第42話:王都へ帰還と同行者
1
俺たちは身支度を済ませ、ナナクサ宅の前に集まった。
まぁ、これまで何かとお世話になったお礼とかを言わないとだしな。
「ありがとな、今まで俺たちをここに泊めててくれて」
「気にするなよ、ユウマ!こいつらも退屈しなかったしな!」
「そうよ、お姉さんも退屈しなかったわー、ねぇ、みんな?」
「面白かったー!」
「楽しかったー!」
ワイワイと盛り上がるナナクサ兄妹。
思えば、随分と長い間ここにいたと思ったけど、ほんの五日だけなんだよな。
それでここまで人とは打ち解けられるものなのか。こいつらが特別なのかもしれないけど。
ゴギョウとメアリーに関してはなんか種族を超えた…生死を超えた?恋愛みたくなってるけど。
ミナミとナズナも固い絆で結ばれたな。それ以上かもしれないが。ナズナがミナミに泣きついている。
「ひぐ…また、来る?」
「はい。必ず来ますよ」
「絶対だよ…?」
「約束です」
ミナミはそう言うとナズナを抱きしめた。
ちなみに、帰りはユニラの転移魔法で王都までひとっ飛びだ。
ユニラだけ先行させてマーキングし、そして王都に戻ってこれば早かったのだろうが、「疲れるのヤダー!」との理由で却下されたらしい。
まぁ、帰りは泣く泣く承諾してくれたみたいだけど。
でも、ユニラくらいの魔力でも転移魔法使うと疲れるんだな。どれほど膨大な魔力を必要とするのかがよく分かる。
距離的な問題なのかもしれないがな。
「さよなら、ゲンナイさん」
「おう、達者でな。これからは守れるもんが増えるからな、腕がなる」
オルガとゲンナイは互いの手を固く握りしめた。どうやら銃の作りを一通り教えたらしく、設計図まで用意したらしい。
これでモノノケたちの殲滅に貢献してくれたらいいのだがな。
もしかしたら、内乱で悪用されることもあるかもしれないが…。その時はその時か。
流石のオルガもそんなことまでは責任を取り切れないだろう。
「じゃあな!エギル兄ちゃん!」
「元気でね!」
「僕、エギル兄ちゃんみたいに強くなる!」
「うん、日々の鍛錬、忘れちゃダメだよ?」
『うん!』
アウトドア組の三人をエギルは優しく撫でた。
「じゃ、そろそろ行くか」
「分かった!じゃあ行くよ…」
ユニラがそう言った瞬間だった。
「やっぱりダメー!」
なんと、シオンがゲンナイ以外の全ての連中を押して、魔法陣の中に突っ込んできたのだ!
その次に目に入ったのは王城の謁見の間に、ベッタリと尻もちをついているパーティーメンバーと王都メンバー、そして…ナナクサ兄妹にシオン、キクハ、そしてタマテだった!
「お前何やってんだー!」
「いやー、あはは…やっぱりもうちょっと一緒に居たくて…」
ひきつった笑顔を浮かべるシオン。いや、今更少し申し訳なさそうにしても手遅れなんだが…。
現にユニラがへばってるし、もう恐らく向こうには戻れないっぽい。
「おー!なんだここー!」
「ひろーい!キラキラー!」
「あっ、こら!勝手に歩き回るなよ!」
ピシャリとキクハがナナクサ兄妹たちに注意する。まぁ、あんな和風なとこにいたんだからThe・洋風みたいなここに来たらビックリするだろうな。
「ど、どうする?エギル?」
「とりあえず今日一日くらいはここで泊まれるだろうけど…ここまで大人数となると長期は無理だな…」
だろうな。
なんせ俺たち合わせて十人、グラたんとメアリーを抜いても八人。そしてさらにもう十人が追加となると、かなりきついというのが現状だろう。
「客室の問題か?」
「いや…」
エギルはリリスとタマテのいる方向を指さした。
何やら談笑しているようだ。
「あなた、なかなかお酒に強いのね。どう?飲み比べでもしてみる?」
「あらー、お姉さんかなり強いわよー?着いてこられるかしらー?」
「着いてこられるかじゃないわ。あなたこそ、私に着いてきなさい!」
「意気込みは認めるわー。いいわよー、今夜、勝負しましょー?」
「望むところ!」
あー、エギルが考えていることが大体わかった。
アイツらが王城内の酒樽酒瓶を全て空にする懸念しているのか。
…やりかねないな。
「まぁ、一応今日だけは自由行動でいいだろ。明日にイグラットに出発だな」
「いや、その前にヤマトに…」
「出来ないよ」
『へっ…!?』
俺とエギルは声をあげて驚いた。
「マーキングしてないから…行けないよ…」
ユニラは息を上げたまま、途切れ途切れに言った。
えっと、それはつまり…。
こいつらを送り返すことは叶わないというわけか…?
