第46話:魔法使いと逆転の地
1
ピリピリと空気が振動する。こいつ…只者じゃないな。
だが、ヘイラを代表と言うあたり、こいつも仲間なのだろう。
「あ…?」
今度は地面を割らずに歩いてくる。さっきのはあくまでわざと割ったってことか。
「なんでこんなとこに人間がいんだよ」
「俺としてはなぜこんなとこに子供がいるのか気になるんだが?」
「子供…!?」
どうやら、子供と言われたのが相当ショックだったようで硬直した。
いや、俺だって冗談のつもりだった。だって、こいつが化け物なのは会って一秒もしないうちに分かったからな。
ただの子供が、タイルをあんな易々と割れるわけがない。
「てめぇ…俺のことを子供と言ったかァアアア!」
鎧少年、キレた!
って、まずい!なんかオーラが可視化してる!
その瞬間、後ろから青い髪の少女がヒョイっと少年が持ち上げられた。高い高いをするように。
「警告。少し冷静さにかけている。頭を冷やすこと、推奨」
「離せ!離せカルマ!」
「拒否。今離すこと、危険」
バタバタと暴れる少年。
すると、今まで傍観していたシュガーが、少年に話しかけた。
「ユウマは仲間。無礼は…今回だけでも許して欲しい」
「シュヴァにこんなに下手にでて頼まれたのは初めてだな…。まぁ、大人気なかったか。今後はこういうことはないようにな」
「あぁ、えっと…」
「自己紹介がまだだったか。俺は七つの大罪激情の罪、アグナ・リーレイルだ。魔法は使えないが、力なら他の大罪の数十倍は強いぞ」
「便乗。名はカルマ・パルバーテ。七つの大罪、傲慢の罪。能力は、相手の使用する魔法を先出しできる。固有魔法だろうと、なんだろうと。よろしく」
って、こいつら七つの大罪!?
『マジかよ!?』とシュガーに視線を送ってみると、コクリと頷いた。
マジなのか…。
「あ、ああああ、アグナ様にカルマ様!?」
ルキアが、何やらかなり驚いている。
そこまで有名なのか?俺も、まだこの世界についてはわからないことが多いけど。
「知ってるのか?」
「知ってるも何も!エルフと鬼を繋いだ張本人だよ!前魔王軍幹部に落ちぶれたって聞いてたけど…」
「落ちぶれてなんかいるか。俺はシュヴァの心意気を見込んで傘下に入ったんだ」
「心意気?」
「あぁ、こいつ、鬼の俺に飲み比べを持ちかけやがった」
飲み比べ?
「シュガー、酒には弱いんじゃないのか?」
「すぐに酔うな。だが、むしろ酔ってからが強い。瓶を五本は飲んでたな」
「結果は?」
「シュヴァの負けだ。だが、言っただろ?俺は心意気を見込んだんだ。鬼と飲み比べなんか面白いことするやつを、そこらで野垂れ死にさせたくなかったからな」
つまり、シュガーの無謀さを気に入って傘下に入ったのか。
「はいはい、そこまでですわ!」
パンパンと、ヘイラが手を打つ。
「あなた達には少し行って貰いたいところがあるのですの」
「行って貰いたいところ?」
「そうですわ。そこは…」
ゴクリっ…と、唾を飲む。
な、なんだろう?この威圧感…。これがカリスマってやつか?
「逆転の地、アリフォラ。そこにある逆転の杯を持って帰ってくるのですわ」
「そんなに重要なものなのか?」
「重要ですわ。なので、それを回収してもらいたいのですの」
逆転の杯…。金の優勝トロフィーみたいな感じのあれか?そこまで重要なものなのか?想像は出来ないけど…。
「って、お前らどうしたんだよ?」
「あそこはやばい、あそこはやばい…」
「拒否、拒否、絶対に無理、命乞いを実行」
「肩もみますので…、メンバーからは外してくださりませんか?」
「あぁ、ずるいぞ!じゃあ俺は足のマッサージを…」
「さーて、アリス!確かかくし芸の練習してたよね!」
「あ、はい!鎖を使ってあやとりー、まずはハシゴー!シュガーさんに教えて貰って置いて助かりましたー!」
な、なんでこいつらこんなに嫌がってるんだ?それに命乞いって、そこまであんまりな所なのか?
