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第21話:召集理由と鎧龍

 1


「自己紹介をしてもらおうか」


『え?』


 俺達は間の抜けた声を上げた。


 何?自己紹介をしろ?一体何を言って…。


「ほかの事は一切話すんじゃないぞ、始めは…そうだな、そこにいる銀髪の少年、自己紹介をしてくれ」


 それはおそらく俺の事だ、エルマも銀髪ではあるが、今は変装で黒髪になっている。つまり、この状況下でそれが当てはまるのは俺だけだ。


「イリヤ・ユウマ、十六歳。出身は東京、家族構成は妹が1人、両親は死去。今はパーティの面々とともにイグラットに住んでいる。職業は剣士」


 な、なんだ、口から言葉がスラスラと?何が…何が起こってるんだ、俺の中で!?


「うむ、トウキョウ…?エギル、知っているか?」


「知らないな…ルニラは?」


「ご、ごめんなさい…知らないです、お役に立てなくてお恥ずかしい…」


「いや、いいのだ。でも嘘は付けないようにしているはずだが…」


「さぞかし小さな街なんだよ!王女様!」


 どういうことだ?さっきこいつは「嘘は付けないようにしている」と言っていた。そんなことを考えていても言葉には出せない、出そうと思っても声が出ない。


「次はそこの金髪ツインテール、始めろ」

「私はイリヤ・ミナミ。イリヤ・ユウマの妹。出身は日本。家族構成は兄が1人。今はイグラットにてパーティのメンバーと一緒に暮らしてる。職業はプリースト」


 あれ?ミナミってこんな口調だったか?もっと声も明るくて、全体的に敬語で話すことが多かったのに、今はまるで機械のように必要な情報だけを述べている。


 いや、よく思い出せよ、俺もこんな口調になってたんじゃないか?


「プリースト、中々の上位職じゃないか。それよりもまた、か。エギル、ニッポンってどこかわかるか?念の為聞いてみるが」


「知らない、ルニラ…も知らないか?」


「いいや、何やら聞いたことがあります。確かヤマトの旧名がそんな名だったと思うんですけど…」


「ヤマト…か、そこから来たのか?」


「出身は日本」


「飽くまでニッポン出身ということか…」


 ヤマト?確かにそう言った。王女はそういったのだ。


 ヤマトといえば、まさに日本を象徴する…確か昔、日本に何個もあった勢力のひとつだった気がする。


 つまり、この世界には日本のような国が存在するということだ。


「次は、そこの緑髪の…少女か?始めろ」


 若干間が空いたのは多分ルキアの性別がどちらか考えていたのだろう。


「僕はルキア・エリエル。出身はエルフの隠れ里、ルチニア。家族構成は兄が1人、あと両親。鬼とエルフの混血、職業は剣士。ミナミやユウマと同じくイグラットの屋敷に住んでいる」


 やはりだ、こいつら口調がいつもと違う。一人称は『僕』のままだが、その他の口調がガラリと違う。本当に、こいつはどうなってしまったんだ?


「鬼の混血か、珍しい」


「本当、鬼なんてものは同種族でしか繁殖しないと思っていたけれど…」


「やめろエギル、あまり好ましい会話ではないぞ、この場ではな」


 よく見ると、口をモゴモゴと動かしているように見える。


 何やら話したいことがあるようだが、無理やり何かに押さえつけられているような感じ、あいつも同じようだ。


「次だな、そこの茶髪の少年、始めてもらおう」


 恐らくそれはオルガのことだ。


「俺の名前はオルガ。年齢は二千歳以上、アンドロイド。出身はアヴァロン、職業はスナイパー。今は前者と同じく屋敷に住んでいる」


 こいつら、やはり本当のことしか話していない。少なくとも俺の知っている情報とは一致する。


「アンドロイドか、古代兵器の一種だったか?よくもそんなものを連れ歩けるものだな」


 くそ、こいつ言わせておけば…!オルガはアンドロイドだ、人間ではないが立派な仲間だ!


