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第38話:努力家少女と闇魔術

 1


「おい、待てって!」


「どうして待たないといけないんだ?」


「それは…」


「なにかバレるとまずいことでもあるのか?」


 ここで否定をすればこいつは恐らく、シュガーのところへ行く。だが肯定をしてもきっと行く。


 どうすれば!?シュガーの正体を知ればきっとこいつは冷静さを失って切りかかる!


 って、もうあんな所に!


 しかもシュガーがすぐそこにいる!


「ミルク。お前の本名はなんて言うんだ?」


「何、いきなり」


「聞いてなかったなと思ってさ」


 あぁ、もう終わった…。ごめん、シュガー…。


「ミルク・シューヴァール」


「…そうか、疑って悪かったな」


 俺はほっと胸をなでおろした。

 ん…?

 でも、なんだこいつは俺が適当に考えた嘘の偽名がわかったんだ?


「お前も悪かったな、疑ったりして」


「あ、あぁ…」


 エギルはそう言って去って行く。

 俺は、シュガーにずっと気になっていたことを尋ねてみた。


「お前はなんで、偽名を知っていた?」


「それは…ゼルに聞いて」


「へい少年!ユウマ…だっけ?自分で言っちゃなんだが、今回は少し俺に感謝してくれよー?」


「ゼルドリュート、どういうことだ?」


「グリード・ヴィジョンだよ、それで偽名の件を見抜いた」


 あー、そう言えばこいつは未来が見えるんだっけ。


「便利だよな」


「そうでも無いぞ?世界中の情報を整理しないといけないから、いちいち書物にまとめなきゃならない。予言書ってやつだな。それに予知は一日二回。覚えてる間に書き留めなきゃ行けないから大変だ。地名を教えてもらったり媒体を見れば、ある程度は特定できるけど」


