なんというスキルポイントの無駄遣い
前回のあらすじ
待ちに待った露天風呂が男女に分かれていたのでリントは思わず”なんでやねん!”と叫んでしまった。
「・・・・・と言いますと?」
ブルグは不思議そうな顔でリントを見つめる。
それも当然の反応だ。この屋敷は名目上サーシャのお店兼別荘になっている。
露店風呂は使用人の為に作ったとは言え、男女一緒にする訳にはいかない。
「いや。何でもないです。。。」
リントは残念そうに下を俯いた。
その様子を見たルルが小さな声で耳打ちしてきた。
「リント君。。。大丈夫だよ。ルル達だけになったら一緒に入ろ?」
「あ。。。うん」
ルルにそう言われてリントは嬉しい半面、何だか自分が情けなくなってきた。
(中学生か俺は。。。)
ブルグが【男湯】の扉を開けると小さな脱衣所があり、そこを抜けると露天風呂に続いていた。
まだお湯は入っていなかったが露天風呂は岩で出来ており、リントが知っている現代の露天風呂とかなり近かった。
岩で出来た浴槽は男湯だけで軽く泳げるぐらいのスペースがあり、女湯とは柵で仕切られているが浴槽は繋がっていた。露天風呂なので外からむき出しになっているが、周りに高い建物がないので覗かれる事はないだろう。
「すごいね!お風呂!初めてみたよ!一緒に入ろうね?お兄ちゃん」
「お、おぅ」
リントは少し反応に困った。
ロリ属性はないので、間違いを犯す事はないがアインが女性という事はいずれ分かる事なのでどちらにしろ言わないといけないのだ。
「ブルグさん~。これお湯が入ってないですね~?」
「申し訳ありません。これだけの浴槽を水で満たすには大量に水の魔石が必要なのです。シャワー室の魔石はなんとかなったのですが。。。」
「お金が足りなかったんですか~?」
「それもありますが。。。。」
ブルグの話によると、ゴルタンは人口が増え続けているので常に新しい建物を建てており、ギルドは需要が高い水の魔石を富裕層が独占しないように均等に割り振って販売しているらしい。
その為、この世界で風呂は富裕層しか作らないがシャワーは一般家庭にもあるので常に水の魔石は不足しているらしい。
「マジかよ。。。」
大きな器に井戸から汲んだ水を入れて、ギルド証に格納し、持ってくる事も考えたが井戸も無限ではない。
そもそも井戸は飲み水としか使ってはいけない事になっている。
湖や川の水は綺麗だとは思うが、魔物が潜んでいる世界だ。衛生面的にあまりよろしくない。
水の魔石が大量に手に入るまで、露天風呂はしばらくお預けになりそうだ。
「リントさんが水魔法を使ったら何とかなるんじゃないですか~?」
「ハッ!」
(盲点だった。。。)
ブルグがこの場に居るとややこしいので後で水魔法を試してみる事にした。
「・・・一応これで屋敷のご案内は終わりにさせて頂きます。2階の右奥は空いたスペースになっておりますので何かの部屋にする際は是非とも我がヨハネ商会を使って下され」
「はい~!ブルグさん~。ありがとうございました~」
「サーシャ様によろしくお伝え下さい。では私はこれで」
ブルグはそう言うと屋敷の鍵を皆に渡して帰っていった。
「よし!試してみるか!」
リントはブルグを見送ると早々に皆を連れて露天風呂に向かった。
露天風呂に着くと早速、詠唱を始める。
「生命の源となる大いなる水よ。我が盾となり全てを飲み込まん。水障壁!」
リントの詠唱が終わると、巨大な水の壁が浴槽に出現した。
「おし!成功!」
何回も詠唱すれば水を貯めれると思ったが、30秒もしないうちに水の壁は消えてなくなった。
「あれ!?消えた!」
「もしかしするとリントが水僧侶ではなくなったからではないか?」
「えー?そうなのマリー?」
「う~ん。もしかするとそうかもしれませんね~。通常ではそんな事あり得ませんけど、リントさんの場合異色のクラスチェンジだったので~」
以前、水僧侶だった時は泥水や水障壁はその場に残っていた。闇司教になってから確認はしていなかったが、水魔法は時間が経過すると消えるみたいだ。
「マジかよ。。。」
「リント君。闇魔法だったらその場に残るんじゃない?」
「確かに。。。でもそんな都合の良いスキルあるかな。。。」
リントはギルド証のスキル一覧を確認してみた。
「あった。。。。。」
~~闇渦潮~~
闇と水の混合魔法。
闇の力により水を回転させて指定した空間に渦潮を発生させる。
範囲と威力は術者の魔力に比例するがコントロール可能。
(よし!覚えよう。。。)
混合魔法だからか取得スキルポイントが高く、せっかく貯めておいたスキルポイントをほとんど使い果たしてしまうがリントは気にしない。
「・・・リント。それを覚えるのか?」
ティルダが呆れた様子でリントに問いかけた。
「愚問だな!」
リントがそう言い切るとティルダは何かを言っていたがそれをスルー。
今は押し問答している場合ではない。何故ならすぐそこに露天風呂という名の楽園が待っているのだから。
早速、スキルを取得したリントは魔力を抑えて無詠唱で放った。
「闇渦潮!」
リントが指定した浴槽の中央に黒い渦潮が発生。
水はしばらく回転した後、その場所に黒い水たまりが出来た。
「ノォォォォ!!」
リントは叫んだ。
水が消える事はない。ないが、黒かった。世の中そんなに甘くない。
項垂れているリントをよそに、キキが何やら試験管のような物を取り出してそこに黒い水を入れた。
「ふむ。。。黒いが普通の水だな。属性が闇の水ってだけで害はないみたいだぞ」
「やったね!お兄ちゃん!」
「・・・・・・」
(これじゃあ、全く視えないじゃないか。。。)
肩を落として膝をつくリント。
「アハハハ。おもしろい。こんな道化を演じるとはの。褒美にこの黒い風呂なら妾も一緒に入ってやってもよいぞ?」
「クッ。。。」
「リント君。そんなに落ち込まないで。一緒に水の魔石探そ?」
「うん。。。」
(ルルさん。天使や。。。。)
水の魔石が見つかるまでは黒い露天風呂で我慢する事にした。
「後は部屋割りだな」
「じゃあ、リントさんはサーシャさんの部屋を使って下さい~」
「え?良いの?」
皆を見渡したがを異論はないらしい。
リントはティルダをチラッと見てみた。
「なんじゃ?・・・妾もそこまで傲慢ではない。ここの主人はリントじゃ。好きにするがよい」
と言う事で何事もなく部屋割りが決まった。
--皆で夕食を食べに行った後、この日のリントは黒の露天風呂には入る気がしなかったのでシャワーを浴びて部屋に戻った。
「それにしてもデカいベッドだな」
サーシャ用に作られたそのベッドは大人が3人寝ても十分余裕があるぐらいの大きさだった。
逆に1人で寝るのは少し寂しいかもしれない。
リントはサーシャに家が完成した事とハーデの事をメッセージで送るとベッドに横になった。
コンコン
リントがウトウトしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「あ。はーい」
「リント君。入っても良い?」
ルルだ。
★サーシャ先生の補足授業★
水の魔石は強欲の塔の20階より上から出るわ。
もし、まともな露天風呂になったら私も遊びに行ってみようかしら。




