第14話:悪魔少年と契約者
1
「久しいね。アリス、シュヴァ」
もう完全に俺の思考がついて行かない。
まず、いきなり理解し難い単語の羅列を話され、俺達がいわゆる異世界からやってきた者…異世界人ってやつか。
それであることも見抜いた。一様根拠はあるようだが、残念ながら俺の低スペックな脳では全く理解できなかった。
そして挙句の果てに、アリスやシュガーのことを知っているのか?なんか『シュヴァ』とか言っていたが…。
「なんだエルマ、生きてたの」
「もっと優しい言葉掛けてくれたっていいんじゃない?まあ、そういう性格は今も変わらずってことか」
何やら偉く親しげに話してるな。しかも、『今も変わらず』と言っているあたり、シュガーの知り合いってことで間違いないだろう。
「うわぁぁぁん!エルマざん、良がっだ、無事で良がっだでずよー!」
「ちょ、アリスは泣きすぎ!仮にも俺の主人なんだから、もっと落ち着いてよ。心の乱れは俺にも響くんだからさ?」
しゅ、主人?こいつはその類のプレイが好みなのか?見かけによらずなかなかマニアックだな…。
「ユウマ、エルマと知り合い?」
「いいや、俺とこの少年とそこにいるさっきからずっと寝てる少女は、ここで初めて出会ったよ。ついさっき」
「とまあ、そんな感じだ。名前だって教えて貰ってなかったし、知ってることがあるならむしろ俺が聞きたいほどだ」
って言うか、ミナミいつまで寝てんだ。よく立った状態で眠れるよな。
とまぁそんなことはどうでもいい。とりあえずエルマと呼ばれた少年はシュガーとアリスの知り合いで間違いなさそうだ。
「エルマはね、『七つの大罪』の一人だよ」
なんだやっぱりただの知り合いだったのか…ってちょっと待て、こいつ今『七つの大罪』とか言わなかったか?
「はぁ!?何言ってんだ?こんなショタが元魔王軍幹部?そんなのありえ…」
ふと、アリスが目に入った。ああ、そう言えばこいつもロリなのに元魔王軍幹部だったわ。
「なくはなかったな」
「今私の事見て訂正しませんでしたか!?」
「うーん、お兄ちゃんうるさいです。起きちゃったじゃないですかぁ、ふわぁぁぁ…」
今頃になってようやく目が覚めたミナミは、ゴシゴシと目を擦りながら大あくびをした。
「んじゃあ全員が揃ったことだし、改めて自己紹介と行こうか。俺の名前はエルマ・ワーミング。七つの大罪、嫉妬の罪だよ。そこにいるアリスと契約した使い魔でもある」
「使い魔?魔法使いが手懐けた魔力を持った動物…みたいな感じか?でも、そうには見えないけど…」
「まあ、その認識であながち間違ってないね。下級の使い魔だと、動物の姿がほとんどだしね。でも上位個体になると、俺みたいな悪魔とか、他には吸血鬼とかもいるよ。契約するなら、それなりの代償は必要だけどね」
そう言えば、ルーンも使い魔がどうとかって言ってたな。あれ、こいつまたしれっととんでもないこと言ってなかったか?
「おいお前、今悪魔とか言わなかったか?」
「うん、今更驚かないでしょ。元魔王とかとパーティ組んでるくらいなら」
まあそれもそうだ。シュガーも魔族だって言ってたし、悪魔とおなじようなものだろう。
「はーい、質問いいですか?」
「なんだい?金髪ロリっ子ツインテールちゃん?」
『ぷふふ…』
「その呼び方、やめて貰えませんか!?私の名前はイリヤ・ミナミです!あと、みなさんも笑わないでください!」
やばい、完全にドツボにハマった。思い出しただけで笑いが…!
