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選ばれざる言霊使い   作者: シロライオン
第2章 強欲の塔 編
64/75

優しいって大変ですね

前回のあらすじ

11階の攻略の難しさを感じて、リント達は一旦ゴルタンに戻った。

--強欲の塔ギルド


帰還鍵エスケープキーで11階から脱出したリント達は強欲の塔ギルドの前に転移した。

疲れ切っている皆を先に屋敷に返すとリントは1人で受付に向かった。


「すいません。11階で見つけたギルド証を持って来たのですが」


先程受付してくれたギルドの職員に11階で亡骸が持っていたギルド証を渡す。


「これは。。。亡骸が所持していたのですか?」

「はい。探索中に偶然見つけて。。。。」

「・・・わざわざありがとうございます。このクランの人に渡しておきます」

「よろしくお願いします」

「もしこのクランの人に誰が拾ったか聞かれたら教えても?」

「・・・そうですね。何処ら辺で拾ったか気になるでしょうし」

「ありがとうございます」


リントは使ってしまった帰還鍵エスケープキーを買うと冒険者ギルドに向かった。



--冒険者ギルド


ギルドに入るとサラが声をかけて来た。


「あらいらっしゃい。ピースブリッジの絶倫さん。今日はお一人?」

「誰が絶倫だよ!まだなんもしてねぇよ!」

「・・・まだ?」


サラは鬼の形相で睨みつけてきた。


「あ。いや。。。」

「・・・まぁいいわ。今日はどうしたの?」

「今日の朝ぐらいに俺のクランのメンバーがクエスト受けに来たと思うんですが、何を受けたか分かりますか?」

「あ~。小さいぼくとセレブっぽいお嬢さんの事ね。えっと。。。ホブゴブリンの討伐クエストね。近くの森に居ると思うわ」

「・・・それぐらいだったら大丈夫か。ありがとございます。じゃあまた」


リントが早々に帰ろうとするとサラが呼び止めた。


「あ。ちょっと待って!この前のクエスト報酬の事なのだけど」


(確か。。。ラクゼ辺境伯の娘さんの治療薬クエストか。報酬は七色薔薇セブンローズだったな。露店風呂が入れなかったから忘れてた)


「娘さん助かったんですか?」

「そうなの!助かるどころか以前より元気になったらしいわ。ラクゼ卿は大変お喜びになって、是非このクエストで万能薬エリクサーを納品してくれた冒険者に、直接会ってお礼をしたいと言っているの」

