第36話:全員集合と動き出す影
1
「ふぅ、何とか終わったわねー、骨がある相手で、お姉さんちょっと疲れちゃったー」
タマテはそう言うと、伸びをした。
結局あれから一時間ほど、キリがないモノノケを切りまくり、何とか落ち着いたところだ。
なお、誰が切りまくったとは言っていない。
…とは言っても、俺だって頑張った。
小型のヤツらを切ったりしてた。
でも、それ以上に他の奴らが凄かった。
エリナが魔法をぶっぱなし、リリスが鎌でなぎり、エギルとルキアが剣で斬り伏せた。
ミナミは俺のサポートに徹した。他のみんなは必要がなかったみたいだからな。
しかし、それ以上に三人が強かった。
魔法が使えないというのに、あのモノノケと同等に立ち会っていた。
ちなみにシュガーは最終手段としてとっていたのだが、そのまま打てずに終わった。
「おつかれー、にしても妙だね。こんな昼間にモノノケが現れるなんて」
「そうだな、こんなこと今まで無かった」
「そうなのか?」
「大体は夜に湧いてくるからねー、そのおかげで招集がかかると直ぐに起きないといけないから、ココ最近深い眠りに付けないんだよ。深すぎる眠りにつける人もいるけどねー」
シオンがキクハの方へ嫌味っぽく目を泳がせる。
キクハはそんなことは聞いていないようで、何やらモノノケの死体を漁っていた。
「なぁ、これ、なんかおかしくないか?」
「んー、どうかしたのー?キクハちゃん?」
「これ、腐ってるんだよ。死んで数週間は経ってる」
キクハの近くに寄ると、鼻をつくような腐敗臭が。思わず、鼻を覆う。
「つまりー、この子達は死体のまま動き回ってたってことー?」
「そうなるね…。って、これなに?鉱石?」
真っ二つに裂かれたモノノケの頭から、なにやらシオンが宝石のようなものを取り出した。
俺も覗いてみた。…が、これは口じゃない。
いわゆる脳の部分にあった。脳に宝石が埋め込まれていた…?
「とにかく、あとは本部に任せるか。私が本部に連絡しとくから、帰っておいていいぞ。どうせ、本部ももう気がついてると思うけどな」
「じゃ、みんな、今夜はパーっと打ち上げしますかー!」
「あー、いいわねー、お姉さんそういうのだーいすき!」
シオンとタマテが盛り上がる中、俺はあることが引っかかっていた。
なんで、このような事が起きたのか。話によると、モノノケも普通の生物と同じように死に、復活なんてしないようだ。
でも、こいつらは死んでいるのに動いていた…。
俺には、一つ思い当たる節がある。
それは、死霊術師と呼ばれる者の存在。ゲームとかでもよく出てくる、死体や死霊を操る魔術師だ。
大体は魔王に仕えたり、本人が悪魔的なイメージ。そりゃ、いい死霊術師もいるだろうが、それ以上に悪いイメージが強い。現に、元魔王幹部のネクロマンサーの知り合いがいる。つまり、アリス以外にもネクロマンサーがいる可能性はあるだろう。
宝石を媒体に、操っていた…?
考えすぎだろうか。
「お兄ちゃんー、昼ごはんを食べに行きますよー!」
「あ、分かった、今行く!」
俺は死体を残して、ミナミ達の方に駆けて行った。
にしても、ユニラとルニラはどこだろうか?
俺の目の前に、ふとメアリーがやってきた。
あれ…?
「なぁ、メアリー。ナイトはどこに行った?」
「あぁ、ナイトならルニラさん達についてもらっています。何だか、心配だったので。難点があるとすれば、あの子達に見えていないことくらいでしょうか…?」
「そうか…」
確かに、見た目こそは幼いが騎士団副団長だろ?きっと大丈夫だな、うん。
2
うへぇ、口の中しょっぱい…。
浜に流れ着いてから一日。ご飯も何も食べてない。
「お姉ちゃん…、これからどうするの…?」
「ルニラ…今は…とにかく、団長に会わないと…」
『くぅ…』とお腹が鳴る。
あれ?なんだろうこれ。山菜?点々とけもの道に落ちている。
土を払って、口に運ぶ。お腹を壊しちゃうかもしれないけど、このままなら餓死する…。
「お姉ちゃん…?」
「これ、食べて…。じゃないと、死んじゃ…う…」
「お姉ちゃん…!しっか…り…!」
あ…れ…?