 それをよくもものなどと…!立ち上がろうとするも、なにやら強大な力に押し付けられるようで立ち上がれない。やはり魔法の類が働いているのだろうか?


「おっと、無駄な動きはやめなよ、俺たちだって無駄な死者は出したくないんだ」


 エギルがそう言い放つ。こいつ、なんか最初と性格が違うような気がする。


 いや、この部屋に入った時…それよりも前、王女と合流した時から変わっているとは思っていたが、ここで確信した。


「さて、次はそこの茶髪の少女、始めろ」


「私の名前はティナ。年齢は数えていないが、恐らくオルガと同い年。職業はエンジニア、出身はアヴァロンのアンドロイド。同じく屋敷に住んでいる」


 そうティナが無表情で淡々と言った。て言うかなんだよエンジニアって、初耳だぞ!?あれか?ヴィナス戦で見せたあの機械動かすやつか?


「またか、よくもこう二人も古代兵器なんて連れてるものだ」


「でも、お姉ちゃん優しかったよ?」


「人なんてみんなそんなものだよ、真に心がわかるなんて居ないんだ」


 その通りだ、その通りだがとても腹が立つ。正論だ、返す言葉もない、なのに「違う!」と叫びたい。


 理屈なんてない、理由さえもわからない、その時自分が善者であるという保証もない。だが、それを許せない。


「次はそこの金髪の少女、始めろ」


 一瞬、アリスがふと俺に小声で話してきた。こいつと俺は隣通しだ。


 だから、王女達に聞こえないように会話をすることは可能なのである。だけど、声を出そうと思っても出ないが、こいつは出せるのか?


「大丈夫ですよ、少なくてもここにいる全員が憤りを感じています。ですが、もう少し待ってください。ここを出れば話せると思います」


 ここを出れば話せる?どういうことだ?何故こいつはここを出れば話せるとわかる?どこでこのような確信をした?


「おい、早く始めろ」


「私の名前は…」


 そう言うと、アリスは小さく深呼吸をした。


 そして、もう一度話し出す。


「アイリス、職業はウィザード。出身はイグラット、年は十五歳。今はイグラットで魔具店を経営している」


 初めてだ、今までで初めて俺の知っている情報と合致しない者が現れた。


 名前が違う、職業が違う、歳が違う。確信ではないが、こいつはシュガーとかなり長い付き合いをしている。そう、二百年や三百年程度の付き合いだ、前にそう言っていた。


 職業もウィザードではなくネクロマンサー、それが職業に当てはまるかは知らないが、偽名を使っているあたり、やはり当てはまるのだろうか?


「ほう、ウィザードか、中位職だな」


 やはり、王女は気がついていないらしい。相手が嘘をついていないと信じ込んでいるようだ。


 でも今のところこいつしか嘘はつけていない。


「次はお前だ、黒髪の青年よ。始めろ」


「俺の名前はエルマス。職業は同じくウィザード、出身はイグラット。年は十六歳、今はアイリスの店の従業員をやっている」


 こいつもだ、どうして?どうして嘘の情報を話せる?


 俺なんて普通に話すことも出来なかったのに、魔王幹部ってのはそういう…なんて言うか対魔属性的なものも持ち合わせてるのか?


「こいつもウィザードか、こいつらがいるから古代兵器を連れ歩くことが出来るのか」


「そうかもね、かなり腕利きだったりして」


 やはりこいつら、アリス達が嘘をついていないと思っている。


 つまり、嘘を見破られていないという事だ。いや、実際には全てを鵜呑みにしている感じだ。


 そう、まるで疑うことをまだ知らない子供のような…。


「最後はそこの白髪の少女、始めろ」


「私の名前はミルク、年齢は十二歳、出身はみんなと同じイグラット。職業は魔法使い。今はイグラットの屋敷で暮らしてる」


 み、ミルク!?思わず笑いそうになったが、それは許してもらえない。ニヤけることさえできない。


 て言うか、シュガーにミルクってこいつコーヒー好きなのか?それとも砂糖とミルクが必須なのか?確かシュガーって、こいつの兄さんが使ってた相性なんじゃなかったか?


