コルチカムを胸に抱いて
救いのない話ですが、少しでも何かを感じて頂けたら嬉しいです。
ざわざわ……ざわざわ…
人々がひしめきあう法廷は、色々な音でざわついている。
様々な思惑が満ちた場に足を踏み入れた私を睨み付ける視線…そして、少数の同情の眼差しを感じながら歩を進める。
神様は意地悪だわ。私は、好きな人と一緒になりたかっただけ。それが許されないのであれば、せめて近くからあの方の姿を眺めていたかっただけなのに。
「被告人、前へ」
私を睨みつける元婚約者の瞳は憎しみに溢れ、これが冤罪であることにきっと気づかないだろう。
そして、隣で唇を歪め、優越感に満ちた顔でこちらを見下ろしている新しい婚約者にも。
もう、いい。
私の愛したあの方は、もうこの世にはいらっしゃらない。
だから、犯してもいない罪で裁かれようとも、命を奪われようともかまわない。
ただ哀れな私を憐れむのであれば…神様、せめてささやかな願いを叶えて。
『愛しています』
私の声をどうか届けて。
『愛していました、心から』
過去形になったことすら、きっと貴方は気づかないのでしょう。
お読み下さり、ありがとうございました。