頭が…ぐらついて…視界が…歪んで…?
地面が…近い…?なん…で…?
駄目…力…入んない…。
ユニラの記憶は、完全に事途切れた。
目を開けると、何やら木でできた天井が視界に入った。
「…あっ!目を覚ましたよ!」
「おー、姉ちゃん、大丈夫かー?」
「…へ?」
なんだろうこの子達。
助けてくれたのかな…?いや、多分そうなんだろう。
「うーん…」
「お姉ちゃん髪ギシギシだよ?風呂入る?」
そして、それに応答するように、『くぅ…』とお腹が鳴る。
「お腹…空いた…」
「お腹空いたって、なにか作ろう」
『うん!』
すると、七人の少年少女はテキパキとご飯の支度を始めた。
「あ、あの…、お構いなく…」
「ぶっ倒れてたよ?お構いするよ」
「そーそー、まだちょっと寝てていいぞ、僕らが作ってる間」
そう聞いた瞬間、先程まで眠っていたはずなのに疲れがどっと押し寄せた。
あぁ…また、短くて深い眠りに…ユニラは着くんだ…。
「出来たぞー!姉ちゃん、起きろー!」
「うぅ…」
元気な声で、再び目を覚ます。何故だろう、さっきまでとはまるで気分が違う。スッキリした。
持ってきてくれたのは…お粥?
「いい…匂い」
「はい、あーん」
「あー…ううん、自分で食べられるよ」
ユニラは自分の力を振り絞り、スプーンを持ち上げる。
…が、手はブルブルと震え出した。
「あ…あれ?」
「私が食べさせてあげるよ」
一人の少女がユニラからスプーンを取って、食べさせようとする。
仕方なく、ユニラは抵抗せず、口を開く。
すると、口の中に、暖かく柔らかい感触が広がる。
「美味しい!」
「喜んでくれたぞー!」
「やったー!」
キャッキャと子供たちがはしゃぎ出す。
あれ?ルニラは?
「あ、あのユニラの他に同じような子はいなかった?」
「居たぞー?今お風呂に入ってるー。『ご飯は後でいい』ってさー」
恐らくルニラのことだろうな。
よかった、無事だったんだ…。
「じゃ、全部食べてからユニラも入る!」
「その前に、沢山食べないと。あーん」
「あーん」
はむっと、口の中にお粥を入れる。やっぱり、あったかくて美味しい。
お姉ちゃんも、病気の時よく作ってくれたっけ。
また、会いたいな。
ユニラはお粥を全部食べると、なんか自己紹介をされた。
ナナクサ兄妹っていう子達らしい。
「ナズナ、ホトケ。連れて行ってあげてくれー」
「分かった、お姉ちゃん、行こう」
「ナズナ姉ちゃん、まだこの人の名前聞いてないよ?」
そっか、そう言えば自己紹介がまだだった。
「ユニラの名前はユニラ!ユニラ・ステリア!」
「そっか、ユニラお姉ちゃん、よろしくね!」
にぱっと、ナズナとホトケは笑った。
それに釣られて、ユニラも笑ってしまった。
「ここだよー」
「おー、温泉だー!ユニラ初めて!」
ユニラが連れられてやってきたのは、天然温泉だ!
凄い、初めて見た!読み物で読んだことはあるけれど、ホントにあったんだ!
あっ、中に人影が見える。ルニラかな?
「おーい、ルニラー!」
返事がない。聞こえないのかな?もう少し近づいてみよう。
「ルニ…ルニラ!?」
「お姉ちゃん…立ち上がれない…」
「ルニラー!?」
大変だ!ご飯も何も食べずに温泉に来たから、力が出なくて立ち上がれないんだ!
それにここは温泉!長く入っていれば逆上せる!
