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第二話 凍った川で溺れる

2018/11/09 内容を修正しました。

 もがいている最中、下流で一瞬何か光ったのが見えた。

 それどころではない状況だが、藁にすがる思いで凝視すると何かキラキラしたものが近づいて来る。

 それが、目の前まで来たとき魚のうろこであることがわかった。

 しかし、上半身は金髪の女性の姿……。


 (――人魚だ!)


 すごく綺麗な顔立ちをした人魚が目の前に現れた。

 胸には赤のビキニを着けている。

 ほんの一瞬だが、見蕩れてしまった。


 だが、今はそれどころではない。とにかく助けてほしい。

 もう、体が思うように動かない。


 「助けて……、お願いだから助けて…………」


 人魚の目を見てそう願っていると、人魚が俺に微笑みキスをしてきた。

 そのまま口を通して空気を送り込んでくれている。

 そして、俺を抱きしめながら氷の穴とは反対の下流へと泳ぎだした。


 「何処に連れて行かれるんだ……? 助けてくれるのか……? 間に合うか……?」


 折角、空気を送ってくれたが全然足りていない。体の感覚ももうない。

 空気が足りずに頭にどんどん血が上る感覚を通り越し、既に意識が朦朧として眠くなってきた。


 (――もう、駄目……だ…………)


 その瞬間、人魚に抱きしめられたまま、バシャッと空中に出た。


 「――がはっ!」


 地面に背中を打つ衝撃とともに息が吐き出され、大きく息を吸い込めることで生きていると実感する。


 「スーッハーッ、スーッハーッ……、らぁめらぁー、ざぁぶすぎどぅ!」


 一先ず呼吸が出来たことに安堵はしたが、寒さで体の感覚が戻らない……。

 体の震えが止まらない……。


 「こで、ごどぉばばでぼしどぅ! ばじじゃばい!!」

 (これ、このままでも死ぬ! マジヤバイ!!)


 そう思った時、急に頭の中に声が響いてきた。


 「生きたい?」


 それは、透き通ったような女性の声。

 なぜか、耳から聞こえるのではなく、頭に直接響いて聞こえる。


 「生きたい? それともこのまま死にたいかしら?」


 答えは決まっている。

 何とかそれを伝えようと、寒さで廻らない舌を駆使した。


 「いぎだい!」


 その瞬間、人魚は俺の口に何かを詰め込んできた。


 (なんだ!?)


 突然の事に驚いたが、彼女の指の先には何か柔かく、温かいものがある。

 指を更に奥まで突っ込まれ、何かが喉の奥に入ってくる。

 息が出来ないため飲み込むしかない。


 「――ングッ!?」


 俺がそれを飲み込んだところで、ようやく指を俺の口から抜いてくれた。

 また頭に声が響く。


 「ようやく準備が整った……。あなたはこれから生まれ変わるのよ。私の息子になるの……」


 人魚がしゃべっているものだとは思われるが、口が動いていないので良くわからない。


 (生まれ変わる? 息子になる? 何を言っているんだ!?)


 しかし、一向に体の感覚は戻らないし、寒いままで変わらず眠い。


 ふと、不穏な伝説を思い出した。

 八百比丘尼やおびくにという者が人魚の肉を食べて不老不死となり、800歳まで生きたという伝説。

 最後は自ら死ぬために100年近くの間、飲まず食わずで神に祈り続けていたというもの。


 その時、ドクンと体が跳ねた。


 急にお腹の中から体が熱くなってきた。


 「始まったわね……。いーい? 生きたいという気持ちを忘れないで。体の再生をイメージして念じなさい!」


 (体が熱い……! どんどん熱くなる……! とにかく熱い!)


 段々、体の感覚は戻ってきたが、今度は熱さで死んでしまいそうだ。


 何が起きているのかと思い、うつ伏せに転がり右手を見た。

 瞬間、湯気を出しながら右手が溶けて肉が落ち、骨がむき出しとなり、右手が肘の先から落ちた。


 「――っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー」

 「右手がぁぁーーっ! あつい! アヅイ! ――ッアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーー!!!」


 左手も同様に溶けて落ちる。

 腹も溶けて服の中から内臓が出てきているのがわかる。

 カツラの様なものが頭から落ちて自分の頭皮であることに気付く。


 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァーーーー!!!!」


 絶叫が辺り一面を埋め尽くす。

 顔の皮も肉もどんどん溶けて落ちていき、左目も落ちた。


 「――ッア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーー!!!!」


 何が起きているのか理解が出来ず、目の前の光景と感覚に叫ぶことしか出来ない。


 「いい? 体が再生していくイメージで念じなさい」


 突如、緊張感のある早口な声が、頭に響いてくるがそれどころではない。

 熱さと溶ける苦しみに耐えることしか考えられない。

 とうとう右目も落ちて、何も見えなくなった……。


 「――っ目がぁーっ! 目がぁーーー!! ッア゛ア゛ア゛ア゛ー!!!」


 逃げ出したいが、逃げるための足がない。

 暴れたいが、暴れるための腕がない。

 転げたいが、転げるための肉がない。


 「このままだと溶けて死ぬわよ! 早く念じなさい!!」


 怒声となって響いてきた声で、我に返った。


 「――ッア゛ア゛ア゛あ゛あ゛あ゛ぁぁー、――グッ!」


 (このままだと死ぬ? 当たり前だ!)

 (念じる? 何を?)

 (再生!?)


 必死で体の再生を念じてみる。

 すると、頭や顔の感覚が少し戻ってきた感じがある。


 (これで助かるのか?)

 (けど……、やるしかない!!)


 そのまま必死で念じ続ける。


 「――っがっあ゛あ゛あ゛あ゛あああぁぁああああーーーー!!」


 目、首、胴体、手足と、上から少しずつ感覚が戻ってきた。


 (いける!!)


 「があ゛あ゛ぁぁーーー! うおぉぉーーー!!」


 只管、再生することを念じ続け、俺は気絶した。


直ぐに異世界へ転移させる予定でしたが、思いのほか現代の話しが長くなってしまいましたので

まとめて3話分を投稿致します。

感想、評価をお待ちしております。

よろしくお願いいたします。

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