「ってな訳で、ユウマ、ミナミ、シュガー、ルキア、オルガ、ティナ、シオン、キクハ、タマテ、グラたん…あと護衛にアゼリールも付けますわ」
「あたしもパ…あぁ、なんか俄然やる気が湧いてきたなぁ!行きたいなぁ!」
あからさまにアゼリールが態度を変えたのはヘイラに睨まれたからだろう。
まぁ、全員が反論してないしメンバーとしては大丈夫かな。一人を除いて。
「てなわけで、よろしくお願いしますわね、アゼリール」
「はいはーい、テレポート」
嫌々ながら、アゼリールは魔法を唱えた。
2
「ん…?」
なんだろう、ここ。一面緑に覆われている。
熱帯雨林を思わせるジャングル。それがここに来た時の第一印象だ。
「お兄ちゃん、ここジャングルですよね?」
「あぁ、ジャングルだな」
皆は…全員いる。十二人。
「さ、行くぞ。って、どこに行けばいいんだろ…」
「このまま真っ直ぐ。けもの道沿いに行けばいいよ。どうやら転移で少し座標がズレてしまっていたようだね」
「あぁ、ありがとな…って、誰!?」
「今頃気がついたかい?」
誰だ、この青髪の青年は!?あまりにも自然な感じで居たから気が付かなかった。幻の十二人目か!?
「自己紹介からだね。僕の名前はマーリン。魔法使いマーリンさ!」
マーリン…魔法使い…。
ある逸話を思い出した。
かつてブリテンの王を導いた者がいたと。
その者は最終的には王を理想郷に連れていったと。
「マーリン!?」
「そうともさ。なんだい、親戚に同名の人でも居たのかい?」
「いや、ちょっと物語の登場人物に同じ名前の人がいて」
確かあれは物語だったはず。フィクションだ。現実の話ではない。いや、あやふやだったか?
「そうなのか、まぁ、僕のことはたまたまふらりと現れたお兄さんだと思ってくれないか」
「なら、なんで俺たちに着いてくるんだ?」
現に、恐らくアリフォラに向かっているであろう俺たちに着いてきている。
ニマニマと笑いながら。
「強いて言うなら、美女が沢山いるからだね。あぁ、まるで花畑!理想郷の風景を思い出させる!まぁ、いつも見てるけどね」
『は?』
なんだろう、とてつもなくガッカリした。
仮にも王を導いた人と同じ名前なのだから、この人もなんかすごいんじゃないかと思ってしまった。
「アヴァロン?あんたは空から来たのか?」
「いや、僕はまだアヴァロンにいるよ?」
オルガが質問をなげかけ、それにマーリンが答える。確かに、アヴァロンといえば天空都市アヴァロン、その名が一番に出てくるんだろう、この世界では。もう天空都市ではないかもしれないが。
だが、マーリンという名が絡んできたら話は別になる。
もしかすれば…、この人の話しているアヴァロンは、最果ての地アヴァロンを示しているのかもしれない。
届くことの無い理想郷。そこから来たのだとしたら、マーリンは実在するということになる。
「幻惑だな」
「よく分かったね」
「マーリンといえば夢魔と人間の混血。幻惑、誘惑はお手の物だろ」
「ほう、君は僕のことをよく知っているようだ」
まぁ、皮肉も混ぜたけどな。誘惑なんて顔が良ければ誰でも出来る。
先程の言動を皮肉った、それだけだ。
なんだよ花って、痛いんじゃないか?
