ライスフラワー
前回のあらすじ
リント達はヴェネの町から出港した。
「それにしても大きな船じゃな」
ヴァンガードが船員に貰った酒を飲みながら船の大きさを改めて語る。
リント達が乗っている帆船は定期船よりかなり大きかった。
通常の定期船は乗客が50人ぐらいだが、この船は100人ぐらい乗っても平気そうだった。
サーシャの所有物なので今更驚かないが、それにしても大きいのである。
「そうだな。さすがサーシャさんの船ってところだな」
「さーしゃ。すごい」
リント達は豪華な船の甲板で海を眺めながら心地よい風を浴びていた。
「・・・・ん!?なんだあれ!?イルカか?」
リントの目に留まったのは水面からジャンプしている白色のイルカの大群だった。
「ふぇ?どれですかー?」
ルルが美しいピンク色の髪をなびかせて、後ろからリントの腕を組む。
「あ~!ちょっとルルさん~。何気なくリントさんに胸を押し付けないで貰えますか~?」
「あ。ごめんなさい。リント君。。。嫌だった?」
リントは反応に困った。
せっかく腕に集中して感触を楽しんでいたのに。嫌な訳はないがこれは返答が難しい。
「2人共。リントが困っているだろう?それにマリーも悔しいならこうすればいい」
そう言ってキキもルルとは反対側のリントの腕を組む。
「あ~!それじゃあ私の所がないじゃないですか~」
「ほっほっほ。若いのぉ」
マリーが頬を膨らませ、ヴァンガードが笑う。
「みんな仲良くしようよ。。。てか、あれは結局なんなの?」
リントが見ているのはどうみても白色のイルカだった。
「あれはパルクという魔物じゃよ。見た目は可愛いが超肉食じゃ。昔はあれによく船を沈没させられたらしいぞ」
「マジかよ!?こええ。。。」
「大丈夫よ。リント君。今の船は魔除けの魔導器があるから並の魔物じゃ船に近づけないよ。」
「並の。。。ね。。。」
リントが顔をひきつらせる。
「心配しなくてもこの辺りは定期船も出ている海域だ。最近、船が沈められた話は聞かないぞ?」
「そっか。そうだよな。。。」
そんなやりとりをしながら船はライスフラワーがいる無人島に着いた。
小さなその島は森に囲まれて緩やかな川が流れている。
気温も暑過ぎず、バカンスにピッタリの島だった。
「もう着いたのか。1日掛かるって話だったけど、半日ぐらいで着いたな」
「今日は良い風が吹いてたからきっと早く着いたんだよ。」
時刻はまだ昼過ぎだったので、そのまま島に上陸してライスフラワーを探す事にした。
辺りを見渡すと特に何もなく静観を保っていたが、微かに魔物の気配がした。
「ライスフラワーはそんなに強くないって話だけど、コカトリスもいるから気を付けてね」
「フフ。儂に任せておけ」
「おっさん。絶対に石化する気がする。。。。」
ヴァンガードがフラグを立てて、しばらく海の周りを散策していると物陰から急にコカトリスが飛び出して来た!
体長は約1m。鶏と蛇を合わせたような奇妙な体をしていた。
「クェェ!」
「任せろ!ふぉぉぉぉ!」
「ちょ!おっさん!」
ヴァンガードがランスを取り出しコカトリスに突っ込む。
ランスは空を切りコカトリスのクチバシが鎧の継ぎ目に刺さる。
「ふぉ!」
クチバシが触れた先端から徐々にヴァンガードの体が石化していく。
「おお!これが石化か!」
キキは興味津々に石化している様を見ている。
そんな中、マリーは鑑定スキルを使ってコカトリスのレベルを測った。
「私に任せて下さい~!コカトリスはレベル16なんで私でも何とかなりそうです~」
そう言うとマリーはエレメンタルタクトを取り出して、詠唱をしながら空中に赤い文字を書き始める。
「集え!猛る煉獄の炎!ヴォルド!」
マリーは詠唱が終わると同時にエレメンタルタクトを振り下ろす。
スペルから燃え盛る文字状の炎が飛び出しコカトリスを包み込む。
炎に包まれたコカトリスはたまらず海に駆け込もうとした。
「させない!うぉりゃぁ!」
ルルが大きなハンマーを燃えているコカトリスにぶち当てる。
コカトリスは吹っ飛びピクリとも動かなくなった。
「リントさん~。私すごいでしょ~」
「昨日はヴォルケーノ!とかって言ってなかったっけ?」
「気のせいです!」
出発の前日にマリーの装備を整えて、リント達は森に来ていた。
武器商人になったマリーにエレメンタルタクトを渡すと、なんと一発で使いこなしてしまったのだ。武器商人のマリーはどんな武器でも+補正が掛かるので、宝の持ち腐れになっていたタクトは丁度良かった。
