世間知らずな3人
前回のあらすじ
王女様が戦闘に参加するとおっしゃられる。。。
「いや、まず武器を買わないと。。。」
「む。それもそうじゃな」
そんなやりとりをティルダとしているとキキがリントに提案してきた。
「・・・リント。急にティルダさんを塔に連れて行ったら危険だぞ?」
「だね。俺もまだよく分かってないし」
「今朝3人で話してたんだが、リントはティルダさんのレベル上げも兼ねてギルドのクエストを受けて来てくれないか?強欲の塔へはルルとマリーと3人で行ってみようと思う」
「え!?」
「安心しろ。1階だけだ。すぐに帰る」
(確かにいきなりティルダを連れて行く訳にはいかない。おっさんとクピスはクールタイムだし。。。3人とも塔に行きたがってたしな。)
「分かった。でもティルダさん街の外に出れないんじゃ?」
「それは大丈夫です~。さっきサラさんに話しておいたんで~」
「何とかなるの?」
「ふっふふ~。ここの門番長さんはサラさんにメロメロなんです~。」
(いつの間に。。。てか大丈夫か?この街。。。)
「・・・・分かった。でも絶対2階に行ったらダメだよ?俺も行った事ないんだからね」
「さっすがリントさん~。器が大きい~」
「塔に入るとランダムで飛ばされるから気を付けてね。あ!でも俺がいないとマップ表示されないんじゃない?」
「大丈夫だよリント君。同じクランの人はリーダーの恩恵を受けるみたいだから」
「ワシのギルド証でもマップが表示されておったぞ」
「そうなの?ならいいか。。。。あ!これ持って行って!」
リントはルルに帰還鍵を渡した。
「フフ。心配性だね」
「そりゃそうだよ。。。」
「じゃあ行ってきますね~」
3人は手を振りギルドの外に出て強欲の塔に向かった。
「じゃあ、取り敢えずクエスト受けますか」
ギルドの掲示板を見て、ティルダにはゴルタン近くの【イージスの森】にいるFランクの毛鼠の討伐を勧めた。
「うむ。手慣らしにはよかろう」
「・・・りんと。わたしも」
「お。そうか?Eランクぐらいだったらソロでも余裕そうだけど。。」
「これがいい」
クピスが指を差したのは大蟹の討伐。ランクはE。
「お!良いじゃん。同じ森だし。狩場も近そうだね」
2人がクエストを受注しているとヴァンガードが話かけてきた。
「・・・リント殿。ワシは美味い酒を探しに行きたいんじゃが」
「あ。いいよ。おっさんの自由にして。金あるの?」
「酒を買う金はある。ではな」
おっさんは手を振り美味い酒を探しに街へ消えていった。
(そう言えばおっさんには何も話してなかったな。。。まいっか。聞かれたら話そう。)
残った3人で商業地区に向かい、多数ある武具屋の中から適当に選んで店に入った。
しかしお金はあまりない。強欲の塔の登録料でほとんど使い果たしてしまったからだ。
食費や宿屋の事等を考えると無駄使いは出来ない。そんな事を考えていると武器を選んでいたティルダが話かけて来た。
「どうした?金がないのか?」
「うん。最近まともに狩りしてないし、塔の登録料で結構使っちゃったから」
「・・・心配するな」
そういうとティルダはポケットから高級そうな白い巾着を取り出した。
「どうしたの?それ?」
「妾も馬鹿ではない。城からくすねてきたのだ。価値は知らんがな」
盗んだ上に価値は知らないと言ってドヤ顔の王女様。
中を見ると金貨や銀貨がごちゃまぜになっていて20枚ぐらいありそうだった。
(そいうや俺も全部ギルド証で会計してたから分からん。。。冒険者になった時にマリーに貰った覚えがあるけど価値は覚えてないな。武具揃えて全部サーシャさんに渡したし。あの時は銅貨しか入ってなかった気がするけど。。。)
「これ」
そう言ってクピスが大剣を指差した。
大剣には木札がぶら下がっている。
「あ。てか値段書いてあるじゃん」
木札をよく見ると×××××リェンとしか書いてなかった。
「詰んだ。。。。」
「・・・まぁよい。適当に出せばいいであろう。店主もこちらが価値を知らないとは思っておるまい」
「そ、それもそうだな」
ティルダはそう言うと予め選んでおいた武具を持ってきた。
「あら?そんなんでいいの?」
ティルダが持ってきた武器は何の変哲もない少し大きめの弓とショートソード。動きやすそうな鉄の胸当てと鎖かたびらのようなミニスカートだった。
「爺が良く言っていたのじゃ。”武器に頼っていたら腕が訛る”とな。練習の時も質素な弓を使っておったし、初めはこんなもんでいいじゃろ。それにルルは鍛冶師であろう?家を買ったら妾が自ら素材を集めて作ってもらうつもりじゃ。という訳で今は節約じゃ」
リントは驚いた。ありったけのお金を突っ込んで高級な装備を揃えると思っていたからだ。
ティルダは傲慢だがこういう所はしっかりしている。
「店主。これでいくらじゃ?」
「・・・矢はご入用ですか?たくさん買って頂くと値引きできますが」
「そうじゃな。。。ではこの弓に馴染む矢を300本程頼む」
「かしこまりました。ブーツと小手はサービスさせて頂きます。。。全部で。。。50000リェンになります。」
(高いな!!値引いてそれかよ。。。矢が高いのかな?)