流石にこいつらもあの荒れ狂う波の中ヤマトに帰るのは…まぁ、嫌だろう。
「あらー、困っちゃったわー」
「屋敷はゲンナイの野郎が時々掃除に来てくれるからいいかー」
「だね!それより…」
ぎゅむっと、無駄に大きな胸をシオンが押し付けてくる。
あ、ミナミから黒い波動のようなものが…。
「また一緒にいられるね、ユウマ!」
「お兄ちゃんから今すぐ離れなさーい!」
ミナミが思いっきりシオンを引っ張るが、ビクともしない。体を鍛えているからか、それとも愛の力か?
「ほら、煌びやかな街並みだよー!ユウマ、あそこに行きたい!」
うーん、今日くらいはいいか。
こいつも初めて見た光景にテンションが上がっているだろう。ぴょんぴょんと跳ねている。
「お兄ちゃん、私とのデートの約束は…?」
「俺はそんなのした覚えはない。それより、構わないか?」
「構わん。ゆるりと街を練り歩き、満喫してくるがいい」
よし、エリナからの許可も貰ったし、早速出歩こうか。
俺は少し強引に、シオンの腕を引っ張った。
「強引だなぁ、ユウマは」
「今くらいはな」
こいつも恐らくこういうのを望んでいたんだろう。
口角が上がりっぱなしだ。
俺たちは外門を通り抜けて、王都へ繰り出した。
2
初めに訪れたのは、カフェだ。
「わー、なにこれ!?」
「チーズプディングってやつだな」
「とろとろして美味しー」
和製英語に直すとチーズプリンだな。
とても美味そうだ。
「そうだ、あーん」
「なんでだよ」
「あーん!」
しつこくスプーンを押し付けてくるので、観念して俺は口を開けた。
すると、チーズプディングを置いたスプーンが俺の口に入ってきて、それを下に乗せられる。
甘くてトロトロで美味しいな。
「美味かった」
「だよね!ふふふ!」
シオンはとても楽しそうに笑った。
…ん?何やら視線を感じる。
カフェだからか?それとも…?
とりあえず、場所を変えるか。
「なぁ、場所を変えないか?」
「あ、私あそこに行ってみたい!」
お、こいつはどこか行ってみたいところがあるらしい。
「どこだ?」
「んーと、らぶ…ほてる?リリスから聞いたんだ!」
アイツ…!シオンに何吹き込んでんだ!そもそもこの世界にもラブホは存在するのか…。
ミナミには黙っておこう。あいつがこのことを知ると何かと面倒そうだ。
「仲良くなった男女が親睦を深めるために行く場所なんだって!」
お、おぉ、流石のリリスもオブラートには包んだか。
「まぁ、そこにはまた今度行くとして…!」
嘘だ。
そんなところに行ったら俺の大切な何かが失われる気がする。
「ま、まぁ、ぶらつこうぜ!」
「うん、私はそれで満足だよ!」
よ、良かったぁ…。
これ以上にそういう話はしたくないからな。
すると、シオンは俺の耳に口を近づけ、こう言った。
「またそういう行為、しようね!」
あいつ、本当は全部知ってるんじゃないか!?
「やらねぇよ!」
意地悪そうに、ニマニマと笑みを浮かべるシオン。
俺はため息をついたあと、先行しているシオンの隣に並んだ。
「今度はあの店!」
「服屋か…」
「試着するだけだよ!」
服って、結構高いイメージがある。
幸い、本人は試着をするだけのようだが…。
「ユウマ!似合うかな?」
まず試着したのは、鎖帷子を着込んで、皮で出来た初心者冒険者みたいな装備。
「似合ってるんじゃないか?」
うーん、初心者装備に似合うもクソもあるものか?
まぁ、本人は喜んでるけど。
「お次これ!」
ゴスロリっぽい黒と白のワンピース。
ギャップ萌え狙いか?
