フルバフ
前回のあらすじ
王女様が爆弾発言をしました。
ティルダに抱けと言われて数分後・・・
「んっ・・・どうじゃ?抱き心地は?」
「き、気持ち良いです・・・」
「そうであろう?もっと強く。激しく・・・お主の気持ちはこんなものか?」
「い、いえ・・・」
俺は激しく気持ちを込めて抱いた。
「そ・・・そうじゃ。いいぞ・・・こ、壊れるくらいに抱くのじゃ」
ティルダはシーツを強く握りしめこちらを見つめている。
俺はそれを見て応える。いや、応えなくてはならない!
「も、もぅどうにでもなれぇー!・・・・・・・ハァハァハァ。ご、ご満足頂けましたか?王女様?」
「・・・・フフフ。満足じゃ。妾は本当に壊れるかと思うたぞ?」
笑みが零れる王女様はご満悦のようだ。
--数分前
「妾を仲間と思っておるなら抱けと言っておるのじゃ」
「え?それはどういう?」
「・・・・・・」
また沈黙・・・え?なにこれ?良いって事・・・だよな?
・・・女の子に恥をかかす訳にはいかない。据え膳食わぬはなんとやらって言うしな!
覚悟を決めた俺はゆっくりとティルダが座っているベッドに腰を下ろす。
近くで改めて見るとティルダはとても綺麗だった。
下を向いているから顔は見えないが線の細いその美しい髪はまるで絹のように繊細で、ネグリジェから零れ落ちる透明な肌は触るとこちらが溶けてしまいそうだ。
自分の鼓動が分かるぐらいに心臓が高鳴る。
・・・取りあえずこれは肩を抱き寄せればいいのかな?
そっと肩に触れてみる。
「ッ!」
ティルダはピクっと体を震わせたがそれ以上の反応はない。ゆっくりと力を入れて抱き寄せた。
・・・良い匂いがする。女の子の香りだ。
この角度だとティルダの丁度よいサイズの果実の膨らみがよく見える。
・・・俺はもう我慢の限界だった。
い、いだたきます!
俺はティルダの唇に触れようと顔を近づけた・・・。
「・・・・こっこの痴れ者!」
え?と思った瞬間に俺の頬には紅葉が出来ていた。
「いてっ!何するんだよ!?」
ティルダは頬を真っ赤に染めながら毛布にくるまる。
「それはこっちのセリフじゃ!あろうことか妾に・・・そ、そのせ、接吻をしようとしたであろう!?」
えー?そりゃするでしょー。この状況でそれ以外なにするんだよ。
「わ、妾はベア美を抱けと言ったのじゃ!」
「はい?・・・でも肩に触れた時なにも言わなかったじゃん」
「そ、それはお主の度胸を試しておったのじゃ!」
・・・・全然意味ワカンネ。明らかに挙動不審だし・・・。
「妾はこれでも一国の王女じゃ。その妾を抱く覚悟があるのか試してみたのじゃ!」
「それまたなんで?」
「そ、それは・・・妾を仲間にしたまま一緒に過ごすと言う事はこの先ずっと王国を欺く事になる。下手をすれば犯罪者になるからじゃ。それでも妾を仲間にしたい。その覚悟がお主にあるのか試してみたのじゃ」
本当か?・・・でも俺は王女とかそんなの関係なくただお前を抱きたかったんだ!・・・とは言えない。
言えないけどなんか納得出来ん!俺のドキドキを返せ!
「・・・でもそれならビンタする事はないだろ?」
「済まぬ・・・じゃ、じゃがあのままいっておったら妾も・・・」
「妾も?」
「・・・・・・」
ティルダはまた頬を真っ赤に染めて下を俯いた。
しかしそんなところも可愛いと思えてしまう。なんか悔しい。
「そ、そんな事よりお主!妾がベア美を愛でておることを馬鹿にしておるな?」
うは!話しをすり替えられたし・・・。
「まぁ・・・多少は」
「それが許せんのじゃ!妾に謝りたいのなら今すぐベア美を抱くのじゃ!」
「・・・・・はい」
よく意味が分からないが王女様は俺が馬鹿にしていたベア美を抱かないと気が済まないらしい。
てな訳で冒頭に戻り、俺はティルダと仲直り?した。
なんだこれ?
--次の日
朝食を終えた俺達はサーシャさんが話があると言うので屋敷の庭に集まっていた。
「みんな揃ったわね?」
サーシャさんが辺りを見回す。
「昨日は遅かったから話が出来なかったけど、みんなに聞いて欲しい事があるの。勇者が最近召喚されたのは知ってるわね?」
「知ってるー!悪い魔王を倒す正義の味方でしょー?」
アイン・・・間違ってはないけど。
「正義の味方・・・か。そうね。それなら良かったのだけど・・・まぁそれは置いておきましょ。勇者が現れたって事は魔族の動きが活発になる可能性が高いの」
「ふむ。ワシはまだ生まれとらんが60年前もそうだったらしいの」
「ええ。そこでみんなに提案があるの」
「・・・提案?」
--強欲の塔 11F 樹海
俺はサーシャさんの提案を受けて11Fにいる。
クピス。ティルダ。そしてサーシャさん。
他のメンバーは低ランクのクエストや店の開店準備中だ。
サーシャさんの提案はこうだ。
勇者が召喚されると魔族が活発になる可能性がある。
確かに俺もルターニュに行く途中に奇妙な魔法を使う魔族らしき女と戦った。あれが本当に魔族なら活発になるという話は本当だろう。
王国と一緒に魔族と戦えとは言わない。しかし魔族との戦争に備えて自分達の身は自分達で守れるようになって欲しい。それがサーシャさんの素直な気持ちだ。
そして自衛の為にサーシャさん自ら俺達を鍛えたいという提案だった。
俺達にとっては願ってもない事だ。
もちろん同時進行で塔の攻略と勇者の捜索もある。
「リント。強欲の塔って不思議な所ね」
サーシャさんはふわふわ宙に浮くオーブに乗りながらそう言った。
靴が汚れるとかで歩く気はないらしい。
「はい。塔の中とは思えませんよね」
「ええ。取りあえずマップを全て埋める事が大切ね・・・そうだ!クピスに頼んだらどうかしら?」
「と言いますと?」
「狼に変身してひとっ走りして貰うの。私達が探索する方向とは反対方向で」
確かに一理ある。でもクピス大丈夫かな?
