猪突猛進
書き方を変えたら読みやすくなったとお声を頂いたのでそのまま運用する事にしました。
初めて読んでくださる方が戸惑うかもしれないので、少しずつ改稿していこうと思います。
内容を変えるつもりはないのでご安心下さい。
前回のあらすじ
リントとアインとクピスはルターニュから転移門を使ってヴェネの町へ向かった。
「・・・リント?それにクピス?」
アインをヨシヨシしているサーシャさんは宿屋の入り口に立ち尽くす俺達に気づいたみたいだ。
「はい。お久しぶりです。急に来てすいません。サーシャさんを脅かそうと思って」
俺が頭を掻きながら恥ずかしそうににしていると、サーシャさんは何も言わず並んで立っている俺とクピスを抱き寄せた。
「良かった。無事で・・・メッセージ送ってくれてたから大丈夫なのは分かってたけど・・・強欲の塔を攻略するって言ってたから心配だったのよ」
サーシャさんからいい匂いがする。懐かしい香りだ。
「すいません。心配させて。でも何とかやってます」
「ううん。でも無理しちゃダメよ」
「あい・・・」
クピスも少し涙目になっていた。
サーシャは体を離すとリント達をまじまじと眺めた。
「・・・一瞬分からなかったわ。そんな立派な恰好しているんだもの」
リント達は貴族に会う為に貴族然な恰好をしていたので無理もない。
「あ。そう言えばそうでした。ルターニュ家に呼ばれてたんですよ」
「そうなの?」
サーシャさんに今まであった事を色々話した。
ギルドカードを使ってのメッセージでは伝えきれなかった事や、心配させまいと隠していた事を全て話した。
途中アインは退屈そうにしていたので、宿屋で働いている志願奴隷の子と外に遊びにいかせた。
アインはとても嬉しそうに志願奴隷の子達と飛び出して行った。同い年ぐらいの友達が出来て良かったな。
そんなこんなで、話を続けると人間の勇者が現れた事を知らなかったサーシャさんはとても驚いていた。そして勇者の話の続きの途中、サーシャさんがキレた。
「なんですって!!勇者に王が奴隷を好きに使って良いって言ったの!?」
「は、はい」
「許せない!奴隷を何だと思ってるの!・・・私が話をつけて来るわ」
「ええ!?」
まさかこんな展開になるとは思わなかった。
サーシャさんは元奴隷だし・・・そりゃ敏感になるか。
そもそも言わなかったら怒られてただろうし・・・。
「で、でも王国中の奴隷はもういないらしいですよ」
「これから増えるかもしれないじゃない。放っておくと犠牲者が出るのは確かだわ。それに勇者として召喚された人がそんな事をしてるなんて許せない。あの人の名誉にも傷が付くわ・・・どおりで最近、人間の志願奴隷が派遣されなかったのね」
「宿屋はどうするんですか?」
「しばらく私がいなくなっても大丈夫よ。基本的に私は何もしてないから」
それもどうかと思うけど確かに。受付をやってるイメージはあるけど、それ以外やってるの見た事がない。それにサーシャさんは猪突猛進型だ。もうこうなったら止められない。
「宿の事はお願いね」
サーシャは宿屋の従業員に事情を話すとギルドカードからバスケットボール大のオーブを取り出した。
「またこれを使う時が来るなんてね・・・」
悲しそうに独り言を呟くと透明なオーブに魔力を込める。
オーブは光だしたかと思うと宙に浮いた。
「それは?」
「私の武器よ。もう使わないって決めてたけど・・・いつまでも過去に囚われてる場合じゃないものね」
60年前に恋人の勇者を亡くしてからサーシャさんは戦えなくなったと聞いた事がある。
その勇者の名に傷が付く。サーシャさんにとってそれはトラウマとか言ってる場合じゃなくなったのだろう。もっと早く言えば良かったかな。ん?待てよ・・・武器?