「さぁ、これで全員の自己紹介は済ませたな。そういえば妾の名をまだ話してなかったな、妾の名はエリナ・ナルヘリン・ツーベルク。この国の次期女王だ。今は王女をしているがな。この国では二十になるまで女王にはなれないのだ」


 その言葉に耳を疑った。ナルヘリン・ツーベルクって言ったか?


 エギルの妹なのか、それとも親戚なのか。でもここに来る前の会話を思い出した。


 確か、妹の性格がなんとか…って言っていた。やはり妹?


「ああ、察していると思うがここにいるエギルの妹だ…ではそろそろ本題に入らせてもらうが、お前達にはあるモンスターを討伐してもらいたい」


 な、何?いきなりなんかスケールがでかくなってきたぞ!?


「モンスターの名はアーマーヒュドラ。八つの頭を持つ龍だ。もちろんタダとは言わない。報酬も用意しよう。宿が必要ならここの空き部屋に泊めてやる。それに、考える時間も必要だろう。明日の九時、再びこの場所にて待つ。食事も用意してやるし、情報も今夜提供する。じっくりと話し合ってから決めたまえ。何も、こちらは強制したりしない」


 アーマーヒュドラ?なんか物凄く物騒な名前のモンスターだな。報酬ってのは気になるが、それは内容による。


 でもやはりここはこいつらの意見を聞かなくては…。


「話は今のところは以上だ、去れ!」


 そうエリナが言うと、またもや強制的に立ち上がらされる。そして面会の間を後にした。


 2


 俺達はドアを抜けた途端、プツンと糸が切れたように床に座り込む。


「なんだったんだ、今のは?」


「わ、分かりません、でも声ひとつ出せませんでした…」


 すると、エギルとユニラ、そしてルニラが面会の間からでてきた。


 すると、俺たちと同じように床に座り込む。そして、ハッとしたかと思ったら、いきなり土下座してきた。


「済まなかった!妹が君たちに無礼を働いてしまって!それに俺も…本当に申し訳ない!」


「え、エギル!?何やってるんだ?」


「確かにムカついたけどさ、あんたに謝られてもって感じなんだけど」


 ティナは煮え切らない様子だった。自分を危険兵器みたいに言われたんだ。それは怒るだろう。


「王女様、普段あんなじゃないんですけどね、初めて来る人がいると何だか怖くなるんです」


「照れてるのかな?」


「そんなんじゃないよお姉ちゃん」


 普段はあんなじゃないのか?でも、ならなんでわざわざあんな言い方をしたんだ?


 悪い印象でも植えつけたいのだろうか?普通人は他人に良い印象を持ってもらいたいと思うものだと思うのだが…。


「と、とりあえず頭を上げてください、もう気にしてませんから、部屋まで案内してくれませんか?」


「あ、ああ、そうだな。本当に済まなかった。では向かうとしよう」


 そう言うと、エギルは立ち上がり「着いて来てくれ」と言って俺達を部屋まで案内した。


 その道中で、俺はミルク…じゃなくてシュガーに声をかけた。


「なぁミルク、お前あの状態がなんなのか知ってるのか?」


「あの状態って、王女様の魔術?」


 やはり魔術的だものだったらしい。…って、こいつは知ってたのか!?


「お前、知ってたのになんで教えてくれなかったんだよ!?」


「だって、周りには監視がいっぱいいたし、気が付かなかったの?道中ずっと監視されてたんだよ。伝えようにも伝えられないし、唯一監視が薄かったのが面会の間だけだった。いや、もうあれは監視がいなかったから」