「二人とも、手伝って!」
『うん!』
ユニラは二人と協力して、ルニラを引っ張りあげた。
まるで茹でダコみたいに真っ赤になったルニラを、風にあてて冷やす。
「二人はご飯を作って置くようにみんなに言ってきて。ルニラは私が連れて行くから」
「分かった。行こう、ホトケ」
「うん、ナズナ姉ちゃん。二人とも、ごゆっくりー」
二人は元来た道を帰って行った。
うーん、やっぱりこうして見るとユニラのお腹、ガリガリだな。
ルニラはもっと酷いけど。もうぺったんこだ。
「まったく、ルニラ。ちゃんとご飯食べないとダメだよ!」
「ご、ごめん…」
弱々しく、ユニラの忠告に答える。
こうなることも予想できただろうに、神の脳の二つ名が泣く。
もうちょっと遅かったら、逆上せて溺死なんてことも有り得たかもしれない。
「ふぃー、温まるぅ…」
「お姉ちゃん、親父臭い…」
「後先考えない子供みたいなルニラには言われたくないもーん!」
ルニラは、「うぅ…」と声を漏らした。何も言い返せない、と思っているのだろう。
顔にそう書いてある。本来なら、「それとこれとは話が違うよ!」とか言い返してくるだろう。
「にしても、こんな所に秘湯があるなんて…」
「ほとんど家のお風呂って感じだけどね…」
「湯加減ぴったし、その上絶景。これ以上好立地な温泉はないよー」
温泉から半身を乗り出し、外の風景を眺める。
鮮やかに紅葉した木々が、街を彩っている。それを上から眺めながら、少しセンチな気分になっていた。
秋って、妙に切なくなることってあるよね。
「よし、そろそろ上がるよ。ルニラ、ちょっと待っててね」
何やら着替えさせられていた変な服を着て、元のように紐どうしを括る。見た目はこんな感じだったけど、あってるかな?
「よし、捕まって!」
「ん…!」
何とか、ユニラの背中に覆い被さるルニラ。
軽い。本来なら、もっと重かったはずだ。
いや、別に普段が重いという訳ではなくて、今が軽すぎると言うだけなんだけど。
ユニラはけもの道を下る。途中、ファサファサと互いのしっぽが触れることもあったが、心做しか、そのしっぽはだらんとしたものだった。
ちゃんとご飯食べないから…。安心して、お姉ちゃんが必ず連れて帰ってあげる!
ユニラは一歩一歩を力強く踏み締め、ナナクサ宅を目指すのだった。
3
「いやー、満腹満腹」
俺らは定食店で飯を平らげ、腹を膨らませていた。このまま眠ってしまったらとても心地いいだろう。
よく、『食べてすぐに眠ると牛になる』と聞くが、別にそんな事例は聞かないし、ただの子どもへの戒めだ。
現在、昼食を終えた俺達はナナクサ宅に向かっていた。
「うえぇ…」
「おえぇ…」
「自業自得だな、反省するように、二人とも」
エギルが素っ気なく言い放つ。
この二人は大食いをしていた。
そのおかげでシオンとタマテの財布はピンチだそうだ。その上二人の胃袋は満腹を遥かに凌駕して限界値に達していた。
意外とはいるんだな、エリナの腹。リリスといい勝負だった。
四人とも踏んだり蹴ったりだな。エギルの言った通り、二人は自業自得だけど。
「あ、あれは!」
ミナミが声を上げて指を指す。
その指の先には、ルニラがユニラに背負われていた。
「お前ら、何やってんだ」
「あー、みんな!なんでここに居るの?」
「それはこっちのセリフだ、何故ここに居るんだ…うぷぇ…」
「お前は喋んなよ…」
エリナは自分から喋り出しておいて、中身を吐きそうになる。
まぁ、気持ちは分かる。いきなり尋ね人が目の前に現れたら、誰だってこうなる。
「あのねー、助けられたのー!ユニラ、助かったー!」
やけにハイテンションでユニラは答える。いつもの事か。背負われてるやつが何やらだらんとしているが…。
顔が真っ赤なところを見ると、熱か?