「え!?もしかしてランルージ王国に殴り込みに行くんですか!?」
「フフ。馬鹿ね。そんな事したらエルフと人間が戦争を始めかねないわ。話して来るって言ったでしょ?私は冷静よ」
「で、でも武器を・・・」
「これはね。こういう使い方も出来るの」
サーシャさんはそう言うとオーブの上に座った。
オーブはサーシャさんを乗せてもそのまま宙に浮いている。
「・・・もしかして飛べるんですか?」
「ええそうよ。私しか乗れないけどね」
・・・マジかよ。パネェ。サーシャさんパネェっす。
サーシャさんは何気ない顔をしてオーブに乗ったまま外に出た。
「ちょっと離れててね」
サーシャが意識を集中させるとオーブに莫大な魔力が集まっていく。
「話が終わったら、リントの家に行って報告するわ。場所をギルドカードに送っておいて」
「あ。はい。お待ちしてます」
「じゃあ行ってくるわ」
「「いってらっしゃい」」
クピスと2人で手を振っているとオーブの側面が徐々に光り出し魔力が収束していく。
そして光が限界に達した所で爆発した。
ドゴンッ
凄まじい爆音と共にサーシャは空に舞い上がり、噴煙と共にランルージ王国の方角へ飛び立って行く。
「うへぇー。パネェ・・・」
「すごい」
クピスも驚いた様子で目を見開いている。
2人で空を見上げていると、30秒もしないうちにサーシャさんの姿が視えなくなる。
英雄の名は伊達じゃないな。まさか空を飛ぶなんて・・・。
「りんと」
「ん?」
「さーしゃ。てんいもんつかえない?」
「あ!使えるな・・・」
私は冷静よ。とか言ってたけど全然冷静じゃないな。
サーシャさんなら許可いらずの転移門で何処でも行けるはずだ。・・・大丈夫かな?
運命天秤でもしとけば良かったかな?
まぁ、考えても仕方ない。取りあえずゴルタンに帰るか。俺達よりサーシャさんの方が速そうだし。
サーシャさんが帰ってきたらティルダから貰った指輪も渡さないとな。
--ランルージ大陸 上空
サーシャがヴェネの町を出発して5時間程経った。
少し冷静さを取り戻したサーシャは気づいてしまった。
転移門を使えば良かったと。しかし逆に時間が掛かった事で冷静さを取り戻したので良かったのかもしれない。そう自分に言い聞かせ王都の麓に降りて入り口へと向かった。
「止まれ!そこの女!」
衛兵がサーシャを発見して叫んだ。
「あら?何かしら?」
「王都に他種族を入れる事は出来ん!お前も知っているだろう?帰れ!」
「・・・許可証ならあるわ」
サーシャはギルドカードから許可証を取り出して衛兵に見せる。
「なんだこれは?こんな許可証見た事がない!さてはお前、間者だな?」
サーシャが持っている許可証は50年も前に発行された許可証だ。
今の衛兵では分からないのも無理もない。
「まぁ。どうしようかしら」
サーシャが困っていると騒ぎを聞きつけた初老の衛兵がやってきた。
「どうした?そんな大声をだして」
「これは!守衛長!このエルフの女が見た事もない許可証を持って来たのです。間者かもしれないのでひっ捕らえようかと」
そう言われ守衛長と呼ばれた男は許可証を確認するとサーシャを直視した。
「古い許可証・・・藍色の美しい髪に碧色の瞳。エルフ・・・ま、まさか!凍眼の女帝!?」
目を丸くさせて叫んだ守衛長は驚きを隠せない。
「・・・そんな昔の事は忘れたわ。それに今の私は・・・王に会わせてもらえるかしら?」
「ははっ!申し訳ありませんでした!すぐご案内致します!」
「そ。ありがと」
「コラお前達!道を開けんか!」
「「す、すいません!」」
サーシャは守衛長に連れられて颯爽と城に向かって行った。
「お、おい!まさか今のって勇者様と共に魔王と戦ったという英雄のサーシャ様なのか?なんで王都に来てるんだ?」
「俺が知る訳ないだろ。それにしてもすごい美人だったな。英雄って言うぐらいだからゴツい女を想像してたんたが・・・でも確か隠居してるって話だよな?」
「あぁ。ゴルタンに近々店を出すって噂だったが人前には出て来ないって話だぜ」
「・・・これは一大事だな」
後に、この件を他言すれば処刑すると言われた衛兵達は震えあがるのだった。
読者様から意見を頂き今回から★サーシャ先生の補足授業★は各キャラのひとりごとコーナーに変える事にしました。各キャラがこの時の話(過去にあった出来事)を振り返っての一言。という感じにしようと思いますので温かい目で見て下されば幸いです。特に読まなくても問題ありません。
★マリーのひとりごと★
いっつも冷静なサーシャさん~。
でもこういうとこ可愛いですね~。




