第四話 新たな決意
2018/11/09 内容を修正しました。
目が覚めると、体が少しイメージに沿って動かせるようになり、目も徐々に見えるようになってきていた。
どれだけ眠っていたのかわからないが、眩しいものが真上にある。
どうやら今は昼の様だ。
昨日の出来事が夢の様に感じるが、この体の違和感から夢ではないと考える。
何とか体を動かし、右手を見てみる。
(小さい……、小学生ぐらいの手だろうか)
同じく左手も見てみると、右手と同じ大きさ。
そして、血だらけだった。
慌てて体を起こして寝ていたところを見ると、俺のと思われるどろどろの皮、骨、肉、そして赤黒い何かが転がっていた。
それらには、服が着せてあるため、人の形が辛うじてわかる状態だ。
あの時は必死だったので、どうなっていたのか全くわからないが、頭蓋骨まで落ちている。
(意識も記憶もはっきりあるが、頭蓋骨まであるということは脳も全く新しいのだろうか?)
そう思い、恐る恐る頭蓋骨の中を除くと、脳と思われるものは入っていなかった。
しかし、周りがどろどろになり過ぎていて、脳も溶けて流れ落ちたのかもしれない。
(脳が既存のものでなければ、記憶があるのはなぜだ? 脳が記憶を保管するものだとすれば、今の俺の脳は既存のものかもしれない。)
この問答は今考えても仕方がないという結論になり、今の俺の現状を確認することにした。
まず、今の俺は素っ裸だった。
(真冬の大自然の中で素っ裸! 中々気分がいいものだ!)
場所は変わらず、凍った川の傍なのだが、なぜか不思議と寒さは感じない。
俺の体を見回して見た所、小学校の低学年ぐらいだろうか。
身長は俺のズボンより少し大きいぐらいなので、1m弱といったところだろう。
凍った川のところに行き、鏡代わりに顔を確認すると、色は恐らく黒髪の黒目。
しかし、顔の形が全く違う。
自分の若かった頃とも似ても似つかない。
目鼻立ちははっきりしていて、目は二重、鼻は高すぎず低すぎず丁度いい。
日本人とも欧米風とも言えない顔、更に中性的だ。
(自分で言うのも何だがぶっちゃけかわいいな、これ!)
俺の理想とするかっこいい男の姿がそのまま子供になったかの様だ。
これは将来は超イケメンになることは間違いないだろう。
俺は心の中でガッツポーズをした。
これからを思うと状況は最悪だが、今はなぜか気分がいい。
見える景色、聞こえる音、全てが新鮮でキラキラしている様に感じる。
心がとてもさわやかだ。
(あの人魚に感謝だな。いや、人魚じゃなかったんだよな。あれは結局何者だったんだろうか?)
(「待ってて」って言ってもいつ来るかもわからないし……)
(しかし、これからどうしよう。
子供が森の中で素っ裸で一人きり……。
今の顔立ちだと妖精に思われるだろうか?よし、人に見られたときのために練習しよう)
「ア~イム、ジャパニ~ズ、フェアリ~!」
「ギブミーマネー!」
両手で頂戴のポーズをとって言ってみた。
(あ、出来ればパンツも欲しいな。パンツは英語でパンティだったか……。)
「ギブミーマネー!オア、パンティ!」
(よし、これでいい!)
素っ裸で知らない人に会う経験は滅多にないため、エンターテイナーを貫き通すと心に決めた。
(近くには殺害現場の様な俺の元の体があるから、ポーズを取っている今の姿はサイコパスだろうな……、練習はこの辺でいいだろう)
まずは、元の体を何処かに埋めることにした。
丁度いいものがなかったので、俺は木の枝を使い土を掘り始める。
途中、手の皮を切って血が出たが、再生を念じると直ぐに治せた。
何処まで、治せるのかすごく気になるところだが……。
(腕を切り落としたら再生するのか? 確か、頭をやられると死ぬって言っていたからそれ以外は全て再生できるってことなのか? 心臓もヤバイみたいだから気を付けた方が良さそうだ)
暫く掘っていると、体の違和感もなくなって来て普通に動かせるようになった。
というより、前の体より動かせる。
そして、全く疲れを感じない。
(前の体なら直ぐにゼーハー言っていたのに……。スゲーなこの体!)