「そうカッカすんなって、金髪ロリっ子…ぷはは…!」
「ちょ、ユウマやめて!思い出すと…ぷふふ…!」
「ちょっとダメですよ皆さん!?いくら面白かったからと言って…ふふふ…!」
「皆さん、一旦落ち着きましょう…ぷふふ…!」
「シュガーちゃん以外全員笑ってるじゃないですか!?」
それから俺達は、廃墟の床で悶え苦しみながら、いつ収まるかわからない無限の笑いに立ち向かい、五分ほどで一様まともに話せるようになった。
「落ち着いたかな?」
「あ、ああ…悪いな。そう言えばミナミ、なんか質問があるんじゃないのか?」
「あ、そうでしたね、皆さんが私のことを馬鹿にしてくれたおかげで、忘れてしまうところでしたよ」
「ご、ごめん…」
こいつ、かなり根に持ってるな。まあ、しょうがないか。反省しとかないと。
「いや、もういいんですよ。別に大したことないですし。そんなことより、アリスさんがエルマさんに払った代償ってなんなんですか
?」
確かに、悪魔ともなればかなりの代償となるだろう。金銀財宝とかだろうか?
「心臓ですよ?」
やっぱりかなり高価な…、て、え?
『心臓!?』
俺たち4人は予想だにしない言葉に完全に意表をつかれ、声を上げた。
「そんなに驚くことかな?他のなら、目とかでも良かったんだけど」
「いや、重すぎだろ!?」
確かに悪魔召喚とか、悪魔との契約とかにはかなりの代償は必要とは聞いたことはあるが、実際こんなに重いのか!?
「あれ?でもさ。それならアリスは今心臓はないの?」
「いや、心臓はあるんですけどね。言葉にするのはかなり難しいんですけど、最大限わかりやすく言いますと、私の心臓は今、半分は自分の心臓、残りの半分はエルマさんの心臓なんですよ。エルマさんも同じようになってるんです。このふたつの心臓は魔力によって連動しているんです。だから、私が仮に致命傷を負ったとして、心臓の動機が止まってしまっても、エルマさんが生きていれば体はまた再生を始めるんですよ。実質、二人同時に死亡させられない限り、死ぬことはないんですよ。ちなみに私はその契約のおかげでネクロマンサーになったんですけどね」
ほうほうなるほど、アリスはネクロマンサーだったのか…。
って、ネクロマンサー!?
「お前、ネクロマンサーだったのか?初耳だぞ!?」
「うん、アリスはネクロマンサー。だから除霊魔術とか、降霊術とかが得意。結構役に立つ」
「シュバリエル様、そんなに褒めないでくださいよ。えへへ…」
アリスは頬を赤らめ、俯いてはにかんだ。て言うか、さっきの言い方だとただの使い勝手がいいやつとしか聞こえないんだが?
「そう言えば、あんたら俺になにか用があったんじゃない?」
そうだ、俺達はここに住み着いている幽霊の除霊を頼まれてたんだ。
俺達は事情をエルマに話した。
「ふーん、そういうことか。でも、こっちとしても、まず幽霊じゃないし、そもそも住む場所が無くなるのはゴメンだね。提供してくれんのなら別にいいんだけど」
「あ、それなら私の店に住みませんか?本来なら契約者である私が管理するべきですし」
「管理って…。まあいいよ、前まで一緒に住んでたしね」
これで一件落着か。なんか今回はぱっとしない終わり方だな。もうこれアリスだけで事足りたんじゃないか?