「お、おい、だったら今も…」


「うん、今はまた監視されてる」


 マジかよ、なら今はそういう会話はしない方がいいな。


「さぁ、着いたよ。ここが君たちが宿泊する部屋だ。どうぞくつろぐなり話し合うなりしてくれ」


「さすがに1部屋じゃないですよね、せめて2部屋くらい…」


 ミナミがそんなことを言っていた。なんだコイツ、かなり図々しいぞ。


「ああ、その点も抜かりない。隣の部屋とその隣も使ってもらって結構だ」


「では私とお兄ちゃんで一部屋、その他の人たちで二部屋で…」


「却下だ、俺とエルマ、あとオルガで一部屋、その他の部屋を残りが使えばいいだろ」


 さすがに妹でも異性と一緒の部屋で寝るのは抵抗がある。


 ならば何故いつも一緒に寝ているんだという話になるのだが、それはこいつが何やらうるさかったからだ。


「嫌です!お兄ちゃんと一緒に寝るんです!」


「お前はもう少し我慢しろ!性欲の制御もできないのか!?」


「私はお兄ちゃんと一緒に寝ないと眠れないんです!一緒の布団なら尚効果アップです!」


「なんだよそのイタい設定」


 なんでこんな性格になってしまったのか…。いや、もう少し自重という言葉を知って欲しいんだがな。


「今はちょっとこの部屋にいてくれよ、情報資料を持って来させてるから」


「いや、それはいいんだが…」


 とそう言いかけた瞬間、戸が三回ノックされ、何やら紙のようなものをいっぱい抱えたユニラとルニラが入ってきた。


「まったく、団長は人使いが荒いよ、まったく」


「お姉ちゃん落ち着いて…。あ、これで全部です」


「ああ、済まないな、二人とも」


「荷物をいっぱい抱えた二人…萌えね」


「何言ってんだお前」


 なるほど、ロリコンというのはティナのことを指すのか。


 ならば俺はきっと違う、うんきっと違う。


「何よアホ面銀髪、私をロリコンとでも言いたいのかしら?」


「その呼び方はやめろって、あと俺は別にお前のことをロリコンだとか何とかと言ってるわけじゃない。つまりそれはお前が自覚症状があるってことじゃないのか?」


「何よ、私は可愛い二人を愛でてるだけよ、勘違いしないでよね!」


「なんでそこでツンデレ挟んでくるかな」


「二人とも、書類に目を通そうよ!」


 ルキアに声をかけられて、俺は書類に目を向けた。


 どうやら、何やら日記みたいな感じで書かれてるらしい。大方、レポートを時系列順にまとめていったんだろう。その内容は…。


『アーマーヒュドラは元々、ある魔王によって封印されてきた。だが1年前、突如としてその封印は崩壊した。理由は不明、分かったことはアーマーヒュドラの活動が再開されたことだ』


 えーと、これなんかヤバい感じかな?いや、なんかじゃない、確実にやべぇやつだわ。


 魔王に封印されたモンスターって、危険度マックスだろ!?てか、その魔王って…。


 そういう意味を込めてシュガーに視線を送ると、何やら目を逸らしてきた。アイツだ、確定でアイツだ!


『アーマーヒュドラの活動領域がどんどんと人里近くまで降りてきている、我々の国にやってくるのも時間の問題だ。幸い、有一種であるため繁殖はしないのだが、単体であったとしても脅威であることは変わりない』


 有一種?どういうことだ?


「なぁエギル、有一種ってなんだ?」


「有一種は、通常は存在しないような化け物を魔術を駆使して作り出したものだ。それらは繁殖の手段を持っていないものがほとんどだ。だが、大抵はそこらのモンスターとは格が違うほど強い。ほとんど使い魔として使われるんだがな、こいつみたいなイレギュラーなのもいるんだよ」


 なるほど、合成キメラみたいなものか。


『団長様が白銀の騎士団のほとんどの勢力を率いて向かったが、それでも戦果は得られず、騎士の数は三分の二になって帰ってきた。何やら首が増えたとか言っていたし、精神的にきているのだろうか。もうこの国は終わりだ、近いうちに国まで降りてきて、俺達は全員殺されてしまうんだ』


 エギルが負けたのか!?いや、俺は別にこいつの実力を実際に見た訳では無い。だが、神剣の二つ名とか、この歳で騎士団長やっているあたり、かなりの実力なのだろう。


 そのエギルが負けるということは、そのアーマーヒュドラとか言うやつもかなり強いのだ。


 …勝てる気がしねぇ!いや、名前から察してたけど!


