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バレンタインの準備

『最強寒波が襲来します。今週末から冷え込み、来週には全国各地で雪が降るでしょう』


 朝のお天気お姉さんが天気予報を読み上げている中、俺はある決意を固めていた。


「姉ちゃん、お願いがあるんだけどちょっといいかな?」

「どうしたの急に改まっちゃって。わかった、お姉ちゃんに甘えたくなっちゃたんでしょ。お父さんとお母さんがいなくて寂しいのね。さあ、いくらでも胸を貸してあげるわよ」

「そういう冗談はいいから」

「最近のゆうくんつーめーたーいー」


 相変わらず俺をイライラさせることに関しては天才クラスだが、今日はお願いする立場だ。ここは下手に出るしかない。


「この前テレビで逆チョコやってたじゃん。あれ渡そうかなって思ってさ……。それで、姉ちゃんにアドバイスもらいたいんだけど……」


「1ヶ月」


「もうちょっと負けてもらえませんかねえ……」

「口が滑ってこのことを部長くんに教えちゃうかもしれないわね」

「いえ、1ヶ月でお願いします!」


 我が家は共働きで両親はあまり家にいない。そのため、家事は姉ちゃんと2人で分担しているのだ。1ヶ月とは、家事を1ヶ月間1人でやれということである。


「そこまで言われちゃあしょうがないわね。スーパーインテリジェンスな私の知恵を貸してあげようじゃないか。それで、具体的にどんなチョコを渡そうとしてるの?」

「種類は決めてないけど、せっかくだから手作りしようかなって」

「これだから乙女心をわかってない男は……。どうせゆうくんのことだからものすごく凝ったものを作ろうとしてたでしょ」

「え、ダメなの?」


 これでも長い間、家事を分担してきただけあって料理は得意だ。どうせなら気合の入ったものを作ろうと思ってたんだけど。

「ゆうくんにとってはいいかもしれないけど、もらった子のことを考えてみてよ。自分じゃ作れないようなすごいチョコを渡されたら、プライドが傷ついちゃうでしょ。杏ちゃんなら大丈夫かもしれないけど。そもそも、ゆうくんのことだから杏ちゃんとそこまで仲良くないんでしょ? いきなり手作りは重い、重すぎるのよ」

「……重い」


 実際、吉原とはすれ違ったら挨拶をする程度の仲でしかない。しかも、去年の文化祭までは話したことすらなかった。


「だから、市販のものにしときなさい。それで、今週末の予定は?」

「えっと、特にないけど」

「それなら日曜日空けときなさい。選ぶの手伝ってあげるから。ゆうくん1人だとどれにするかずっと悩んでそうだから」

「ありがとう! さすが姉ちゃん!」

「その代わり、1ヶ月しっかりと働くのよ」

「そ、そうだった……」


 こうして俺は大きな代償を払いつつもチョコ選びを手伝ってもらうことになったのだ。

 



 寒空の中、俺達は近所のショッピングモールに来ていた。3連休ということもあって、人通りはかなり多い。

目指すはバレンタインの特設コーナーだ。


「それで、杏ちゃんの好みとかなにか知らないの?」

「食べ物の好みとかはちょっと……。あ、でもかわいいものが好きみたい」


 単なるクラスメイトだった俺と吉原、それが話すようになったのは文化祭がきっかけだった。俺が所属する演劇部は、毎年文化祭で演劇を披露している。その衣装の一部を手芸部に作ってもらうのだ。そして、俺の衣装担当になったのが吉原だった。


 そのときに、俺の衣装にやたらフリルをつけたがっていたのを思い出した。ちなみに、俺の役は山賊のボスだった。どこにフリルをつけた山賊がいるというのだろうか。

 あと、ぬいぐるみを集めるのも趣味だと言っていた。きっとかわいいもの好きに違いない。


「なるほどねえ、でも入れ物はシンプルにしたほうがいいわね。ゴリラにかわいい箱を渡されたら笑っちゃうもの」

「誰がゴリラだ」


 あーでもない、こーでもないと意見を交わしながら見て回っていると気になるものを見つけた。


「お、これはいい気がする」

「どれどれ、チョコマカロンかー。ハート型なのがベタな感じだけどいいんじゃない?」

「よし、これにしよう。はい、決定!」


 ラッピングの材料も持って会計を済ませると、ようやく人混みから脱出することができた。ただでさえ人が多いのに、バレンタインコーナーはその中でも人が集中していて満員電車のようになっていた。


「あっつー、いくらなんでも人多すぎ」

「そうね、疲れたし帰りましょうか」

「そうしますかー、サンキュー姉ちゃん」

「どういたしまして。しっかり働きなさいよ」

「嫌なこと思い出させるなよ」


 そのとき、後ろから強烈な視線を感じた。

 びっくりして振り返ったが、人が通り過ぎていくだけでこちらを見ている人はいない。


「どうしたの?」

「いや、なんか見られてる気がして」

「自意識過剰すぎー。誰もゆうくんのことなんて気にしてないって」

「それはそれでなんか悲しいんだが」


 やはり気のせいだったのだろうか。釈然としない気持ちを抱えながらショッピングモールをあとにした。

次話は2月13日の17時ごろに投稿予定です

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