第五話 ホームレス小学生、日本に行く ①
森でのサバイバルを決意してから5日が経った。
俺は今、海を泳いでいる。
当初、スウェーデンの森でサバイバルをする予定だったが、はっきり言って3日ももたなかった。
川の水をのみ、森で食料を探したが食べれる植物が何かわからない。
そこで、動物を探してみるが鳥しか見つけることが出来なかった。
もちろん鳥を捕まえる様な技術もないため、基礎知識がない素人にはサバイバルは無理だと悟ったのだ。
(○ッシュ村スゲーッスわ! マジ、リスペクトッスわ!)
仕方がないので、なるべく人目に付かないように街に降りて飯を買い、森に戻って外で寝泊りをしていた。
しかし、お金が尽きるのでその生活も続けることは出来ない。
サバイバルの本を買って勉強しながら実践しようとも考えたが、本は全てスウェーデン語だった。
全てがグダグダだだった。
(やっぱ、下調べや準備って大切やんね)
そこで、自分で海を渡って日本に向かおうと考えた。
まずは、ヨットの購入を考えたがスマホで調べたところ、船舶免許が必要ということで断念。
他の方法は……、思い浮かばなかった。
何をやってもダメダメだった。
八百比丘尼は約100年間飲まず食わずで生きていたということから、今の俺には飯等不要かもしれないが、腹は減る。
サバイバルが出来なければ、お金が減る。
今の俺には減らすことしか出来ないようだ。
(どうせ、サバイバルするなら日本が良かった……。
なぜ俺はスウェーデンまで来たんだろう……。
そもそも、何で俺だけこんな目に……。
何だか段々、腹が立ってきた。
この不運続き、どうしてくれようか!)
「どうせ腹が減るなら、飲まず食わずで日本まで泳いでやろうやないかい!」
と、我慢出来なくなり、関西風に雄叫びを上げ、泳いで海に出ることにした。
そこで、街に行って海水パンツと方位磁石、水と缶詰と防水袋を購入。
念のため、 結希一也の免許証は元の俺の体を埋めた場所に一緒に埋めた。
これで彼女が来た場合、この免許証を見つけてくれれば俺が何処にいるかあたりを付けれるだろう。
(よし!準備が整った! いざ海へ!)
航海に失敗した時のことは考えない。
「出る前に負ける事考えるバカいるかよ! バカヤロー!!」
猪○さんの名言を叫び、真冬の海岸で腕を組み仁王立ちになりながら決意を新たにする。
しゃくれる事も忘れない。
頭には衣服と荷物を紐でくくりつけ、ブーメランパンツ一丁の格好だ。
「やってやろうやないか~い!」
北海道出身なのだが、関西風に言って気合いを入れる。
(周りの奇異な視線は気にしない! だって、今の俺の顔はかわいい! かわいいは正義やで!)
「可愛ければ、何やっても許されるんやで!!」
何でも勢いは大切である。
気合を入れて俺は、海に入り泳ぎだした。
それが4日前である。
最初はクロールや平泳ぎをしながら、スイスイ泳いでいた。
それも、飲まず食わずのぶっ続けで2日間程泳ぎ続けていた。
本当に疲れ知らずの体だということを実感した。
全く辛さはなく、ずっと気持ちよく泳いでいられるのだ。
目の前で、鯨が塩を吹いた。
絶景だ。まるで俺を歓迎してくれているように思えてしまう。
(こんな光景、仕事をしてたら絶対に見れないよなぁ。部長に感謝だ……。)
地平線を見ながら、「もう、あの職場へ戻る必要が無くなったんだなぁ」と感慨に耽ってしまう。
元々、俺が仕事で失敗したのは、よくあるセリフかもしれないが、忙しさのせいだ。
会社がホワイト企業を目指し始めたせいで残業が出来なくなった。
金がかかるから人数を増員出来ないといわれ続け、今まで仕事の超過分を残業でまかなっていたものが、急に残業するなと指令が出た。それに対して、超過分の仕事を補う人員の増員も出来ないときたもんだ。
そうなると、必然的に今までの2倍も3倍もの仕事量を短時間で終わらせて、何とか時間内に収める必要が出てくる。
そうやっても、時間内に出来ない仕事が必ず出てくるため、優先順位をつけて優先度が高いものを実施していく。
そうやってこなしてきたのだが……。
優先度低めにして放置していた仕事が急遽、緊急事態となったのだ。
事態に陥ってからは、その仕事は俺の手から離れ、別の専門化達が作業するようになった。
それは半年の歳月を経て沈静化し、その間俺はその仕事に携われず、状況もわからず、不安に陥り何も手が付けれない状態となってしまった。
ユーザーや上司や同僚は、「お前のせいじゃない。」と、言ってくれたが、自分がどうしても腑に落ちなかった。優先順位をつけるときの想定が甘かったのだから。
皆が俺を擁護してくれたが、本心はどうなのかさっぱりわからない。
本当は、その失態について陰口を言っているのかもしれない……。
周りでしゃべっている声が聞こえると、俺の名前が出ているような気がする……。
それ以降、俺は皆の顔に仮面がついているように感じるようになった。
(今なら俺はどうして欲しかったのかわかる気がする……)
「しか~し!今はもうその職場に行く必要がない! 全てから解放されたんだ!!」
解放感と後ろ髪を引かれる想いに浸っていると、ずいぶんと時間が経っていたようだ。
空には満天の星空がある。
周りが真っ暗で、丁度月も見えないため、天の川がはっきりと見える。
綺麗に散りばめられて、優しく瞬きながら輝く星々を眺めながら俺は背泳ぎに切り替えて進んでいった。
とても素敵な夜だった。
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