束の間にして、再び俺は走り出す。
停止状態からいきなり海上を走ることは出来ないため、クロールをして空中バタフライに切り替えてから走るのだ。
しかし、快調に走ってはいるが、一番大事な部分で不安がある。
俺は今、何処を走っているのかわからないのだ。
実はスウェーデンから海を出る時に、スマホの地図で確かめていた。
その限りでは、スウェーデンの海から日本へ直進する場合、アメリカを通ってしまう。
陸にあがるとビザやパスポートが必要となるため、海路のみで行けるルートを探したのだ。
その結果、ユーラシア大陸を時計回りに半周する方法をとった。
流れとしては、バルト湾を抜けて北海に入りノルウェーを越えてロシアを半周し、北太平洋へと出る。そして、ベーリング海からオホーツク海に入って日本に着けるという海路になる。
色々と小難しいが、ベーリング海までは、常に自分の右手側に大陸が見えていれば大丈夫という結論に至っている。
そして、西や南向きにずっと走る状態になった時が、ベーリング海やオホーツク海にいる時かもしれないので、注意が必要となる。
オホーツク海まで行くと、ユーラシア大陸が右側、日本が左側となるので、日本を通り過ぎないように左側をよく見ないといけないという予定だった。
時々、股間にしまっている方位磁石を取り出し、方向を確認しているが、向かっている方向はずっと北東。
どこまで行けばいいのか、ゴールが見えない。
本当に自分のいる場所が合っているのか、重要な部分を通り過ぎていないか、とても不安だ。
右側に大陸があるので、それのみを信じて今は走り続けている。
因みに、頭の上に巻きつけた服や荷物はサメに追われている時に何処かへ消えてしまった。
水、食料、服、パスポート、財布、全てが海の彼方へ逝ってしまったのだ。
今の俺の持ち物はブーメランパンツと股間にしまってある袋に入った3万円と方位磁石のみ。
ここで言う袋はジップロックのビニールの小袋だ。
決して俺の袋ではない。
何度も言うが中身はオヤジである。
万が一のため、日本円のお金は別にしておいて、とっておいたのだ。
古から伝わる日本人の知恵袋である。
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