「熱があるのか?ルニラ」
「んーんー、逆上せてたー!」
逆上せてた、か。
額にちょんと手を当てると、熱が伝わってくる。体温が高い、かなり火照っているようだ。
「おー、兄ちゃん、姉ちゃん、おかえりー!」
「ん?昼食ならもう済ませたぞ?」
屋敷に入ると、何やら七人が料理をしているようだった。
エリナとリリスが、「うぷ…」と吐きそうになるのを手で口を抑えて必死に耐えようとする。
「これは狐の姉ちゃんの分だよ?」
狐の姉ちゃん…この場合、ぐったりしてるルニラの方を指してるってことでいいか?
鍋にはお粥が。これぞホントのナナクサ粥ってな。
…言おうと思ったけれど、きっと滑るだろうから辞めておこう。
ユニラがルニラを寝かせて、ルニラの口に粥が運ばれる。
ぱくりと粥を食べて、少し嬉しそうにルニラが笑う。
「ありがとう、みんな」
「ふふん!」
「えへへ…」
もぐもぐと、口の中で潰れた米をさらに潰し、喉の奥に流し込む。
こういう時は消化にいいものが一番だよな、やっぱり。
「ユニラはなんか食べたのか?」
「お粥!2日間でそれ一杯しか食べてない!」
「それだけでこんなに元気って…さすがだね」
ルキアは少し驚いている。
普通の人間じゃ、そこまですぐに回復しないからな。エルフと鬼のハーフでも、もっとぐったりするらしい。
王都戦で鬼人化した際も三日ほどベットの上生活だったし。
「稽古しよー!」
「あー、うん、わかったわかった。稽古つけてもらいたい子達はこっちに来て!今から始めるよー!」
『わーい!』
セリクとホトケ、ハコベとスズナがエギルについて行く。
「ユニラも行くー!」
その後を、ユニラが追いかけて行った。
「ナイト!無事だったんですね!」
「わふっ!」
「ナイトっていうんだー!よろしくなー、ナイトー!」
セリクに撫られて、嬉しそうにナイトは尻尾を振った。
これで全員集合だな。良かった。
あー、なんか安心したら眠くなってきた…。
「俺は寝てるわ。やることも無いしな…」
そう言おうとした瞬間、引き戸が開け放たれてキクハが飛び込んでくる。
「この中に暇なヤツはいるか!?」
「んー、ほとんど暇人だけどー、何かあったのかしらー?」
「実は、本部にこれが…」
なんだこれ、矢文ってやつか。
「内容は?」
「異国語で読めないな…。もしかしたら、ユウマ達なら読めるかもと思って持ってきたんだが…」
俺と稽古から急遽帰ってきたエギルが目を通す。
「『今宵、彼の村のはずれの平原にてモノノケを召喚する。これは宣戦布告である。せいぜい足掻け』だな。完全に舐められている」
「向こうから見たら完全にエキシビションマッチ感覚だろうな。兎にも角にも、念のために兵力を集めた方がいいってか」
「あぁ」
なるほど、普段なら信憑性も薄いが、さっきのこともあるし、ホントに仕掛けてくると見て間違いないだろうな。
「で、その打ち合わせか」
「私は行くよ」
「お姉さんもー」
シオンとタマテが手を挙げる。
その後、全員に聞いて回り、結果、昼間のメンバーは全員参加となった。
それに加えてユニラと微力ながらルニラも手伝ってくれるようだ。
オルガ達にも後で聞いておかないとな。
面倒なことにならないといいけど…、あぁ、面倒なことになるのは必然的か。
4
さて、俺達は村のはずれの平原にやってきた。
赤く燃える松明の光が、あたりを照らす。
ナナクサ兄妹はお留守番だ。ナイトは今日はメアリーを守る騎士ではなく、ナナクサ兄妹を守る騎士になってもらう。
やがて、夜の闇の中で見えるような砂埃と轟音が響き渡る。
「来た…か」
「えー、そーね。とっとと片付けようと思ってたけどー…」
タマテはそんなことを言いながら、刀をすっと抜いた。そして、両手で刀を構える。
「グガァァァァァァ!!!」