2
さて、何とか資金は獲得することは出来た。これからはもうアイツらには酒を与えないでおこう。
話は変わるが、この世界にも大晦日や正月はあるらしく、かなり盛り上がっていた。商店街は、人が溢れかえっている。
俺はミナミとシュガーと共に商店街に来ていた。ルキアはメアリーと共に買い出しに行っている。
おっと、勘違いしないで欲しい。傍から見れば幼女と童女を連れて歩いているように見えるが、と言うが実際連れて歩いているが、俺は決してロリコンではない。
断じて、断じてだ。
「うおっ、やっぱり人多いな」
「もうすぐ大晦日ですからね、かきいれ時なんですよ、きっと。あの店は繁盛してないようですけど…」
「うん、繁盛してない」
その店というのは、皆さんご存知アリス魔具店である。
まわりの店には結構客足があるのに、あそこだけは全く客が来ていないようだ。
「ようアリス、来てやったぞ…」
「ほら、こんなの要らないでしょ?これ返品して出来たルナで、もっと実用的なもの仕入れるんだよ!」
「ダメです!これは店1番の売れ筋なんですから!」
店に入ってみると、何やら言い争いをしているようだった。それに、アリスはなにやら商品棚に覆いかぶさっていた。
「何やってんの、お前ら」
「ああ、ユウマさん!助けてください!エルマさんが自殺シリーズのポーションを全て返品するって言ってるんですよ!」
「こんな物騒なもの売ってるから客が減るんじゃないの?それ返品して他の商品仕入れた方が絶対儲かるよ!ユウマもそう思うよね?」
「いや、そんなのどうでもいいんだ。俺はただ、暇つぶしに来ただけだからな」
やることが無いのなら一緒に買い出しに行くか、家でゴロゴロしとけばいいのだが、何やら無性に外に出たくなったのだ。
分からなくもないだろう?別に放浪癖があるという訳でもないのだが、時々あるのだ。
「別に予定もないなら、アリスの説得に付き合ってよ!」
「いや、エルマさんの説得に付き合ってください!」
「と、とりあえず2人とも落ち着いてください!」
ミナミが2人を宥めると、どうやら何とか静まったようだ。
「す、すいません。少々冷静さを欠いていました…」
「こ、こっちこそごめん。大した根拠もなくて、独自の理論で商品返品しようとして…。でも、試しに1ヶ月だけ、そのコーナーに実用品置いてもいいんじゃないかなって思って…。それが成功したら、また考え直してくれる?」
「そうですね…。一様ここはもう私一人の物ではありませんし、考えておきます」
うん、どうやら一件落着したようだな。さて、俺達は帰るか…。
「待ってくださいユウマさん、あなたは何も買わず、この店をあとにする気ですか?」
「い、いや、今金ないし…」
「ユウマ、ルナある」
「ああ、これだけあればそこそこのもの変えるんじゃあないかな?ね、店長?」
エルマは意地の悪そうに笑い、アリスとアイコンタクトをとった。相変わらず表情はわからない。
だが、きっとにやけているはずだ!こいつら、さっきまで喧嘩していたくせに、商売のこととなると…!
「毎度ありがとう」
「またのご来店をお待ちしていますよ!」
結局、かなりの出費となってしまった。もうこれは当分あの店には行きたくないものだ。
俺達は、かなり人の減った冬の透きとおった空を彩る茜色の下、帰路に着いていた。
「お兄ちゃん、今日の夕食はなんでしたっけ?」
「鍋だろ?資金的にあまり余裕はないらしいから、最低限の出費で済むようにするらしいがな」
それと反面、俺は何やら怪しい人形のようなものを買わされた。何やら幸運を招くらしいが、とてつもなく胡散臭い。
「その人形、信用してもいいと思う。エルマはある程度風水とかもかじってる」
この世界にも風水ってあるのか。ていうかあいつ風水までかじってるのか?元魔王幹部汎用性高すぎだろ!?
「これがか?信用ならないな」
「ほんとに幸運を呼ぶんですか?」
「宝くじ1等当選とか、九死に一生を経たりとか?」
前者はまあいいとして、後者は物騒すぎるだろ?九回死んで一生を経るくらいなら、安全地帯で過ごす。
「って言ってもな、本当に効果あんのかよ?これ」
「うーん、試してみないとわからない」
ていうか今気づいたのだがこれ、まるっきり日本人形だ。どうして異世界に日本人形が?