マリーの生まれた村は火の精霊を祭る一族だったらしい。そして当然のようにマリーの属性は火だった。
だからと言ってタクトを使いこなせるかどうかは別物の気もするが、マリーはそれをやってのけた。
リントは自分が死ぬ思いをして編み出したスペルはなんだったんだろうと思いながらも、マリーの才能に驚いていた。
「これ、おいしそう」
クピスが少し焦げたコカトリスを見てそう言った。
「え?食べるの?・・・確かに鶏肉っぽいけど。おっさん!ちょっと食べてみて」
「・・・・・・」
「あ。石化してたんだった」
ヴァンガードの石化を解いたリント達は森の奥に進んだ。
少し歩くと野原一面に赤、青、白、黄色と大きな花が咲いている場所に出た。
「わぁ。すごくキレイー」
「何かの錬金の材料に使えそうだな」
双子はピクニック気分で花を観賞している。
「このなか、まものいる」
クピスは花畑に魔物の匂いを感じたらしい。
「マジで?」
花畑をよく見ると花ではなく、所々に30cmぐらいの緑色の殻に包まれている物が地面から生えていた。
「あれかな?・・・・闇弾」
リントはその殻の地面に向かって魔法を撃った。
黒い球は殻の下の地面に当たって土煙が舞う。
土煙が消えるとそこには体長1mぐらいの熊のような魔物が鋭い目でこちらを睨んでいた。
頭の殻が割れて、白い実がむき出しになっている。
「ライスフラワー発見!でも何か強そう。。。あ。レベル12か。」
リントが鑑定をして安堵していると、ライスフラワーは遠吠えのような奇声をあげる。
「ウォォォン!」
すると所々にあった殻の下からライスフラワーが続々と出て来る。
20匹はいそうだ。
「リントさん~。急に魔法ぶっ放すからいっぱい出て来たじゃないですか~」
「ごめん。。。クピス!防御旋律頼む!後衛は飛び道具で!ルルは後衛をサポート!おっさんはヘイトで敵を引き付けてくれ!」
クピスは指示通りフルートを吹き始める。すると重低音のメロディーと共にリント達を黄色の淡い光が包み込む。
リントは皆に指示を出すと、一番近いライスフラワーに斬り込む。
ライスフラワーはリントの速さに反応出来ず一撃で倒れた。
「数は多いけど個体は強くない!おっさん頼む!」
「ヘイト!」
ヴァンガードがヘイトを唱えると、近くにいたライスフラワーが一斉にヴァンガードに襲いかかる。
「くぬぅぅぅ」
ヴァンガードはライスフラワーの攻撃を盾で必死に耐える。
その間にマリーとキキが魔法でヴァンガードを援護。
ルルはヴァンガードへ光治癒を放つが距離が遠く魔力が低いので効果は薄い。
しかし、ヴァンガードは防御に徹しているのでしばらくは持ちそうだ。
リントは皆の無事を確認しながら、斬り伏せたライスフラワーのアンデット化を試してみる。
そこまで強くなかったので、もしやと思いやってみると黒ずんだライスフラワーが立ち上がる。成功だ。
「クピス!防御旋律の効果は薄くなっても大丈夫だ。援護頼む!」
リントはアンデット化したライスフラワーをヴァンガードの援護に向かわせて、クピスと共に後方のライスフラワーに斬り込む。2人は息の合ったコンビネーションで次々とライスフラワーの残骸を築く。
振り向くとマリー達もなんとか殲滅に成功したようだった。
「ふぅ~。確かに個体はそんなに強くなかったけど、こんなに一気に来るなんてな。。。」
「リント君が急に魔法撃つからでしょー?」
「ごめんごめん。。。。それにしてもおっさんが活躍したところ初めてみた」
「なんじゃと?失礼な奴じゃな」
ヴァンガードはギルド証から酒を取り出し飲みだす。
朝も飲んでいたので、もしかしたら酒を飲んだら強くなるのかもしれない。
(酔拳かお前は。。。)
「・・・リント君。あれは何?」
ルルが指差した方を見ると、アンデット化したライスフラワーがいた。
「あ。」
リントはアンデットの経緯を簡単に話した。
「「「えー!?」」」
「リント。そう言う事は先に言ってくれ。ハーデの事は聞いていたが、それは知らなかったぞ」
「ごめん。話そうと思ってたんだけど、思ったより早く島に着いたからさ。それに船員にも聞かれたくなかったし」
「そうだね。あまり知られない方がいいよね。。。それにしてもルルは疲れたー」
「ですね~~。私も疲れちゃいました~」
「・・・それは無駄に大きな声で詠唱してるからじゃない?タクトは詠唱いらないんだよ?」
「リントさん~。分かってないですね~。こういうのは気分なんですよ~」
「あぁ。そぅ。。。」
