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第15話:幸運兄妹の年越し

 1


 さて、本日は12月31日。本来ならば某年越し番組を見て笑い転げるはずだったが、この世界にはそもそも電波という概念すらなく、あったとしても繋がるはずがない。言わば別次元なのだ。


 だが来てしまったものはしょうがない。せめてこの世界の正月を楽しもう。そう思ったのだが…。


「え?僕たちが12月31日にすること?特にないよ」


 とまぁこの始末だ。


 どうやらこの世界では12月31日は、ただの1年の終わりの日であり、特にめでたいとかそういうのはないとのこと。


「お、お年玉とかは?」


「何それ?落とし球って、上空から球でも落として攻撃するの?」


「いや物理的な意味ではなくてだな…。俺の住んでた地方では1月1日の年初めに今年もよろしくって意味を込めて、大人が子供にお金を渡すんだよ」


 この世界の文化というのは、やはり地球とはかなり違いがあるようだ。


「ふーん、そんな習わしがあるんだ。『これ払うから来年からも自分との関係続けて下さいね』ってことだね。僕は人の関係って金で買えるようなものでは無いと思うんだけどな」


「そんな聞こえが悪いものじゃねぇよ!?」


 でも、実際そういう意味なのだろうか…?いや待て、仮にも正月は神を崇めるものだ。


 そんな神聖な日に裏金を回す罰当たりな者は、神に鉄拳制裁を食らわされることだろう。


 なら、お年玉とはなんなんだろうか?あれ…マジでお年玉ってなんだっけ?


「ユウマ、そもそもこの世界には正月は無いんだから、お年玉も羽付きも、『年越した瞬間、俺地球にいなかったんだぜ』ってやつもないんだよ?」


「いや、最後者はないだろ。あれだろ?年越しと同時にジャンプするやつだろ?」


 すると、ルキアは何やら不思議そうな顔をした。


「チキュウ…?一体なんのこと?」


「あぁ、気にしなくていい、気にしなくていいから!」


「うーん?そこまで言うなら深く詮索しないけど…」


 そうそう、こいつは俺が異世界人だということを知らないのだ。


 元魔王と比べると異世界人なんてものはまったく人畜無害だろう。


 だが、魔王は多分この世界には必ず1人は存在するだろう。


 なら、元魔王という者は一人二人いるはずである。王座後退の時に殺されなければのことだが。


 それに比べ、こちらは異世界人だ。恐らくそちらの方が人数的には少ないんじゃなかろうか?


 どれほどの頻度なのか知らないが、おそらくこの世界にぽんぽん現れるような者じゃないだろうからな。


「だったら、皆さんで遊んでみたらどうです?まだ年は越してませんが、羽付きしませんか?」


「はぁ!?俺は遠慮しとくよ。あれ意外と難しいんだぜ?力加減とか、打つタイミングとか…」


 すると、ミナミがまるで俺に対して挑発するように…というか挑発してきた。


「おやおやぁ?怖いんですか、妹に負けるのが。やっぱりお兄ちゃんはビビりですね!これだから今まで童貞卒業出来なかったんですよ!」


「それとこれとは別だろうが!あとビビってねーし!ならやってやろうじゃねーか!」


 すると、今度は随分と嬉しそうな顔をした。


 こいつ、もう勝ったつもりなのか?確かにスポーツはからっきしダメだが、そこは兄の意地だ、絶対に勝つ!


「ハネツキ?メアリーは知ってる?」


「いや、そんなの聞いたことないですけど、何をするんでしょうかね?」


「わふ?」


 俺は、まずは材料を調達した。だが…。


「あれ?羽ってどう作るんだっけ?」


「早くしてください、羽子板もう出来ましたよ?」


 こいつ、なかなか仕事が早いな。と、今はそんな場合じゃない!


「いや、羽の作り方が分からなくってな。お前覚えてるか?」


「なんか後ろについてたのは分かりますけど…」


「それだよ!それの正体がわからないんだよ!」


 結局、適当にそこらの雑貨店で買った鳥の羽を後ろにつけてみたが…。


「バトミントンのシャトルだな」


「シャトルですね」


 どうしてこうなった。


「と、とりあえず出来そうだからいいんじゃないですか?」


「ま、そうだな。始めるか」


 俺が構えた時、ミナミが何やら止めてきた。


「待ってください、ただやるだけではつまらなくないですか?勝者の言うことをなんでもひとつ聞くということでどうでしょう?」


「お前、それが目的だったのか!」


 ミナミはわざとらしくそっぽを向いて聞こえない振りをしているが、絶対に確信犯だ!