それは、ギラギラと光る十六の目、不気味に歪む八つの口。木々をなぎる巨大な八本の尾。そう、これは…。
「ヤマタノ…オロチ!?」
「上位のモノノケが、何故こんな所にいるんだ!?」
アーマーヒュドラに比べれば、鱗は固くなさそうだが、それ以上にデカい!推定二倍くらいか。
「あいつ、どんなモノノケだ!?」
「全てを蹂躙する大モノノケだよ!火とかは吹かないけどね」
「なるほど…」
魔法攻撃を使えない代わりにでっかくなったって訳か。一筋縄では行かなそうだ。
「さぁ、やるか」
「オルガ、無茶はするなよ」
「私が何をしてでもそんなことはさせないわよ」
こいつはホントにオルガのことを好いてるんだな。
本人は気がついてないんだろうな、鈍感なやつだ。
「どりゃあァァァ!」
オルガがマイクロマシンの上に乗って、銃を構える。機動力が上がることによって相手を翻弄できる。
が…。
「ダメだ!体がデカすぎて大したダメージになってない!」
たく、この前も大した痕跡は残していないし、もうちょっと活躍して欲しいんだけど…。
俺が言うのもなんだが。
「爆弾とかないのか!?」
「ない!」
清々しい程の即答だな。
くそ、このデカブツをどう倒すか…。
「…と、この程度で茶番は置いておいて」
「ん?オルガ、まだ何か残念機能があるのか?」
「残念機能!?」
例をあげよう。背中から大きな漏斗が出てきてその中に雪玉を詰め込むと腕から自動発射したりする。
が、今度は何やら自信があるようだ。
「ふぅ…」
ティナは腰に携えていた剣を引き抜き、タマテと同じように剣を構える。
すると、何やら背中がモゴモゴと動いて、鉄の翼が服を背を引き裂いた!
その中心にブースターのようなものが着いていて、そこから赤々と光が漏れる。
「な、なんだそれ!?」
「残念機能か?」
「あとで撤回してもらうから。今はアイツを倒さないとね!」
一瞬遅れて砂埃が舞う。
そして、次の瞬間ティナは思いっきりヤマタノオロチを切りつけた!首を右回りに切り裂き、地面に落とす。
『おぉ!』
「名付けて、ティナ・デストロイ。時間制限があるが、その身体能力は格段に向上。さらに飛行も可能だ!」
「凄い、凄すぎですティナさん!」
確かに、あんな高機動力半端じゃない。だけど、時間制限…か。
「あと何分持つ?」
「せいぜい五分くらいが活動限界だ」
「凄い、ティナ」
「ミルク、お前は温存してろ…」
ヤマタノオロチに気を取られていた。
着々と進行を進めている中型のモノノケ共がすぐそこまで来ていたのだ!
「さて、私達はちっこいのを潰していくからー、ユウマ達はあのデカブツを早めに殺しちゃってー?」
「分かった!」
振り返ると、もう六本の首が落とされていた。
「やるな」
「ざっとこんなとこね」
残る首は二つ。再生は…、ゆっくりだな。アーマーヒュドラのような理不尽な回復速度ではないようだ。
「これにて終了。あとは任せたわ」
ふっと剣を振るい、血を払う。
背中に展開していた翼が収納され、剣を鞘に収めた。
「キシャァアアア!」
「って!何これ!もっと速くなった!?」
「マジかよ…!」
要するにあれだ。第二形態的なやつだ!さぁ、ここからどう立ち回るか…。
ティナには恐らくクールタイムがある。オルガの銃弾も効かない。ルキアもあんな鬼人化はしない方がいいだろう。
メアリーは戦力…とは言い難いかな?
「ここは俺の出番かな?」
詠唱を始めたエギル。
おぉ!確かに、こいつの火力なら三つ首など一瞬で切り落とせる!
「シャイニング・ブレード…?」
剣を大きく振るうが、何も起きない。
「なぁ、エギルさん?悪い冗談はよせよ…?」
「なぁ、ユウマさん。俺今、魔法使えなかったんだけど…」
『はぁ!?』
魔法が使えない!?