「ああ、俺達がいたら安心して話せないだろう、そろそろお暇するよ、行くぞ、ユニラ、ルニラ」


「うん、お姉ちゃん達ばいばーい!」


「お、お騒がせしてすいませんでした…」


 ガチャりとドアがしまったのを確認して、俺達は真剣に話し合い始める。と、その前に…。


「シュガー、エリナが使ってた魔術はどんなだったんだ?」


「『王家の命令』って言われてる魔術。術にかけられた者が『自分の方が身分が下だ』と思ってしまうと、その術者に逆らえなくなる。王族だけが使える魔術」


 なるほど、そんな魔術もあるのか…。


「って、それじゃあ勝ち目はないじゃないか!体を動かすことは愚か、声も出せなかったんだぞ!?」


「なら、術にかからなければいいだけです。簡単な話ですよ、身分の下のものを従える能力なら、相手よりも身分が上であると信じ込めばいいんです」


「例えば、シュヴァの場合は『元魔王』だから、俺とアリスなら『元魔王幹部』だからとかね」


「元魔王だからってのは分かるけど、元魔王幹部って王女より立場上なのか?」


「だから言ったでしょう?信じ込んでしまえばいいんですよ、適当なこじつけ立てて。でももう私たち三人以外の皆さんは術式から抜け出すことは不可能でしょうね、1度かかってしまうともう抜け出せないんですよ」


 なるほどなるほど、とにかく適当にこじつけて自分の方が身分が上だと思い込めばいいのか、それなら次からは…え?


 どうやらオルガも同じことを気にしているようで、俺よりも先にアリスに質問した。


「今のもう一回言ってくれ」


「信じ込んでしまえばいいんですよ…」


「いや、そこじゃなくてその後」


「もう私たち三人以外の皆さんは…」


「そこだよ、もう俺たち助からないのか?」


「そうですが…?」


 その瞬間、一瞬時が止まったように静まり返った。


「ちょ、俺たち一生あんな奴に従ったままなのか!?」


「絶対に嫌絶対に嫌絶対に嫌…、あんな傲慢そうな王女に一生頭下げて生きていくなんて…」


「いや、王女なんだから従うのは当然だと思うんだけど…」


 すると、「はぁ…」とティナが溜息をつきルキアに詰め寄る。


「ルキア、あんた本当分かってないわね、今まであんな感じ悪い系の王女や女王ってね、だいたい失敗してるのよ。今も昔も変わらずね。あんなのに服従なんてしてたら、私たちまで破綻しかねないわよ」