 ふむ。確かに大変そうだ。

 世界中の膨大な情報をまとめ、さらに今回みたいに仲間のピンチに駆けつけなくてはならないんだ。


「それより、早く行こうぜ?宴があるそうじゃないか!」


 宴か、美味しい晩餐。嫌いじゃない。

 シュガーも心做しか表情が緩んでいる。


「おー、美味い!」


「今日は張り切ったぞー!」


 活け造り、煮物、さらに見るからに高そうな品々が。


「ん…?」


「…そ…んて…なんて…!」


 森の方に、シオンが歩いていくところが見えた。それに、何かブツブツ言ってたし…。


「俺、ちょっと森の中で食べたくなったから、行ってくる!」


「お兄ちゃん、夜の森は危険ですよ!」


「あぁ、気を引き締めとくよ!」


 俺は余り物の入った鍋と、箸を二膳取って森へ入った。


 2


「どこ行ったかな、冷めないうちに見つけたいんだけど…」


 すると、何かを殴るような音が響いた。

 なんだろう、この音。とりあえず行ってみよう。

 モノノケかもしれないけど、その場合は魔法を叩き込めばいいか。一応剣は持って来たし。


「クソ!」


 大声が森に響き渡る、シオンの罵声。

 それは、普段の綺麗な声とは裏腹の、嗄れた声だった。


「シオン…?」


「あぁ、もう!なんで、私だけ!強く!なれないの!他のみんなは強いのに!それと同じくらい鍛錬してきたはずなのに!」


 ガンッガンッと、樹木に拳を叩きつける。

 俺はそのありえない姿に動揺して、薮に足を突っ込んでしまった。


「誰っ!?」


 さすがに気づかれたか…。

 俺は諦めて、シオンの前に出た。


「ユウマ…?あっ、これは…その…」


「お前、何やってんだよ」


 拳からは血が滲んでいる。

 ぽたぽたと、血液が地面に落ちていく。

 その傷を、シオンはサッと隠した。


「こ、これは!さっき転んじゃって、擦りむいちゃってさ!ほんとドジだよね!アハハ…」


 取り繕うように、シオンは笑顔を見せる。

 だが、その急拵えの笑顔が、俺には極めて嘘くさく思えた。


「…見てた?」


「…あぁ」


「…そっかぁー」


 少し影を落としたが、まだシオンは笑顔のままだ。


「私、ダメダメでさ。自分が悪いの分かってて行き場のない怒りを覚えた時、よくここに来るんだよ。私の家の近くの林にもある。ほら、見て」


 シオンはゆっくりと俺がやってきた方向とは逆の森の方を指さした。


「これは…」


 そこにあったのは、大きなくぼみが出来た木々だ。何十本も、これと同じような傷が着いていた。


「全部、私がやったんだよ。私の私怨と、痴態と、その場だけの憤怒の残骸。そして…私の戒め」


「ユウマには分からないよね」と、シオンは知ったような口で言い放った。

 俺はそんなシオンと自分をどこか重ね合わせてしまった。

 行き場のない怒りを溜め込み、吐き出す宛もなくただその怒りだけが肥大化していく。


 その苦しさを、俺は知っていた。


「そんなことない。俺だってそうだ」


「嘘だよ!ユウマは…ユウマには私の気持ちなんて分からない!」


 貼り付けていた笑顔が崩れ落ち、シオンは怒りを顕にした。


「タマテとキクハに越されるのは分かってた!しょうがないって割り切ってた!なのに…、なのに…!年下のあなた達にまで負けるなんて!分かる!?努力も年月も上の人が圧倒的な力の差を見せられたんだよ!」


 ボロボロと涙を流すシオン。

 そうか…、こいつを傷つけていたのは俺達だったんだ。

 魔術と剣術じゃ全くもってベクトルが違うが、それでもこいつはそれを自分の努力不足であると嘆いているのだ。


「シオン、少し聞いてくれないか」


「…なに」


 ギロリとシオンは俺を睨んだ。

 もう優しい頃の面影は残ってないな。


「俺は正直、あのパーティじゃ最底辺だ。運動もできない、魔法も少ししか使えない。使えたとしても、それはほぼ動かない相手にしか使えないときたもんだ。しかも防がれたらそれまで」


「魔法…?」


「妖術の類だと考えてくれ。あ、ちなみに大して特別な力でもない。この国が極めて魔法に疎いだけだ。そんな俺は妹にさえ劣るんだぜ?お前なんかよりもよっぽど弱い」


  これは自虐だ。

 こいつに俺の弱さを知ってもらって、少しでも心を開いてもらいたい。

 それだけだ。


「それにさ、世の中は強さだけじゃないんだ」


「違う!強くないと何も守れない!」


 シオンは泣き崩れてしまった。

 無力さを嘆き、自分を責め立てた。


「ビミデスネェビミデスネェ、フノカンジョウ」


「誰!?」


 俺が振り向くと、闇の中からローブの男が現れた!

 相変わらず深く被ってるせいで顔は見えない。


「何故ここにいる!」


「イエイエ、タイヘンイイフノカンジョウガアッタモノデスカラ。スコシカイホウシテアゲヨウトオモイマシテ…ネ!」


「ぐっ!?」


「お前!」


 ローブの男はシオンの首を掴み、空中に浮かせた!

 あれは魔法か!?まるで黒い霧のようなものにシオンを取り巻き始めた!


「アガガガァ…!」


「シオン!くそォ!」


 俺は男に向かって剣を突き刺した!


「アララァ、モウスコシタノシメルトオモッタノデスガマァイイデショウ」


 が、前と同じように男は姿を霞ませた。

 俺はシオンに駆け寄り、安否を確認しようとした。


「大丈夫か、シオン!」


「アハァ…」


「シオン…?」


「アハハハハハハハハハハァ!」


 狂ったように笑い始めたシオン。

 何が起こった!?しかも解放って…!?


「何、何この力!今までにない力が溢れてくる!溢れてくるぅ!」


 これは…どす黒い魔力!?

 あいつがシオンに何かしたのか!?


「シオン、その力に飲み込まれちゃダメだ!」


「はぁ?うるさいなぁ、鬱陶しいんだよ」


 シオンの全身は黒い靄のような魔力に完全に包まれ、目はギラギラとまるで獣のように光っていた!