「やるー!」
まぁ俺はクピスの視界を共有できるしギルドカードでクピスの位置も把握出来る。
それに狼化したクピスは五感が異常に冴えわたるので、この階層なら魔物や他の冒険者に気づかれず探索する事は難しくないかもしれない。本人もやる気だしここはお願いしよう。
早速クピスは狼化しサーシャさんが着けてくれたリボンにギルドカード入れて走って行った。
「そう言えばサーシャさん。クラン登録する時によく誰にも気づかれませんでしたね?」
「たまたまよ。私の顔を知っている人なんてそういないもの。それに気づかれたとしても問題ないわ」
「・・・でもなぁ?ティルダ」
「何を言っておるリントよ。サーシャ様が問題ないと言えば問題ないのじゃ」
すっかりサーシャさんを崇拝している王女様。
てか問題ないのかな?英雄と一緒に行動してる俺達って怪しくね?ティルダ良いなら良いけどさ。
・・・サーシャさんには何か別の考えがあるのかもしれないな。
--1時間後
以前訪れた時は1時間かけてやっと6分の1ぐらいマップを埋める事が出来たが、クピスのお陰で1時間程で11階のマッピングが終了した。クピスによると12階に上がる階段の手前の辺りにブラッドリィが3匹いたらしい。
「この階層はやっぱり魔物は少ないみたいだな」
「そうじゃの。無駄に広いだけじゃ」
未だに11階で魔物に出会っていなかった。この階は魔物がリポップする時間が長いのかもしれない。
12階に上がる階段の付近まで来ると、扉の手前にブラッドリィが遠目に3匹見えた。
物陰に隠れて鑑定&言霊で確認してみる。
◎レアブラッドリィ◎
レベル 33
オーラ 緑 好きなもの 血
「ゲ!3段階目に進化したやつが3匹もいるじゃん!」
「・・・もしかしたら他の冒険者があの3匹に追われて階段に逃げ込んだのかもしれないわね」
「はた迷惑な奴等じゃの」
そうは言ってもこっちにはサーシャさんがいる。余裕だな。
「リント。危なくなったら助けてあげるから3人で1匹ずつ倒してきなさい」
何て事はなかった。そりゃそうか。サーシャさんがサクッと倒したら意味ないもんな。
「よし!強化MAX奇襲戦法で行くぜ!」
「よかろう」
「あい!」
自分が出来うる限りの付与を全員に施す。
ティルダの矢が戦闘開始の合図だった。矢は見事に1匹の背中に命中。それに気づいた2匹がもの凄い勢いでこちらに向かってきた。
鋭い爪で攻撃してきたがこれを鞘でガード。剣を振り上げ斬りつけようとしたが、ブラッドリィはこれに反応。俺はすかさず袈裟切りのフェイントを入れてからの闇弾ゼロ距離射撃。少しよろめいたが、ブラッドリィは空中にジャンプ。そのまま小さな針を無数飛ばしてきた。
「うぉ!」
少し焦ったがこれを水障壁でガード。
3段階進化したらこんな事もしてくるのか。と感心している場合じゃない!
飛んでいるブラッドリィを水鞭で引き寄せ目玉を突き刺した。
「ギシャアア!」
1匹撃破。
クピスは演奏しながらブラッドリィの動きを読んでいるかのように器用に躱していた。
何度繰り出しても攻撃が当たらずイラだったブラッドリィは大振りのパンチを繰り出す。クピスは待ってましたと言わんばかりに狼化。突然体格が小さくなったクピスに反応出来ず、クピスに足を一部食いちぎられて大量に出血。ブラッドリィはその場に倒れ込んでまともに立つことが出来なくなる。クピスは人化し最後の悪あがきをするブラッドリィの目玉にフルートを突き刺した。血しぶきを上げてブラッドリィはピクリとも動かなくなった。クピスは顔に付いた返り血をペロッっと舐める。
2匹撃破。
その頃ティルダは距離を取りつつ無数の矢をブラッドリィに浴びせていた。
しかし致命傷が与えられず徐々に距離を詰められる。だがティルダは予め張っていた罠を発動。
上手く落とし穴にブラッドリィを落とす事に成功した。しかし倒した訳ではない。
弓を短剣に持ち替えて落とし穴を除き込んだその瞬間、逆にティルダが来るのを待ち伏せていたかのようにブラッドリィが飛び出してきた。
「クッ!」
ティルダは驚きのあまり腰を抜かしてしまう。
ブラッドリィが鋭い爪でティルダに攻撃を加えようとしたその時だった。
パスッ
何かがブラッドリィに当たったかと思うと、そのまま後方に吹っ飛び木に直撃。
木に当たると同時にブラッドリィは固まった。
「・・・なんだ今の?」
ティルダを助けようと走っていた俺はそれを遠目に見ていた。
★クピスのひとりごと★
ぶらっどりぃのち。まずい。