「いいんじゃないか?」
「さっきからずっと疑問形なのはなんで?」
「意見を言ってるだけだぞ?」
「ならちゃんと可愛いとか、似合ってるって言って。疑問形にしないで!」
「分かったよ」
ムッとした表情のまま、シオンは試着室へと入っていく。
最後に来たのは…。
青色のインナーの上に白のカーディガンを着込み、そして黒のスカートを着ていた。
正直に言おう。今までの服装の中で、一番可愛いと思った。
シンプルかつ清楚。これぞ服選びの真理だ。
「似合ってる。可愛いな」
「そう!?やったぁ!」
ぴょんぴょんと跳ねるシオン。余程嬉しかったんだな。
和服に着替えたシオンに、俺は少しサプライズをしようと考えた。
「じゃ、俺は少しここで用ができたから、外で待っててくれ」
「うん、分かった」
えーと…。うん。これで足りるな。
「お待たせ」
「ううん、それほど待ってないよ」
すると、シオンは不思議そうに俺の買い物袋を見つめた。
「あれ?ユウマって服とか興味あったの?」
「いや、さほど興味ない」
「じゃあ、なんでこれ…?」
俺は何も言わずに、それをシオンに差し出した。
「ちょっとした餞別祝いだ」
「ほんと!?開けていい?」
「もちろん」
シオンは袋の中身を確認した。その中身は、先程シオンが試着した服だ。
すると、何故かポロポロと涙を流し始めたじゃないか!?
えっ!?期待にそぐわなかった!?
「ご、ごめん!気に食わなかったなら…」
「違う…違うの…」
違う?何が違う…?
期待したのと違って怒ってるのか!?
「嬉しすぎるんだよ…今まで、こんなに心のこもった贈り物は初めてだからさ…」
俺は、ただこいつに似合っていた服を買ってあげただけなのだが…。
それほどのプレゼントすら、受け取ったことがなかったのか?
こいつの過去についてはあまり知らないな。
ただ、必死に鍛錬してたことくらいか。知ってるのは。
「ありがとう、ユウマ!」
「喜んでもらえたなら何よりだ」
シオンは涙を流しながら、俺に笑顔を向けた。
そんな中、また何やら視線が…。
大通りで人が泣いてるからか?
でも、なんか嫌な予感がする…。
人気のないところで応戦するか?シオンにも手伝ってもらって。
「なぁ、ちょっときてくれ」
俺は強引にシオンの腕を引っ張った。
「ゆ、ユウマ!?」
シオンはまだ視線に気がついていないようだ。
3
俺の速度に合わせるように、シオンが早足になる。
「何かあったの?」
「とりあえず、着いてきてくれ」
下手に話したら向こうにバレるかもしれない。
とりあえず、人気のない森の中にやってきた。いつぞやにシャドー・スラッシュを教えて貰った場所だ。
「よし、ここでは人目につかないな」
俺がシオンに何者かに付け回されているということを教えようとした途端、シオンが俺を押し倒してきた!
「ユウマ…ようやくその気になったんだね…」
「え、いや、ちょっと?」
なんかこいつ虚ろな目をしてる!?
おい、やめろ!その唇をこちらに近づけるな!
「えっ?」
「むきゅ」
シオンの唇を俺の唇に近づけようとした瞬間、何やらぷにぷにしたものが俺の唇に張り付いてきた。
「グラたん!?」
「グラたん!邪魔しないでよ!」
「グラたん悪くないー。おじょうー、なんでグラたん投げたのー!」
おじょう?もしかしてミナミがいるのか?
それより、グラたんを投げたって…。飛び道具じゃないんだぞ?
「お兄ちゃんから離れてください!」
「これはユウマから誘って来たもーん!」
「俺はストーキングされてると思って、そいつを返り討ちにしようと人気のないところまでやってきたんだぞ?」
まぁ、今は大して視線は感じないんだが…。気のせいか?
いや待て、なんでミナミとグラたんはここに居る?
