第48話:炎の神殿と守護神
1
「むきゅむきゅむきゅ…」
さっきから地図がわりにグラたんを使っているが…。
「その声、どうにかならないか?」
「何も喋らなくてもできるよー?」
「ならそうしてくれ」
「わかったー」
その音で避けるつもりだった敵に見つかってしまうなんてことも考えられるからな。
「ここ右ー」
グラたんに従い、右に曲がる。
「なんにもないっすねー」
アゼリールが退屈そうに欠伸をした。
まぁ、姿の見えない敵以来、敵とは遭遇しなかったな。
「そんなこと言ってると…」
その瞬間、地震かと言わんばかりの揺れが俺たちを襲った!言わんこっちゃない!
「な、何だ!?」
「下だよ、なにか来る!」
「むぅ…、これ、けっこーおっきい!」
大きい?たしかに、この世界では地震というよりかは下で何かが暴れててその衝撃で揺れてる…という可能性の方が高いかもしれないが。
やがて床が割れ、そこから何かが飛び出してきた!
「おぎゃァアアアア!」
『赤ん坊!?』
可愛い…印象は受けないな。
頭に大穴が空いている。さっきの衝撃で空いたのか。でも、その傷がどんどん修復されていくのだ。
その光景は、パニックホラーを彷彿とさせる何かがあった。
「おぎゃ…?」
赤ん坊が、こちらを一瞥する。目は見えているし、腰も座ってるのか。
そして、赤ん坊はニタァと不気味な笑みを浮かべ、俺たちの方に高速で這って突撃してきた!
「だうゥウウウウ!」
「ちょ、これどうすんだ!?こいつ床を突き破るほど強いぞ!?」
「それより…」
何言ってんだ、こいつ!今この状況でこいつ以上の恐怖の対象なんて…?
『オギャアアアアア!』
マジかよ、大量に這い出てきやがった!
く、もう打つ手なしか?考えが浅はかすぎたか…。
「さーて、ここからはあたしの出番っすねー」
そう言いながら、この絶体絶命の状況をまるで楽しんでるようににやけながら一歩前へ踏み出すアゼリール。
「おい、何か打つ手はあるのか!?」
「あるっすよ。なかったらこんな真似しないっす」
そ、それもそうだが…。
でも、どうやって?
「我が望むは汝らの裁き、我が焚べるは我が魔力。『アゼリール・ジャッジ』」
それと同時だろうか。
赤ん坊たちがバタバタと地面に伏して動かなくなったのは。
「アゼリール・ジャッジは、あたしの固有魔術で、相手の魂を抜き取りその重さで罪の重さを測る時に使うんすよ。ひと段落したら戻してあげるっす」
な、なんかこいつ奪衣婆みたいなことしてるな。
日本にも同じようなことをする妖怪がいる。それが奪衣婆だ。
「というか、それならマーリン必要なかったな」
「本人がなんか乗り気だったから、言い出せなかったっす」
ああ、かなり強引に話を進めてたからな。でもマーリンはここには入って来れないみたいだし、その点を考えればまぁ適材適所といった感じだろうか。
赤ん坊を何とか超えて、先を急ぐ。人を跨ぐとか不謹慎なんて言わないでくれ。分かってるから。
でも、そうでもしないと先に行けない。仕方ない、仕方ないのだ。
2
俺たちがさらに進んでいくと、なんか異様にでかい扉があった。
「ここか?」
「んー、中に一人いるー」
「一人っすか、なら余裕っすね!」
あぁ、もうなんでこいつはフラグじみたことばかり口に出すんだ!
でも、こいつの実力はかなりのものだ。先程見た。
「ご開帳ー!からの、アゼリール・ジャッジ!」
アゼリールが両開きのドアを思いっきり全開にし、無詠唱で魔法を放つ。
「お、おい!」
「大丈夫っすよ!こいつはもう死んでるっす!にしてもこいつの魂、異様に軽いっすねー、まるで何も持ってないみたい…?」
そこには、玉座のようなものに腰掛け、黒いローブを目深に被っている子供がいた。俺と同じくらいだろうか。
それより、軽い…?
もしかして…!
「おい、そいつから離れろ!」
「へ?」
子供がニタァと笑う。その青髪から覗く真っ赤な瞳には見覚えがあった。
体に焼き付けられた恐怖。そう、こいつは…魔王軍幹部マキュリ!
「がっ!?」
瞬時にアゼリールも距離を取ろうとしたが、それよりも前にマキュリの手が首を掴む!
「アゼリールから、離れて!」
「ダイロス、掃除をお願い。邪魔なやつは潰しとくからさぁ!」
「御意」
シオンがマキュリに切りかかろうとするも、突如として火柱の中から現れた少年によって防がれてしまう。
「では…殺戮を始めましょうか」
「やる気満々かよ…!」
「もちろん。手っ取り早く片付けないと悪臭が染み込んでしまう」
まるで俺たちが汚物みたいな言い方だな!