「よろしくー。グラたんだよー」
「おや、小さなお子様だ。今度、お茶でもどうかな?」
見境なしか。グラたんまで口説き出した。
で、一通り自己紹介を終えた。
分かったことは、マーリンは女なら誰でも口説きにかかるということ。
十人中十人に口説きにかかっていた。
女好きもここまで来るとは…。
そんなこんなで、森の気がなくなり、開けた場所に出た。
3
「さぁ、着いたよ。ここがアリフォラだ」
「見たところ、普通の街だな」
まぁ、土壁が目立つがそこまで文明が発展していない街なのだろう。
「まぁ、見ただけではわからないよね。なら、ユウマくん。ルキアさんと握手してくれないか、思いっきり」
「はぁ?そんなことしたら俺の手が折れるぞ」
「いいから。僕は回復魔法も使えるよ」
そ、それなら…と思い、ルキアに手を差し出す。
ルキアは「本当にいいの?」と聞いたので、俺はこくりと頷く。変に長い返事にしたら、決意が揺らいでしまうかもしれないからだ。
ルキアは俺の手を握る。激痛が走ると思っていたが、そうはならなかった。優しく、握られただけだ。
俺も握り返す。すると、「痛たっ!」と、ルキアが苦痛で顔をゆがめながら呻いた。
「ど、どうなってるんだ…?」
「これが逆転の街、アリフォラ。力が逆転する世界さ!」
力が逆転…、だからルキアの握力はこんなに弱くなったのか。
「で、君たちの目的は逆転の杯だね?」
「なんでわかった?」
「本来、ここに好いて来る物好きなんていないさ」
確かにそうだな。
でも、ようやっとアイツらが嫌がってた理由がわかった。
ここでは最強のやつが最弱。なら、あいつらが嫌がるのも当然だろう。
アリスとかなら魔法を使わなければ弱いかもしれないが、それでも思うところがあるのだろう。
「で、あなたはどうするんですか、これから?」
ミナミがマーリンに問いかける。
確かに、こいつは何やらこの街に用があるようだ。
本人も言っていた。「本来、ここに好いて来る物好きはいない」と。
「お助けしに来たんだよ、君たちを」
「なんで?」
ティナが聞き返す。
「まぁ、現魔王軍を気に入ってないってこともあって、それに反発する君たちを手助けしたい…ってこともあるけど、一番は…」
すると、マーリンはティナの手の甲に口付けした。
なんかキザな人だな、マーリンって。
「君たちのような美しい花を守るのが僕の役割だからね」
決まった、とばかりにドヤ顔をしているマーリンを後目に、ティナは嫌な顔をする。苦虫を噛み潰したような、あからさまな嫌な顔。
そして、オルガの上着で手の甲を拭いた。
「ちょ、そんなものなすりつけんなよ…!」
「嫌よ、気持ち悪いもん!」
なんか、小学生の頃に男子たちがやってた『○○菌』とか言って擦り付けあっていたのを思い出した。
あれはいじめだが…すまないマーリン。少し気持ち悪いと思ってしまった。
「ま、マーリン…」
「大丈夫、気がついているとも…」
涙を浮かべながらも、笑顔を絶やさないマーリン。自業自得でも、少し可哀想だ。気持ち悪いけど。
「なんで俺たちが魔王軍に反発してるって知ってるんだ?」
「どうしてって、それは僕がこの世の全てを見通す目を持っているからさ!」
この世の全て…か。ゼルドリュートの能力の現代版のような感じか。なんか同じような能力を持つ者がいるせいで反応に困る。
「でも、なんか妙だな。大人の女性がほとんど居ない」
「男性と子供ばかりですね」
正直言って、不気味な程だ。
「…理由は知らない方がいい」
そう、マーリンは今までと違い真剣な表情で呟いた。
どうやら、何か知っているようだ。
「せめてヒントだけでもくれないか?」
「全ての力が逆転しているから…とだけ言っておこう」
その瞬間、「うぅ…」とオルガが嗚咽を漏らした。
「どうした、気分でも悪いのか?」
「…いや、こいつの言ってることがわかった、それだけだ」