「グラたん、なんでここにいるんだ?」
「おじょうがお兄ちゃんに何かあったらたいへんーっていって、ずっとあとを着いてきたのー」
えっと、つまり…。
「ストーカーはお前か!」
「お兄ちゃん!なんで怒るんですか?」
「怒るだろ!…全く、これが終わったら少しは付き合ってやろうと思ってたんだけど…」
あ、やばっ、口が滑った。
すると、なんとも期待に満ちた目で俺の方を見つめてくるじゃないか。ミナミのやつ。
「デート!デート!」
「お前は反省してろ!ストーカーなんてしちゃいけないことってのは重々承知だろ?」
「そ、そんなぁ…」
ガックリと肩を落とすミナミ。
その様子を見たグラたんが、何やらガタガタと震え出した。
「グラたん、悪くないよー。だから、怒らないでね…?」
うーん、グラたんが止めなかったからミナミはここまで来たので、非はあるかもしれないが…、シオンの行為から助けてくれたのも事実。だが、ストーキングされてなければあんなことにはならなかったわけだし…。
「じゃあグラたん。これからはミナミが俺にストーキングとか如何わしいこととかしないように見ててくれ」
「わかったー。でも、グラたんごしゅじんともいっしょにいたいー」
「なら…ナズナと交代でやろう」
おそらく快くやってくれるだろう。
だが…そのためにはナズナたちに少なくともイグラットに住んでもらわなければならない。そうじゃないと、監視なんて務まらないからな。
後で掛け合ってみるか。
「それならごしゅじんともいっしょにいられるねー」
「あぁ、そうだな」
「グラたんそれでいいー」
よし、承諾してくれたな。
さてと、あとはそこで放心状態のミナミと、それをニヤニヤして見つめるシオンだが…。
「シオン。ミナミを王城まで連れて行ってくれないか?」
「別にいいけど…デートの続きは?」
「また今度な。あとデートじゃないぞ」
「絶対だからね!」
シオンはミナミの手を引いて、王城に向かった。
一応釘を刺しておくか。
「お前までストーキングしたら許さないからな」
「分かってるよー」
ミナミを引っ張ってないもう片方をヒラヒラとさせて、そういう気はないということを合図するシオン。
「グラたんー、少し言いたいことがあるー」
「お、どうした?少し付き合ってやるぞ?」
「えっとねー?リリスお姉ちゃんから聞いたんだけど…」
またリリスか。
如何わしいことじゃないだろうな。
「使い魔になったらー、魔物は経験値?が主人から一部分配されるんだってー、逆もあるって言ってたよー?あとは、魔法を使って低コストで自らの周りに転移させたりもできるみたいー」
「へー、そうなのか…」
そう考えると、グラたんってすごくレベル上げやすいよな。
食べるだけでいいんだから。周りのモンスターを。
その分俺のレベルも上がると。
美味い話じゃないか!
「でも、使い魔になるには儀式をしなきゃなんだってー」
「その、使い魔にするための儀式ってのはどこでできるんだ?」
「リリスお姉ちゃんは、家に帰ったらやってあげるって言ってくれたー」
ふむ、なら今度やってもらおうか。
この子は戦力としては申し分ない。それが使い魔になると想像すると、かなり心強いな。
「じゃ、グラたんにも少し付き合ってもらおうかな」
「んー、なにー?」
「グラたんもまだここに来て一日も経ってないだろ?少し案内しようかと思ってな」
「うんー、楽しみー」
グラたんはテンションが上がったようで、ぴょんぴょんと跳ねた。
愛らしいな。ほんと。
さて、どこに向かおうか?
歩きながら考えるか。その余裕が、今の俺にはあるんだから。
4
ヘイラさんの神殿に泊めて貰ってから一日。
色々と心の整理がつき、少しやってきたことがバカバカしく思えてきた。
エルマさんを迎えに行きたいけど…どの面を下げて会いに行けばいいのか。
「とにかく、天使たちの目的は?」
「来年の冬…正確にはウリエル誕生祭までに後継者を見つけることっすね。その時じゃないと後継の義は出来ないっすから」
ふむ…、だから偵察に来ていたと。話によれば、イグラットに後継者がいるとの事だが…。
「その目星は?」
「残念ながら、着いてないっす」
「しょうがないのですわよ、お兄様の考えはが分かるのはわたくしだけ!ですの!」
ビシッとポーズをとるヘイラさん。
相も変わらずって感じで何よりだなぁ。
「一つ、確かなことが」
「何ですか?」
「その後継者が、悪魔と深い関わりを持つそうで」
悪魔と関わり…か。
私が知ってる可能性もあるかも?
「まぁ、今のままじゃ戦力が足りないんですの。質と量を両方極めれなければならないのですの」
質と量…か。
今の側近はアゼリールさんだけみたいだし、神様も大変だな。
まぁ、自称『廃れた女神』さんだもんな。
ちなみに、ヘイラさんはゼルス様の妹様だ。
「ヘイラさん。少し思い当たる人物が居ます」
「あら、アリス。誰ですの?」
「一人にして千の兵と同等…まさに一騎当千の男…といえば分かりますか?」
あの人は、シュバリエル様や私たちのピンチの時なんかには助けに来てくれる。
「アグナ…七つの大罪最強の力量を誇る鬼ですわね」
「でも、どうやって呼ぶんすか?居場所とか知ってたり?」
「考えがあります」
「詳しく聞かせて貰いますの」
こちらとしては多少のリスクは払っても構わないと思っている。だが、これを承諾するかどうか…。
「やりますの。この度の愚行、少しお灸をすえなければ気がすみませんのよ」
完全に私欲だな。いや、昨日の私もこんなだったか。
「さてと!そうと決まれば準備っすね!」
張り切った様子でアゼリールさんが何やら魔具のようなものをぽいぽいと出してきた。
あとは…役人を揃えないと。
にしても…、一体天界で何があったんだ?