まぁ、それも分からなくはない。ここは神聖な場所。そんな場所に侵入している俺たちは、不届き者だとそう言いたいのだろう。
「何様なの…!」
「死にゆく者どもには関係の無いことですよ!」
剣を振るい、連撃を浴びせるダイロス。それに何とかついていくのに必死なシオン。
完全に押されてる…。
「あんた達も降参しなさい?私のおもちゃ程度には使ってあげるわ。このゴミみたい…あ?」
一瞬マキュリの表情が曇る。アゼリールがいなくなっていたのだ。
その隙をついてルキア、キクハ、グラたんが突撃し、シュガーが魔法を唱える。俺は近距離まで迫り、シャドー・スラッシュを放ち、ミナミはその援護。そしてオルガとティナは武器を構える。
「ぐぅ!」
炎で俺たちを払おうとしたマキュリだったが、機転を効かせたミナミの魔法により、風邪が巻き起こって炎を相殺した。
「サンキュ、ミナミ!」
そのまま攻撃しようと思ったが、結界のようなものに弾かれた。く、そう簡単には行かないか…。
「くっ、こうなればお前ら全員ミイラにしてやるゥ!」
「ふん、もう手遅れっすよ!」
「なに?」
マキュリの後方から声がする。勝ち誇った、喜びに満ち満ちた声が。
「アゼリール!」
「これを探してちと遅くなっちまったっす!ミナミさん、これを!マーリンさんに渡すっす!」
「はい!」
ぽーんと投げられたのは金の杯。あれは…逆転の杯!
「お、お前ェエエエエエエ!」
「やーいやーい、怒ってやーんのー」
「ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すゥウウウ!」
炎がまるで蛇のように空中を舞い、アゼリールを包囲しようとするが、それよりも先にアゼリールがマキュリに接近した。
そしてそれを追って炎がアゼリールに接近したところで急上昇。炎はマキュリを包んで燃え上がった!
「アヅゥウウウウウ!?」
「主殿!」
マキュリは地面を転がり回り、鎮火しようとする。
だが、それには5秒としてかからなかった。こいつの魔法も相まって早く鎮火できたのか。
「…いい、貴方はあの二つ括りを負いなさい」
「ですが…」
「早く!」
「…ご武運を!」
またもや炎に消えたダイロス。
「逃がすか!」
シオンが出口の方に走り、ダイロスを追う。
さてと、俺たちは…。
「ふぅ…これでいい感じにセクシーに焼けたかしらね」
「さっきまで騒いでたのはどこのどいつやら」
「ふん、まぁいいわ。今は好きなだけ言わせてあげる。にしても…」
マキュリはキョロキョロと辺りを見渡す。完全に包囲されていることに今更気がついたわけではあるまい。なにか企んでいるのか?
「このままじゃ些か分が悪いわねぇ、多勢に無勢もいいところ…なァんちゃって!」
「また炎、芸がない」
「これからよォ!」
炎はマキュリを包んで天高く燃え上がり、その姿は巨人の上半身の形の炎になった!
いや、臍にあたる部分に立っている。
って、今はそんな場合じゃない!
どうするんだよ、こいつ!?
3
走った、走った。ただ走った。
グネグネと、来た道を。辛うじて道すじは覚えている。
「はぁ、はぁ!」
目の前の赤子の山を踏み越え、また走る。
他のことなど頭になかった。
お兄ちゃんのことも、何もかも。誰かのことを考えてしまうと、あいつに焼き殺された姿が脳内で再生されてしまうから。
「うん…?」
なんか酒臭くなってきた。私は自分で言うのもなんだけど酒に弱いからな。一応口で息をしよう。
「あらー、ミナミちゃん、何してるの?」
「タマテさん!」
「足元に気をつけて走りなさいよ?あと…」
かんっと甲高い音が鳴り響いた。私は、座っていたタマテさんが、すぐ後ろまで移動していたことに気がつく。いつの間に?
「後方注意。ざっくり刺されることもあるんだからー」
「勘が鋭い女ですね…」
あれは…ダイロス!姿を隠していたのか!
「あらー、お姉さんにそんな口聞いてもいいのかしら?これは躾が必要ね!ミナミちゃん、ここは行って!なにか目的があるんでしょ?」
「は、はい!」
タマテさんに言われ、走り出す。
「ちぃっ!」
火球が私の方に飛んできたが、何故か刀で相殺できていた。
あれが経験が成せる技っていうやつか。
振り返らず、走った。しかし、ダイロスは追ってこなかった。
にしても、なんであんな所に酒なんかあったんだ?聞きそびれたけど。なんか床一面にぶちまけられてた。
やがて、出口にたどり着く。
「マーリンさん!これ!」
「…おや?なんだい?」
「マーリンさんに渡せって、アゼリールさんが!」
「ほう…」
マーリンさんはマジマジと逆転の杯を見つめ、こう口にした。
「これは、呪いとか黒魔術の類だね。とっとと解呪しちゃおうか」
「解呪?呪われてるんですか?」
「あぁ、見る分には変わりはないが、結構強力だ。ほら、手を貸して?」
え、手を貸す…?