「…想像するだけでもおぞましいね、まったく。だが、今はとりあえず、宿を取ろう。てなわけで…」
「…なんだその手は」
まるで、何かを渡せと言わんばかりに手のひらを上にして俺の前に手を差し出す。
「何とこの僕は、無一文なのさ!」
「幻惑使えよ」
「そんなことに使えば申し訳ないだろう?」
今現在俺たちを騙しておいて何を言ってんだ…。
だって、こいつの本体はアヴァロンに居るからな。
「まぁ、それくらいなら…何ルナだ?」
「一人五百ルナだそうっす!」
俺はマーリンの手の上に五百ルナ置いた。
「ありがとう、この見返りは必ず果たすとも!」
「そんな事しなくてもいいけど…」
過去、身代わりとは言え三人の魔王軍幹部の退治に関わった俺は、小金持ちになっていた。いや、四人か。俺は関わってなかったけど。
関わっただけだけどな。成金臭いかもしれないが、そんな小さな支出は気にならなくなっていたのだ。
「部屋はどうする?」
「私はオルガと一緒がいいわ」
「じゃあ僕はミナミとシュガーと一緒!」
「ちょ、私はお兄ちゃんと!むぐっ!?」
ルキアがミナミの口を抑え、耳打ちをする。
「じゃあお姉さんはキクハとシオンを借りてくわー。浮気者は好かないのよねー」
「あ、あぁ、そうだな!ほら、シオンも!」
「じゃ、またねー、ユウマー!」
なるほど。ルキアは、俺がマーリンと同じ部屋に泊まることを見越してミナミを説得してたのか。
予想は的中、俺とマーリンは同じ部屋になった。
4
「良かったのか、俺と同じ部屋で」
部屋に入り、マーリンに問う。
すると、マーリンは案外嫌そうでもないことに気がつく。
まさか…、こいつ、両方いける口か!?
「君は壮大な勘違いをしているようだね。そもそも、僕は宿なんて泊まる必要ないんだけど、まぁ、君とふたりで話がしたくて」
「ふたりで…?」
確かに、こいつが幻惑なら宿に泊まる必要は無い。幻惑を解き、また必要な時に現れる、それでいいはずだ。
「君は、アーサー・ペンドラゴンという人物を知っているかな?」
「ブリテンの王だろう?知ってるよ」
「ふむ、やはり君は少し特殊なようだ」
特殊?アーサーくらい、年頃の男女なら誰でも知ってると思う。
エクスカリバー、その名を知らないものはほとんど居ないだろう。
でも、なぜその名がマーリンの口から出た?
なぜそのような特殊なことをマーリンは知っている?
「マーリン、お前は何を知っているんだ?」
「全てさ。過去と今の全て。僕はこの目で見てきた」
「話せる限りでいい、話してくれ。俺は、まだこの世界のことをよく知らない」
この世界の歴史なんて、俺は知らない。ただ、戦争が起きたことくらいだ。あと、大陸が六個のこと。
それとマーリンの知っている歴史では、比べ物にならないだろう。
「さて、どこから話そうか」
「最後の戦争が終わったあたりから頼む」
「分かった、少し長くなるよ」
「あぁ…」
マーリンは、ゆっくりと口を開き、語り出した。
「まず、神は他世界から五大天使を呼び出した。つまるところ、異世界人だね、今の四大天使は」
「えっ!?」
「どうかしたかい?」
それってつまり、俺たちと同じってことか、四大天使は!?
待てよ、今一人が殺されて、三大天使になっている。
天使になる条件は、光の属性であること。
ミナミは、それを満たしている。
それに、天使の後継者を探すためにイグラットまでやってきたと言っていたらしい。
まさか!
「天使の目的は…ミナミ!?」
「それは本当かい!?」
「あくまで推測だ…、でも、可能性としてはありえる」
「ふむ、僕は未来が見える訳では無いからね、ただの推測だけど、その可能性も大いにありえるよ」
これは…ヘイラに会ってから話し合う必要があるな。
ミナミの誘拐が連中の目的ならそれを阻止しなくてはならない。必ずだ!
「もう話はいいかい?」
「いや、続けてくれ」
マーリンは、また淡々と話しだした。