(俺にも武技を叫んでた頃があったっけ。。。)
「よし!早速、実を拝むとしますか!」
リントは手で十字を切るとライスフラワーの亡骸をギルド証でドロップ化した。
「げ!ドロップ化したら爪になるのか」
ギルド証のアイテム一覧にライスフラワー爪を1つ追加された。
次にドロップ化せずに緑色の殻をむいてみる。すると中から20cmぐらいの白い実が出て来た。
「デカいけど、米っぽいな。。。」
リント達は手分けして白い実を回収。
その後、サーシャ分も必要だったので他のライスフラワーの群れを探して殲滅した。
途中でコカトリスとも何度か遭遇したが、難なく倒していった。
「・・・なんか、俺たち略奪者みたいだな。。。」
「今更何を言っとるんじゃ。その分感謝して食べれば良い。ほれ。さっさと回収せんか」
「・・・・そうだな。おっさん。。。」
リントはヴァンガードに初めて年の功を感じた。
やはり酒が入るとヴァンガードは良い塩梅になるのかもしれない。
「・・・ふぅ。これだけ集めれば充分だろう。もう日も暮れるし船に戻ろう。」
「リント。あのアンデットはどうするんだ?」
「ん?あ~戻すの忘れてた」
「あ!ちょっと待って下さい~」
マリーがそう言うと黒くなったライスフラワーの殻をむいた。
すると黒い実が出て来て、その中に黄色い物が見える。
「さっきチラッと見えたんですよね~」
「割ってみるか?」
リントは実を割り、5cmぐらいの黄色い物を取り出した。
「これは。。。種か?」
「ライスフラワーの種なんか聞いた事もないですね~」
「腐ったら種が出来るとか?」
「そんな事あるの?」
ルルは不思議そうにヴァンガードに聞いた。
「ふむ。ワシもライスフラワーの種は聞いた事はないが、腐ったら種を実らす物がある事は確かじゃ」
「・・・埋めたらライスフラワーが生えてきたり?」
「どうかのぉ。。。」
「キキは魔物図鑑でライスフラワーを見た事がある。仮にライスフラワーが生えて来てもこちらから危害を加えなければ大丈夫なはずだ。」
「じゃあ、あっちに着いたら試しに埋めてみましょ~」
リント達が種談義をしていると、クピスがコカトリスの亡骸を担いできた。
「これ、たべる」
「あ。やっぱり食べたかったのね。。。。」
リントはアンデット化したライスフラワーを土に返して船に戻った。
船の中に入ると葉巻を吹かしている屈強な人間の男が立っていた。歳は50歳ぐらいで海賊のような帽子を被り、頬に大きな傷がある。
「帰ったのか。あんちゃん達」
「戻りました。ガイリーさん」
ガイリーと呼ばれた男は元船乗りでサーシャに召集されたこの船の船長。普段はヴェネの町で大衆食堂を経営している。ガイリーも何故かサーシャには頭が上がらないらしく、食堂を休業してまで今回の船旅に参加してくれていた。
「嬢ちゃん。コカトリスを食べたいのか?」
「あい!」
「よし!俺が調理してやろう!」
クピスが担いでいたコカトリスを受け取り、ガイリーは船の奥に向かった。
リント達もその後を付いて行き、進んだ先の扉を開けるとそこには大きなテーブルがあった。
そしてその奥の方に一流レストランのようなキッチンがある。
「これはすごいな」
キキが目を丸くして驚いている。
「姉さんの船だからな」
「さっすがサーシャさん~」
ガイリーはそう言うと、手際よくコカトリスの羽をむしりだした。
その間にライスフラワーの実を取り出して、蒸し器のような物で蒸してみる。
蒸してしばらくすると実は水分を帯びてふっくらしてきた。
「おおー!米っぽくなってきた!」
「こっちも出来たぜ!」
ガイリーは山賊焼きのような豪快に調理したコカトリスを持ってきた。
皆でテーブルを囲い取り分ける。
「美味しそうー。」
「ワシは蛇の部分か。分かっておるのぉ。」
「「「「「「いただきます」」」」」」
皆で甘辛いソースがかかったコカトリスを食べる。
「おいしい!さすがですねガイリーさん!」
「ハハ。可愛い嬢ちゃんに言われると照れるな」
「これは酒の肴に持ってこいじゃ」
続いてライスフラワーの実も食べてみる。
「もち米っぽいけど美味い!来て良かった!!」
「美味いな。キキはこんなの初めて食べたぞ」
「これを栽培出来たら儲かるかもしれませんね~。美味しいです~」
「おいしーね」
皆でライスフラワーの実を堪能した。
★サーシャ先生の補足授業★
旋律士のスキルはメロディーを奏でている間は効果が持続するの。(持続MP消費)
演奏をやめると効果は徐々に薄れていくわ。