「そ、そうなんだ…」


 一方ルキアはかなり押されているようだ。


「でも、そう騒いでどうにかなる魔法じゃない。もう諦めるしかない」


「それもそうか…」


「それよりも、今はアーマーヒュドラの件ですよ、どうするんですか?」


 いや、その件に関しては三人ほど詳しいやつがここに居るからそいつらに聞けばいい。


「なぁシュガー、お前アーマーヒュドラについて何か知ってるか?」


「ナ、ナニモシラナイ…」


「嘘つくの下手くそか!つーか、なんで隠すんだ?」


 俺がそう聞くと、シュガーは少し落ち込んだ表情をした。


「だって、私のせいでこんなことになったって言おうとしてる…」


「いや、お前のせいじゃないだろ。お前じゃなかったら誰がアーマーヒュドラってやつ封印するんだよ、お前だけができる仕事じゃなかったのか?」


 はじめからこいつを責める気はなかったんだがな、情報だけ提供してくれれば十分だ。


「うん、ありがとうユウマ。それで、アーマーヒュドラの何について話せばいい?一通り目を通したけど、基本情報はほぼ同じ」


 俺が聞きたいことは沢山あるが、まずは…。


「どうやって封印したんだ?そこをまずは聞きたい」


「封印するのは簡単でした。魔法陣のある一定の場所に七つの大罪を配置して、全員分の魔力を使い何とか閉じ込めました。アーマーヒュドラはと言うと、何やら寝てました」


「いや、寝るのかよ」


「はい、寝てました」


 モンスターはてっきり寝ないものと思っていたが、少し考えてみればわかる事だ。


 ミミズだってオケラだってモンスターだって生き物なのだ。寝ることもあるだろう。


 …ん?さっきの話で行くと、ただ寝ている時に封印しただけだ。


 起きている時に対抗する手段があるとは言っていない。


 いや、きっとある、あるはずだ。なんせ魔王様だ、きっとあるだろう。…念の為聞いてみるか。


「でも、起きている時はどうするんだ?」


「ほとんどの時は起きてるんですよ、そもそもモンスターの睡眠というのは自らの中にある魔力を回復するためのものですから」


「だったらなんで寝てたんです?」


「それはだね、俺たちの血のにじむような努力の賜物なんだよ。なんせあいつの外殻は魔力を通さないからね、アリスの吸収でも魔力を吸えないから、あいつ自身に魔法を吐かせるしかない」


 魔法を弾く外殻、その防具はかなりの高ランクらしい。


 だが、それを狩ったのは古の勇者のみ。どこぞやの神話みたいだな。


「それを繰り返して、私達は何とか眠らせることに成功した。それからはさっき言った通り。封印魔術に時間凍結魔法を組み込んで封印し、その件は終わったはずだった」


 そのあとの話はだいたい察しが着いた。一年前にシュガーがこの世界から追い出され、魔法陣が不安定になったか時間凍結魔法が解かれたかで活動が再開されたって感じだろう。


「でも活動は再開した…と」


「そういうこと、でももうほとんど不可能。魔術的な機動式を使っていたから、今の魔力量では多分1秒も持たない。魔障壁を使っても数秒だけしか防げない。唯一可能…と言ってもその可能性は絶望的だけど…」


「なんだよ、その可能性って」


 こいつが絶望的って言うんだから、やはりそうなのだろう。だが、ここまで来たのだ。手ぶらでは帰りたくない。


「何とかあいつの内部に私の魔法を叩き込む。そしたらどうにかなる…かも」


「どうにかなるかもじゃない、どうにかするんだよ。作戦は俺が考える」


 さて、今日は徹夜になるかな。何とかして作戦を立てねば…。この絶望的な状況をひっくり返すにはどうすればいいんだ?


「お兄ちゃん、また悪い癖が出てますよ?」


 なんだいきなり、何を言い出すんだ?


「だから、なんでも一人で解決しようとする、お兄ちゃんの悪い癖です。私も付き合いますよ」


「何一人だけ抜け駆けしようとしてるのさ、無論僕も付き合うよ!」


「ん、私も…」


 こ、こいつらなんで?


「決まってるでしょ、アンタのパーティメンバーだからよ。何も、私はあんたに協力なんてしたくないけど、このままだと私だけ仲間はずれみたいだし、仕方なくしてあげるわ」


「無論、俺もな!」


「シュヴァが協力するなら、俺もするよ」


「私もお手伝いさせてもらいます」


 すると、何やら窓に小石が当たった。ふと見てみると、そこには外からこちらを見つめる少女の姿が…!


 当然、その正体はメアリーだった。


「あ、あのこの窓開けてもらっていいですか?退魔素材で作られていて、通り抜けできないんです!玄関には結界はられているし、ここには結界はられてないけど窓空いてないし、ほかの窓全部閉まってるし踏んだり蹴ったりですよ…あ、私もお手伝いします!」