「死ねぇぇぇぇ!」


 俺はシオンの刀をなんとか剣で受け止めた。

 クソ!力が俺より何倍も強い!


「目を覚ませ!お前がほしかったのはそんな力か!」


「手段なんて選ばない!努力なんてどうでもいい!今まで散々やってきて無駄だったんだ!ならァ!」


 シオンの力がさらに強くなる!

 このままじゃ力押しで負けるぞ!


「こんな力に頼るしかないだろォォオオ!」


「ぐ…ガハァッ!」


 思いっきりぶっ飛ばされて、木に激突する。

 意識が…やばい、もう、死ぬ…。




「なんでこんな所でへばってんのよ」


 目を閉じた暗闇の中で、声だけが聞こえる。

 なんだろう、懐かしい声だ…。


「はぁ、しょうがないわね。今の一瞬だけ、使わせてあげる。さぁ、行きなさい」


「待って、あんたは…?」


 そう言いかけたが、腹に激痛が走り現実に呼び戻された。


「何寝てんだァ?お前は私の実験台(おもちゃ)だァ!へばってねェでもっと足掻けよォォォォォ!」


 死体蹴りのような形で蹴り飛ばされ、空中にとんでもないスピードで打ち上げられる。

 そのまま、飛び跳ねたシオンのかかと落としで地面にめり込む形で叩き落とされた。


「面白くないなァ、もっとォ!もっともっともっともっともっともっとォォ!楽しませろよォォォ!」


「うっさいなぁ…」


「あァ?」


 起き上がる俺に、シオンは下卑た笑みを浮かべ、こちらに歩み寄ってくる。

 なんだか、内側からどんどんと魔力が湧いてくる。何だ、この感覚…?


「なんだよ、まだ戦えるじゃねェかァ…」


 こいつは…本当は苦しいんだな。

 解放されているだけだとすれば、恐らくこいつの意識はある。

 優しかった頃の意識は。


「こうでなくっちゃあな!」


『我が焚べるは己が魔力、我が望むは闇の制裁。その刃は闇の元にありて、罪在りしものを罰す』


 頭の中に、詠唱が浮かんでくる。

 そして、体の中に溢れんばかりの魔力を感じる!


「解放してやる…、『影武者』」


 その瞬間、ふっとシオンの体に闇の刀が振り下ろされた。

 シオンは刀で切られて血が滲んだ場所をまさぐり、安心したように笑ったあと後ろに倒れ込んだ。地面に倒れる直前に俺がなんとか受け止める。


 そして振り返ると、後ろには赤褐色の目をした武者のようなものが佇んでいた。

 そして、霧のように消えていく。


「時間切れ。あとはあんたが好きなようにやんなさいな」


 また声が聞こえたが、誰もいない。


「シオン!」


「ユウマ、優しいんだね。強くて…優しい。そんなあなたみたいな人に、なりたかったんだ、私…」


「喋んな!傷が開く!」


 俺は何をしたらいいのか分からず、とりあえず傷を圧迫した。

 シオンはきっと、望んでいたんだ。

 嫌な自分を演じて、俺に倒してもらおうと。


「お兄ちゃんー、どこですかー?さすがに帰りが…って、お兄ちゃんにシオンさん!?」


「ミナミ!事情は後で話す!とりあえずシオンを助けて…くれ…!」


 そう言った瞬間、体中に激痛が走り、ぶっ倒れた。

 そう…か、地面に叩き落とされたりした…からな…。骨が何本か折れてて…当たり前…か…。


「お兄ちゃん!しっかりしてく…さい!…兄…」


 意識が遠のいて行く中、ミナミの悲痛感に充ちた呼び声が聞こえてきたが、それに答えることは出来なかった。


 3


 木の天井の場所で、俺は目を覚ました。

 まだ、外は暗いな。優しい月明かりが、ぼんやりと部屋を照らしていた。

 横を見ると、ミナミが寝息をたてている。


 まーたこいつは…。

 デコピンでも食らわしてやろうかと思ったが、それはやめておこう。

 起きたら小言でも言ってやろうか。


「ユウマさん。起きたんですね」


「メアリーか」


 布団の脇に立っていた…。いや、浮いていた…か?