そんな馬鹿な?俺は試しに『ウォーター・スプラッシュ』を唱えてみる。
…が、まったくと言っていいほど魔法が発動しない。
「なぁ、ミナミ?試しに魔法唱えてみてくれないか?」
「あ、はい。『我が燃べるは己の魔力、我が望むは彼の者の力』アタック・サポート…?」
みるみるうちに、ミナミの顔が青くなる。あ、こいつも使えないのか…。
「あぁあぁ、めんどくさい。君たちとっとと殺されてればいいのに」
「何だ、お前らは…!」
だるそうに頭をかく赤髪の少年と、フードを目深にかぶった男が、上空から飛来してきた。
只者じゃないな、雰囲気でわかる。
「あー、君はもう行っていいよ」
「……」
ぼぅっと、淡い光がフードの男を包み、次の瞬間跡形もなく消えた。
「僕の名前はミアーズ。八黒星が一人、ミアーズだ」
「魔王幹部!?」
たく、つくづく俺達は旅行先でも魔王幹部と出くわすよな!てか、旅行先で出くわした方が多いぞ!?
「なんでこんな所に魔王幹部様がいるわけ?」
「君たちに聞く義務は…ない!」
ミアーズが剣を振るうと、氷塊が辺りに広がった。それは、まるで波のようにこちらに押し寄せる!
「おりゃあ!」
ガキンッと音を立てて、ルキアが氷塊を打ち砕く。
純粋なパワーが今の唯一の武器だ。なんせ魔法が使えないからな。
「ユウマ達はあの男を追って!多分あいつがこの結界を作ってる!」
「結界!?」
「そう!これは結界!そして、結界を作るには膨大な魔力が必要なの!せいぜい魔力封じだけだから、ある程度離れれば使えるようになる!それに、こいつはさっきから当たり前のように魔法連発してるから、こいつじゃない!」
なるほど、だが何故こいつはさっきから魔法を打てる!?
「何か解除できるアイテムでも持ってるのかしらね!とにかく、これは物理的な結界じゃない!」
「大丈夫なのか!?」
「なーに、元魔王幹部、舐めんじゃないわよ」
その瞬間、上空に氷柱のようなものが大量に現れた!それを鎌であしらい、リリスは「行って!」と叫ぶ。
足でまといになるだけだし、ここに残るよりも結界を解除した方がリリスのためになる。
「僕は残るよ、少しは役に立つからね!」
「俺も、銃器は健在だ!」
「私も残るわ。マイクロマシンはまだ使えるし、クールタイムが終わるかもしれない。せいぜい三時間ほどだけどね!」
「なるほど、長期戦に持ち込ませるわけね!三人とも、行くわよ!」
『おぉ!』
四人は、氷塊を足場にミアーズを翻弄した。
そのうちに結界から抜け出す。
俺はウォーター・スプラッシュを唱えた。よし、魔法は使えるようになったな。
「っと、こいつがいるのすっかり忘れてたな」
「キシャァアアア!」
ヤマタノオロチ…いや、ニマタノオロチがこちらを睨む。俺たちを追ってきたのか。
「もう、私打っていい?」
「んー、まぁいい!やっちまえ、ミルク!」
シュガーは詠唱に入り、辺りの風がシュガーを取り巻く。これは、ウィンド・エクスカリバーとも、ウィンド・バーストとも違う、新たな技…?
『サウザンド・ウィンドカッター』
かまいたちのような風が、ニマタノオロチを細切れにした!
轟音と共に、肉片が辺りに飛び散る。うわぁ、凄い匂い。
「再生されると厄介。ある程度小さくしないと使えなかった。ティナのおかげ」
「そうか、後で礼を言っとけ」
「うん」
にしても、だ。
あの男、どこにいるだろうか。よくあることと言えば…。
高みの見物決め込んでるとかだな。
ん…?あの崖の上…。
散策用に一応習得しておいた、遠視スキルを起動させる。
あ、ちなみにスキルも魔法屋とか他者からの伝授で習得可能だ。
「みーつけた…」
「お兄ちゃん、どうかしました?」
「あそこ、見てみろ。あいつが結界を張ってるんだ。魔法、ここから当てれるか?」
「無理ですよ!遠すぎます!」
すると、何やらユニラが手を挙げた。
「はいはーい!ユニラ、出来るよー!」
「どうするんだ?」
「それはねー?」
なるほど、その手があったか!
にしても、便利な魔法もあるんだな、上位魔法ってのは。
早く教わりたいものだ。
「じゃ、作戦実行だ!」
ユニラは、詠唱を始めた!