「わふっわふー!」


「ああ、大変だったな。あとみんなありがとう。本当にいい仲間を持って幸せだよ」


「ふふん、今頃ですか?」


「全く、気付くのが遅いよね」


 俺は窓を開けようとするが、あることを思い出す。


 今は冬、この部屋には暖炉があってとても暖かい。


 だが、今ここで開けたらどうなる?簡単だ、室内の温度が一気に下がる。そんなのは耐えられるはずがない。


 …よし。


「メアリー、その外から話してくれ。もしくは誰か窓開けてくれ、俺は暖炉のそばで布団にくるまっているから」


 すると、ミナミがサッと窓を開けた。その前に俺は布団に包まり、暖炉の前に移動する。


「ありがとうございます」とメアリーは丁寧にお礼の言葉を述べた。


「報酬はお兄ちゃんのくるまった布団で」


「いや、お前窓開けただけだろ…っと、今はとりあえず作戦会議するか」


 それから俺達は日が変わっても作戦会議をしていた。


 3


「さて、答えを聞こうか」


 俺達は再び面会の間に集められた。無論、討伐依頼の件だろう。


 尚、今回は前のように喋れないということは無い。


 恐らく王家の命令は常に発動しているのではなく、飽くまで自分の魔力を使って発動するものらしい。


「ああ、受けさせてもらうぞ」


「うむ、良い返答を聞けて安心したぞ。それで、勝算はいかほどなんだ?」


「まだ分からない、それにあたってこちらも支援をしてもらいたくてな、あんたの答えによる」


「面白い、要件はなんだ?」


 正直、その要件を飲んでもらえたとしても、勝利は確定ではないだろう。だが、俄然確率は上がると思われる。


「今のままでは人手が足りないんだよ。さしあたって…」


「…なるほど、そういう事か」


「どういうこと?王女様」


 ユニラが不思議そうにエリナに訊ねる。


「こやつはこの国の全勢力を寄越せと言っておるのだ。無論、こちらとしても支援は惜しまないつもりだ」


「話が早くて助かる」


「で、でも全勢力なんて、どれだけが必要とは言っていませんでしたし…」


「分かってないな…。過去、俺達はあいつに闘いを挑んで敗北した。それは出し惜しみをしていたからだ。それなら『ありったけの力ぶつけてやればいい』って言ってるんだよ、ユウマは」


「そんな、それなら…」


 ルニラが恐る恐るこちらを向いてきた。その表情は完全に怯え切っている。


 おそらく俺の考えに気がついたんだろう。


 話は昨夜に戻る。俺は紙に自分なりに考えた作戦を書いた。


「あんた、これ本気で言ってるの!?」


「それ以前になんだよ、この全勢力って…」


「つまりこいつは…」


「そ、あの騎士団のヤツらとか集めて全員で賭けに出る」


 我ながら狂人じみた作戦だ。だが、これしかない。そもそもこんな少人数で化け物に挑む方が間違っている。


「こんなの、下手すれば全員が死にますよ!?」


「無謀すぎると思いますけど、それしかなさそうですね…」


「でも、勝算はどうなの?まさか…」


「限りなくゼロに近いでしょうね」


「七つの大罪を二人だけ揃えたとしても、今の私の魔力量じゃ太刀打ちできない。少なくとも三人くらいは必要…」


「そこで…だ。これを見てくれ」


 俺は資料を取り出す。その資料というのはファイルのようなものだ。


 そこには新聞のようなものが閉じてあった。基本はアーマーヒュドラの情報や戦果のようなものばかりだが、その裏に断片的ではあるが気になる情報を目にした。


「『七つの大罪、色欲確保』!?つまりこれって…」


「ああ、この資料によると今はこの街の牢獄に監禁されてるらしい。シュガー、これでどうだ、勝てそうか?」


「まだ分からない、でも確率は増したと思う」


「よし、てことで明日王女様に許可とってみるか!」


「本当に大丈夫なんですか!?」


 再び現在に時系列を戻す。


「数の暴力ってやつだ。あともう一つ飲んでもらいたい条件がある」


「ほう、なんだ言ってみろ」


「率直に言う、『色欲』を解放してもらいたい」


『な!?』


 エギルとルニラ、ユニラが声を上げた。王女もピクリと眉を細めた。


「主、何を言っているのか分かっているのか?奴はこの国1番の罰、終身刑に価する存在だぞ」


「ああ、知っているさ。でも戦力としては申し分ないだろ?」


「だから監禁しておるのだ。あんな危険人物、堕とそうと思えば国ひとつ堕とすようなやつだ、それを解放しろと?」


 確かにそうだ、恐らく普通の人間では話すら聞いてもらえないだろう。


 だが、こちらには元魔王と魔王幹部がいる。多分こいつらがいれば協力してくれるだろう。


「そのためにはまずは本人に会いたい、それから自分で判断する」


 俺がそう言うと、エリナはかなりの時間考え込んだ。ざっと三十秒。


「…分かった。協力してくれるとは到底思えんが、何か考えあっての事だろう。だが条件だ。面会時間は三分、それ以上は認めない。そして、そやつを解放できると判断するのは妾自身だ」