「えー?別にいいのに」


リントのめんどくさそうな表情を見てサラは


「・・・娘さんはすごく綺麗な事で有名よ」

「会います!」

「・・・そう言うと思ったわ。ラクゼ卿が治めている芸術の都市”ルターニュ”に行ってもらう事になるのだけどいい?」

「行きます!」


ルターニュへは馬車で1日程で着くと言うことだったので、ルルに鎧を直してもらう間に訪れる事にした。



--屋敷 


時刻は夕方になり、リントが買って帰った出来合い物を食べようと皆で食卓を囲んだ。

ティルダとアインも無事にクエストを終わらせたようだ。


「と、いう訳でルターニュに行く事になったんだけどいいかな?」

「僕も行きたい!」

「いいも何も、こちらが助けたとは言え貴族からの誘いを無下にすれば目立つであろう?」

「それもそうだな。。。ティルダはラクゼ卿の事知ってるの?」

「まだ妾が幼い頃、父上の視察に同行した時に一度な」

「へぇ。どんな人?」

「優男の印象じゃの。妾もあまり覚えてはおらん」

「ふ~ん・・・そう言えば志願奴隷を人間勇者ガイアスから守る為に買った人だっけ?」

「そうじゃ」

「良い人そうだね。リント君」

「罠。。。と言う事はなさそうだな」

「・・・私はお留守番してますね~」

「あれ?マリーは行く~!って言うと思ってたのに」

「もしかしたら知り合いがいるかもなんで~」


マリーは奴隷になって早々にギルドの受付に抜擢されたので昔の仲間に会うのは少し気まずいのかもしれない。その上、今となっては奴隷ですらない。


「・・・そっか。じゃあルル達の手伝いを頼むよ」

「まっかせて下さい~!」

「妾も幼い頃とは言え面識がある。ここは大人しくしておこう」

「ワシも畑を耕しながら療養させて貰うぞい」

「おっけぇい。じゃあ留守番よろしく」


結局、クピスとアインと3人で行く事になった。



--次の日


トントン。


「リント。起きてるか?」


キキだ。


「・・・・あぁ。ちょっと待ってね」


リントは眠気眼をこすりながらドアを開けた。


「すまない。起こしてしまったか?」

「いや、もう起きないとな。どうしたん?」

「今日はラクゼ卿にお会いするのだろう?その部屋着のままで行くつもりなのか?」


そう言われるとリントは正装と言える服を持ってない。

あるのは部屋着と鎧だけだ。


「あ~~~そうだな。何も考えてなかった」

「フ。そう言うと思ってな」


キキはそう言うと青を基調としたコート、ベスト、キュロットの3点セットをリントに渡した。

いかにも貴族が着ていそうな服だ。


「おお!すごいじゃん!作ってくれたの?」

「気に入ったか?裁縫術は苦手なんだが、昨夜ティルダ助言を貰いながらルルと作ったんだ」

「マジで!?ありがとう!早速着てみるわ!」


そう言いながら、リントはおもむろに服を脱ぎだした。


「リ、リント!」


キキは少し赤面しながら目を手で覆った。


「え?」

「・・・な、なんでもないっ!」


キキはそう言うと慌てて部屋から出て行った。


(もしかして恥ずかしがってる?一緒風呂入るって言ってたのに。。。よく分からん。まぁ可愛いからいいか)


リントが着替えを終えてリビングに向かうとルルの声がした。


「うん!これで完璧!」


ルルがアインを着替えさせていてあげたようだ。

アインは白を基調とした服で耳をピョコピョコさせていて可愛らしい。

男の正装だがやはりどう見ても女の子に見える。


(まぁ、女の子なんだけどね)


「ありがと!ルルねぇ!」

「ウフフ。クピスちゃんとリント君をお願いね」

「任せて!・・・あ!お兄ちゃん!」

「おはよー」

「リント君も良く似合ってるね」

「ルルも一緒に作ってくれたんだよね?ありがとね」


3人が微笑ましいやり取りをしていると、リビングに赤を基調としたドレスを着ているクピスが入って来た。

キキがティルダの助言を受けながら作ったそのドレスは、肩が露出しておりクピスの艶やかな肌が露わになって悩ましい。女性の美しいラインを出しつつも上品なその作りは綺麗な銀髪がより一層映えていて、リントは思わず見惚れてしまった。


「わぁ。クピスちゃんすっごく綺麗!何処かのお姫様みたい!」

「ありがと」

「お姫様とは聞き捨てならんの?ここに本物がおろう?」


クピスの後ろから皆がリビングに入ってきた。


「わぁ~!クピちゃん可愛い~!いいなぁ~」

「妾が助言したんじゃ。当然であろう?」


ティルダは扇子を仰ぎながら上機嫌だ。


「マリーにも今日作ってあげるね」

「やった~」


(マリーにはゴスロリっぽいのが似合いそうだな)


「ねぇねぇお兄ちゃん。そろそろ行こうー」

「それもそうだな。じゃあ皆行ってくるわ」

「いってらっしゃい」

「気を付けて下さい~」

「土産を忘れずにの」


(王女様のお土産って何を買えばいいんだ。。。)