 俺がスポーツが苦手なのを知っておいて、こんな勝負を挑んできた時点で、嫌な予感はしていた。


 だが、なんでもともなればミナミはどうせあんなことやそんなこと、口にも出せないエトセトラまで俺にやらせるのだろう。ほぼ確定だ!


「おやおやぁ?やっぱりお兄ちゃん、自分が負けることを自覚してるんですか?そんなことありませんよねぇ?兄が妹に負けたら笑いものですよ?」


 おいおいおいおい、流石に温厚な俺も頭にきたぞ。もうあとには弾けない。


「やってやるって言ってんだろうが!早く構えやがれ!」


「ふっふっふ、そう来なくっちゃですよ!」


 結果…。


「勝てるわけがねぇ…!」


 全く勝負にもならなかった。


 そりゃそうだ、こいつもどちらかと言えばインドア派だが、体育の成績は5段階評価で3、俺は10段階評価で2だ。そもそも勝負すること自体間違っていたのかもしれない。


 だが、言い訳をさせてくれ。


 兄としてのプライドが、棄権することを拒んだんだ。仮にも妹、年下である以前に性別が違うのだ。


 俺にも勝てる可能性があった…はずだった。


「お兄ちゃん、ちょっとは体鍛えたらどうですか?」


「う、うるさいな!」


 外野では二人が「ぷふふ…」と笑っていた。


「いやいや、笑ってないよ?あれだけ威勢よく叫んでたのに、あっさりストレート勝ちされてるの見て笑ってなんて…アハハ…!」


「笑ってませんよ?いや、ただ年下の女の子に何の手も出せず敗北というのは、さすがにどうかと…ぷふふ…!」


「ユウマ、ダサい」


「もう辞めてくれ、一生スポーツしたくなくなるから…」


 俺が項垂れていると、何やらニヤニヤしたミナミが歩み寄ってきた。


「さぁ、約束は約束ですよ!ちゃんとお願い聞いてもらいますからね!」


 はぁ、俺が負けたことだししょうがないか。腹を括るとしよう。


「ああ、なんでも言ってくれ」


「うーん、じゃあ…」


 せめていかがわしくないもの、せめていかがわしくないもの…!


「私と一緒にデートしてください」


「はぁ?」


 予想よりもかなりマイルドな欲求に、俺は間の抜けた声を出した。


 もっと過激なのをねだってくると思ったんだが、いらぬ心配だったらしい。


「言っておきますけど、二人でデートですよ。拒否権はありません!」


「ああもう分かったよ、今からか?」


 そう言うと、ミナミは明るい笑顔を振りまいた。


「はい!」


 か、可愛い…。ダメだダメだ、相手は妹だぞ?妹に好意を抱いてしまうのは普通のことだろう。


 だが、恋愛対象としては見てはいけないのだ。こいつの場合、それをうちあけた時、それがかなってしまうから本当に怖い。


「ん?どうしたんですか、お兄ちゃん。顔が真っ赤ですよ?」


「い、いやなんでもない!それよりも三人とも、留守番頼んでもいいか?」


「うん、楽しんでおいでよ。二人きりのデートをさ」


 そういうと、ルキアは意地悪そうな笑顔を浮かべた。


「私達は羽付き、する」


「さっき見たのでルールは覚えたからね!相手になるよ!」


「では、行ってらっしゃいです」


「わん!」


 メアリーは俺たちに手を振った。


 ミナミは手を振り返す、俺も軽く手を振った。


 2


「久しぶりですね、こうやって二人きりになるの」


「いや、毎日寝る前二人っきりだろう?前なんて、添い寝まで…」


 思い出しただけで顔が火照ってくるのがわかる。


 本当、なんであんなことになったんだろうか?あ、ほとんど俺のせいだったな。


「あれは、ただお兄ちゃんが心配だったから、少しでも力になりたくてやった事です。はっ、もしかして気に触りましたか?」


「いや、嫌ってほどではなかった…。むしろ、たまにならあんなことも…」


 そこまで言ったところで、妙に恥ずかしくなった。何言ってんだ俺?妹と添い寝?馬鹿なことを考えるな!


「すまん、今のは忘れてくれ!」


「は、はい!わかりました…」


 何やらミナミがいつもより静かだ。聞こえてたのか、さっきのこと?気にしてるのだろうか?


