赤髪の少女
前回のあらすじ
路地裏で複数の男達に少女が追われていた。
リントは思わず後を追った。
路地裏には街灯の光もなく薄暗かったが、リントには魔人狼の左目があるので暗くても鮮明に見えた。
少女の後を追っている3人の男に気づかれないように水鞭を壁に放ちながら蜘蛛男のように後を追う。
しばらく追っていると少女が行き止まりに突き当たる。
「泥水」
リントは泥水を男達の足元に展開。急に現れた泥水に反応出来ず、走っていた男達は重なるように転んだ。
リントはすかさず少女の元に行き、何も言わず片手で少女の腰を抱きかかえた。
「!?」
少女は驚いた様子だったが、今は逃げる事が先決。抱きかかえたまま水鞭で屋根の上に登った。そのまま少女の手を引っ張り、屋根伝いに走っていると時計塔が見えたのでその中に退避した。
「ハァハァ。。。大丈夫か?」
「ハァハァハァ。お、お主。。。何者じゃ?」
豊満な胸をおさえながら、息もたえだえな少女は高そうな黒を基調にしたドレスを身に纏っていた。
歳はリントより少し下ぐらい。ぷくっとした薄い赤の唇の下にホクロがある。すらっとした蒼い瞳に、繊細な赤髪は腰まで伸びており、可愛いと言うよりは美人なキツネ顔だった。
「・・・・・・あ。すいません。リントと言います」
リントは少女の気品溢れる美しさに少し見惚れてしまっていた。
「・・・・・お主、妾を見ても何も思わぬのか?」
少女は不思議そうな顔をしてリントに問いかける。
「え?あ。すいません。すごい美人だなぁとは思いました」
(そして助けたのにお礼も無いのかなぁとも思いました)
リントの答えに少女は、フッ。と笑うと何か物思いにふける。
「・・・・・お主、冒険者か?」
「あ。。。そうです。今日ここに来たばかりの新参者です」
「・・・1人か?」
「いや、仲間と来ました」
「ふむ・・・ランルージ大陸出身か?」
「いえ、ヴェネです。大陸には初めて来ました。」
「ヴェネ。。。小さな島にある港町か。」
そう言うと、少女はまた何かを考えだした。
「・・・リントとか言ったの?妾に気安く触った罰じゃ。妾を匿え」
「・・・え?」
「何も知らぬお主が勝手に妾をこんな所に連れて来たのじゃ。当たり前であろう?それにさっきの奴らにまた見つかるやもしれんのに。それともお主は妾をここに捨て置くつもりか?」
「いや、そんなつもりはないけど。。。」
(ヤバイ。トラブルの匂いしかしない)
「・・・追われていた理由を聞いても?」
「・・・夜道を歩いておったら急に襲われたのじゃ」
「・・・名前を聞いても?」
「・・・ティルダじゃ」
「・・・・・。」
どうも怪しい匂いしかしないが、時間もなかったのでリントは仕方なく少女を皆の所へ連れて行くことにした。
「あ!リントさん~。遅いですよ~。」
待ち合わせ場所の噴水に行くと既に皆が集まっていた。
「ごめんごめん。ちょっと急用が入ってさ」
「急用って、宿を探す以上の急用なんかないでしょ~」
「リント君。宿見つかったよ?」
「ごめんね。ありがとう」
「して。リント殿の後ろにおるのはどちら様じゃ?」
皆がリントの後ろに視線を向ける。
少女はいつの間にかフードを被っており、顔を隠していた。
「フードの下にドレスとは、また変わった格好だな。」
キキが少し警戒しながら口を開く。
「あれ?ティルダさん。何で顔を隠してるんですか?」
「・・・さっきの奴らに見つかったらどうするんじゃ?」
「ここだったら奴らも手を出してきませんよ。夜でも人がいっぱいいるし、衛兵もいますしね」
「・・・そういう問題ではないのじゃ。見つかったらまずいのじゃ」
「リント。誰なんだこいつは?どう見ても普通じゃないぞ?」
キキは少し不機嫌そうにリントに問う。
「ごめん。俺も良く分からないんだけど、路地裏で複数の男に追われていたのを見かけたんだ」
リントは事の経緯を説明した。
「・・・まぁいい」
キキは少し納得してないようだったが、何とか分かってくれたみたいだ。
「まぁまぁ~。取り敢えずお腹空いたんで酒場にでも行きましょ~」
険悪なムードになる前にマリーが提案してくれた。
さすが元ギルドの看板娘だ。
一行はゴルタンの酒場に着いた。
酒場は屈強そうな冒険者で溢れていた。恐らく強欲の塔の挑戦者達だろう。
気さくな店主に飲み物と食事を頼んで皆で乾杯した。
「「「「「「乾杯!」」」」」」
初めてアルコールを皆で飲む。
サーシャの船ではキツイ酒しかなかったので、ヴァンガードしか飲んでいなかったのだ。
「私も飲みたい~」
「マリーはあと2年我慢しなさい」
「リントさんのケチ~」
マリーには、まだ成人してないのでアップルジュースを頼んでいた。