数時間掘り続けて、元の体を埋めた。
と、そこで人の気配を感じ、慌てて木陰に隠れた。
見てみると、親子3人で手を繋いで散歩しているようだ。
(こんなところまで散歩に来るとはさすが海外だ)と、関心していたところで10歳満たないであろう金髪の少女がこちらに気付いた気がした。
(ヤバイ!)と思い顔を引っ込める。
しかし、「カサカサ」という音が近づいて来る。
俺は意を決して人前に出ることにした……。
「ア~イム、ジャパニ~ズ、フェアリ~!」
「ギブミーマネー!オア、パンティ!」
目の前には少女一人だけ……。
「ビクッ」となったと思いきや、段々と目線を下げて俺の股間をずっと凝視している。
(やめてくれ!そんなに見つめられると縮こまる……)
「ジョーコメーイエテン」
少しして、少女はおもむろに自分のパンツを脱ぎ、俺に差し出してきた。
(あげるって言っているのか? けど、俺の目を見て言って欲しい……。そこはフェアリーじゃないよ。)
突如、両親が走り出し、少女の両脇に両手を挟んで運んでいってしまった……。
(きっとあの少女は大人になっても妖精を信じ続けることだろう。そして、誰にも信じてもらえない彼女は小説家になり名作を生み出すのだ……。少女よ……、売れたら俺を養ってくれ……)
(まぁいい、服を着よう……)
元の体の服が血や何かの液体でべとべとなので、川の氷の穴に突っ込み洗い流す。
その後、干してみたのだが、凍ってしまったたため、仕方なくそのまま着ることにした。
着てみると、気持ちいいぐらいの冷たさだったのでそのまま体温で乾かすことにした。
(体が寒さに強くなっているのだろうか? 全く風邪を引く気がしない)
今の体では服が大きすぎるので、家の鍵のギザギザの部分を使って裾を切っていった。
そのため、裾口に糸が飛び出てひだひだになり、ビンテージ感溢れる服装となっている。
しかも、襟が大きすぎて片方の肩が出るし、袖がダボダボ過ぎる。
(今の時代だったらファッションの一つとして通るだろうか。
まぁこれしか服ないし、これを着るしかないのだが……)
そして、持ち物を確かめることにした。
財布の中には、7800クローナ(約10万円)とキャッシュカードとクレジットカードと免許証がある。
また、ポシェットには、携帯とパスポートと日本円で3万円。
キャリーバッグはホテルに預けてしまっていた。
俺の持ち物はこれで全部だ。
「ふぅ~」とため息をつく。
俺を息子と呼んでいた彼女には聞きたいことはたくさんあったが、いつ戻ってくるのかわからない。
(まずは自分の生活を第一優先で考えないと……)
「さて、これからどうしよう」
俺は職場で仕事をするにあたり、最悪の事態を想定してからリスク回避しつつ行動している。
(まぁ、有給を取る原因となった失敗はそのリスク回避の見積もりが甘かったのが原因なのだが……、まぁいい)
今回についても今後どう動くべきか、現状の想定と最悪の状況を考えていくことにする。
まず、俺が誰かに助けを求めた場合、言葉が通じないないから非常に不安だ。
現地の警察等で日本語が通じる人がいれば説明できるだろうが、俺の体が新しくなったなんて証明することは恐らく出来ないし、誰も信じないだろう。
今俺が結希一也ユウキカズヤだと証明出来るものは、自分の記憶しかない。
それに自分を説明するにあたり、埋めた俺の元の体を見せると、殺害容疑をかけられる可能性がある。
また、証明のために元の体と今の体の遺伝子検査をしても、遺伝子が一致する可能性は低い。
顔や体型が違うのだから。
もしかすると、人間の遺伝子ではないと判定されるかもしれない。
もし人間じゃないと判定された場合、人権が通用しないかもしれない。
そうなると、研究対象にされて人体実験などもありえる。
俺の体はいくらでも再生出来るかもしれないから、生きたまま無限に切り刻まれるかもしれない。
有り得るかどうかはわからないが、有りそうである。
不老不死を夢見る人はたくさんいるだろうから、研究結果の需要は無限にあるだろう。
(多分、最悪の事態はこれだな。では、記憶の無い少年として、誰かに助けを求めに行った場合はどうだろうか? うーん、これも最終的には警察に連れて行かれて遺伝子検査をされる可能性があるからダメだな)
結果、結希一也という元の俺は消息不明にしておくことにした。
(そうなると、ホテルに荷物はもう取り戻せないな。
更にキャッシュカードやクレジットカードを使うと足が付くから使えない)
(携帯も今の内に位置情報をオフにしておこう。あ、寒さのせいなのか携帯の電池が10%しかない)
俺は、すかさず位置情報をオフにして電源を落とした。
(パスポートも顔が全然違うから使えない。そうなると……)
「あっ、俺、日本に帰れない……」
パスポートなしで密入国しても、捕まった場合は最終的に遺伝子検査される予想が出てきてしまう。
この場合、密かにこの国で過ごしていくしか方法が見つからない。
働くにしてもパスポートが必要のため、持ち金約13万円を元手に何か稼ぐか、森でサバイバルしか手立てがない。
稼ぐにもスウェーデン語が話せない……。
結果、ホームレス小学生をすることとなった。
(森でサバイバルだから○ッシュ村小学生かなぁ?)
(人前に出るのもなるべく控えた方がいいな。
恐らく一人で外を出歩いていたら、御節介な大人達に色々声を掛けられて最終的に警察に御用になるだろう……)
「よし、決めた!」
「この森で暮らそう!」
「家建てちゃったり、井戸掘っちゃったりしてみよう!」
スウェーデンには、野生でヘラジカ、ヒグマ、クズリ、狼、オオヤマネコが生息しているそうです。
四季がはっきりしているらしく、冬場はオーロラが見れることもらるらしいです。
一度は行ってみたいと私は思っています。
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