「ところで、デートなんてどこに行くんだ?」


「え?ああ、えっとですね…ここですここ!」


 そこには、見慣れた一件の鍛冶屋があった。


「お邪魔します!」


 そこには、案の定金髪に帽子をかぶった自称13歳の少女、ステラがいた。


「ん、やあミナミ、それと…ユウマ?」


「おいなんでそこ疑問形なんだ。名前ぐらい覚えて欲しいんだけど…」


 すると、店の奥から寝癖のだったままの青年、ネージスが現れた。


「ふぁあ、何の用だ?この時期は全くクエストに行く冒険者がいないんで、売れないから店は閉めてるってのに…」


「いや、今日は一つお願いがありましてですね、こちらの素材で武器を作って欲しいんですよ」


 すると、何やら鉱石のようなものを取り出した。


「っておい!これってまさか、マグマクリスタルとオーシャンクリスタルじゃないのか!?どこで手に入れたんだよ!」


「す、凄い…初めて見た。それに、黒曜石まで。腕がなるね、兄ちゃん」


 いつの間にこんなの手に入れたんだ?…あ、もしかして、エルマが住んでた家でもらってきたのか?


 俺達は、エルマに「一応散策したら?クエストなんでしょ、あるものは好きなだけあげるよ」と言われたのだ。


 だが、まさかあいつもあんなに苦労するとは思っていなかっただろう。


 気の毒だ、これを売ればかなりの生活費の足しになったのにな。


「んで、どんな武器にする?杖にでも仕込むか?」


「いえ、今回はダガーでお願いします。黒曜石をハンドルにして二本、マグマクリスタルのダガーを一振と、オーシャンクリスタルのダガーを一振。刃渡りはお任せします」


「ん、分かった。じゃあ作ってくるから、ちょっと待っててくれ」


 そう言うとネージスは店の奥へと歩いていった。俺はひとつ疑問に思ったことがあった。


「おいミナミ、デートって二人きりなんじゃなかったのか?」


 俺がそう聞くと、ミナミはニヤリと笑った。


「あれれ?お兄ちゃん、もしかして期待してたんですか?私は何も二人きりでなんて言ってませんでした。ただあの人たちを置いてきただけです」


 な、なるほど…それもそうだったのかもしれない。


「でも、お兄ちゃんが望むのなら、二人きりのデートをすることぐらいお安い御用ですよ。むしろこちらからお願いしたいくらいです」


「ば、馬鹿!そんなことないに決まってるだろうが!?」


 全く、こいつはいつもこれだ。だが、それが良かったのかもしれない。何度もその性格に救われているのだから。


「あの、二人きりでイチャイチャするのは勝手だけど、私の前では避けて欲しいというか…」


「ち、違う!こいつが1人で言ってるだけだ!」


 すると、ステラは冷たい目線を送ってきた。こいつ、絶対に信じてないな!


 しばらく待っていると、ネージスは戻ってきた。


「ほら、こんな感じでいいか?」


『おぉ!』


 俺達は簡単の声を上げた。凄い、こんなに綺麗なのか、武器が!?


「切れ味も申し分なさそうですね!見栄えもいいです!」


「ほんとだな!透き通るような青と、燃えるような赤!どっちもすげぇ綺麗だ!」


 ゲームとかでしかこういう武器見たことないからな。


 剣とかは見たことはあるが、ここまでの物はなかなかお目にかかれないだろう。


「ところで、これを使った武器制作は今日が初めてだったんだよ、名前でも付けてやればどうだ?」


 武器に命名!?中々の一大イベントじゃないか!


「良かったじゃねぇか、ミナミ!いい名前付けてやれ」


「え?私がですか?」


 不思議そうに、俺の方を見つめ返すミナミ。

 何不思議そうにしてるんだ、こいつは。


「いや、当たり前だろ。本来なら作成者本人にも名前をつける権利はあるだろうが、それの本人がお前に権利を譲ってんだから、お前がつけてやれ。俺が名付けるときっと酷くなるからな。この剣もお前に名付けられた方が嬉しいだろ」