 どうでもいいか。

 そんなメアリーが俺を心配そうに見つめる。隣ではナイトが眠っているようだ。動物的習性からか?幽霊は寝なくても平気らしいから。


「あ、ミナミさんを怒らないであげてください。ユウマさんの介護をしてたんです。濡れタオルで体を拭いたり、回復魔法をかけたり…なので、疲れてると思うんです」


「そっか」


 こいつもこいつなりに頑張ってくれたんだな。

 起きたら礼を言わないと。


「あ、それと…」


「なんだ?」


「今後このようなことが起こらないように、一緒に居たいとも…」


「んー…」


 俺は少し考えた。

 あいつがいればあの場を切り抜けられたかも?

 …でも退魔魔法の類はまだだって言ってたし…。


「もっと強くなったら、考えるかもな」


「ふふ、ミナミさんも喜びますよ、聞いたら」


「グングン成長したりしてな」


「ありそうです!」


 俺達は笑いながら、ミナミの寝顔を眺めた。

 可愛らしいな。まるで小学生高学年くらいみたいだ。


 こいつって、年の割には幼い顔つきだからな。


「シオンは?」


「無事ですよ。見に行きますか?」


「あぁ、あいつをああしたのは俺だ。きちんと謝らないと」


 俺は、ふと体が全く痛くないことに気がついた。前までは少し傷跡が疼いていたんだ。


 こいつの精度が上がったのか。

 世話かけたな、ミナミ。

 ありがとう。


 俺とメアリーは部屋を出て右方向突き当たりの部屋のドアに手をかけた。


 すると、中から声が聞こえてくる。


「うわぁーーん!シオンお姉ちゃんー!」


「ボロボロで…ひぐっ…死んじゃうのかと思った…」


「死なないよ、今までもこんなことあったでしょ?ほら、泣かないの!」


「だってぇ…」


 わんわんと泣きわめくセリクたちをシオンが慰めていた。

 今は少しやめておこうか。入れる雰囲気じゃない。


「いいんですか?会わなくて」


「あぁ、にしても腹が減った」


「余り物を取ってあります。温め直して食べましょう」


「そうだな」


 あいつは、『あなたのように優しい人になりたい』と言った。

 でも、ナズナは言ってた。

『シオンやミナミの優しいところが好きだ』と。


 気がついてないだけで、あいつは既に他者に優しくしている。

 偽善者なんかじゃない。本物の善者なのだ。


「美味いな…」


「はい、美味しいですね!」


「そう言えば、お前ってなんでご飯を食べるんだ?」


 素朴な疑問。こいつは寝なくてもいいのにご飯は食べる。


 何故?


「食べ物から魔力を得ているのです。霊体では皆様のように空気中から魔力を吸えないので。あ、ちなみに全て吸収するので老廃物はありません」


「ふーん、便利そうだな」


「いえいえ、幽霊もきついですよ?何せ一部の人にしか見えない上、見える人はだいたい除霊師になっていて除霊魔法でも打たれたら確実に跡形もなくなってしまいます、でも…」


 メアリーはニコッと笑って嬉しそうにこう言った。


「ユウマさんたちと出会えて、本当によかった!ナイトと二人きりでは、寂しかったですから」


「そうか、それは良かった。これからもよろしくな」


「はい!」


 メアリーは元気に返事をして、先ほどよりもさらに眩しい笑顔を見せた。


 4


 俺は温泉に来ていた。

 さすがにタオルで体を拭いてもらうだけでは物足りない。


 体を洗い終え、湯船に浸かる。


「あったまるぅ…」


「なーに気の抜けた声だしてるの?」


 聞こえてきたのは、優しい女性の声。

 おいおい待て待て。ここは風呂場だぞ?男子が入っている中混浴しようと考える女子なんて…、あっ二人くらい居たな。


 でも、そのどちらにも当てはまらない。

 こいつは…。


「シオン!?」


「なーに、ユウマ?」


「いや、なーにじゃなく…て…」


 って、こいつタオル巻いてない!?