3
「あ、ユウマさん達おかえりなさい!鍋の準備は出来てますよ」
「わふっ!」
「ただいまです!」
「お、やっぱ冬は鍋だよな!」
「うん、鍋パしよ」
こいつ意外とそういう言葉使うんだな。なんつーか、ギャルっ気の高い女子達が使ってそうだが、それを無表情で言われると、なかなかにシュールだな。
「あ、そうだメアリー、これアリスの店で買わされたんだが」
俺はアリスに買わされた人形を差し出した。
「ん、人形ですね。なにやら特殊な魔力が働いているようです。エンチャントってやつでしょうか?」
「お前そんなのわかるのか?」
「鑑定スキルです。生前に習得していたので、まだ有効なのかもしれないですね。えっと、幸運収集のエンチャントです。あらゆる場所から少しずつ幸運を集め、それを所有者に与えるって感じですかね」
『なかなか使えるな!(ますね!)』
アイツらには感謝しよう。こんなの、一生に一度お目にかかれるかかけれないかの代物だぞ!?これは大事に保管しておこう。
「お兄ちゃん、きっとそのうち幸運が訪れますよ!宝くじ1等とか、こんなに完璧な妹がいたことに気付くとか!」
「たしかにお前は壁だけど」
「それは私の胸がまな板だから言っているんですか?いいんですよ、私成長期ですし、それにお兄ちゃん、完璧の『璧』の字と『壁』の字は違いますよ。バカを露見しましたね!」
こいつ、無駄なところで妙に頭がいいからな、厄介だ。
「あ、でも待ってくださ…」
「二人とも、鍋食べるよ。二人の分なくなっちゃうよ!」
「別にいい、二人で全部食べる」
何やらもう向こうは鍋を始めているらしい。
「おい、俺たちの分がなくなるぞ!一時休戦だ!」
「そうですね、今は鍋に急ぎましょう!」
今宵、冬の冷え切った体を温める救世主、鍋の具を取り合い、夕食は戦場と化した。
4
さて、俺達は何とかある程度の具を掻き込み、腹を膨らせた。風呂に入り、歯を磨き、寝床に着く。
「いや、久しぶりに鍋食ったな」
「はい、かなり長い間食べてませんでしたからね」
こいつは、さっき壁がどうだのと言っていたが、もう気にしていないらしい、ほとんど気にしてなかったということか。
「にしても、この世界に来てからもう半年くらい経ったんだな。どうだ、ここは」
「どうと言ったこともありませんよ。強いていえば、学校に行っていた時間が暇ですね。特に冬は」
「確かにな、冬はモンスターはあんまりこの地帯いないらしいからな」
すると、ミナミは俺に聞き返してきた。
「そういうお兄ちゃんは、どうなんですか?この世界」
「別に嫌いではない。自分の実力がもろに出てしまうけど、頼れる仲間がいるから心強いな」
少々照れくさいが、実際そうだ。俺は周りに助けられてばかりだ。
あんなに嫌っていたのに、あんなに憎んでいたのに、その他人に支えられている。なんか複雑だ。
「当然、この私も含まれてますよね?」
「いや、仲間ではあるけど、頼れはしないだろ」
「酷い!パーティ唯一の回復役なのに!」
ミナミはぎゃあぎゃあと騒ぎだした。全く、こいつは冗談と本音の区別もつかないのか。
「冗談だ、お前は頼れるやつだよ。本当に助かってる、ありがとな」
「へ?」
ミナミは意表をつかれたようで、間抜けな声を上げた。そして、顔が赤らんでいった。
「ち、直接言われたらてれますね…。その、ありがとうございます…。お兄ちゃんがそんなこと思ってたなんて…」
全く、照れたら案外可愛いところあるんじゃないか。普段の性格はあれだが。
「も、もう寝ましょう?もう夜は遅いですし。ランプ消しますよ」
「ああ、おやすみ」
「は、はい、おやすみなさいです」
俺はゆっくりと目を閉じ、暗闇に満たす。そして、薄れていく意識の中、あいつと初めて交わした会話を思い出していた。
5
「なぁ、もう忘れちまったのか?私のこと」
「忘れるはずがないだろう。それよりどうして俺の前にまた現れた」
