クラン設立
前回のあらすじ
隣の部屋からティルダの叫び声が聞こえた。
リントはティルダの居る部屋に走った。
扉を開けるとティルダが怯えながら腰を抜かしていた。
「な、なんなのじゃこいつは?」
ティルダの目線の先には獣化して寝ているクピスがいた。
「ごめんごめん。言うの忘れてました。って、マリーもう寝てるし。。。」
クピスとマリーは初めてのゴルタンに疲れていたのか、ティルダの叫び声にも全く反応せずぐっすり眠っていた。
リントはクピスが獣化する経緯を適当に改変して説明した。
お嬢様には少し刺激が強すぎたかもしれない。
「戯け!それなら早く言わぬか!」
「まぁ。まぁ。そんなに怒らないで。。。こうやってモフモフすると気持ち良いですよ?」
リントはクピスをモフモフしてみせた。
「ふ、ふん!妾がそんなはしたない真似が出来るか!」
「そうですか。残念ですね」
リントはそう言うと今度は毛の中に顔を埋めてみたり、抱き枕のように抱いてみた。
初めは強がっていたティルダだったが、リントの気持ち良さそうな顔を見ると徐々にうずうずしだした。
「モフモフ~。」
「・・・クッ!」
なんとかその場では踏みとどまったティルダだったが、リントが部屋に帰るとこっそりモフモフするのだった。
---次の日
リント達はティルダを宿に残して強欲の塔へ向かった。
宿の主人にはティルダは侍女と説明しており、宿に残っても違和感がないように説明しておいた。
強欲の塔に近づくにつれて、その大きさを改めて実感する。
「デカいな~!」
「も~。そればっかりじゃないですかリントさん~」
塔は近くで見ると白銀のような色をしており太陽の光に反射して眩しい。
そしてその壮大さゆえにどこか神々しさまで感じる。
塔の麓に【強欲の塔 受付】と看板がある大きな建物があった。
リント達が中に入ると受付が5つあり、冒険者達で溢れていた。
「リント君。すごい人だね」
「さすが大陸。ここにいる人だけで100人ぐらい居そうだな。」
冒険者達の中には神に創造された人族は多数いたが、魔族との混血らしき人は見当たらなかった。ルルとキキもローブを纏って羽を隠しているので他人から見ればただの可愛い女の子にしかみえない。
もしかしすると他の混血もそうしているのかもしれないが見当たらないので、やはりその辺りはヴェネの町とは違うようだ。
そんな事を考えていると受付から大きな声が聞こえた。
「入場制限だって!?」
カウンターの一番左の男が驚いた様子で受付と話している。
リントも気になる発言だったので聞き耳を立ててみた。
「申し訳ございません。1階~10階までは3名までしか同時入場出来ません。」
「なんでだ!?」
受付嬢の話によるとこうだった。
1.入場制限をしないと下層階は大変混雑してまともに狩りを行えない。
2.強欲の塔に入るには団体に所属しなければならない。理由としては塔内部で冒険者同士の揉め事を防ぐため。(魔物の横取りや、狩場の独占、冒険者同士の殺し合い等)
3.塔には5階ごとに転移門がある。クランリーダーがその階層に到達すれば再入場の際にクランメンバーも転移門を利用する事が出来る。
4.リーダー以外のクランメンバーは1度塔に入ったら、再入場に1日のクールタイムが必要。
5.クランは現在あるクランに所属しなくても、クランリーダーが冒険者ランクC以上かつ仲間が5人以上であれば作る事が出来る。その際にクラン名を決める。
「へぇ~。こんなルールがあるんだな。」
「キキも知らなかった。まぁ塔が出来て50年も経ってるんだ。今まで色々と問題があったんだろう」
「ですね~。リントさん~。もちろんクラン作りますよね~?」
「ん?あぁ。そうだな。変なクランに所属したくないし条件も満たしてるしな」
「どんな名前にするの?」
「う~ん。。。」
リントは皆の顔を見ながら考えた。
「・・・決めた!ピースブリッジってのはどうだ?」
「ぴ~すぶりっじ?」
「平和の架け橋って意味だよ。ウチのメンバーは人族も魔族も混血も居る。ウチはこんなにみんな仲良くやってるのに、世間じゃ魔族との戦争だの混血差別だの悲しい世の中じゃん?俺たちが力合わせて塔を全部攻略して、魔族だの混血だのそんなの関係ない事を証明してやろう!」
「リント君!すごい!良いねそれ!」
「フッ。リントの割には良い事を言うな。塔を攻略した英雄達に文句を言う奴もいないだろうしな」
「みんなで仲良く酒が飲める日が来ればいいのぉ」
「リントさん~。らしくないけど今回は賛同します~」
「りんと。えらい」
「・・・なんか一部ディスられた気がするけど、これに決定だな!」
リント達は受付に向かった。
「いらっしゃいませ。強欲の塔へは初めてですか?」