「隠せよ!」


「マナー違反だもん。タオルは水につけない基本だよ?」


 うーん、この国は文明開化直後くらいの場所だと思ってたけど、こんな時代にもこのマナーはあったのか…。

 って、どうでもいい!


「なんでここに居るんだよ…」


「まだ入ってなかったから…それに!」


 シオンは体についた泡を洗い流した後、ちゃぷんと湯船に浸かった。


「裸の付き合いってよく言うしねー」


 豊かな胸が、何故か俺の二の腕に押し当てられる!

 ちょ、童貞には刺激が強すぎるぞ!?


「な、何すんだ!?」


「分かんないの…?」


「何が!」


「…こういうノリじゃないと、謝れそうにないから」


 その言葉に、俺は息が詰まった。


「あっ…」


「しんみりしちゃうとさ、泣いちゃうじゃん。あんなにあなたのこと傷つけたのに…迷惑かけたのに…」


 シオンは涙を浮かべた。

 そうか、こいつは俺に謝りに来たんだ。

 笑って、まるで軽いいたずらのあとの仲直りみたいに。


「ごめんね、ユウマ…」


「シオン…俺も…ごめん」


 ぎゅっと、シオンが抱きついてきた。

 まだ、誰ともこんなことしてないのに、俺は抵抗すらできなかった。

 いや、正確にはミナミとそういう展開にはなったが、妹と他人とじゃ理屈が違うだろう。


 俺達は数分、そのままでいた。

 ふと、シオンが静かすぎると思い、少し揺さぶってみる。


 返事がない。

 今度は頬を軽く引っ張る。


 返事がない。


「おい、シオン?」


「ふへぇ、頭クラクラするぅ…」


「シオンーーー!?」


 シオンは完全にのぼせていた!

 俺はその後、なんとかシオンを引き上げて着物を着させ、屋敷に戻った。


 ナナクサ兄妹には問い詰められたが、『大人の事情』とだけ言っておいた。


 俺が抱き抱えていたシオンを寝かせると、うっすらと目を開けたシオンがこちらを見つめた。


「えへへー、ありがとね、ユウマ」


「礼はいい。俺はもう寝るから…」


「待って」


 服の裾を、シオンが引っ張る。


「何か用か?」


「実はさ…あの時、ちょっと…興奮しちゃったんだよね」


 あの時と言うのは、恐らく黒い靄のようなものに包まれてた時だろう。


「魔法に興味があるのか?」


「…うん、でもあんなのじゃいけない。もっとあの力を使いこなしたい。そしたら、みんなを守れるかもしれない」


 うん。確かにそうだ。

 あれでは鬼人化したルキアのパワーには及ばないし、シュガーのような大魔法が使える訳でもない。回復魔法も使えない。

 伸び代はまだまだあると思う。


「だからさ、連れてってよ!私を、海の向こうへ!」


「大丈夫なのか?サムライの仕事は」


「あんなの日払いだし、私がいなくなっても代わりはいるし」


 唇を尖らせながら、言い訳くさいことを言い出した。

 いや、冒険者も日払い稼業みたいなものなんだが…。


「それと、問題はもうひとつ」


「何?」


「アイツらにはどう説明するんだよ」


 俺は先程からドアの隙間から覗いているナナクサ兄妹たちに気がついていた。


「シオン姉ちゃん、行っちゃうのか…?」


「み、みんな…」


「行っちゃヤダー!私シオンお姉ちゃんと一緒に居たいー!」


 ナナクサ兄妹たちに囲まれて泣き付かれるシオン。

 こちらに助けを求めるような目をしていたが、俺はそれを無視した。


 俺にはどうも出来ないからな。


 俺はミナミが寝息をたてるベッドに戻り、眠った。

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