「酷いな、毎日あっているようなものじゃねぇか」
「バカを言うな。おまえがなんと言おうとそんなことは信じない。それがたとえ真実でも、俺は今はあいつの兄だ。お前のじゃない。俺の妹は今は一人だ」
「ふーん、しょうがない。もう少しあんたらの偽りの関係を続かせてやるよ。でも覚えてろよ、私はいつでもその薄っぺらな関係を崩せるんだ」
「そんなことはさせない!あいつは俺が守る!」
「おうおう吠えてるねぇ、でもあんたに私は殺せない。理由は分かってるよな?」
「ぐっ…!」
「そう構えるなよ、今はせいぜい残された時間を楽しめ。どうせすぐに終わってしまうだろうがな」
6
はっと目を覚ました。額からは汗が伝い落ち、鼓動が高鳴る。気を落ち着けるように深呼吸をする。
「お兄ちゃん、大丈夫ですか?酷くうなされていたようですが…」
ふと隣を見ると、ミナミが心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「ああ、ちょっと昔のことを思い出してな。夢の内容はあまり覚えていない。でもあまりいいものじゃなかったと思うから、それでだろう。それにお前はめったに起きないのに、どうして起きたんだ」
「お兄ちゃんが心配だからに決まってるじゃないですか」
覚えていないはずがない。
脳裏に焼け付くようなあの声、あの顔、あの表情。
最近は見なくなったと思ったのだが、あいつはまだ俺に付きまとうのか。
「ほ、本当に大丈夫ですか?震えていますけど…」
「ふ、震え…?」
見ると、確かに手が震えていた。おかしいな、何でだろうか。
止まらない、震えが止まらない。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…。失いたくない。
せっかくまた一からやり直そうと決めたのに、せっかくここまで来たのに、過去が全てを殺しにくる。
守ってやれるのだろうか、俺はあいつから…。そんなことを考えていると、今度は目から頬にかけて、雫が滴り落ちる。
俺は咄嗟に顔を隠すように、ミナミに背を向ける。だが、ごまかせなかったようだ。
「お兄ちゃん、どうして泣いてるんですか…?」
「失いたくない…もう何も…あんな思いしたくない…怖い…怖いんだよ…」
俺から溢れ出すのは強がっていた今までの言葉とは真逆の、まるで恐怖に襲われた子供のような、弱々しい言葉。
すると、何やらミナミが俺の横に寝転がり、背後から抱きしめてきた。暖かい体温を感じる。徐々に体の震えが引いていく。
「大丈夫です、お兄ちゃん。私はいつでもお兄ちゃんの味方です。お兄ちゃんが道に迷ったら一緒に悩み、お兄ちゃんが苦しい時はその苦しみを分かち合います。今すぐとは言いません。いつかその悩み、私に聞かせてください。今日はただ、こうすることしか出来ませんが…」
やばい、号泣しそうだ。ミナミにこんなにも思われてたなんて、予想だにしなかった。今更落ち着こうとしても、もう無理だ。
「う、うぅ…。うぅぅ…」
次々と頬を滑り、ベットの敷布団に涙が染み込んでいく。どうやら最近、俺は優しさを欲していたのかもしれない。
「楽になるまで泣いてください。泣くことは悪いことじゃないですから」
結局、俺は散々泣き疲れた挙句、泣き寝入りをしてしまったらしく、ミナミはあの背後から抱きしめてきた体制のまま眠っていたようだ。
どうしてだろう。昨夜はあまり距離感を気にしなかった。と言うか、ああやって密着してくれた方がなんというか、こう…安心したんだ。
『ひとりじゃないよ』そう誰かに言われた気がした。
ミナミの方を見てみると、小さな寝息を立てながら気持ちよさそうに眠っていた。
俺は案外、こいつのこと気に入っていたのかもしれない。ミナミの頭に手を乗せ、優しく撫でる。
「ありがとう、ミナミ。本当、俺は何度お前に救われればいいんだろうな」
その恩を返す為だ。
…こいつだけは、絶対に守り抜く。