「そ、そうですか?そこまで言うなら…」


 しばしミナミは頭を抱え、悩んだ。それもそうだ、武器の名前なんてそうポンポンと思い浮かぶようなものじゃないんだからな。


「赤い剣の方が『トゥ・ラブ・ダガー』、青い剣の方が『フォールス・エモーション・ダガー』でどうでしょう?」


 こいつの博識っぷりが発揮されたな、俺には全く理解できない。


「おお!なかなかいい名を付けたみたいだな!大切にしてやれよ」


「はい!」


 その時、ステラが呟いた。


「『トゥ・ラブ・ダガー』と、『フォールス・エモーション・ダガー』?なんでそんな矛盾した名前に…考えすぎかな」


 一体何が矛盾しているのだろう。俺には彼女の言葉は理解できなかった。


 3


 俺たちは、帰路に着いて歩き始めた。あの剣の名前、多分響き的には英語なのだろう。


 この世界でも英語は使えるということか。文字は少しちがったが。


「あ、そうそうお兄ちゃん、お兄ちゃんに渡すものが…」


「ん、なんだ?」


 そう言うと、ミナミはカバンをゴソゴソと漁り、先程のダガーを取り出した。確か名前は『フォールス・エモーション・ダガー』だったっけ?


「こちら、お兄ちゃんに差し上げます!」


「なんでそんなの俺に渡すんだ?お前のものだろ?」


 そう言うと、ミナミは少し照れたようにそっぽを向いた。


「ペ、ペアルックですよ!一応そっくりに出来てます。それに、お兄ちゃんに拒否権はありませんよ、デート中は何回もお願い出来るんですからね!」


 なんて言う独自理論!横暴にも程があるだろ。


 まぁ、断る理由も特にないし、本人がいいというのなら有難くもらっておくとしよう。


「分かったよ、後で返してくれなんて言っても遅いからな?」


「言いませんよ、元からこれはお兄ちゃんにあげる予定でしたから」


「そうか、ありがとな」


 そう言えば、どうしてミナミは俺にこの短剣を譲ったのだろう?ペアルックにしたかっただけ?考えても埒が明かないので、あまり深く考えないでおこう。


 俺達は家の前に来た。そこでは…。


「お前らなにやってんの?」


 ルキアとメアリーは地面に突っ伏して、ピクリとも動かない。


「ああ、えっとこれはですね…」


 メアリー曰く、ルキアが全力のサーブを放ち、それを自分自身の力では打てないと考えたシュガーが、何やらものを二倍の速度で跳ね返す魔法を使ったらしく、それがルキアにクリーンヒットし撃沈。


 シュガーも魔力切れを起こしてぶっ倒れたそうだ。


「いや、マジでおまえら何やってんだよ」


 俺は心底呆れ、二人を見下ろした。


 4


 さて、家に帰ってから三十分ほど経ち、ルキアは目が覚めるやいなや、「今すぐギルドに行こう!」と言い出した。


 何度理由を聞いても、「行けばわかるから!」としか言わないのだ。


 俺達は仕方なくギルドに向かうことにした。ギルドに着くと、何やら番号の書いた紙を渡された。


 一人に一枚ずつ配っているようだ。ほんとうになにがはじまるのだろうか?


「はーい!皆さん、ご自分の番号は確認されましたか?それでは抽選を始めます!」


 ち、抽選?なんかいいものでも貰えるのだろうか?


「なあルキア、これってなんなんだ?」


「毎年恒例なんだよ、何も去年までは特産品とかだったのに、今年からなんか一段と豪華な景品があるって話だから、参加しておきたかったんだ」


 ほうほう、景品が特産品の宝くじと言ったところか。でも、無料なら気軽に参加できる。その分、何枚も買えなくなるが…。


「今年の1等は、なんと!天空都市アヴァロンの2泊3日の旅行券でございます!」


「うおぉぉ!」


 て、天空都市アヴァロン!?て、なんだろうか。なんか名前は大層なのだが、全く実感がわかない。というか、こういうのって絶対に当たらないだろ。


「えー、では読上げていきますね。一等の当選番号は…」


 ゴクリと唾を飲む。分かっていても、やはり少しは期待したいのだ、虚数の彼方にある可能性に。


「5723628番の方!5723628番の方、いらっしゃいませんか?」


 ふと俺の番号に目を向ける。ほらな、絣もしてな…?ておいちょっと待て、何かがおかしくないか?


