10話 それぞれの事情
「お前はさ、もし自分の家族が殺されたらどう思う?」
仕方なくメリッサに話すことを決意した俺はメリッサにそう聞いてみた。
「どうって、家族が殺されたら?んー分かんないけど悲しいかなー?」
「悲しいのは当たり前だ。他に何か感情はないか?」
「んーどうだろうな?私はないかもだけど憎しみの感情とか湧くのかな?」
「そういうことだ。」
「じゃああなたは家族を殺されたから悲しんでいたの?」
「いや、これはただのきっかけさ。これでちょっと連れと言い争いになってな。それであれさ。」
「きっとその連れって人は優しいんだね。」
「あぁ、あいつはきっと自分で人1人殺せないぐらいに優しいやつなんだろうな。」
きっとセイラはそういうタイプの人間なんだろう。この短い間一緒にいただけで分かる。
「でもあなたもその人もきっと自分の価値観があるのだから噛み合わないのはしょうがないんじゃないかな。」
「そうなんだけどな。」
「まぁ、私も憎しみに身を任せて人を殺すのは、自分的にもシスター的にも良くないと思うけどね。」
「俺だってそんぐらい分かってるんだよ。」
分かっているんだ。憎しみに身を任せても何も生まれないことぐらい。なら、この俺の憎しみは一体どうすればいいんだ。
「あなたはどうして憎しみを憎しみでしか消せないの?」
「.....どういう意味だ?」
「憎しみは憎しみしか生まない。それならそれ以外の方法でその憎しみは消せないの?」
「それ以外の方法?」
「そう。憎しみを生まないような....人を幸せにするような方法で。」
「この俺がか?」
「あなたは家族を失う悲しみも憎しみも知っている。なら、それを他の人の為に生かしてあげればもしかしたら自分の憎しみも消えていくかも知れないよ。」
「.....そういうもんなのかな。」
「きっとそういうもんだよ。」
「.....そうか。ありがとな。少し落ち着いた。」
俺はそういってメリッサの頭を撫でた。
「お前は子供なのに大人びてるな。」
「私は子供じゃないよー!!」
「俺から見たらまだまだ子供だな。」
「あなただって子供でしょー!」
「そのあなたってやめろよ。名前なら教えてやったろ。なんか気になる。」
「あなただってお前って呼んでるくせに....」
「なんか言ったか?」
「別に言ってませんー。それにあんたって呼んでるのはあなたが本当の名前教えてくれないからでしょー」
「だから俺にとってはあれが俺の名前だって。」
「何で本当の名前を使わないの?せっかくの名前が勿体無いよ。」
「.....俺には本当の名を使う資格なんかないからだ。」
ため息1つつき、俺は理由を語った。
「家族1つ守れない俺には家族がつけてくれた名前を名乗る資格なんかない。
だから俺は一生この名で生きていく。そう思ったんだ。」
「きっとあなたの親はそう思ってないと思うよ。」
「だろうな。だけどこれは家族を守れなかった俺に対する戒めでもある。そう簡単に自分の名は名乗んないさ。」
「なら、」
「ん?なんだ。」
「なら、私が、私があなたの家族になってあげる!」
「.....は?何言ってんだお前。」
「だから私が家族になってあげるって言ってんの。」
理解できない。アホかこいつは
「何でそうなるか理解不能なんだが。」
「だから私が家族になったらあなたは守る人ができるでしょ?そしたら私が生きてる間は自分の名前を名乗ることができるようになるよ!」
「なんだその理論は、そういう意味じゃねーよ。」
「いいでしょー!」
「駄目だ。もうこの話は終わりだ。俺は帰る。」
こいつと一緒にいると疲れる。宿に帰って寝たい。
「むー!あなたが認めるまで離さないんだから!」
「お前も自分の家に帰れよ。」
「....家なんかないよ。」
「じゃあ宿に帰れよ。」
「宿もないよ。私には帰る場所なんかないから。」
「は?何言って───」
そこで後ろに振り返ってメリッサの顔を見て言葉が止まった。そこにはとても悲しそうな顔をしてるメリッサがいた。
「....なんだよ。さっきまで俺を励ましていたのにお前がそんな顔するなよ。」
「あ、ごめん....」
メリッサはしょぼんとしている。そんなメリッサを見ているとなんかイラついてくる。だから決めた。
「俺はお前と違ってそんな優しくないから理由なんか聞かない。」
「.....」
「だけど帰る場所がないならついて来い。」
「え?何言って──」
「いいから行くぞ!」
俺はそう言ってメリッサの腕を引っ張って行く。メリッサは困惑している。
「な、何で見ず知らずの私の為に、」
「別に見ず知らずじゃねえよ。」
「え?」
「お前は俺の悩みを聞いてくれた。それだけで理由は十分だろ。」
「で、でも、」
「帰る場所がないんだろ!ならさっさとついて来い!メリッサ!」
「わ、分かった!」
「それでいいんだよ。」
そういって俺はメリッサの手を離し歩き始める。
「あ、」
「もう手を持つ必要ないだろ。」
「う、うん.....ありがとね。」
「別に、これはお前に借りを作りたくないだけだ。」
「.....私ももう少し勇気が出たらきっと事情を言うから。」
「.....そうか。」
そういって俺らは宿に向けて歩き始める。とても静かだったがそんな悪い気はしなかった。