受付をしてくれたのは、30歳ぐらいのキレイな人間の女性だった。
短い黒髪で眼鏡をしており顔がキリっとしている。インテリOLみたいな印象だ。
従属の首輪は付いていないので奴隷ではないみたいだ。
「はい。クランの設立がしたいんですけど、手続きをお願いします」
「かしこまりました。ではこちらにクラン名を記載の上、クランメンバーのギルド証を提示下さい」
リント達はギルド証を提示した。
「ありがとうございます。では設立金10万リェンとメンバー1人につき5万リェンになります。今回は6人なので設立金と合わせて40万リェンになります」
「え!そんなにするの?」
「ええ。ギルド証に特別な印章を刻む費用になります。それとこれは皆さまの安全性を高める処置でもあります」
「と言うと?」
「・・・率直に言わせてもらいますと、10万リェンも用意出来ないようなクランは塔に入っても死ぬだけです。それと入場制限があるとはいえ、無料でメンバー登録出来るようにするとメンバーを使い捨てにするようなクランリーダーが出て来るのです」
眼鏡のOLさんは淡々と話した。
(すごい事を淡々と話すなこの人。。。)
淡々と話すOLさんに興味を持ったリントは言霊を使ってみた。
(オーラは黄色。好物は。。。うは!こんなにキリッとしてるのに夜は凄いんだな。。。)
OLさんの秘密を垣間見たリントはしたり顔でお金を払う。
リントがお金を払うとOLさんはギルド証にハンコのような魔導器をついた。
するとギルド証が輝きだし、クラン名【ピースブリッジ】と記載された。
「ん?少しギルド証が透けてる?」
「ええ。そのギルド証を目の前にかざして他の冒険者を見て下さい」
リント達は言われた通りに透けたギルド証越しに他の冒険者を見ると、頭の上にクラン名が見えた。
「おー!スゲー!さすが万能ギルド証!」
「それはギルド証越しに他の冒険者を見ると、クラン名を見る事が出来るようになっています。反対に自分も見られているのでマナーを守って魔物を狩って下さい。マナーが悪いと晒し者になって入場不可になるのでご注意下さい。。。何か質問はございますか?」
「概要はさっき聞いたから。。。何か注意すべき点はありますか?」
「そうですね。死体を見ても放置しておいて下さい。下手に触るとミイラ取りだとあらぬ疑いをかけられます。死体は基本的に同じクランの者が回収する事になっております。それに塔にはスライムが多々いるので掃除してくれます。」
「ふむふむ。それぐらい?」
「クランの規模によって変わりますが、ピースブリッジ様は6人のクランなので1~10階までは同時に3人までしか入場出来ませんのでご注意下さい。あと帰還の際は是非こちらをお使い下さい。」
OLさんが取り出したのは小さな鍵のような魔導器だった。
「これは?」
「こちらは販売品になりますが帰還鍵です。こちらに魔力を込めて頂くとクランメンバーと一緒にここまで転移出来ます。」
「おー!便利!いくらですか?」
「20万リェンになります」
「高いな!」
「そうでもないですよ。これに魔力を込めれば何処にいても帰ってこれるのですから」
「まぁそうかもしれないけど。。。1度使ったらなくなるの?」
「ですね。あと鍵に魔力を込める時間は魔力が高い者でも10分はかかります」
「ヤバイと思って即脱出!は出来ないって事ね。。。取り敢えず1つ下さい」
「ありがとうございます。では本日はどちら様が入場なさいますか?」
リントは皆の顔を見て言った。
「今回は様子見だから、俺とクピスとおっさんで行こうと思う」
「え~!マリーじゃないんですか~」
「ごめん。低層階だからそんなに強い魔物はいないと思うけど、皆を危険な目に合わせたくないんだ。硬いおっさんとレベルが高いクピスを連れて行くよ。安全を確かめたらマリーも連れていくから」
頬を膨らませているマリーにルルが話しかけた。
「マリー。あまりリント君を困らせたらダメよ。私達はリント君達が入ってる間に3人で家を探してみましょ。。。ね?」
「・・・分かりました~。リントさんが驚くような家探しときますね~!」
「ああ。お願いね」
---リント達は3人と別れて塔に向かった。
「おっきぃとびら」
塔の扉は高さ3mぐらいの重そうな黒い扉だった。
「これどうやって開けるんだ?」
そう言ってリントが扉に手を触れた瞬間、3人の体は光に包まれた。
「え?」
光に包まれた3人はその場から徐々に消えていった。
★サーシャ先生の補足授業★
強欲の塔は5階ごとにボス部屋があるの。
倒せばレアなアイテムや希少価値が高い魔石が出て来る可能性があるわ。
再度湧くには2時間ぐらいかかるから低階層では順番待ちね。