なんか、手をこっちにさし伸ばしてるし…。
「何でですか?」
「今あからさまに嫌な顔したよね。いやぁ、本体の僕ならば一人でも余裕なんだけど、あいにく僕は分身。君の力が必要なのさ。とにかく、手を貸して僕に続いて詠唱して」
まぁ、本人は嘘はついてないようだし…。
私はマーリンさんの手を握り、言う通りに続けて詠唱した。
『我らが望むは聖なる光、我らが焚べるは我らが魔力。天の光よ、彼の者を浄化せよ!「ハイ・エクソシズム!」』
眩い一筋の光が、杯に差し込む。すると、今まで少しくすんでいた杯が、光沢を放つほどに綺麗になった。
これが呪われていた証拠か。
「さて、これで一件落着。あとは待つだけだよ。死人は出なかったね?」
「はい、私が見た前では」
「ならよかった」
爽やかに笑うマーリンさん。
この人も普通にいる分にはカッコイイ。
「なら、初めての共同作業も終えた事だし今度は番に…」
「お断りします」
これだからなぁ!
4
「巨人の形にするのは無性に腹立たしいんだけど…、まぁ、お前らを葬りされるなら別にいい!」
ドカンっと、轟音と共に地面が割れる。あの炎は質量を持っているのか!
「おい、なにか打つ手はないのか!?」
「ない…なにも!」
「大丈夫っす、もうすぐ解決する。それまでの辛抱っす!」
何を根拠に言ってんだ、あいつは!
「オラオラオラオラオラァ!あっはははははは!」
モグラ叩き感覚で俺たちを叩こうとするマキュリ。しかしその叩くとは、死を意味していた。
「ほらほらほらぁ!逃げ惑ってないで、そんなことしても私の魔力はまだまだ…いっ!」
今まで狂ったように地面を叩きまくっていたマキュリの巨人が動きを止める。それどころか、その数秒後にはバラバラと崩れていった。
「アガガガガガァ!頭が…痛い!」
頭を抑え、狂ったように悶えるマキュリ。その姿は、まるで塩をかけられた時に悶絶しているナメクジのよう。
「おい、何が起きた!?」
「呪縛から解放され、記憶が戻ったんす」
「呪縛?」
「まぁ、マーリンさんから一応ある程度は聞きいたっすから、昨日」
あいつ、他にも俺らに隠してたのか…。
すると、ピタリとマキュリの動きが止まった。
「…うぅん」
一様武器をかまえる。が、先程までとは打って変わってマキュリの性格は穏やかなものだった。
「あれ?あなたは旅人さん?その格好。わざわざ旅人の守護神である私の元に出向くなんて。信仰が厚くて大いに結構」
「ま、マキュリ?」
なんだ、口調はあまり変わってないが、性格が百八十度逆転したぞ!?
「マキュリ?違うよ、私の名前はヘルメス。旅人の神、ヘルメスだよ」
「ヘル…メス?」
マーリンの話していた名前にたしかその名があった。オリュンポス十二神、その一柱だとか。
「って、なんでこんなに髪伸びてんのさ!?まるで女じゃないか」
そう言うと、炎を生み出し、髪を焼き切った。一度前身丸焼けになったのに残った髪を…勿体ない。
…え、まるで女?
「女じゃなかったのか!?」
「私は女じゃなくて男。よく間違われるんだよねぇ。一人称とか変えようかな?僕?俺?なんかしっくり来ないなぁ」
マイペースに笑う神様を、俺たちは漠然と眺めていた。
5
「やぁ、無事終わったようだね!」
満面の笑みを浮かべるマーリンと、俺の方に走り寄ってくるミナミ。
「お兄ちゃん!生きてて良かったですー!」
むぎゅっと俺に抱きつき、飛び跳ねるミナミ。こいつは俺のことをいつも心配してくれるな。
「あぁ、心配してくれてありがとな、ミナミ」
「えへへー」
すりすりと頭を擦りつけてくるミナミ。ポンポンと頭を軽く撫でて、一旦離れてもらうように肩を持つ。
「あぁ!グラたん、ミナミとユウマがイチャイチャしてる!阻止するんじゃないの!?」
「んー、ごしゅじんも楽しそうだからいいやー」
「そんなぁ…」
ガックリと肩を落とすシオン。
「ほんっと、二人は熱いわねー」
「そうだな!」
「熱くねぇよ!」
反論するも、こいつらはニヤニヤしたままこちらを見つめる。
「おい、いい加減離れてくれ!」
「だーめでーす!ちゃんとマーキングしないとー」
「マーキング!?」
「はーなーれーてー!」
シオンがミナミを引き剥がそうとするが、まるで獲物に吸い付くタコのように抱きついたミナミを剥がすにはいたらなかった。
「つーか、ダイロスのやつは?」
「なんかぶっ倒れて動かないから縄で拘束したのー!それより離れてー!私のユウマから離れてー!」
「お前のじゃねぇ!」
あぁ、暑苦しい!引き剥がそうとするシオンも相まってさらに暑い!
「離れろー!」
結局離れたのは、マーリンが習得していたテレポートでヘイラの元へ戻って、アリスにグラトニー・ドレインをしてもらった時だ。