リントが胸をドキドキさせているとティルダは金貨を一枚取り出した。
「これで頼む」
「ありがとうございます。ではこれを」
そう言うと店主は銀貨を5枚ティルダに渡す。
ティルダは顔色1つ変えず当り前のように銀貨を受け取る。
(スゲー。さすが王女様。眉1つ動かさなかった。。。)
「ではリント。着替えてくるからクピスと待っておれ」
「あ。うん。」
クピスと2人で待っていると店の奥からティルダが出て来た。
武具を装備したティルダは華やかさを纏いつつも冒険者として様になっていた。
「どうじゃ?勇ましいであろう?」
「うん。。。特にその膝上のスカートなんか超いいよ!綺麗な足だね!」
「ど、何処を見ておる!馬鹿者!」
ティルダは足を褒められた事がないのか頬を赤く染めた。
「さてと。。。じゃあ行きますかね」
店を出てゴルタンの門に向かう。門に着くと衛兵らしき男がポツンと1人立っていた。
ティルダの話は衛兵まで伝わっていないのかリントの名前を言っただけで普通に通してくれた。おまけにイージスの森の行き方まで親切に教えてくれた。
(マジで大丈夫か?ここの治安。。。)
不安を覚えながら街道を30分ぐらい歩くとイージスの森に着いた。
「パーティは組まない。経験吸っちゃうからね。あと、先にクピスの獲物の場所に行くよ」
「・・・・分かった」
ティルダは緊張しているのか素直に応じる。
森の川伝いに歩いて行くと水を飲んでいる大蟹を発見。
体長は2mぐらいで右の鋏が異常なまでに発達していてデカい。食べたら美味いかもしれない。
「クピス。やれるか?」
「あい!」
クピスは敏捷旋律を奏でて大蟹に突撃。
クピスに気づいた大蟹はあわてて大きな鋏でクピスを捉えようとするが、クピスはスライディングのように横薙ぎされる鋏の下をくぐり、そのままフルートの先端でお腹を一突き。突いた場所から体液が溢れたかと思うとそのまま裏拳のようにもう一突き。大蟹はたまらず口から泡のような物をクピスに向かって吐き出す。しかしクピスは大蟹の反対側を向いたままムーンサルトジャンプで泡を躱し、そのまま大蟹の頭にフルートの先端を振り下ろす。
グシャ!と言う音を立てて大蟹は崩れ落ちた。
「おおー!さすがクピス!余裕だな!」
「あい!!」
クピスは可愛らしいウィンクをしながら綺麗な銀髪を揺らす。
「・・・・・」
ティルダはクピスの華麗な戦いに口を開けたまま茫然と立ち尽くしている。
「あれ?どうしたのティルダ?」
「・・・・ふ、ふん!まぁまぁじゃな」
「・・・さすが王女様。期待していますよ?」
リントはそう言いながらクピスに倒された大蟹の傍に行く。
十字を切りながら呪文を唱えた。
「我が闇の眷属よ。古の盟約に従い今ここに甦えらん!」
そんなセリフは必要ないが、リントが唱えると大蟹の下に紫色の魔法陣が浮かび上がる。それと同時に大蟹は黒味を帯びてゆらりと立ち上がった。
「イギャアアア!」
ティルダはゾンビのように立ち上がった大蟹を見て驚愕の声を上げる。
リントはカッコつけたつもりだったが王女様には少し刺激が強かったようだ。
「あ。ごめん。。。そんなに驚くとは思わなかった。。。」
「・・・な、なんなのじゃあれは?」
「フフフ。我が闇の眷属よ。。。」
「・・・・お主は何者なのじゃ?こんなのは見た事も聞いた事もないぞ?」
「何者?至って普通なイケメンだけど?」
「・・・・・・・・」
ティルダは冷淡な表情でリントを睨みつける。
「ごめんごめん。そんなに怒らないでよ。実は俺も良く分からないんだ」
「・・・分からんじゃと?」
「うん。。。。まぁ話すと長くなるからまた今度ね。このスキルのレベルが上がってたからちょっと試そうと思ってやったんだよ。クピスの護衛も兼ねてね」
「レベルが上がった?・・・まぁよい。お主が強ければ妾が得するだけじゃからな」
「そそ。じゃあティルダの獲物を探しに行こうか。。。クピス。ちょっと行って来るね。大蟹を護衛につけとくから」
「あい!」
クピスは片手を上げて顔を斜めにしながら敬礼。
(ど、何処でそんな可愛いポーズを。。。)
「リント。何を呆けておる。行くぞ」
「あ。ごめん」
クピスの可愛い成長に感動を覚えながらティルダと森の麓に向かった。
★サーシャ先生の補足授業★
毛鼠は体長50cmぐらいの2足歩行のネズミ型の魔物よ。
小盾と小剣を装備してるから低いながらも知能はありそうね。




