第六話 ホームレス小学生、日本へ行く ②
森でのサバイバルを決意してから8日が経った。
俺は今海の上を走っている。
文字通り海上をもの凄いスピードでランニングしているのだ。
誰も信じられないであろうこの光景だが、俺が一番信じられない。
最初は泳ぎを満喫していたのだが、3日目のお昼で飽きてきた。
だって、ずっと同じ景色なんだもん!
いくら進んでも見た目は何も変わらず、たまに来る高波が上り坂となり腹が立つ。
ちょっとした島ぐらいは見えてもいいんじゃない?と周りを見渡した時、突如、奴が現れた。
映画で定番の、奴だ。
水面に黒い三角が流れるように動いているのを、自分の後方で見たときギョッとした。
相手が魚類なだけに、ギョッとしたのだ!
体は子供、中身はオヤジなのだから仕方がない。許してほしい。
奴は最初の頃は様子を伺うように、自分の周囲をぐるぐるとしていたが、急に俺の方にすごい勢いで向かってきたのだ。
必死になって手で水を掻き、足をバタつかせてクロールで前進する。
俺は3日間泳ぎ続けてかなりスピードが出せるようになっていた。
(今の俺はオリンピック選手を超えたスピードを出せている! そんな気がする・・・! きっと・・・!)
計測するものはないので自称である。
しかし、奴はオリンピック選手よりも数段早かった。
元々、海の生物にスピードで勝てる訳がないのだ。
息継ぎの際に、後ろを見ると奴が直ぐそこまで来ていた。
恐らく、3mもないだろう。
次の息継ぎの際には、奴は縦2m程の大口を開けてギザギザの歯を剥き出しにし、俺の足に噛み付く寸前だった。
それを見た時、慌てて俺はクロールからバタフライに切り替えたのである。
いや、切り替えたわけではないな。
自然とそうなったのだ。
食われまいとして、足を引っ込め様とした時に、両手を万歳の状態から一気に下へ振り下ろすことで、一瞬加速して膝を抱える状態になった。
それで、奴の歯からタイミング良く逃れたのである。
更にこの動きは、逃れただけではなかった。
勢い余って水上へジャンプしていたのだ。
体育座りの格好でだ……。
最初は、何が起きたのかわからず、その格好のまま頭から落ちたのだが……。
しかし、奴から逃れる術を見つけた気がした。
それから俺は、何度も万歳から一気に下へ振り下ろし、飛び魚のごとく水上へジャンプした。
何度も繰り返している内に、全身が水面に付く前に、腕だけを水中で振り下ろす事で、他の部位は水に付かずにジャンプをし続けるという偉業を成し遂げたのだ。
傍から見ると、昔池に石を投げて何回ジャンプさせたかを競う遊びの、水切りのようだろう。
「秘技!空中バタフライ!!」
無我夢中だったため、出来た時のことはよく覚えていないが、いつの間にかそうなっていたのだ。
これにより、更にスピードがあがり奴は俺をあきらめた。
奴を振り切ったのだ。
奴が見えなくなったことを確認した後、奴の居たであろう方向に、とりあえず中指を立てておいた……。
子供なので意味はよくわからない……。
そして、少し落ち着いた後、ジャンプ中にふと思い付いたことを試してみることにした。
俺のジャンプはかなり高く飛ぶことができ、水面から俺の身長を少し超える高さまであげられる。
つまり、やろうと思えば水面に立てる高さまで到達出来るのだ。
そして、今俺はかなりのスピードで泳いで?いる。
(これ、走れるんじゃね?)
そう思って、やってみた。
最初は、海上に垂直で立ち、水面を蹴った時に何も反動がなく、ズボッと水中に入って転んでしまった。
何度かやってみるうちに、1度だけ水面を蹴ることに成功したのだ。
どうやら、つま先で蹴るのではなく、水面と足裏の面を平行にして蹴る必要があるらしい。
蹴り方のコツをつかんできたが、どうやっても3回しか蹴れず、ズボッと足が水中に入り転んでしまう。
しかし、何十回目かでようやく水中を走れるようになった。
出来なかったのは、足数と前へ進むスピードが足りなかったようだ。
実は小さい頃に忍者に憧れて、人間が水中歩行出来る条件を確認したことがある。
必要なことは、足の大きさと1秒間に30m進むスピードだ。
これは、車の時速でいうと108km/時。
俺の足は小さいが、その分体は軽い。
そして俺は今、体感だが100km/時以上は出ているのではないだろうか。
「これ、現代科学に波紋を生むんじゃね?」
「科学誌のビッグウェーブですわ!海だけに。」
中身はオヤジである……。
水面を走ることが出来るようになった俺は更に早く日本へ向かえるようになったのだった。
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