「ではティルダさん。詳しく話を聞かせて貰っていいかな?」
「なんじゃ?妾は特に話す事はないぞ」
「いや、そうは言っても匿う訳だから色々聞かないと。。。俺は良いけど皆が納得してくれないよ。取り敢えず自己紹介して貰えますか?」
「・・・妾の名はティルダ。種族は人間。歳は19歳。出身はランルージ王国じゃ」
「なるほど。何でゴルタンに来たんですか?」
「それは。。。買い物じゃ。ここにしかない珍しい宝石があると聞いてな」
「へぇ~。1人で?」
「そうじゃ。馬車でここまで来たんじゃ。別に普通であろう?」
「んで、さっきの奴らに路地裏で襲われた?」
「うむ。」
「何で路地裏に?」
「そ、それは。。。宝石を落としてしまっての。探してたんじゃ。」
ティルダは明らかに動揺していた。
恐らく、何処か金持ちのお嬢様が家出でもしたのであろう。
横で聞いていたマリーが思わず口を開いた。
「ティルダさん~。嘘が下手過ぎですよ~。そんな高そうなドレス着て宝石を買う女の子が、ランルージ王国からわざわざ来て護衛が1人もいないなんてあり得ないですよ~。何処のお嬢様なんですか~?」
「・・・・・」
ティルダは言葉に詰まった。
「・・・じゃあ質問を変えましょ~。ティルダさんを匿う事によって私達は何かメリットあります~?」
「ふむ。。。」
ティルダは少し考えて口を開いた。
「・・・良かろう。妾も詭弁が過ぎた。匿ってもらう代わりにこれをやろう」
ティルダはそう言うと水色に輝く指輪を取り出した。
指輪は人魚をモチーフにしており、宝石は海のように蒼く光輝いていた。
「これは!人魚の奇跡!?」
ルルが驚いた様子で指輪を見る。
「なにそれ?美味しいの?」
「・・・この世に100点しかないと言われている伝説のアクセ職人が作った指輪の1点。。。」
「マジで!?」
「ほぉ。庶民のくせによう知っておるな。」
「売れば2000万リェンはすると思う。。。」
「えー!?」
「どうじゃ?これで良かろう?その代わり妾を匿い、もう詮索せぬと誓え。」
リントは考えた。
いくらお金持ちのお嬢様とは言え、こんな高い指輪をポンッっと出せるものなのだろうかと。お嬢様を匿うのはトラブルの元になる可能性が高いが本当に困っているのかもしれないし、この指輪は喉から手が出る程欲しい代物だ。
これがあれば家も買える。家を買えば宿代も気にしなくても良い。何より夢のハーレム生活が待っているのだ。おっさんもいるけど。。。
「分かりました~!交渉成立です~!」
リントが返答をする前にマリーが答えた。
「ちょ!マリー?」
リントが驚くとマリーが近づいて耳打ちする。
「大丈夫ですよリントさん。お嬢様はどうせ家出に飽きたらすぐ帰りますよ。それに、こんな大金手に入るチャンスなんてないですよ?お嬢様の気が変わらないうちに頂いちゃいましょ~」
14歳とは思えない現金なマリー。
「・・・皆はどう思う?」
「ワシは美味い酒が飲めれば何でもいいぞ」
「ルルはリント君が良いなら。。。」
「キキはその宝石を調べてみたいな。。。あ。もちろんリントが良いなら。だよ?」
キキは酒が回り酔っぱらっているせいか、頬を赤らめて言葉遣いも変わっていた。
(お久しぶりです。ツンデレラ姫。。。。こんなに可愛くなるなら毎日酒飲まそうかな。。。)
リントはクピスに目をやると、可愛らしくウィンクしてきた。
(何処でそんなスキルを覚えたんだ!可愛いじゃないか!)
夢のハーレム生活を想像したリントは酔った勢いもあって承諾した。
「でもさ、その指輪いきなり売ったら怪しまれるんじゃない?」
「それもそうですね~。駆け出し冒険者が持っている代物じゃないですよね~」
「リント君。サーシャさんに頼んでみたらどう?」
「あ~。そうだな~。メッセージ送ってみようか。」
話はまとまり、食事を終えて一行は宿に着いた。
リントは案の定ヴァンガードと相部屋で、ルルはキキと2人部屋。
クピスとマリーとティルダは3人部屋にそれぞれ向かった。
ティルダに、【こんな質素なベッドで妾を寝かすつもりか?】とか言われると思ったが、さすがの傲慢お嬢様もわきまえているらしく、何も言って来なかった。
リントは一息ついてサーシャにゴルタンに来た事と指輪の事を、ギルド証を使ってメッセージを送った。
そろそろ寝ようかと思って横になると、隣の部屋からティルダの叫び声が聞こえた。
「きゃあああああ!」
「あ!やべ!言うの忘れてた!」
★サーシャ先生の補足授業★
人魚の奇跡は、特殊な魔石から作られているの。
でもあくまで観賞用よ。
ちなみに私は、その指輪シリーズを3点持ってるわ。