皆に別れを告げて冒険者ギルドに向かった。

サラの話によると、もうゴルタンの門に迎えが来ているとの事だったので3人は門に向かった。

門に着くと鎧を着た男がこちらに話しかけてきた。


「もしや、貴方がリント様ですか?」

「あ。はい。貴方は?」

「申し遅れました。私はラクゼ卿筆頭従者のワクールと申します。以後お見知りおきを」


丁寧にお辞儀をしたのは50歳ぐらいの人間の男だった。


「初めまして。ワクールさん」

「リント様。この度はお嬢様を病気から救って頂きありがとうございました」

「いえいえ。俺は冒険者なので依頼をこなしただけですよ」

「とんでもございません!大変貴重な万能薬エリクサーをご用意して頂き本当にありがとうございました!」

「いえいえ。そんな。。。俺は報酬がもらえればそれで。。。」

「そんなご謙遜なさらずに。。。素材が素材なので、万能薬エリクサーを1つ売れば1000万リェンはするでしょう。王族ですら簡単には手に入りません。それをお嬢様の為に。。。うぅ。。。」


ワクールは感極まって泣き出してしまった。

しかし泣き出したいのはリントだった。


(え!?マジで!!!アレってそんなに高かったの!?皆知ってたのかな。。。)


「は。ははは。。。ま、まぁ治って良かったです」

「はい。。。うぅ。。ありがどうございまず。うぅ。。。」


ワクールはまた泣き出しそうだったのでリントは話題を変えてみた。


「そう言えばどうして俺がリントって分かったんですか?」


(写真とかないよな?この世界)


「うぅ。。リンド様は常に美しい白い鞘の剣を帯剣していると聞ぎまじて。。。」

「あぁ。なるほど。帯剣してる人なんてそんなにいないですもんね」


(目立つからギルド証にしまっといた方が良いのかな。。。)


「そうでずな。うぅ。。。。。う、後ろのお二方はリント様のお連れの方でずかな?」


ワクールは鼻をかみながら聞いてきた。


「そうです。一緒に同行してもいいですか?」

「もぢろんです。。。。」

「・・・ねぇ。おじちゃん~。早く行こうよ~」


しばらく良い子にしていたアインもワクールの話が長いので、さすがに限界が来たようだ。


「これは大変失礼しました。早速参りましょう」


門の外に出ると立派な馬車が2台用意してあり、種族がバラバラのワクールの部下らしき鎧を着た男が5人程いた。恐らくルターニュまでの護衛だろう。


「リント様はこちらの馬車へ」

「ありがとうございます」

「やったー!僕、馬車乗ってみたかったんだー!」


アインは目をキラキラさせながら馬車に走って行く。


「コラ。アインー。服汚すなよー」

「へっへへー!」


リントとクピスも遅れて乗り込むと馬車はルターニュに向けて出発した。


「おーー!進んだー!」


アインは耳をピョコピョコさせながら外の景色を眺めて楽しそうにしている。

馬車に乗ってしばらくすると、リントはふと疑問に思った事を御者台に乗っているワクールに聞いた。


「そう言えばワクールさん。ルターニュは種族差別とか特にないんですか?護衛は人間じゃない方が多いようですが」

「欲望の都市ゴルタンとは違いルターニュは芸術の都市。芸術に種族も何も関係ない!が、旦那様の口癖です。心優しい旦那様は種族差別をする者がいようものならその者を追い出します」

「へぇ。。。良い領主さんなんですね」

「はい。。。ですがそれが原因で周辺の貴族からはあまり良く思われてないのが現状です。お嬢様の病を治そうと旦那様は周辺の貴族に助けを求めたのですが協力的な貴族はいませんでした」

「なるほど。。。優しいって大変ですね」

「いえいえ。リント様もじゅうぶん過ぎるほど優しい御仁ですぞ。普通の冒険者なら万能薬エリクサーは売ってしまいます」

「・・・・はは」


万能薬エリクサーが1000万リェンもするのを知らなかったとは言えない。。。クソ!こうなったら綺麗なお嬢様にたっぷりお礼をして貰おう。。。)


馬車に揺られながらリントは複雑な気持ちだった。



ルターニュまで半分差し掛かった頃だろうか


ドン!!!


突如けたたましい轟音と共に前方を走っていた護衛の馬車が炎上した。


「なんだ!?」

★サーシャ先生の補足授業★

芸術の都市ルターニュはランルージ大陸東の最大都市よ。

音楽、絵画、演劇等、芸術と呼ばれるものは全て揃っているわ。

旋律士を輩出した都市でもあるの。

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