「了解だ、早速連れて行ってくれ」


「ああ、そうしたいのだが妾はやつが気に食わなくての、エギル、代わりに連れて行ってやれ」


「ハイハイわかったよ、さぁ着いてきてくれ、気乗りはしないけど」


 4


 冷たい足音が響き渡る。城の地下はどうやら牢獄になっているようだ。


 長い螺旋階段を下り、レンガでできた床を進む。すると、一際大きな扉が現れた。


「ここから先は君たちで言ってくれ。俺もアイツに会うのは気乗りしないんだ」


「あぁ、ありがとな。あとは俺たちで話をしてくる」


 ガコンという音と共に扉が開き、俺達は中に入る。一層かび臭い匂いが増し、俺達は嗚咽を漏らす。


「で、ここにいるのか、元魔王幹部は」


「そうでしょうね、とりあえず明かりが欲しいです」


 すると、闇の中から何やら声がしてきた。


「あら、そこに誰かいるのかしら?ちょうど良かった、ちょうど退屈してたのよね」


『へぇ!?』


 俺とミナミ、オルガとティナは不意をつかれ、間抜けな声を上げる。何?どこから聞こえてきたんだ?


「あらあらごめんなさいね、驚かせちゃったかしら?」


「この声…やっぱり」


「リリスさん!?リリスさんですか!?」


「懐かしい顔触れね、顔は見えないけど」


「相も変わらずってところだね、リリス」


 こいつらの反応からして、やはり元魔王幹部に間違いない。ってことは…。


「ねぇ、とりあえず明かりつけて貰える?ここ何日か闇しか見てないのよね」


「ああ、えっと…『フラッシュ』!」


 少し戸惑いながら、ルキアは天井に光を放った。


 すると、前に十七歳くらいだろうか?の見た目の少女が現れた。両手両足を鎖で繋がれている。


「久しぶりなだけあって、かなり眩しいわね、でもようやく見ることが出来るわ…で、要件は何かしら?まさか何も用がなくてここに来たわけじゃないでしょうね」


「うん、あることに協力して欲しい」


「シュヴァが命令するならなるべく従うけれど、一様聞いておくわ、どんな内容かしら?」


「アーマーヒュドラの討伐ですよ、前みたいに封印じゃなくてです」


 リリスと呼ばれた少女は「ふーん」と無関心そうに言った。


「それで?私が協力してメリットはあるのかしら?」


「まだ確定はしてないけど、ここから解放してもらうってのはどう?」


「それだけじゃダメね、もっと他にないの?ほらほらー」


「ワイン一本」


「さ、早くここから解放しなさい、私のワインが待ってるわよ!」


 いや、その前にアーマーヒュドラ倒してもらわないといけないんだけど…。


 つーか、こいつでほんとに大丈夫なのか!?


 5


「ねぇアーズ、君の新しく見つけたおもちゃについて嗅ぎ回ってる連中がいるらしいけど、どうするの?」


「あら、あんたが他人の心配なんて、明日は血の雨でも降るのかしら」


「結果的にはそうなるのかな…で、やっぱり向かい打つんでしょ?」


「分かってるのなら聞かないで欲しいわね、当たり前じゃない。あのヴィナスが負けたのは予想外だったけれど、きっと私の手にかかれば楽勝よ、あの細い首、ポッキリへし折ってあげるわ」


「自意識過剰だな、まぁなるべく健闘を祈るよ、次に回ってくるの僕だろうしさ。面倒なこと嫌いなんだよ」


「安心しなさい、私が全て終わらせるわよ、待ってなさいシュバリエル、人上がりの分際で魔王になったこと、後悔させてあげるわ」

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