 俺は自分の目を疑った。何度も目を擦り、再度番号に目を向ける。


「5723628…なあミナミ、この番号おかしくないか?一等の当選番号と全く同じなんだが…気の所為だよな?」


 ミナミは不思議そうに俺の番号を見つめ、やがて目を見開いた。


「お、お兄ちゃん!一等ですよ、当選したんですよ!」


「や、やっぱりそうだよな!?あの人形は本物だったんだ!ってことでミナミ、商品もらってきてくれないか?」


 流石にこの大衆の中、全員の視線を浴びるのは気が引ける。


「え?ここでもコミュ障なんだ…」


「この状況だからだろ!こんな大人数の視線浴びたら死んじまうぞ?」


「いや、それは言い過ぎですけど…でも分かりました、私が言ってきます!」


 ミナミは前に走っていき、商品を貰ってきた。


「何やら10人以下なら何人でもいいみたいですよ、誰誘いますか?」


 かと言ってたかが知れてるよな、知り合いともなれば…。


「俺たち五人に、一様アリスとエルマ、あとロイトス兄妹にも声掛けとくか」


「あ、でもこれ年明けから少し経ってからですね。今度聞きに行ってみましょう」


「うん、そうだね!」


 俺達は幸運を呼ぶ人形のおかげで、旅行券を引き当てることが出来た!


 まさか夢のひとつだった宝くじ一等が、一度死んだ後に叶うとは思ってはいなかったが、形はどうあれ叶ったものは叶ったのだ。素直に喜ぼう!


 5


 時計は11時50分ごろを指す。


 シュガーも起きてきて、俺達は新年の到来を待っていた。メアリーは四人分のココアを作っていた。寒い冬の心強い味方だ。


「さて、もうすぐ日が変わるぞ」


「ですね、ていうかここって大晦日に信念になるまで起きておくなんて言う文化もないんですか?」


 ミナミが不思議そうにルキアに聞くと、少々ねむそうに答えた。


「そうだね…ふぁあ〜。僕ってさ、結構早くに寝るから、こんなに遅くまで起きてたのってそう多くないんだよ…。そんな習慣も初めて知ったしね」


「だ、大丈夫か?部屋に戻ってもいいんだぞ?」


「大丈夫だよ、もう少し起きてるから…」


 本人がそう言うなら止めはしないが、本当に大丈夫なのだろうか?


「あ、三人とも、もうすぐ年があける」


「お、そうだな。あと30秒ほどか?」


「そうですね。あ、ココア持ってきましたよ」


「わふっわん!」


「おおサンキュー、メアリー」


 この世界の時計というのは、魔力回路で全て繋がっているらしく、それらは電池の代わりにその周囲の魔力を少しずつ消費するらしい。


 なので、針が狂うこともなければ、電池切れを起こすことも無いのだ。動かなくなるとすれば、周囲の魔力が全部消えた時くらいだろう。


 俺はココアを飲みながら静かに年が明けるのを待った。


「あ、本当ですね!どうします?飛びますか?」


「お前だけやってろ」


「えぇー?やりましょうよ、一緒に!」


 ミナミがぎゃあぎゃあと騒いでいるうちに、年が明けた。


「では、あけましておめでとう!」


「な、何?なんなのそれ?」


 流石にこの挨拶くらいは知っていると思ったのだが…。


 やはり、住んでいる環境が変わると調子狂うな。まぁ、もうこの世界に来て半年近く経ったんだ、それくらい慣れていこう。


「あ、ああこれはな、俺達の新年の挨拶なんだよ。年が明けた時に、『年が明けてめでたいね』ってな意味で挨拶するんだ。今年もよろしくってのもな」


「ふーん、そんな挨拶もあるんだね。んじゃ、あけましておめでとう!」


「あけ、おめ」


「わおーん!」


 てかこいつ、どんどん喋る言葉がギャルっぽくなってないか?『鍋パ』の行もそうだったが…気の所為だろうか?


「おめでとうございます!」


「あけましておめでとうございます!って、ああ!飛ぶの忘れてました!毎年やってたのに!」


「何お前、そんなくだらないルーティンしてたのか」


「くだらなくないですよ!?」


 ああ、そう言われるとこいつなんか毎年跳ねてたな。

 その時間帯は少々ビクついて大晦日の特番を見ていてそれどころではなかったが。


「んじゃ、僕は部屋に戻って寝るよ。シュガー、一緒に行こ」


「うん、おやすみ、三人とも」


 そう言うと、二人は2階に向かった。俺も、ココアを飲んで体が温まったからか、何だか眠くなってきた。


「俺も寝るわ。ミナミ、お前はどうするんだ?」


「なら私も寝ます。メアリーさん、おやすみなさいです!」


「はい、おやすみなさい、お二人とも」


 さて、今日から少しゆっくりして、そのあとは天空都市アヴァロンに旅行か…。


 本来喜ぶべきなのだろう。だが、この世界の旅行は初めてだ。少々気を引き締めた方がいいかもな。


 とにかく、新年早々忙しくなりそうだ!

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